在庫管理の要であるトラック運送事業者の現状

トラック運送事業者の労働環境と監査制度 ―愛知県における現状を事例として―

目次

物流におけるトラック業者の現状

運送業にはトラック・鉄道の他に船舶・航空等が含まれるが、
そのうちトラックの輸送割合は96.2%を占めており、国内における物流の大部分をトラック輸送が占めている1。

また、トラック輸送の経営主体については92.1%が中小企業である2。
トラック運送業界では、規制緩和と競争環境の激化の波に晒されてきた。1990年にはいわゆる物流2法3が制定され、それまでの参入免許制・運賃許可制度から参入・運賃申請制度へと移行された。また、2003年には物流2法の改正が行われ、トラックを自社で保有しない運送事業者を認めるなど更なる規制緩和が進められた。

こうした規制緩和の影響により、新規参入企業が増え、サービス内容や運賃等の競争が促進された。一方で競争から振り落とされる企業も増加し、2000年代には毎年約1,000社が参入する一方で、毎年約1,000社が廃業するという過酷な経営環境となっていった4。

過酷な競争環境の下では、経営者は利益を捻出するために様々な企業努力を行うが、中には法令違反や労働者酷使という事例も現れた。規制緩和後、とくに2000年代においては、低賃金・長時間労働、ずさんな車両整備、運行中の交通事故の多発という問題が表面化し、社会問題化した5。

事故や法令違反が多発するようになると、行政は行政指導・行政処分という形を通して企業への関与を強める動きが出た。国土交通省において自動車運送事業者に対する監査方針及び行政処分等の基準が定められ、安全確保を目的に行政による監査が強化されることとなった6。

規制緩和の出発点を1990年とし、現在までの動きを3期に区分すると、第1期(1990年~2000年頃)は「規制緩和と市場競争原理の促進」、第2期(2000年~2010年頃)は「競争環境激化による企業行動の変化」、そして第3期(2010年~現在)は「事故や法令違反の多発と規制強化の動き」というように時代整理できる。

こうした環境の変化はトラック運送業の経営行動に大きな影響を与えるものであるが、同業界における規制緩和のねらいやその後の影響、および企業行動との関係を精査した研究は少ない。
本稿では、上記の時代区分のうち、第3期「事故や法令違反の多発と規制強化の動き」に焦点を当て、この期における最も象徴的な動きであるトラック運送事業者に対する監査について取り上げる。

トラック運送事業者

トラック運送事業者は、貨物自動車運送事業法に定められた貨物自動車運送事業を行う者に含まれる。

運輸業の分類

産業分類によれば運輸業は以下の4つにわけられる。7

  1. 鉄道業
  2. 道路運送業
  3. 水運業
  4. 航空運輸業等に分類される。

このうち道路運送業については、

  • 自動車運送事業
  • 自動車道事業」

に分かれ、前者の「自動車運送事業」は、

  • 旅客自動車運送事業
  • 貨物自動車運送事業

に分かれる。

「旅客自動車運送事業」は、主として自動車等により旅客の運送を行う事業のことであり、「貨物自動車運送事業」とは、主として自動車等により貨物の運送を行う事業のことである。
今回ご紹介するトラック運送事業者は、自動車運送事業のうち、貨物自動車運送事業に分類される8。

トラック運送業

国土交通省の資料によれば、
平成28年3月31日現在の貨物自動車運送事業者数は62,176者である。
前年度は62,637者であり、461者の減少である(対前年度比0.74%減)。
ここ10年間の推移をみると、

  • 平成18年度:62,567者
  • 平成19年度:63,122者
  • 平成20年度:62,892者
  • 平成21年度:62,712者
  • 平成22年度:62,989者
  • 平成23年度:63,082者
  • 平成24年度:62,936者
  • 平成25年度:62,905者
  • 平成26年度:62,637者
  • 平成27年度:62,176者

であり、ほぼ横ばいとなっている。
各地域の事業者数をみると、平成27年度の全国で62,176者のうち、
中部地区は7,106者であり、全国に対して11.3%である9。
中部地区の内、福井が499者、岐阜が951者、静岡が1,706者、愛知が2,931者、三重が1,019者となっている。愛知は全国に対して4.7%である。

トラック運送業の経営

 全日本トラック協会の「経営分析報告書 平成26年度決算版」によれば、
調査対象の2,192事業者のうち、営業赤字の企業の割合は54%(1,173事業者)となっている。
半数以上が赤字経営となっており、トラック運送業界においては厳しい経営環境に置かれていることがわかる。 

また、営業利益率の推移をみると、全国では平成24年度がマイナス2.1%、平成25年度がマイナス2.3%、平成26年度がマイナス0.9%となっている。中部地区においては、平成24年度がマイナス2.6%、平成25年度がマイナス1.5%、平成26年度がマイナス0.4%となっている。

営業赤字の要因としては、必要なドライバー数を確保するための賃金水準の引き上げ、あるいは時間外労働の拡大による時間外給与の増加等により、ドライバーの人件費が増加して営業利益を圧迫したことが挙げられる10。

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注記について

1 全日本トラック協会調べ・平成26年度実績。なお海運が7.8%、鉄道が0.9%、航空は0.02%。
2 国土交通省「貨物自動車運送事業者数(規模別)」より。従業員10人以下の小規模事業者は49.5%。
3 物流2法は、貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法からなる。
4 国土交通省・各年の統計資料参照

  平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 平成26年度
参入 1277件 1127件 1143件 991件 836件
撤退 1458件 1063件 1303件 1018件 1058件
5 岡本常将(2009)、斎藤実(2004)の指摘。
6 自動車運送事業者に対する監査は「自動車運送事業等監査規則」及び「自動車運送事業者に対する監査方針について」に基づいて実施される。なお行政処分等については「貨物自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」に従って行われる。
7 総務省統計局「日本標準産業分類」によれば、運輸業は、鉄道業・道路旅客運送業・道路貨物運送業・水運業・航空運輸業・倉庫業・運輸に付帯するサービス業に分類される。このうち道路貨物運送業は、管理・補助的経済活動を行う事業所、一般貨物自動車運送業、特定貨物自動車運送業、貨物軽自動者運送業、集配利用運送業、その他の道路貨物運送業に分類される。さらに一般貨物自動車運送業は、一般貨物自動車運送業と特別積合せ貨物運送業に分類される。
8 なお「貨物自動車運送事業」は、「一般貨物自動者運送事業」「特定貨物自動車運送事業」「貨物軽自動車運送事業」に分けられる(道路運送法第2条)。また、一般貨物自動車運送事業として行う運送のうち、営業所その他の事業場(以下「事業場」という)において集貨された貨物の仕分を行い、集貨された貨物を積み合わせて他の事業場に運送し、当該他の事業場において運送された貨物の配達に必要な仕分を行うものであって、これらの事業場の間における当該積合せ貨物の運送を定期的に行うものを「特別積合せ貨物運送」という。また、一般貨物自動車運送事業又は特定貨物自動車運送事業を経営する者が他の一般貨物自動車運送事業又は特定貨物自動車運送事業を経営する者の行う運送を利用してする貨物の運送を「貨物自動車利用運送」いう。
9 関東(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨)は19,598者で全国の31.5%を占めており、近畿(滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)は9,838者で全国の15.8%となっている。
10 全日本トラック協会(2016)の指摘より