中小企業の産業集積

第2 産業集積・産地について 
2.中小企業白書の産業集積論
 今日は中小企業白書の産業集積論を中心に、
我が国における産業集積に関する議論を紹介します(1)。

定義と類型(1)

中小企業白書が産業集積を直接に取り上げたのは、平成4年版である(2)。
平成4年版では中小企業集積の活性化と題し、集積の現状と課題が議論された。

ここでいう中小企業集積とは、

  • 我が国の各地域における多数の中小企業者が分業
  • 共同受注
  • 共同仕入れ

などによって相互に有機的に連携しつつ事業活動を行っているような集積を指している。

次に、平成6年版中小企業白書は産業集積を次の3つに分類した(3)。

  • 大都市圏加工型
  • 企業城下町型
  • 産地型

大都市圏加工型集積

大都市圏における小規模企業を中心にした機械・金属等重工業加工型企業の集積であり、東大阪市(4)や東京都大田区(5)に見られる産業集積がこれに該当する。

企業城下町型集積

特定大企業の工場の周辺に関連企業が多数集積しており、その大企業の製品生産を中心に分業構造が形成されているような地域経済圏をいう。
企業城下町型集積は、次の2つに分けられます。

  • 基礎素材産業・・・鉄鋼、化学等
  • 加工組立型産業・・・自動車、電機等

産地型集積

資本、技術、労働力、原材料等の地域の経営資源を基礎に、繊維、日用品など同一業種に属する特定製品の生産・販売に携わる多数の企業の集積をいう。産地型集積では細分化された工程段階ごとに特化した企業が存在しており、分業体制が敷かれている。

平成12年版中小企業白書においては、産業集積を「地理的に近接した特定の地域内に多数の企業が立地するとともに、各企業が受発注取引や情報交流、連携等の企業間関係を生じている状態」と定義した。

また、平成18年版中小企業白書においてあらためて産業集積の類型が行われた。
それによれば、産業集積やその形成の歴史的背景や特徴によって
次の4類型に分類している。

  1. 企業城下町型集積
  2. 産地型集積
  3. 都市型複合集積
  4. 誘致型複合集積

1~3については平成6年版白書の3類型とほぼ同じであり、
これに4(誘致型複合集積)が追加されている。

誘致型複合集積は、自治体の企業誘致活動や工業再配置計画の推進
によって形成された集積を意味する。

中小企業が産業集積するメリット

平成6年版白書は、中小企業集積の持つ個別企業にとってのメリットとして、
集積内の技術や人材、情報、関連企業等を活用して新製品の開発や新分野への進出が容易になる点を挙げた。

同白書では集積内に立地する個別企業にとって、集積内の資源が外部経済として機能することが中心に議論されている。

産業集積が果たす機能

平成9年版白書は製造業集積を取り上げ、産業集積の果たす機能として、
次の2つをあげています。

  • 環境変化への対応力
  • 集積内企業にとっての外部経済性

環境変化への対応力

産地内企業が業種転換を行いながら柔軟に環境変化への対応をしてきた可能性を指摘した。

集積内企業にとっての外部経済性

製造業集積に立地する中小企業のメリットとして2つを挙げました。

  1. 原材料・部品調達が容易
  2. 市場情報収集が容易
  3. 販路が確立されている
  4. 適切な分業体制の構築
  5. 仕入・販売斡旋を行う企業が存在(生産メリット)
  6. 労働力確保が容易(雇用メリット)

立地のメリット

平成11年版白書では、立地のメリットを取り上げた。
通商産業省「工場立地動向調査」によれば、中小企業の都道府県や市町村の立地地域選択理由として最も多いのは「用地面積の確保が容易」であり、
その他「関連企業の近接性」「市場への近接性」と続いている。
また、ある地域でその用地を選定した理由については、「必要な面積の確保」「工場団地であること」が多くなっている。

構造変化と課題

国内の中小企業による集積は、近年の消費者ニーズの高度化・多様化、急速な技術革新、人材確保難等の厳しい環境変化にさらされている。各産地の出荷額、従業員数は年々低下しており(8)、従業者の高齢化及び後継者難も深刻な問題となっている。

こうした中、各企業においては多品種・小ロット生産への対応、高付加価値製品の開発、成長性を見込める新しい分野への事業展開などの企業努力が進められてきた。
また共同開発、共同配送、地域ブランド、集積としての情報発信など集積内企業連携による対応も進められてきた。

これらの対応は、集積の統計数値を見る限り、成果を上げているとは言えないようにも思える。

産業集積で業績を伸ばしている中小企業の特徴

しかしながら、集積全体としての出荷額、事業所数、従業者数が減少を続けるとしても、個別企業のレベルで見た場合、全ての企業が規模縮小を続けているわけではない。

平成13年版白書によれば、集積全体としての規模縮小が続く集積地であっても、近年の環境変化に的確に対応し、業績を伸ばしている企業も存在している。このような企業は、どのような取り組みを行っているのだろうか。

この点について平成18年版白書は、収益好調企業と収益不調企業の取り組みの比較を行った(9)。この調査によれば、収益好調企業の特徴として、次の項目が20年前と比べて強化されていることがわかる。

  1. 分業による量産発注への高い対応力
  2. 分業による少量、多品種、短納期の発注への高い対応力
  3. 質の高い情報の入手・交換

1990年代以降国内の経営環境は大きく変化しており、集積のあり方も変化している。
戦略や取引が従来のままでは環境に適合しないため、集積内企業は事業や戦略の再構築を迫られる。
そのような状況では、集積に立地することで様々なシナジー効果を得られた時代から、産業集積の様々な機能をいかに活用し自社の戦略に取り込んでいくかという視点が問われることになる(10)。

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【注記】
(1)  我が国の産業集積研究の系譜については植田〔2000〕に整理されている。それによれば、産業集積が本格的に研究対象として取り上げられるようになったのは1980年代以降のことであるが、実態としての産業集積はそれ以前から存在していた。1950年-60年の東京大学グループによる京浜工業地帯(神奈川県)調査、大阪の産業集積の調査、1970年代以降における経済地理学からみた産業集積の研究、及び1980年代における東京を対象とした産業集積研究がある。

(2)  渡辺〔2011〕は、1992年から2010年の中小企業白書における産業集積論を分析し、白書に見る産業集積論の論理的枠組みに関する議論を行った。それによれば、白書が「集積」ないし「産業集積」という概念を利用し、政策や課題を検討し始めたのは平成4年版からである。

(3)  集積の類型については論者によって様々なものがある。例えば清成〔1997〕は集積を大企業中心型と中小企業中心型に分け、さらに大企業中心型を生産工程統合型の大企業に依存するタイプと大企業を補完するタイプに分け、また中小企業中心型については特定の製品を生産する企業が特定の地域に多数集積する産地型集積と大都市圏に立地したネットワーク型集積に分けるというように、機能別に分類している。一方、井出〔2002〕は、産業集積を大都市型産業集積地域、地方都市型産業集積地域、農山漁村型産業集積地域というように、地域ごとに分類している。

(4)  東大阪市の産業集積に関する調査として、植田〔2000〕がある。植田は、東大阪地域の産業集積の分析を行い、東大阪地域のキーワードとして「多様性」を挙げている。すなわち、東大阪地域の中小企業は、大商地大阪を介して問屋・商社と直接、間接に結びつきながら多様な需要先を持ってきた。また、集積内における技術基盤の蓄積から、広範な関連産業からの需要を呼び込んできた。さらにこれらを受け入れるために集積内で多様な企業が層をなし、相互に競争関係、分業関係を柔軟に形成している。こうした「多様性」が広範囲から受注を集めることを可能にし、産業集積を量的、質的に発展させてきたという。

(5)  東京都大田区の産業集積に関する実態調査を行ったものとして、井出〔2002〕がある。同調査によれば、東京では城南地域(大田区・品川区およびその周辺)の機械金属工業と、城東地域(台東区・墨田区・江東区・葛飾区・江戸川区など)の日用消費財(軽工業)とで地域的住み分けが行われている。とりわけ大田区においては、部品を組み立て完成品にする組み立て親会社工場の下請け的存在として発生・発展し、今日の中小企業群を作り上げたとされる。また、伊丹・松島・橘川〔1998〕の大田区集積の分析がある。そこでは大田区集積の発展要素として「分業の柔軟性」を挙げている。

(6)  平成9年版中小企業白書、中小企業庁「製造業集積構造実態調査」9年12月によれば、集積に立地することのメリットとして、「原材料・部品調達が容易」「市場情報収集が容易」「販路が確立されている」「適切な分業体制の構築」「仕入・販売斡旋を行う企業が存在」「労働力確保が容易」という回答が多い。

(7)  平成11年版中小企業白書、通商産業省「工場立地動向調査」(平成8年)によれば、中小企業の都道府県や市町村の立地地域選択理由として、「用地面積の確保が容易」(21.7%)、「関連企業の近接性」(12.4%)「市場への近接性」(11.9%)、「本社への近接性」(11.2%)「地価」(8.6%)と続いている。また、ある地域でその用地を選定した理由については、「必要な面積の確保」(33.2%)、「工場団地であること」(19.0%)、「県・市・町・村等の斡旋」(10.5%)、「周辺環境からの制約が少ない」(7.6%)、「高速道路が利用できる」(6.8%)が挙がっている。

(8)  中小企業白書における集積の環境変化の指摘について、平成4年版、平成6年版、平成7年版、平成8年版、平成9年版が出荷額の減少、事業所数の減少、従業者数の減少等を続けて指摘しており、この時期に国内の中小企業集積が転換点を迎えたことが推測される。

(9)  平成18年版中小企業白書、(株)産業立地研究所「産業集積に関する調査」(2005年12月)によれば、「分業による量産発注への高い対応力」「分業による少量、多品種、短納期の発注への高い対応力」「質の高い情報の入手・交換」について、収益不
調企業ではこれらの取り組みが低下している。これに対して、収益好調企業では同項目を重視する回答が増えており、これらの取り組みが強化されていることがわかる。

(10)  伊藤・土屋〔2009〕は、地域産業のイノベーションが行われる条件として、①個別企業の経営力強化と②外部資源活用の新しい「仕組み」を作ることを挙げている。前者は個別中小企業が意識的に生産性を向上し、高付加価値経営を目指すことである。後者は個別企業が外部資源を戦略的に活用することであり、見方を変えれば、複数企業がそれぞれの強みを持ち寄って新たな事業モデルを作り上げることである。

【参考文献】
伊丹敬之・松島茂・橘川武郎(1998)「柔軟な分業・集積の条件 産業集積の本質」有斐   
 閣
伊藤正昭・土屋勉男(2009)「地域産業時代の政策・地域産業・クラスターと革新的中小企業群 小さな大企業に学ぶ』学文社
伊藤正昭(2011)『新・地域産業論 産業の地域化を求めて』学文社
井出策夫編著(2002)「産業集積の地域研究」大明堂
植田浩史編(2000)「産業集積と中小企業 東大阪地域の構造と課題」創風社
植田浩史(2004)「現代日本の中小企業」岩波書店
清成忠男・橋本寿郎編著(1997)「日本型産業集積の未来像『城下町型』から『オープン・コミュニティー型』へ」日本経済新聞社
渋井康弘『産業集積と技能の集積』2008(平成20年)大阪経済大学・中小企業季報 №4 148
渡辺幸男(2011)「現代日本の産業集積研究 実態調査研究と論理的含意』慶應義塾大学出版会
中小企業白書 平成4年、6年、7年、8年、9年、11年、12年、18年版