在庫管理アドバイザーの岡本です。
安全在庫は欠品を防ぐために持つ在庫のことです。
実は、安全在庫は欠品は防げますが、過剰・滞留・不良在庫の原因にもなります。
適切に計算・設定すれば、販売機会の損失を防ぎ、売上を最大化できますが、失敗すれば過剰在庫を抱えることになります。
この記事では、在庫管理アドバイザーが、
- 計算していない。そもそも計算方法を知らない
- 設定のやりが方がよくわからない
- 計算・設定したが、正しいか自信がない
という方に、安全在庫の基本と計算式をわかりやすく解説します。
計算例を用いながら、実務で取り入れるポイントを紹介するので、初心者の方でもすぐに現場で活用いただけます。
しかし、安全在庫は一度設定して安心できるものではありません。
- 需要状況によって適宜最適なものに設定する
- 安全在庫を設定した後も安心せずに在庫数を必ず見守る
ことが必要です。
また、補足として安全在庫の計算式を利用する場合の注意点(使えない場合)、混同されやすい適正在庫との違いについて解説します。
安全在庫とは欠品を防ぐための在庫
安全在庫とは、想定以上の需要変動などによって起こる欠品を防ぐための在庫のことです。
例えば1か月間の持つべき在庫の総数量は、
となります。
11個以上を使用するようなことになってしまうと、1個足りず欠品になってしまいます。
安全在庫の計算方法
安全在庫の計算方法は以下の通りです。
安全在庫の計算には以下の値が必要です。
- 安全係数:欠品の許容率
- 出庫数の標準偏差:出庫数のバラつき
- 発注リードタイム:発注してから納品されるまでの日数
- 発注間隔:発注する間隔
安全在庫の計算手順と設定値の注意点
具体的な設定値を入れた安全在庫の計算例を注意点とともに解説します。
安全在庫の安全係数(欠品許容率)を決める
安全係数とは、欠品をどれくらい許容するかというものです。
100%から欠品許容率を引くと、求めることができます。
欠品許容率は、どれくらいまでの欠品上昇率を許容できるかを表す数値です。
安全在庫の安全係数は、決まった値があります。
一般的に良く使われる値は、以下の表の値を参考にしてください。
欠品許容率を小さくすればするほど、安全在庫は増えていきます。
今回の計算例では、よく採用される安全係数(1.65=欠品許容率5%)を使っています。
※欠品許容率5%とは、100回のうち5回は欠品が起こるかもしれない確率
欠品許容率は、エクセルの関数のNORMSINVの計算結果です。表には無い安全係数を設定できます。
エクセル(excel)の関数式で表すと、
欠品許容率=NORMSINV(1-割合)
欠品許容率5%の場合は、次のような計算式になります。
NORMSINV(1-0.05)≒1.65
ちなみに、欠品許容率0%は計算不可能です。
(NORMSINVで計算すると、計算エラーになります。)
需要数の標準偏差
標準偏差とは、平均値からのバラつきのことを言います。
標準偏差の値が大きければ大きいほど、平均値からのばらつき具合が大きいということなので、安全在庫量も増えます。
標準偏差は、安全在庫を設定したい商品(部品)の過去の出庫数(使用・出荷・販売)数量から計算します。
標準偏差の計算は、手計算だと難しいですがエクセルの関数を使えば簡単です。
標準偏差を求める関数は、STDEV.S関数です。
(標準偏差を計算するエクセル関数はSTDEV.Pもありますが、STDEV.S関数で問題ありません。※補足:STDEV.Sは全数調査、STDEV.Pは標本調査(一部のデータ)です)
1か月間の標準偏差 =STDEV.S(1か月間の出庫数)
となります。標準偏差は対象になるデータが多ければ多いほど現実的な値に近づきます。(最低でも20データ以上は用意しましょう。)
発注リードタイムと発注間隔
発注リードタイムと発注間隔の合計のルート(√:平方根)を計算します。
今回の計算例では、発注リードタイム=5、発注間隔=0で計算しています。
発注リードタイム
発注リードタイムとは、仕入れ先に発注してから、納品されるまでの日数です。
今回は発注リードタイム=5日で設定しました。
発注リードタイムについては、こちらで詳しく解説しています。
発注間隔
今回の計算例では、発注間隔=0で計算しました。
発注間隔とは、次の発注日までの日数が決まっている定期発注の際に設定します。
例えば、
- 毎週水曜日に発注する場合:発注間隔は7日。
- 月末に1回発注する場合:発注間隔は30日。
発注点発注の場合は、必要に応じて発注する不定期発注なので、発注間隔は0日になるので設定不要です。
ルートの計算
発注リードタイムと発注間隔が分かったら、エクセルのSQRT関数を使って、発注リードタイムのルートを求めます。
今回の計算式と計算結果は、
SQRT(5+0)≒2.2361
それらを全て掛け算すると安全在庫が計算できます。
安全在庫=6.8363という結果がでました。
6.8363という数量は存在しないので、繰上げして7個にします。
これがこの商品の安全在庫になります。
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安全在庫を持つメリットとデメリット
繰り返しになりますが安全在庫は、発注する下限在庫を決めて、欠品防止(売上機会の損失回避)ができることがメリットです。
逆に言えば、在庫の持ちすぎを誘発して過剰在庫になる危険性があるということです。
キャッシュフローの改善や、余剰在庫の削減につながるという記事がネットにありますが、それは大きな間違いです。
実際に在庫管理110番では、過剰在庫や不良在庫のお悩みがたくさん寄せられていますが、その原因の大多数が、安全在庫の持ちすぎです。
システムを導入して安全在庫を設定した結果、在庫が増えすぎて、キャッシュフローの悪化と余剰在庫が増えた、、という会社は本当に多いです。
安全在庫を正しく設定して、定期的に見直すことが必要です。
ここから先は、安全在庫を正しく設定して運用する方法を解説します。
安全在庫を設定して保有する際の2の注意点
安全在庫をキャッシュフローの改善や、余剰在庫の削減にも役立てるためには、次の2点に注意します。
- 安全在庫の公式が使える条件になっていること
- 設定しっぱなしにせず見直すこと
安全在庫の公式が使える条件になっていること
先ほど紹介した安全在庫の計算式は、そもそも使える条件が決まっています。
それは、需要数が正規分布に従っていることです。
正規分布に従っていない場合は、安全在庫の公式を使ってはいけません。
正規分布とは平均値と最頻値・中央値がほぼ一致していて、それを軸として左右対称となっているデータ分布です。
平均値付近のデータ数が最も多い1つの山のデータ分布です。
これが、最小値や最大値の方に偏っていたり、2山だったりすると、平均値≒中央値≒最頻値にならないため、正規正規分布ではありません。
ヒストグラムを作って、データ分布を調べてみれば一目瞭然です。
ヒストグラムの解説とエクセル(excel)でヒストグラムを作成する方法は以下の記事をご覧ください。
安全在庫は需要状況によって定期的に見直す
季節性などがある場合は、データが偏りがちになります。
例えば、アイスクリームのようなものの場合は、冬は販売数が少なくなり、夏は販売数が多くなるでしょう。
この場合、1年のデータで安全在庫を計算した場合、
- 冬は在庫過多
- 夏は在庫過少
といった状態になってしまうでしょう。
そのため、夏と冬で安全在庫を設定する必要があります。
つまり、安全在庫は需要状況によって適宜最適なものに設定し直さなければなりません。
安全在庫で欠品を100%防ぐことはできない
安全在庫の目的は欠品を防ぐことですが、事実上、欠品を100%防ぐことはできません。
安全在庫の公式は統計学によって算出します。
欠品許容率を0.00000...と限りなく0に近づけることは可能ですが、0にはできません。
また、欠品許容率を限りなく下げたからと言って、絶対に欠品が起こらないとは言い切れません。
もし、絶対に欠品を起こしたくないのであれば、無限に在庫を持つ必要があります。
資金やスペースが無限にあれば大量に在庫を持てます。
ただ、これでも絶対に欠品を起こさないという保証は誰にもできません
計算上の安全在庫は実務では過剰になりがち
ぜひ、一度安全在庫の公式を使って、安全在庫を計算してみてください。
あなたの感覚よりも思ったよりも在庫数が多くなるな・・・という印象ではないでしょうか?
私も安全在庫の公式を実際に実務で計算してみて、同じような印象を受けました。
個人的な見解ですが、安全在庫の公式を使って算出した安全在庫は過剰になりがちでした。
データのばらつきもあるので、いくつか計算をしてみたのですが、これで求めた安全在庫数を全ての品目に適用すると、とんでもない在庫金額になり、キャッシュフローの圧迫したり、過剰在庫の原因になります。
実務を知らないシステム会社は、安全在庫の公式を勧めがちです。実際に適用すると返って在庫が増えます。
そのため、在庫管理の実務経験者としては、安全在庫の公式で求めた値はあくまでも目安にすることをお勧めします。
むしろ出てきた値を参考に、調整するくらいがちょうどよいでしょう。
安全在庫と適正在庫は違う
過剰在庫も管理できるのは適正在庫です。
何度も繰り返しますが安全在庫とは、欠品を防ぐための在庫の下限値です。
つまり、安全在庫では過剰在庫を防げません。(※安全在庫=適正在庫と誤った説明が多く世の中に出回っているので注意してください。)
安全在庫がキャッシュフローの悪化や余剰在庫を引き起こすのは、過剰在庫を見落とすことが原因と考えています。
適正在庫とは、在庫数の下限だけではなく、上限も決めて過剰在庫も防ぐことです。
つまり、適正在庫とは、1つの値ではなく、幅をもって設定するもので下限在庫と上限在庫の間の在庫数ということができます。
適正在庫の計算・設定方法については、こちらのページで解説しています。
安全在庫とともにぜひご覧ください。
自社の適正在庫と安全在庫の計算方法がわかる
在庫管理110番では、安全在庫の弱点である
- 過剰在庫に対応できない
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