ミスのない実地棚卸をするための3つのコツと方法

ミスの無い実地棚卸

実地棚卸(じっちたなおろし)とは、棚卸資産(棚卸の対象品)を数えることです。しかし、ただ単に在庫を数えるだけだと思っていませんか?

「数えることくらい間違えるはずはない」と自信をもっているかもしれませんが、実際に数えなおしてみると数が違ったり、数え忘れていたりと、意外ときちんと数えられていないということが多いのが事実です。

今回は棚卸ミスをなくし、実地棚卸を成功させるために"数え方の3つのコツ"についてご紹介します。

精度が高くしかも早く終わる実地棚卸をする3つのコツ

ミスをなくすために、実地棚卸で必要なことはたった3つしかありません。

  1. 正しく
  2. 漏れなく
  3. ダブりなく

つまり、カウントをすることです。

とてもシンプルなんですが、それぞれをどう解釈して実現して実地棚卸を成功させるかを解説します。

実地棚卸を「正しく」行う

正しくとは、「ルールを作り、考え方を統一し、棚卸の手順を守ってカウントすること」です。

「棚卸をやってください」と作業員を散り散りにして、好きなように棚卸をさせていませんか?

それが棚卸ミスの原因です。

棚卸は単純作業です。単純作業だからこそ、個人にやり方を任せるのではなく、ルールに基づいたやり方が求められます

資産を正しく認識する

棚卸とは、単に目の前にあるものを数えるのではなく、棚卸の時点で会社の資産になっているものを数えなければいけません。

例えば、次のA~Fのうち、棚卸の際に数えなければいけないものは、B、D、Fです。

棚卸で数えるべきものと数えてはいけないものの区別

自社の倉庫にあるものは全て棚卸時に数えてはいけないものばかりです。つまり、目の前にあるからと言ってなんでも数えて良いのではありません。

私が毎年担当している講習会では上記の図を参加者に見せて「上図のA〜Fで、棚卸を行わなければいけないものは何でしょうか?」という質問を、毎回行っています。残念ながら、今までの参加者全員で100%正解したことは一度もありません。

これは、「棚卸では、一体何を数えなければいけないのか?」を理解できていない証拠です。

図を冷静に見るとわかるように、棚卸は「ただ目の前にあるものを数えれば良い」のではなく、

  • 目の前にあっても、数えてはいけないもの=会社の資産ではない
  • 「目の前になくても、数えなければいけないもの=会社の資産

があるのです。

資産かどうかを知らないと、従業員は自分の勝手な判断で「数えたり数えなかったりのもの」があるということです。特に、従業員が悪意を持って作為的に行っていなくても、税務署に「利益操作」と捉えられてしまっては、経営者は「何も知りませんでした…」では済みません。

経営者は、単に「棚卸をやれ」と号令をかけるのではなく、その前に「資産とは何か?」という教育をすることを強く推奨します。具体的な方法としては、図ように「自社の在庫にどのようなパターンがあるのか」をリストアップして、一例ずつ、丁寧に教えることです。その際に、現場だけではなく、経理担当部署のスタッフも参加させて認識統一を図ると良いでしょう

在庫の数え方・書き方を統一する

数え方には3つのポイントがあります。

  1. 中身を見る
  2. 数字の記入

中身を見て数える

棚卸は、読んで字のごとく「棚からおろす」ことです。つまり棚からおろして必ず現物を確認しなければいけません。これが棚卸で一番大切な事ですが横着していることが多いです。例えば、こんなことやっていませんか?

  • 高い場所に置いてあって面倒だから、下ろさずにそのまま数える(見えないものが数え漏れる)
  • 中身が見えない箱(段ボール等)に貼られた在庫数をそのまま転記する(中身にある実数が違う)
  • 棚の上に置いたまま数える(奥に隠れたものを見落とす)

必ず棚からおろして、中身を確認しましょう。

実際に「うちは絶対に大丈夫」という会社で、10品番を無作為に選んで改めて数えなおしてみると、10品番中、2品番で数え間違い(箱に書いてある数と中身の実数が違う)がありました。(棚卸として記録されていたのは箱に書いてある数)。必ず中身を横着せずに開けて数えましょう。

数字の記入

棚卸数を紙に書いて、その後パソコンやシステムに入力している場合は、紙に書く数字の書き方にも気を付けます。他人の文字は意外と読みづらく、読み取り間違いが多いです。

良く間違えるのが、「0」と「6」と「5」や「3」と「8」、「1」と「7」などです。「1」と「7」については、日本人ばかりの現場ではあまり間違えることは無いですが、外国人が入ると間違いやすいです。国によって数字の書き方は意外と独特です。(参考:外国の数字の書き方

他人が読んでも確実に読みとれるようにしなければいけません。

報告用の書式を統一

棚卸数を紙に書いている場合は、棚卸表を統一します。特に次の項目は忘れずに盛り込むようにしましょう。

  1. 品目番号
  2. 数量
  3. 棚卸場所(エリアや棚番)
  4. 棚卸実施者

棚卸は1人でやるのではなく、複数でやることが普通です。

考え方を統一し、手順を必ず守ります。ルールとして「棚卸実施要領」などのマニュアルを作成しておくのも1つの手です。また担当の場所を決めて、エリアを勝手に離れないようにしなければいけません。

実地棚卸を「漏れなく」行う方法 

実地棚卸で多いのは、数え忘れや数え間違いです。これが起こる最大の原因は下記の3つです。

  • 見えない
  • 横着
  • 思い込み

見えない・横着

先ほど「正しく」で解説したように、棚卸は必ず棚からおろして中身を確認して現物を数えます。

奥にある在庫は、棚から下さないと見えません。必ず棚から下して数えます。

また、中身が見えない状態もいけません。段ボール箱やビニール袋に入っている在庫は原則として全て取り出します。

複数の品番を同じ箱に詰め込んでいる場合は、棚からおろすだけではなく箱からすべて出して数えます。

ただし、完全に梱包されており中途半端な数出ないことが確実にわかっているものは、取り出すことが難しい場合が多いので、箱に記載してある数量(入数)を在庫数として棚卸します。箱に入数が書いていない場合は、何らかの方法で入数が分かるようにしておかなければいけません。

思い込み

「他の人がやっていると思っていた」という数え忘れも多いミスです。

中身を開けて数えても重複して数えていたり、数え忘れがあるような場合は、数えていたと思っていたまたは、数えていないと思っていたといったような問題が起こっていることが多いです。数える方向を決めておくとこの問題は解決します。

実地棚卸では数える方向を決める

どこから数えるかを決めておき、その通りに数えてもらいます。何も指示をしないと、数えやすい2段目や3段目から数え、その他を忘れてしまうことが多いです。色んな場所を飛び飛びで数えるのではなく、実地棚卸が任されたエリアや棚を順番にやっていくのがコツです。例えば、「棚の最上段の左から右へ、最後は最下段の右が終着」といった要領です。

実地棚卸を「ダブりなく」行う

複数人で棚卸をやっていると棚卸漏れのほかにも、同じ品番をまた数えてしまう「ダブり」も発生します。これを防ぐためには、「漏れなく」で説明したように、数える方向を統一するとともに、「棚卸済み札」を使って棚卸しをやったことが分かるような仕組みが必要です。

棚卸済み札

棚卸をしたものに棚卸済み札を貼っていけば、棚卸をやっているかどうかが一目瞭然です。

また、棚卸済み札は、実施するたびに色を変えると良いです。

弊社の指導先では、棚卸済み札を棚卸後に数量の変化が無い(入出庫が無い)場合は、ずっと貼っておくというルールにしています。

例えば、1か月に1回棚卸をしている会社で、6色の「棚卸済み」が貼って有れば、少なくとも6か月間は全く動きが無いということが、現物を見ればすぐにわかります。この運用を行うことで、整理対象の絞り込みが早くなります。

実地棚卸で起こりやすい6大ミス

実地棚卸で起こりやすいミスをご紹介します。

棚卸は、現場で現品を数えて、それらを事務所でパソコンなどに入力して集計するという流れが一般的です。それぞれの場所で起こりやすいミスを挙げます。

現場で数えるときに起こりやすいミス

  1. カウント漏れ
    在庫の数え忘れです。棚卸しでは棚の奥に在庫が隠れていたり、
    普段置かない場所に在庫を置いた時に起こります。
  2. カウントミス
    数量の数え間違いです。数量が多くて分かりづらい、
    箱や袋などで梱包されているものを取り出さずに、表記されている
    数を転記する、単純作業が続くので集中力が切れたりするときに
    起こります。
  3. 転記ミス
    在庫の品目番号や場所の記載を現場の表示等から写すときに
    起こります。
  4. 誤品カウント
    似ている品番で起こります。例えば、金具などで左右が
    ある場合、小さな切欠きがあるものと無いもの、素材違いなど
    の紛らわしい品番同士で起こります。
    表示が間違っている場合も起こります。

事務所で起こりやすいミス

  1. 入力漏れ
    現場のデータを入力し忘れた時に起こります。
  2. 読み取りミス
    現場の数字を読み間違えた時に起こります。
    間違えやすいのは、0と6や3と8などです。
    その人それぞれの数字の書き方の癖が原因に
    なることが多いです。
 

いかがでしたでしょうか?精度の高い実地棚卸をするための3つのコツは、難しいことは無く簡単な事ばかりです。

ぜひ取り入れてみてください。在庫管理110番では、棚卸のノウハウをまとめた棚卸の教科書を作成しました。棚卸のノウハウを惜しみなく公開して、すぐに使える棚卸用のフォーマットも特典としてついています。

在庫管理の教科書04棚卸編

実地棚卸の目的

棚卸は、とにかく数を数え続ける単調でとても面倒な作業です。

私もやったことがあるので、「適当にやってさっさと終わらせたい」という気持ちはよくわかります。

なぜ、棚卸をしなければいけないのか、なぜ重要なのかを知っておく、経営者・管理者は伝えておくことをお勧めします。実地棚卸は、会社の持っている資産の総量(金額・数量など)を把握するために必要な作業です。

実地棚卸は法定作業ではありません。つまり会計として義務ではないのですが、売上原価を決めるうえでは、必須といっても過言ではありません。とても大切な作業です。詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。

実務レベルでのやり方はこちらをお役立てください。

在庫(棚卸資産)の6つの評価方法

仕掛品を適切に管理するには?棚卸での仕訳・売上原価の求め方を解説

棚卸を実施するタイミング

実地棚卸をするおもなタイミングは会社の年度末(決算期)です。

会社によっては、半期(6か月ごと)、4半期(3か月ごと)、月次(1か月ごと)に実施している会社もあります。

会計上は、年度末に1年に1回やればよいですが、棚卸差異(在庫精度が悪い)が大きな会社は定期的に実施したほうが良いでしょう。

在庫精度が高く、さらに早く終わる実地棚卸の方法 

最後に、実地棚卸の3つのポイントの他に、在庫精度が高く、そして早く終わる実地棚卸の方法を簡単にご紹介します。

実地棚卸のやり方には、「一斉棚卸」と「循環棚卸」があります。

  • 一斉棚卸
    工場だけではなく会社が保有する在庫を全て一度に棚卸をする方法です。この場合は、操業を止めて在庫の動きを完全にストップさせて行います。
  • 循環棚卸
    ある特定の在庫の場所・種類を決めて、作業する日を分けて棚卸する方法です。サイクルカウンティングとも呼ばれます。在庫の状態を順番に調べていきます。

まだ棚卸差異が大きく、自社の棚卸が確立していない会社には、「一斉棚卸」がおすすめです。その理由は2つあります。

  1. 片手間で棚卸をやりがちになってしまう
  2. 在庫の動きを止められない(止める仕組みが無い)

止めてやるのはもったいないという考えで、循環棚卸を採用している会社も多いようですが、ダラダラと数えてしまう傾向があるのでお勧めしません。きちんとしている会社ほど、在庫の動きをとめて一斉棚卸をやっています。

その理由は、「在庫を動かしながら循環棚卸をするのは難しく、在庫精度が悪くなる」ことを知っているからです。

事前段取りを実施する

棚卸が成功するかどうかの80%は事前準備にかかっています

事前準備をしっかりとやれば、棚卸のやりやすさ、棚卸の精度、棚卸完了までのスピードが全て改善します。

私自身、丸2日間かかっていた棚卸を1日で終わらせるという事に成功した経験があります。

その際には棚卸のためのシステムを入れたわけでもなく、新しい棚や置き場、設備などを設置したわけでもありません。

事前準備をしただけです。当時、「どうせ無理だろう」と思いながらも言われたことを忠実に実施しました。

ふたを開けてみれば棚卸にかかった時間を60%以上削減できました。とても驚いたと同時に、基本の大切さを学びました。

実施する内容としては、次の3点です。

  • 棚卸の対象を減らす
  • 棚卸品を明確にする
  • 棚卸用の道具をそろえておく

棚卸対象を減らす整理(赤札作戦)については、こちらのページで解説しています。

整理(赤札作戦)

棚卸差異を無くす

在庫精度を上げるうえで、棚卸差異の原因を探してつぶしていくことは絶対に欠かせません。そのためには棚卸の原因を特定しなければいけません。

棚卸差異が起こる原因は、大きく分けて2つあります。

  1. 棚卸前にすでに起こっている差異:入出庫のミス、在庫管理システムのロジックがおかしい、不良や歩留まりの未計上等
  2. 棚卸当日に起こる差異:数え間違い、数え忘れ、二重計上等(今回解説した3つのポイントが守られていない時に起こる)

棚卸差異が起こる原因は様々ですが、今回解説した3つのポイントを守ることで少なくとも、「棚卸当日に起こるミス」はかなり減らすことができます。そうすれば、「棚卸前にすでに起こっている差異」が棚卸差異の原因の大多数を占めることになります。

従って原因追求がしやすくなるとともに、日々のオペレーションの未整備や属人化による問題が浮き彫りになります。こういった問題は、棚卸差異を発生させるだけではなく、過剰在庫や欠品の原因、生産性の低い作業を引き起こすことになり、経営を圧迫させる要因となるので、早めの発見・対処が必要です。

棚卸差異や棚卸減耗については下記のページで解説していますので、ぜひご覧ください。

棚卸差異とは|在庫数が合わない理由と改善ポイント、正しい計算方法

棚卸減耗とは|原因・対策を徹底解説!経営危機を脱する在庫管理の知恵

棚卸について自分で学ぶ

「在庫管理110番」では、あなたご自身で在庫管理の基本を学べるように、在庫管理の教科書というオリジナル教材をご用意しています。

在庫管理の教科書は全4巻です。
中でも棚卸に悩んでいるあなたには、在庫管理の教科書04「棚卸」がぴったりです。

公認会計士が書いた棚卸の本はありますが、現場目線の本がなかったので実務家向けに執筆しました。

なお、在庫管理の教科書04「棚卸」には棚卸ですぐに使える14個のテンプレートが付属しています。

Inventory-Improvement-Seminar

   

棚卸・在庫管理について直接相談したい

在庫管理アドバイザーに初回無料で相談できます。無料相談で気づきを得てスムーズに改善を進めた人もたくさんいます。
ただし、人気のサービスなので月間4名様までで予約制です。遠慮なくお気軽にご相談ください。

棚卸しにシステムを導入したい

棚卸しにかかる手間を、大幅に削減したい方は、在庫管理システムを導入するのも1つの手段です。

棚卸しに時間をかけるということは、生産性を低下させる要因にもなります。

在庫管理システムを使えば、過剰在庫・滞留在庫が自動で察知できるので、ムダな作業をする必要がなくなります。

と言っても、わざわざ機能性が充実した高価な在庫管理システムは必要ありません。

最低限の機能があれば、棚卸はできます。機能性よりも「現場での使いやすさ、操作性の良さが重要」です。

弊社では在庫管理のプロが手がけた「成長する在庫管理システム」を提供しています。

在庫管理システム
  • 一斉棚卸
  • 循環棚卸(必要な部分だけ棚卸をする)

どちらにも対応しています。1品目だけ、一か所だけなど部分的な棚卸も気軽にできます。

具体的には、ロケーション別、品目別、ロット別などで棚卸が可能です。

棚卸の履歴データを全て保管しているので、棚卸差異の原因調査にも役立ちます。

30日間無料でお試しできるので、実地棚卸に活かせるのかトライアル期間でご確認ください。

➽無料で「成長する在庫管理システム」を試してみる

また近年では、最新のIoT技術を使って在庫管理ができます。

正確な在庫管理ができるようになり、かつ棚卸しの作業そのものが不要になります。

「在庫管理110番」では、在庫管理システムの導入実績もあるので、ご興味がある方は一度、ご相談ください。

【在庫管理システムの関連記事】

    在庫管理アドバイザー岡本茂靖

    筆者:岡本茂靖(在庫管理アドバイザー、日本物流学会理事)

    在庫管理110番代表。在庫管理、生産管理の実務経験を経て、瀬戸内scm株式会社を創業。

    在庫管理に関して200社以上の個別相談、コンサルティング・システム導入を行っている。
    大阪府工業協会講師、日本物流学会所属
    著書:経費15%削減在庫管理術【基礎知識編】、寄稿:在庫最適化のためのIoT活用(日刊工業新聞社)、発表:物流における在庫管理の成功事例研究(日本物流学会)他多数。

    お問い合わせはこちら