コロナ渦において、キャッシュフローが重大な影響を受けた企業は少なくありません。

経済が低迷する中で、危機的状況からいち早く脱出したのは米国企業です。

一方で、多くの日本企業は資金繰りに悩まされており、回復の兆しが見えていません。

なぜ日米企業において、差が生じたのでしょうか。

ここでは、CCC(キャッシュ化速度)と運転資金の観点から日米企業を比較します。

CCCは、欧米の大手企業では重要な経営指標として採用されており、「在庫の鮮度管理」のベースとなっています。

売上至上主義ではなく、運転資金の管理が企業活動を存続させるためには重要です。

在庫起点経営コンサルタントの立場から、CCCにおける日本企業の問題点と解決策を提示していきます。

今までもキャッシュコンバージョンサイクルの比較分析を積極的に行ってきました。

過去の記事もご活用ください。

業種別キャッシュコンバージョンサイクル、日本と海外の比較

運転資本とCCCとは

日米企業の比較をする前に、基本的な知識について説明します。

重要な専門用語として、「運転資本」と「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」があります。

まず「運転資本」について見ていきましょう。

【運転資本とは】

企業活動の基本的なプロセスは、「商品を購入して、販売し、代金を回収する」という流れです。

このプロセスにおいて、売上の入金よりも先に、商品の購入代金を支払う場合、タイムラグが生じます。

タイムラグを埋め合わせるために、一定のキャッシュが必要になります。 

これが「運転資本」です。つまり、以下の計算式で表すことができます。

運転資本 = 棚卸資産(在庫)+売上債権(売掛金)-買掛債務(買掛金) 

【キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)とは】

運転資本が増える場合、新たにキャッシュが必要になります。 

一方で運転資本が減る場合、その分のキャッシュを用意する必要はありません。 

企業が資金を回収する効率性・スピードを示す財務指標として、 「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」があります。 

CCC=在庫回転日数(CIO)+売上債権回転日数(DSO)-買掛債務回転日数(DPO) 

「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」について、基礎から学びたい方はこちらをご覧ください。

キャッシュコンバージョンサイクルとは?

キャッシュコンバージョンサイクル (2)

1年半にわたるコロナ禍は、現場と財務に大きな影響を与えています。 

世界中の企業が大打撃を受けたことは言うまでもありません。

CCC(キャッシュ化速度)と運転資金の観点から見ると、どのような状況でしょうか。

今回の調査によって、米国の大手企業は適切に管理されていることがわかりました。 

予算や予測に応じてキャッシュポジションの状況を確認するために、 CCCとともに運転資金をチェックすることは不可欠です。 

具体的な数値を、米国企業と日本企業で比較してみましょう。

下表は、各社の過去2年間の8四半期数値を日本の会計年度(4月から3月)にあわせて、2019年度から2020年度までの単純平均の増減をまとめたものです。 

米国企業日本企業の比較 (3)

米国企業5社

米国企業の特徴は、2つあります。

  1. 在庫回転日数が低い
  2. 買掛金日数が長い

2020年度の米国企業5社すべての売上高は、前年比で増加しています。 

しかし、在庫回転日数はほぼ横ばいであり、四半期平均運転資本は改善しました。 

一般的に売上高の増加は、運転資本の増加につながりますが、 これらの企業には当てはまりません。 

  • アップル社: 売上21%増 (CCC 3日短縮、四半期平均運転資本30%減) 在庫1日増 
  • デル社: 売上5%増 (CCC3日増、運転資本9%増) 在庫変化なし 
  • アマゾン社: 売上41%増 ( CCC14日短縮、運転資本356%減) 在庫6日短縮 
  • HP社: 売上7%増 (CCC2日増、平均運転資本1%増) 在庫2日増 
  • ウォルマート社: 売上5%増 (CCC2日短縮、運転資本43%減) 在庫1日短縮 

日本企業(CCCが相対的に短い企業)

日本企業の特徴についても2点、挙げます。

  1. 売掛金と買掛金が変わらない
  2. 在庫回転日数は一部企業を除き、悪化している

日本企業と米国企業の大きな違いは「買掛金」です。 

米国企業の買掛金回転日数は比較的に長めです。
しかし、日本は事情が異なります。

公正取引委員会で定める下請代金支払遅延等防止法では、支払期限は60日以内と義務付けられています。

(参照:公正取引委員会・下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準

もう1つ、大きな違いがあります。

売掛金回転日数、買掛金回転日数に比べて、管理可能な領域である在庫回転日数です。 

在庫回転日数のくわしい解説は、以下で解説しています。

在庫回転日数とは

【在庫回転日数の増減】

  • セブン&I HD: 売上13%減 (CCC 3日短縮、四半期平均運転資本4%減) 在庫2日増 
  • しまむら: 売上4%増 (CCC2日短縮、運転資本5%減) 在庫3日短縮 
  • PPIH: 売上1% 増 (CCC1日増、運転資本3%増) 在庫1日増 
  • ファーストリテイリング: 売上10%減 (CCC15日増、運転資本3%減) 在庫29日増  
  • トヨタ自動車: 売上10%減 (CCC3日短縮、運転資本18%減) 在庫 7日増 
  • 山崎製パン: 売上5%減 (CCC1日増、運転資本4%減) 在庫1日増 
  • パナソニック: 売上11%減 (CCC2日増、運転資本7%減) 在庫4日減 

ウォルマート社と日本企業(PPIH、山崎製パン)との比較 

ウォールマートと日本企業の比較
ウォールマートとPPIHのCCCトレンド (2)
ウォールマートとPPIH推移 (2)

【ウォールマートとPPIH】

  • ウォルマート社: 2020年度の四半期平均運転資は43%減(売上は5%増) 
  • PPIH: 2020年度の四半期平均運転資本は3%増(売上は3%増)  

在庫回転日数で両社は大きな違いがあります。 

ウォールマート山崎製パン比較
ウォールマートと山崎製パン推移 (2)
ウォールマートと山崎製パンのCCCトレンド (2)

【ウォールマートと山崎製パン】

  • ウォルマート社: 2020年度の四半期平均運転資は43%減(売上は5%増) 
  • 山崎製パン: 2020年度の四半期平均運転資本は4%減(売上は5%減)

山崎製パンの在庫回転日数と在庫量は、上記20社の中でも 、サプライチェーン・マネジメントが傑出している証といえるでしょう。 

山崎製パンでは、毎朝の生産決定会議では、前日の生産、 販売、在庫実績を把握しています。

全国約26か所の工場で、月間4000種類のパン、年間では10,000種類のパンを生産しているとのことです。 

また山崎製パンは、売上に季節変動がほとんどなく、在庫変動もほとんどありません。

下表は過去3年間(4月~3月)の売上比率と在庫変動を示したものです。 

山崎製パン決算

【関連記事】

変化対応の企業体質を構築するためには

変化が激しい状況下において、最も必要されるものは何でしょうか。

それは過去に蓄積された失敗体験、 成功体験からの知恵です。

そして仮説と検証を生かした変化対応力が欠かせません。

変化対応の企業体質を構築するためには、目標管理よりもピッチを狭くして、変化点管理が求められます。 

そのためには、共通のオペレーションサイクルを週次に合わせることが効果的です。

さらに、従来の経営指標(財務指標と非財務指標)を連鎖させ、 バランス・スコアカードの発想でコックピット経営を行うことが急務とされるでしょう。 

【関連記事】

CCC管理を導入するためには 

日本にCCCを導入するうえで、弊害となる要因が2つあると、私は考えています。 
 

  1. 月末閉め、翌月払いの商慣習 
  2. 商法では週次決算を認めていない

それそれ具体的に解説します。

<月末閉め、翌月払いの商慣習> 

世界で月末閉め、翌月払いの商慣習は日本だけです

したがって、売掛金、買掛金は月次が閉まるまで管理されていないのが実情です。 
同じ取引先でも、購入時期、販売時期が異なると約30日~60日の差異が発生します。

一方、海外では支払いユーザンスが仮に30日であれば売掛金、買掛金の入出金は30日後になるため、システム対応を含め、管理しやすい環境にあります。

下表は日本と海外の比較です。 

月末締め翌日払い①
月末締め翌月払い②

<商法では週次決算を認めていない> 

欧米では、週次決算を認めているため、年間52~53週のオペレーションサイクルに合わせて決算を閉めることが可能です。 

たとえば、米国デル社は土曜日~金曜日を、またアップル社は日曜日~土曜日を週次サイクルとして、四半期決算も月をまたがることは日常茶飯事です。 

  • デル社(金曜日):2020年5月1日、2021年4月30日 
  • アップル社(土曜日):2020年3月28日、2021年3月27日 

日本企業は、月次に決算が集中します。

現場のサイクル(リアルタイム、日次、週次)と管理のサイクル(月次、半期、年次)に差があり、現場と経営陣の認識に大きなかい離が発生しやすくなります。

結果的に、その分析と調整に時間を要してしまうのです。

週次サイクルの導入が解決策 

私は売上、売上原価、売掛金、買掛金、在庫の実績と見込みを週次で把握することを推奨します。(日次データの利活用) 

それを経営陣と現場で共有することで、仕入、生産、販売、在庫、資金繰りの状況をタイムリーに把握できるようになります。 

確信しているのは、CCC管理と運転資本管理は、十分に可能であることです。

CCC管理と運転資本管理

最後になりますが、拙著を紹介させて頂きます。 

<コロナ禍で顕在化した新たな経営課題> 

 ・売上減に伴う損益分岐点の悪化 

 ・コロナ禍の影響で経営陣と現場での意識のかい離の拡大 

 ・増え続ける社内不正、海外子会社の不正会計、内部統制の不備 

 ・脱炭素社会の実現に向けたロードマップ、目標設定と具体的な施策 

高井重明

在庫起点経営コンサルタント高井重明先生の略歴

群馬県出身。1980年大阪外国語大学卒業後、ソニー入社。海外営業、経営企画、物流、生産部門、グローバルSCMを担当。
以降33年間勤務。製糖会社に勤務後、2016年1月、在庫起点経営コンサルタントとして独立。インド、サウジアラビア、UAE、スイスに15年間の駐在経験と54か国の海外訪問経験を活かし、環境問題(過剰生産)、不正会計リスク軽減のための指南書を上梓。アジア新興市場の現地企業、日本企業に対して普及活動を展開。

資金繰りを改善したい

「運転資金が厳しい状況で困っている」

「新型コロナウイルスの影響を受けて、CCCが悪化してしまった」

などのご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

CCCが悪化すれば、業績が低迷するだけではありません。借入金や金利の負担を増えてしまいます。

どんどん企業の財務状況を逼迫していくのです。

できる限り早く対策をして、潤沢なキャッシュ状況を作りましょう。

資金繰りに苦しまない企業を目指しませんか?

キャッシュコンバージョンサイクル以外でも、在庫管理の仕組みづくりやあなたの会社が抱える問題などもお気軽にお問い合わせください。