海外工場での改善成功事例

海外への進出は、昔は大企業だけのものでしたが、
中小企業も海外に進出する時代になりました。

海外では、日本ではありえないようなことに
日々遭遇します。

特に難しいのが、人の教育です。
ITシステムを頼らず、アナログのしくみ作りで
問題を解決に導いた一連のプロセスをご紹介します。

基本をしっかりと押さえながら改善を進めたので、
あなたの工場でも参考にしていただける内容です。

フィリピン工場で起きた大量の欠品

フィリピンの関連会社で起こった生産管理の機能不備により工場の部品が大量に欠品するという事態がおこりました。
さらに運悪く、マニラ市長令による突然のトラック規制があり、日本から輸出していた部品が最大で2週間遅れるという異常事態が発生しました。

その結果、フィリピン工場では生産がしたくても部品が無い
という深刻な生産遅れが発生。当時の日本人担当者、現地スタッフでは(駐在していた日本人スタッフも除く)もお手上げ状態でした。

そんなときに私に白羽の矢が立ち、棚卸しの翌日にフィリピンに飛び、
改善指導に当たりました。

フィリピン工場の状況

滞在4日でスタッフ・現場作業者に在庫管理のオペレーションと運用方法の
指導を行いました。
生産改善をする時は必ず、

まずは現場を見る。

これが在庫管理の鉄則です。

現地担当者と現場を周りながら、
気になった点を質問しました。

ここで、1つの外的な問題と
3つの内的な問題を見つけました。

  • リードタイムをメンテナンスしていなかった
    最終的に大問題になった最大の原因です。
    マニラ市長のエストラーダ氏が渋滞と排ガスを理由に、突如日中のトラックの
    交通規制を開始。規制が発端となり、物流が停滞しました。
    そして次のようなことが起こりました。
  1. 船に貨物を運べない、
  2. 船から下した貨物を積み出せない
  3. 貨物が港で滞留しているため船から貨物が下せない

このため、貨物の発送と到着が大幅に遅延していました。

当時の交通規制に関する記事

マニラ港混雑とトラック規制
フィリピンのトラック規制、製造業打撃 貨物輸送停滞で損失7264億円も

  • あるべきはずの部品が棚に全くない
    棚には表示が貼り付けられていたタグがありましたが、
    剥がれているものや、薄くなって見えなくなっているものが
    多く、全く機能していませんでした。
    棚に表示が無く、その部品がなんであるか分からない状態でした。
    そのため、部品が散らばって置いてあるような状態でした。
  • あるべき量を全く満たしていない
    フィリピン工場では一応、持っておくべき安全在庫量が
    決められていました。しかし、部品の棚はほとんどスカスカ。
    全く足りていなかったのです。
  • 分かっていたのに何もしなかった
    棚を見れば、在庫が無いのは一目瞭然。
    すぐに問題であるということが分かっていたにも関わらず、
    現場の物流担当者も在庫管理担当者も何もしていなかったのです。

在庫管理担当者に以上の4つについて確認したところ、
「指示を受けていないのでやっていなかった。私は悪くない。」
という回答でした。

物流現場担当のフィリピン人も、最近部品が少なくなっていること
に気づいていておかしいなと思っていたようですが、指示を受けて
いないので、特に指示を受けていないので報告をしなかったという
ことでした。

現地で騒ぎ出したのは製造担当者が、生産指示を受けたにも
関わらず、組み立てるための部品が無い。

ということからでした。

日本と違い、フィリピンでは「決まった仕事だけやればよい」
という考え方が一般的で、気を利かせることは一切しません。

製造業はチームプレーであるにもかかわず、個々の仕事が
ばらばらで全く連携が取れていませんでした。

フィリピン工場でやった在庫管理改善活動

問題を特定した私は、現物管理の改善を中心に進める
ことにしました。

在庫管理の基本を理解してもらう

まず、状況を整理したうえで、在庫管理担当のフィリピン
人スタッフを全員集めて、フィリピンで生産した部品が最
終的にどのようにお客の手にわたるかを説明しました。
日本から部品が届く工程

ここで重要なのは、自分たちの材料がどこから、どのような
手段で運ばれ、どれくらいの時間がかかっているかを理解することです。

そして、製品が最終的にどのように使われて、お客の手に渡っているか
ということを説明しました。

言葉だけではだめです。
フローチャートにして、目で見てもらます。
そして、ひとつひとつの工程を丁寧に説明します。
書くことで全体を見渡すことができます。

今回ポイントになったのは、日本からフィリピン、フィリピンから日本
への輸送手段とそれにかかる日数でした。
今回は、交通規制が発端となった船の遅延でリードタイムが大幅に
延びていました。

事前に船会社から取り寄せた港に着く予定日と実際に到着した日を
まとめたスケジュール表から、当初の予定日よりも約1-2週間遅れ
ていることが判明しました。

ここから、当時設定していた在庫量を品物の受注動向に合わせて
1-2週間分を安全在庫として積み増しすることを決定しました。

部品棚の整備

次に、部品棚を再整備しました。
部品棚には表示が無いため、置き場が定まっていませんでした。
そのため、同じ部品が散らばって保管されておらず、現場の物流
担当者は在庫の総量が把握できていませんでした。

まず、散らばっている部品をひとつのエリアに集めました。
在庫の大きさや量によって、最適な置き場を設定します。

置き場が決まったら、以下のような部品ラベルを作りました。

部品ラベル

このラベルには、現場の物流担当者もパッと見て分かる仕掛け
が施しました。

部品の棚、持つべき量の整備が整えば、後はその水準に近づく
ようにして、水準に達したところで維持すれば良いだけです。

現場の物流担当者には、規定水準を下回った時に
事務所に追加発注を要請すること、そして事務所の
在庫管理担当者には、水準を維持するように調達計画
を立てて、現場から追加要請がきたら迅速に対応する
ことを新たなルールとしました。

ここまでで、まずは現物管理の仕組みは整えました。

次に行ったのが、事務所の情報管理です。

発注頻度の見直し

日本がフィリピンに発注を出す頻度は週に1ー2回です。
これまで発注は、月に1回しか行っていませんでした。

日本側は週に1回、情報を更新。
フィリピンは月に1回、情報を更新。

これがかい離をもたらす原因になっていました。

そこで、発注の頻度を週1回に変更。
反発もありましたが、データのかい離の様子を説明し、
今回の事態に陥った原因のひとつであることを納得
してもらい、発注頻度を合わせることにしました。

さらに、これまでは在庫数をパソコンのデータ上だけで
確認していたのですが、これを現物確認に変更。
パソコンのデータを1週間ごとに更新するようにしました。

在庫精度が悪ければ、発注量も当然おかしくなります。

そもそも今回の問題の発端は、船の遅れに加えて、
データ上の在庫数と実際の在庫数が不一致だったという
ことも引き金になっていたからです。

業務担当者の設定

在庫管理のフローごとに、担当者を2名ずつ配置しました。
なぜ、2名にしたかというと、外国人は担当した仕事のみ
しかしないことが多く、担当外だったら全く無関心になるから
です。
実際に、発注担当者が休みだと、発注業務が止まります。
そこで、正副担当者を決めて、正担当者が休みの場合は副担当者
が仕事をするという体制を整えました。
日本側からの情報発信は、正副担当者に送り、必ずどちらも情報を
共有できている状態にしました。

定期的な報告(報告日時を決める)

日本人であれば、これだけ決めれば後はほぼやってくれます。
しかし、そううまく行かないのがフィリピンでした。

  • 決まったことをやらない
  • 約束を守らない
  • 期日を平気で延ばす

これが、フィリピンで起こっていたことです。
そこで、定期的な報告を義務付けました。
●月×日まで。▲曜日まで。
このような指定の仕方ではダメです。
それだと、「その日まで」という指示になるので、
「やっぱりできませんでした」という報告が翌日に上がってきます。

●月×日の□□時まで。

と時刻指定までが必要でした。

まとめ

まとめ資料の一部

最後に、今回問題が起こった原因を説明して、新たな方法の
運用方法をパワーポイントでまとめて、関係者全員が理解し、共有したことを
確認して帰国しました。

フィリピン工場のフォロー開始

帰国後、全てを現地に任せていては全く改善
が進みません。
そもそも、自分たちでできていれば必要なかった
はずです。

改善を継続し、促すためのは監視と支援をしなければ
いけません。

仕組み構築後にすべき事は、次の3点です。

  • その仕組みがきちんと運用されていること。
  • 仕組みをまわすために必要な材料を整えること。
  • 経過観察を行い、状況の改善を把握すること。

帰国後に行ったのは、

  • フィリピン工場の業務フォロー
  • 仕入れ先への協力要請
  • 部品の供給
  • フィリピン工場生産部品到着状況の管理
  • 製造現場への説明
  • フィリピン工場の業務フォロー
    フィリピン人は放っておくと、必ず手を抜き約束を守らないので、
    定期的な報告が遅れないように徹底的なフォローを行いました。
    案の定、報告が遅れたことを指摘をすると、何かと言い訳をして
    逃れようとします。指摘をしないと本当に連絡が来ません。
    毎回、毎回、指摘をして正直心が折れそうな毎日でしたが、
    継続して行ってから2ヶ月目くらいから、期限を守るようになりました。
  • 仕入れ先への協力要請
    精神的に辛い業務です。
    フィリピン工場は、管理不足が積み重なり、大量の部品不足
    に陥っていました。生産にも滞りがでるくらい深刻でしたので、
    通常よりも多い量の部品を日本から供給せざるを得ない状況でした。

そのため、仕入れ先には無理のある納期で無理のある数量を発注
しなければならいけません。
発注担当者、仕入れ先から文句や愚痴を言われながら、何とか協
力してもらえることになりました。

  • 部品の供給
    すでに遅れている部品は遅延している船だと間に合わない量がありました。
    そこで通常の数十倍のコストをかけて、一部の数量を
    飛行機で部品をフィリピンに供給しました。
  • フィリピン工場生産部品到着状況の管理
    船が遅れているため、いつ港に到着し、工場に
    持ってこれるかがはっきりと分からない状態でした。

そのため、部品の到着状況を常に報告してもらいました。
部品をきちんと受け入れ処理をしているかを確認する狙い
もありました。

当時、マニラ市の政策によりトラックの通行が日中規制されて物流が
混乱するという事態になっていため、目的の部品を載せた
船の到着日を常に把握なければならない状態でした。

  • 生産する製品の指示
    フィリピン工場の全ての部品は生産が遅れており、
    何を優先して生産して出荷すればいいのかわからず、
    大混乱に陥っていました。

そこで、こちらから何を作るのかを指定して、生産状況
を毎日報告させました。

生産進捗管理表を作り、生産数や全体の生産遅れを
チェックしました。

  • 製造現場への説明
    フィリピンの生産が遅れれば、当然、その製品を待つ
    日本側の工場の製造現場にも影響が出ます。

生産に着手して、フィリピンの製品待ちで仕掛品が工場内
にあふれ無いように、製品の到着状況を船会社と連絡を取
りながら、随時チェックし、いつから生産ができるのかを
連絡をしました。

部品が工場に搬入されたらすぐに生産できるように体制を
整えてもらう必要がありました。

ほぼ毎日、これらをずっと根気よく繰り返して次第にフィ
リピン工場の部品在庫は正常レベルに達していきました。

それと同時に、混乱していた生産も正常に戻りました。
在庫管理の不備に端を発した問題は、4か月で終息する
ことに成功しました。

フィリピン工場の在庫改善から得た学び

フィリピン工場の管理で大変な思いをしましたが、
いくつかの学びが収穫でした。

それは、

  • 考え方が重要
  • 基本に忠実であること
  • 継続して行うこと
  • 考え方が重要
    実は私、英語はとても苦手で、英語で電話が来ると
    テンパってしまうというくらいの英語レベルです。

そんな私がフィリピン人を指導できたのは在庫管理の
考え方を理解していたからでした。

フィリピン工場は野放しだったわけではなく、日本人の納期
管理担当者がいまいた。その人は、英語が堪能、会話もスム
ーズです。普通に考えると、英語ができるのであれば、フィリ
ピン工場をすぐに指導できたはずです。

しかし、彼にそれができなった理由は、「在庫管理の考え方」
を理解していなかったことです。起こっている問題に対して、
何をすればいいのかわからず、放置状態が続きました。最初の
問題が小さなうちに火消しができていれば、大きな問題に
至ることはありませんでした。

  • 基本に忠実であること
    現地の問題は、データと現物の数量が完全に不一致だったと
    いうことと、部品の棚がきちんと整備されていなかったこと
    の2点に集約することができます。

これらがきちんと守られていれば、問題はほとんど未然に防げ
ていました。
実際にこの3点を守る活動をフィリピン人担当者に指導して実
施させたところ、4か月後の問題解消に結びつきました。

  • 継続すること
    日本人の納期管理担当者もフィリピン人の在庫担当者のどちら
    も決められたことを実施していなかったことが問題を大きくし
    ました。

仮にフィリピン人担当者が忘れていても日本人が指摘すれば、
フィリピン人担当者も気づきます。

在庫の情報と現物を一致させること、部品の置場をきちんと
整備することも決められていたことですが、新たな支給品が
発生したり、担当者が変わったりしたところで、継続が途切れ
そのままになっていたことが分かりました。

決まったことをきちんと守って継続することができていれば、
今回のようにここまで大きな問題は起こらなかったはずです。

今回の大きな問題で、いい加減で有名なフィリピン人にも通用する
在庫管理システムを確立しました。しかもこのシステムにはITは
一切必要ありません。
日本人は几帳面で、自分で考える力をもっているので、在庫管理に
悩んでいる経営者は導入すれば大きな効果をもたらすはずです。

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