CCCで不正会計を予防する

CCCを活用した不正会計の予防方法

不正会計とは?

不正会計とは?
財務諸表の利用者を欺くために、財務諸表に意図的な虚偽表示を行うこと。
または計上すべき金額を計上せず、もしくは必要な開示を行わないことをいいます。

一般的に不正会計は、以下の4つに分類できます。

  1. 売上の前倒し・架空計上
  2. 費用の先送り・不計上
  3. 資産の評価替え・架空計上
  4. 負債の評価替え・不計上

不正会計は以下のようにして行われます。

  • 会計記録や関連書類の偽造・変造・改ざん
  • 財務諸表における虚偽記載や除外
  • 会計基準の不適切な適用

また、不正会計には2つのタイプがあります。

  1. 不適切な資産計上
  2. 不正な財務報告

不正会計の発生要因(不正のトライアングル)

不正のトライアングル
一般的に、不正行為は「機会」「動機」「正当化」の3つの不正リスクが
そろったときに発生するといわれています。

これを不正のトライアングルと呼びます。
不正会計の発生要因となる「機会」「動機」「正当化」
をそれぞれを見ていきましょう。

不正会計の機会

「機会」とは、不正行為をやろうと思えばいつでもできるような
職場環境のことです。たとえば、横領行為の場合の客観的事情
として、一人の担当者に権限が集中している等が挙げられます。

不正会計の動機

「動機」とは、自分の望み・悩みを解決するためには、
不正行為を実行するしかないと考えるに至った心情のことです。
たとえば、横領行為の場合の主観的事情として、
借金返済に追われて苦しんでいる等が挙げられます。

不正会計の正当化

「正当化」とは、自分に都合の良い理由をこじつけて、
不正行為を行う時に感じる「良心の呵責」を乗り越えてしまうことです。

たとえば、横領行為の場合の主観的事情として、
「盗んだのではなく、一時的に借りただけであり、いずれ返すつもりだった」
等が挙げられます。

不正会計で不当・違法な利益を得る

不正は不当または違法な利益を得るために意図的に行われます。

そのため会計上は利益を捻出するために、

  • 売上を増やす
  • 費用を減らす

の二方向にインセンティブが働く会計処理を行います。

例えば、実態のない売上を作ったり、費用を繰り延べて損失の先送りをして、
利益をよくみせたりすることです。

不正を働く心理は、
「今は苦しい。今だけ不正をしたとしても、いつかは帳尻が合うだろう」
等の思いがあるのでしょう。

しかし企業は会計を通して企業の業績や財政状態を適切に報告・説明
する責任があります。
「今期だけは不正をしても大丈夫だろう」という考えは通用しません。

日本で発生した2000億円超の不正会計とは?

2000億円をこえる不正会計の事例としては、
次の2つがあります。

  • 2005年に発覚したカネボウの粉飾決算
  • 2015年に発覚した東芝の不正会計(除く原発)

両社に共通しているのは、

  • 架空売上
  • 経費の未計上
  • 在庫の水増し
  • 売掛金
  • 買掛金の計上

上記での不適切な行為に加え、
統治機能の不在という点が挙げられます。

また日本企業の海外子会社での不正会計も枚挙にいとまが
ないといえるでしょう。

では、対策はあるのでしょうか?

コロナ禍における不正会計リスク対策については、
日本電産の活動が参考になるでしょう。

CCCで不正会計を予防する 

財務的な側面からCCCの管理は有効だが、一番の本音は不正防止。
不正防止のために様々なことをしてきたが、CCC管理をするよう
になって、不正は激減した。(日本電産 永守会長)

  • 不正で一番多いのは在庫、売掛金、買掛金の順番 CCCで厳格な管理をすると、
    (余分な)在庫を持てない。
    売掛金を放置しておくとCCCを悪化させる
    買掛金は、払わなかったら、相手が言ってくる
  • マイクロマネジメント
    小さい単位で全部見る。具体的には、単品もPSI管理
    を実施する。
  • CCC悪化要因
    単純に 余分な在庫を持っているか、
    押し込み販売したかのどちらか。

現場とマネジメント(CFO)で閾値を設定して、変化点管理をすれば課題の早期発見は可能になります。

(出所:週刊 経営財務 2017年1月16日 インタビューを参考に改編)

CMS (キャッシュ・マネジメント・システム)の本格化

地域ごとの統括会社が毎日、域内の余剰資金を集めて、資金が不足しているグループ企業に貸し付ける仕組みです。

地域内の資金偏在を是正して、日々の現金の流通を良くすることが目的です。
日本電産は2014年に世界5地域でCMSを導入しました。

CCCの導入効果

日本電産は2012年にCCC導入し管理。改革を開始しました。
その結果CCCは、
2012年3月末 85日だったのに対して、2015年末 68日となり、17日改善しました。

この改善により、6年ぶりに現金(と現金同等物)が有利子負債を上回るネットキャッシュになりました。
M&Aに備えるために、全社を挙げて資金回収を早め 在庫を抑制しました。
CCC改善活動を行う日本電産は、コロナ禍におけるリスクマネジメントのよい事例といえるでしょう。

では、日本電産の直近13四半期のCCCを確認してみましょう。
日本電産の直近13四半期のCCC
日本電産の直近13四半期のCCC
日本電産の直近13四半期のCCC

2019年度(2020年3月末)の売上は前年比1%増に対して、平均運転資本は3%増。
2020年1Q(4月~6月)売上は前年比で7%減に対して、運転資本は11%増で推移。
年間を通して安定しています。

日本電産のスピードと徹底

日本電産はМ&Aでグループ入りした重症の赤字会社を1年で
黒字会社に再生する事で有名です。

永守会長は、
「『時間』は万人に平等に与えられた資源である」と
グループ会社の研修会でよく語ります。

日本電産の会社再建の5大ポイントは以下の通りです。

  1. 意識改革:意識改革によって「ゆでガエル」を「スピードと徹底」
    の会社に体質転換させる。
  2. スピード
    「時間」は人、物、金、情報に次ぐ第5の資源。
    社内だけでなく、対顧客、対市場との「社外」スピードを短縮すれば、
    競争を制する強力な武器になる。
  3. 営業機関車化
    営業を会社の先頭に立たせ、荒野を切り拓く機関車にする。
    そのためには、社内のすべての組織を営業支援型にする。
  4. ダントツのコスト追及
    社長が先頭に立ち、リードタイム短縮、
    生産性向上で業界ベスト企業にする。調達部門を「しつこい」組織にする。
  5. 損益の週次管理
    計画未達をなくすには、「フォロー」の徹底をやればよい。
    PDCAを月1回回すのではなく、全社、全組織で週に1回、月4回
    回せば、管理のメッシュは4倍になり、会社から「慢性未達病」は消えていく。

一年以内に会社再建達成のためのスピード化・徹底化実現の施策例
会社再建達成のためのスピード化・徹底化実現の施策例
(出所:『日本電産流「V字回復経営」の教科書』川勝宣昭著、東洋経済新報社を参考に改編)

問題解決のPDCAサイクル

問題解決のPDCAサイクル
問題解決のPDCAとは、

  1. Problem-finding(問題発見)
  2. Display(問題を見えるようにする)
  3. Clear(問題を取り除く)
  4. Acknowledge(問題解決を確認する)

の4つから成り立ちます。
従来の「計画達成のPDCA」が「Plan(計画)」を軸に
サイクルが回るのに対して、「問題解決のPDCA」は、
「Problem(問題)」が中心に回ります。

自律的問題解決型組織を目指すためには、「Plan(計画)」だけでなく、
実行上の「Problem(問題)」に着目する必要があり、
「Display」すなわち問題や異常を「見える」ようにすること。

問題を発見するだけでなく、周知させることが極めて重要です。
多くの企業では、問題や異常が発見できないわけではありません。

多くの場合、それらがさらけ出され、組織の共通認識となっているか
どうかがポイントで、問題解決のPDCAサイクルを回し続けること
によって進化する現場が生まれます。
(出所:『現場力 「強い企業」には「強い現場」が存在する』 遠藤 功著 ゴマブックス)

CCCの活用と週次管理の実施が必要

コロナ禍におけるリスク管理とは市場のリスクだけでなく、
企業統治(ガバナンス)のリスク管理でもあります。

日本では、税法や会社法などの法律にもとづく決算は
年次で、ほとんどの企業は、月次で財務諸表を作成し、
上場企業は四半期をベースに対外発表しているのが一般的です。

多くの企業では月末に各営業所、工場や拠点から送られる
数値を集計して全社の決算数値をベースにP/L、B/Sを作成
します。

つまり、都合の悪い情報は検証されないまま、実績と
して使われるケースが多いのが現状です。

カネボウや東芝のようにマネジメントが不正行為を指示している
というケースもありますが、多くの場合、実務者や組織で行う
不正は見落とされてしまいがちです。

日本電産は、この点に着目して、CCCを積極的に活用しています。
年次決算を終えてから監査法人や会計事務所に不正の有無を確認する
ケースが一般的です。

私は不正行為を発生させないリスク管理にCCCを活用し、
週次管理を社内に浸透させることが極めて重要であると思います。

高井先生の記事一覧

この記事の執筆した高井先生はCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)
やPSI管理などに関する経験と深い知見を有しており、当サイトに数多くご寄稿いただいてます。

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