毎年、優れたサプライチェーンによって成功している企業をランキング化した、サプライチェーンTOP25をGartner社が発表しています。
かつてはApple社が首位を独占していました。しかし近年、同社はランク外となり、ESGやROPA、在庫回転など定量評価を重視した企業がランキング入りを果たすようになりました。一体、どのような変化があったのでしょうか。
今回はサプライチェーンTop25をもとに、トップサプライチェーン企業の特徴を紐解いていきます。さらにトップサプライチェーン企業におけるCCC(キャッシュ化速度)との関連性を分析します。
このことでキャッシュ・コンバージョン・サイクルが、いかに評価に反映されるのかが明らかになるでしょう。サプライチェーン市場において、グローバルな視点で優位性を獲得していきたい企業は、ぜひご活用ください。
在庫起点経営コンサルタントの立場から、これまでもCCCの比較分析を積極的に行ってきました。過去の記事もご活用ください。
サプライチェーンTop25ランキングとは
サプライチェーンTop25とは、グローバルサプライチェーンへの取り組みが優れた企業を評価するランキングです。
1986年から毎年、米国・調査会社AMR Research社が調査を実施して、その結果をランキングとして発表しています。
17年前より、調査会社であるGartner社により引き継がれました。
調査は、Fortune Global500社(世界の売上高ランキング500社) を対象としています。
急激に市場スピードが変化する中で、いかに企業が迅速に対応できるかが問われている昨今。
とくに競争が激しいサプライチェーン市場で、どの企業が優れた成果をあげているのか、定性・定量評価によってベストプラクティスが決定されます。
この指標は、世界のサプライチェーンの重要指標として認知されています。
評価基準について、具体的に見ていきましょう。
評価基準について
サプライチェーンTop25(2021年)では、以下の通りです。
定性評価と定量評価の割合は、50対50です。
定量評価には、4つの指標があります。
どのように評価しているのか、それぞれ指標の求め方を紹介します。
定量評価の算出方法
1.ROPA:((2020営業利益/ 2020純資産、工場、設備+年末在庫)×50%)+ ((2019営業利益/ 2019純資産、工場、設備+年度末在庫)×30% )+ ((2018年営業利益/ 2018年純資産、工場、設備+期末在庫)×20%)
2.在庫回転率:2020年の売上原価/ 2020年の四半期平均在庫
在庫回転率の詳しい求め方はこちらをご覧ください。
3.売上伸張率:((売上の変化2020-2019)* 50%)+ ((売上の変化2019-2018)* 30%)+ ((売上の変化2018-2017)* 20%)
4. ESG評価:コミットメント・透明性・パフォーマンスに関するサードパーティが評価した「環境・社会・ガバナンス」の指標(各調査機関によって数値が異なる)
指標の変化
現在は、4つの指標で評価されています。
しかし、過去8年間で、以下のように指標は変化しています。
- 2015年までは、売上、ROA(総資産利益率)、在庫回転の3項目が指標であった。
- 2016年に上記にCSR(企業の社会的責任)が10%加わる。
- 2020年にROA→ROPA(物的資産収益率)、CSR→ESGに変更される。
下の図では、各指標の配分を示しています。
2020年以降、ESGは全体の15%とROPA20%に次ぎ重視されています。
一方、在庫回転は5%と2015年と比べると10ポイント減となりました。
<過去8年間のランキング推移>
ランキングの中身を紐解いていきましょう。
この8年間での大きな特徴は、アップル、アマゾン、トヨタがTOP25から姿を消した点です。
そして、過去2年間で上位5位は変わっていません。
<上位5位>
- Sisco Systems・米国(IT)
2. Colgate-Palmolive ・米国(日用品)
3. Johnson & Johnson ・米国(医薬品)
4. Schneider Electric・フランス(電機)
5. Nestle・スイス(飲食業)
また26~50位に関して、医薬品業界の企業が多くみられます。
これはコロナ禍の影響が考えられます。
さらに、評価基準の変更もあり、2014年に首位であったAppleの姿はなく、私たちになじみのある
トヨタ、サムスンも見当たりません。
トップサプライチェーン企業から学んだ教訓
ガートナー社によると、これらのトップサプライチェーン企業から学んだ教訓として、 3つのポイントを挙げています。
- 統合、目的主導型組織
サプライチェーンの新たな強みと現在の焦点を利用して、「グリーン」で
人に関連するプログラムを推進するだけでなく、これらのイニシアチブに
資金を提供し、顧客や投資家への価値提案の一部となるマーケティング予算を確保する。
2.顧客主導のビジネス変革
サービスとしてのビジネスモデルだけでなく、ビジネス顧客と消費者の構成可能な
ソリューションを可能にする機能を構築することにより、新しい顧客の価値提案を
サポートするようにサプライチェーンを変革する。
3.デジタルドファーストのサプライチェーン
2020年後半に行われたGartnerの調査によると、
パンデミックの際に企業の70%近くがデジタルロードマップを加速させた。
テクノロジーを使用して、よりシームレスな顧客体験と、
大規模な供給および 製品管理におけるより自動化された洞察に満ちた意思決定を可能にすることにより、
変革の旅を進化させて「デジタルファースト」にする。
さらに「リーダーは、従業員が手動の付加価値のない活動に時間を費やすのをやめ、
顧客に価値を提供することに集中できるようにする手段として、
新しいデジタルテクノロジーを位置付ける必要がある」とGartnerは提言している。
これらを踏まえて、2020年・2021年、もっとも評価を受けたのがSisco社でした。
ガートナー社によるSisco社分析を紹介します。
ガートナー社によるSisco分析
■2021年
・強力な売上成長、環境、社会、ガバナンス(ESG)イニシアチブの強さ、
コミュニティの意見調査でのリーダーシップの認識により、 Ciscoは2年連続でトップの座に躍り出た。
・Ciscoの敏捷性は、ビデオ会議と重要なインフラストラクチャの
優先順位付けに役立ち、病院とワクチン研究のための能力を高めた。
■2020年
・Ciscoの売上成長、環境、社会および企業統治(ESG)、 およびコミュニティの意見調査におけるリーダーシップの認識により、2019年の5位から今日のトップに躍り出た。
・ESGの焦点には、サーキュラーエコノミー(循環経済)が含まれており、 2025会計年度までに、新しいCisco製品の100%にサーキュラーデザイン(循環型設計) の原則を組み込むことを目標としている。
【参照:sdxcentral・シスコ、サーキュラーデザインの目標に向けて前進】
Sisco社だけではなく、サプライチェーンTOP25は、どのようなポイントが評価されているのでしょうか。
2021年の特徴を見ていきましょう。
サプライチェーンTop25の特徴(2021年)
<2021年 サプライチェーンTop25の特徴>
Ciscoに関しては、定性評価よりも定量評価でROPAと在庫回転とESGが
高評価されていることがわかります。
また、Top25入りする企業は総じて、ESGを重視しています。
<2021年 サプライチェーンTop25>
<2020年 サプライチェーンTop25>
<2019年 サプライチェーンTop25>
サプライチェーンTop25とキャッシュ化速度(CCC)との関連
サプライチェーンTop25について紹介しましたが、キャッシュ化速度との関係性について分析してみます。
CCCが、評価にどのような影響を及ぼしているのか見ていきましょう。
四半期毎にCCCで求められる情報を開示している企業は、
2021年サプライチェーンTop25社中、こちらの7社のみでした。
- Cisco Systems
- Intel
- Walmart
- Nike
- Dell
- HP
- 3M
*CCCの算出方法は、以下の通りです。
CCC(日数)=DSO(売掛金回転日数)+ DIO(在庫回転日数)- DPO (買掛金回転日数)
運転資本(金額)=売掛金 + 棚卸資産(=在庫)- 買掛金
より詳しい求め方は、こちらの記事をご覧ください。
➽CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)とは|計算・改善方法を解説
7社の特徴を、CCCトレンド、在庫、売掛金、買掛金、運転資本の観点からまとめてみました。
7社のCCC分析
#1 Cisco SystemsのCCC
- CCCは10-20日で安定的に推移。季節的変動はあまり見られない。
- RONA(物的資産収益率)と在庫回転はCCCでも確認できる。
#6 IntelのCCC
- CCCは70-90日で推移。在庫回転日数が、CCCに悪影響を及ぼす。
- サプライチェーンTop25の在庫回転が低い点もCCCで確認できる。
#8 WalmartのCCC
- CCCはー1~+2日で推移。季節的変動はあまり見られない。運転資本は低レベル。
- サプライチェーンTop25の在庫回転評価の高さはCCCで確認できる。
#12 NikeのCCC
- CCCは90-1000日で推移。FY20 -1Qは売上激減によりCCCは悪化
- 在庫回転日数とCCCはほぼ同じトレンド→在庫回転改善がCCC改善のカギといえる。
- サプライチェーンTop25ランキングでは定性評価が高いと推察。
#14 DellのCCC
- CCCはマイナス50日前後で安定的に推移。季節的変動はあまり見られない。
- サプライチェーンTop25での在庫回転評価の高さはCCCでも確認できる。
#15 HPのCCC
- CCCはマイナス40日前後で安定的に推移。季節的変動はあまり見られない。
- サプライチェーンTop25での在庫回転評価の高さはCCCでも確認できる。
#25 3MのCCC
- CCCは100日で安定的に推移。季節的変動はあまりみられない。
- サプライチェーンTop25入りの要因は、CCCでは確認できず。
サプライチェーンTop25に入る企業の共通点
サプライチェーンTop25に入る企業の共通点として
市場の変化に迅速に対応するサプライチェーンが確立しているといえます。
売上、利益、資産回転に加え、環境を中心とするESG指標は今後も
重要なサプライチェーン指標になることは間違いありません。
ESGは企業が長期的に成長を続けるために欠かせない3つの要素といえます。
国内企業のESGブランドランキング2020年
日経新聞では、ESG経営を啓蒙し、国内企業のESGブランドランキング
を発表しました。
評価基準は、「環境」「社会」「ガバナンス」「誠実さ」の
4項目です。2020年ブランドランキングを下記の通りとなっています。
トヨタ自動車が、3年連続で一位を獲得。
要因として優れたコーポレート・ガバナンスと未来の車に対する明確な
展望が挙げられています。
(参照:日本経済新聞・日経BP「第1回ESGブランド調査」 際立つトヨタの強さ サントリー、イオンが続く)
これらの企業がサプライチェーンTop25にランクインするためには、国際的なサプライチェーンの視野に立ちつつ、ほかの指標でも高く評価される必要があります。
企業価値を向上させる1つの方法として、今回実施したCCC分析が有効です。ESGを重視しながらも、CCC分析を実施して、他社との比較や自社の立ち位置を確認していきましょう。
今までもCCC分析を、業種別に行ってきました。業界ごとのキャッシュ化速度を参考にしてください。改善策に関する記事もあるので、活用して頂ければ幸いです。
【業界分析に関する記事】
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著者・高井重明先生の略歴
群馬県出身の在庫起点経営コンサルタント。1980年大阪外国語大学卒業後、ソニー入社。海外営業、経営企画、物流、生産部門、グローバルSCMを担当。
以降33年間勤務。製糖会社に勤務後、2016年1月、在庫起点経営コンサルタントとして独立。インド、サウジアラビア、UAE、スイスに15年間の駐在経験と54か国の海外訪問経験を活かし、環境問題(過剰生産)、不正会計リスク軽減のための指南書を上梓。アジア新興市場の現地企業、日本企業に対して普及活動を展開。
資金繰りに苦しまない企業を目指すには
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