コロナ禍における時計業界のキャッシュ化速度について考察します。

キャッシュ化速度とは、「企業が資金を回収する効率性・スピードを示す資金繰りの財務指標」です。

CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)とも呼ばれています。

これまでも、業種別のCCC分析を行ってきました。

今回のCCC分析は、日本の時計業界に注目。カシオ、シチズン、セイコーHDの大手3社を比較します。

コロナ禍において3社とも業績が低迷しました。しかしカシオだけが黒字予想をする強気の姿勢を示しています。

この背景には、何があるのでしょうか。

結論から言えば、「安定した在庫回転日数」や「付加価値の高い在庫」が関係しています

ここではキャッシュ化速度を比較することで、カシオをはじめ時計業界の実態を明らかにしていきます。

コロナ禍によるビジネスへの影響 

時計業界大手3社について、最新の決算発表(2020年12月末時点)を見てみましょう。 

下の図をご覧ください。3社とも、2020年度(2021年3月末)の売上は前年比2桁減を見込んでいます。

この状況において経常利益は、カシオだけが黒字と見込んでいます。

しかし2018年度の業績を振り返ってみると、3社のレベルは同等でした。

当時3カ年の 中期計画では、2021年度に堅調な成長を予測していたのです。 

しかし2020年10~12月期に改善傾向は見られるも、大幅な下方修正を見込みます。 

要因はコロナ禍とインバウンド需要の激減が挙げられています。 

「では、なぜカシオだけが黒字予想しているのでしょうか?」

この問題を、キャッシュコンバージョンサイクルと在庫の関係から紐解いてきます。またカシオが、在庫最適化のために実施している全社構造改革についても注目します。

3社のキャッシュ化速度 

では、これら3社のキャッシュ化速度はどうでしょうか? 

最初に2018年度と2019年度(2020年3月末末)を比較して状況を確認します。 

キャッシュ化速度とは、運転資本(または資金)の金額を日数に置換えたもので 

資金繰りの状況を示します。 計算方法は以下の通りです。

運転資本=売掛金+在庫-買掛金 

キャッシュ化速度(CCC=キャッシュ・コンバージョン・サイクル) 

=売掛債権回転日数+棚卸資産回転日数-買掛債務回転日数 

CCCの基礎・求め方については、こちらをご覧ください。

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【特徴】 

3社のキャッシュ化速度を求めた結果、以下のことがわかります。

  • 売掛金回転日数・買掛金回転日数:取引先との契約や商慣習によるため、大きな変動はありません。
  • 在庫回転日数:3社中、海外売上比率が69%と最も高いカシオでは相対的にバラツキがなく、安定しています。

在庫詳細の比較 

次に年度末在庫の詳細を比較してみましょう。 

在庫を商品/製品、仕掛品、原材料/貯蔵品に分けて、金額と在庫回転日数で考察します。 

(金額数値は各社の決算短信を参考に在庫回転日数は、按分比率で算出) 

「在庫回転日数の求め方」はこちら

下の図にて青枠で囲んだカシオ、赤枠のシチズンの結果にそれぞれご注目ください。

  • カシオは、商品/製品の比率が全体の72%(2018年度)、68%(2019年度)と相対的に高く、付加価値の高い在庫が多いことが分かります。 
  • シチズンの在庫額は1000億円前後とカシオの倍近くで、CCC悪化の要因といえます。 

キャッシュ化速度と在庫回転日数の推移 

次に過去15四半期(2017年度~2020年度3Q)の状況を確認してみましょう。 

■キャッシュ化速度(CCC) 

2020年1Q(4月~6月)はコロナ禍の影響のため、大幅に悪化 

しましたが、徐々に改善傾向にあります。 

■在庫回転日数(DIO) 

CCC同様に、在庫回転日数も2020年度1Qの最悪期を脱却 

傾向にあります。CCCと在庫改善は密接に相関しています。 

では、3社の運転資本について詳細を確認してみましょう。 

在庫、売掛金、買掛金と運転資本の推移から何が学べるでしょうか? 

【カシオ】

売掛金と買掛金は、売上減で減少しましたが、運転資本は在庫調整に伴って 

減少傾向にあります。15四半期平均で在庫は運転資本の80%を占めます。 

【シチズン】 

カシオ同様、売上の激減に伴い、売掛金と買掛金は減少傾向ですが、在庫は 

コロナ禍前から1000億円前後で推移しています。 

15四半期平均で在庫は運転資本の80%を占め、運転資本は1200億円前後で 

推移しています。つまり、運転資本の圧縮=在庫圧縮といえるでしょう。 

【セイコーHD

15四半期平均で在庫は運転資本の92%を占めており、コロナ禍により増加傾向 

にあります。2018年度の1Qでは、在庫=運転資本がほぼ同等でした。 

カシオの課題と対策とは

【カシオの挑戦】

カシオは、2020年度を「新時代を見据えた準備の年」と位置づけ、 

全社構造改革、経営基盤の再構築の一環として、生産改革・SCM 

短サイクル(生産リードタイム、週次計画)による在庫の最適化を 

掲げています。(出所:2021年1月29日決算発表) 

また日経ビジネス2021年2月1日によると、 

カシオの今回の改革は、情報伝達を手作業からデータ連係により 

組織の壁を超えて月次から週次に切り替えた点にあります。 

PSI(調達/生産、販売、在庫)を一元管理することにより 

需要変動に対応できる環境が整いつつあるといえます。 

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今後、変化対応の企業体質を構築するためには、何をすればよいでしょうか。 

コロナ禍で需要の予測が困難な業界においては、目標管理よりも 

変化点管理が重要になり、変化対応力が求められます。

変化点管理をするための5つの施策

私は施策として、以下5項目の検討を提案します。 

  1. 見込み生産を進化させる。
  2. 計画サイクルを短縮させる。
  3. プロセス別リードタイムの把握と短縮
  4. 問題解決のPDCA
  5. 管理の見える化と自律の見える化の連鎖

それぞれの項目について詳しく解説します。 

  1. 見込み生産を進化させる。 
  • ピッチを狭くして、生販在(PSI)をより細かく精査する。
  • 生産と販売で連携して双方でのルールを決める。 

「見込み生産」のやり方を学ぶ

  1. 計画サイクルを短縮させる。 

需要に合わせた対応をとるためには、生産側で販売確定/販売見込み 

を生産計画に織り込むことが肝要です。(調達リードタイムを考慮) 

「生産計画の作成手順」を学ぶ

  1. プロセス別リードタイムの把握と短縮 

資材調達から出荷までのプロセス別リードタイムを把握して 

特に待機時間等、短縮可能な領域を可視化した上で、最も 

影響力を及ぼし、管理可能な領域を特定し、改善することです。 

小売店で販売される商品については、流通在庫(=店頭在庫) 

を意識して、実需を把握して、生産/調達に反映させることです。

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  1. 問題解決のPDCA 

従来の「計画達成のPDCA」は、「Plan(計画)」を軸にサイクルが 

回るのに対して、「問題解決のPDCA」は、「Problem(問題)」を中心に 

回します。自律的問題解決型組織を目指すためには、 

「Plan(計画)」だけでなく、実行上の「Problem(問題)」に着目する 

必要があり、「Display」すなわち問題や異常を「見える化」 

そして「Clear(問題解決)」「Acknowledge(確認)」と続きます。 
問題解決のPDCAで最も重要なのは、P(問題発見)とD(見える化)になります。

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  1. 管理の見える化と自律の見える化の連鎖 

最後に管理の見える化(経営陣の管理指標)と自律の見える化(現場の 

管理指標)を連鎖させることが重要です。 

以上、変化対応の企業体質を構築するための施策を5つ、提案させて頂きました。

今回は、コロナ禍において、日本の時計業界大手3社のキャッシュ化速度を比較しました。

CCCだけではなく、年度末在庫や在庫回転日数の推移などを比べてわかったのはカシオの課題に対する取組み(2021年4月稼働)です。

  • 安定した在庫回転日数
  • リードタイム短縮により付加価値の高い在庫を減らす取組み
  • 在庫の最適化を目指している
  • PSIの一元管理・週次の生産計画

この結果、需要変動に対応できる体制が整いつつあります。

経常利益を黒字と見込む姿勢は、上記したような企業努力の表れでしょう。

コロナ禍を契機に、経営基盤の強化を目指すカシオの動向は、他の業界でも 

大いに参考になると思います。 

高井先生の記事一覧

この記事の執筆した高井先生は実務的な管理会計のスペシャリストです。
ソニーにて多数のご経験を積まれ、実績を残されています。
欧米ではスタンダードな経営指標であるキャッシュ・コンバージョン・サイクルの普及に努めている数少ない専門家です。

CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)
やPSI管理などに関する経験と深い知見を有しており、当サイトに数多くご寄稿いただいてます。

CCC・PSI管理関連の記事はこちらからご覧いただけます。

キャッシュ状況や余剰生産・入庫を改善したい

「運転資金が厳しい状況で困っている」

「新型コロナウイルスの影響を受けて、CCCが悪化してしまった」

「需要予測が読めないので、変化に対応できるPSI管理がしたい」

「余剰な生産、入庫が解決できずに困っている」

などのご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

CCCが悪化すれば、業績が低迷するだけではありません。借入金や金利の負担を増えてしまいます。

どんどん企業の財務状況を逼迫していくのです。

できる限り早く対策をして、潤沢なキャッシュ状況を作りましょう。

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