適正在庫の基本と計算方法

適正在庫とは、分かりやすくいうと欠品せず、かつ過剰在庫にならない
適正な在庫数のことです。
経営面から考えると、在庫への投資は投資金額の70%以上を占めますから、
資金繰りが楽で経営を圧迫しないのが、適正在庫金額と言えます。

ここでは主に次の4つについて解説します。

  1. 適正在庫の計算方法(経営的観点、実務的観点)
  2. 適正在庫は時間でとらえる
  3. 適正在庫金額と在庫削減
  4. 適正在庫を維持する方法

適正在庫と安全在庫との違い

適正在庫とともに、在庫管理でよく聞くのが安全在庫です。
この2つが混同されがちですが、全然違います。
安全在庫とは欠品を防ぐための在庫で、在庫の下限値になります。

適正在庫は、欠品とともに過剰在庫を見ていますから、在庫の下限値とともに
上限値も設定するのが、適正在庫と言えます。

在庫の役割と適正在庫

在庫の役割は大きく分けて3つあります。

  1. お客様・後工程を待たせないため(需要数)
  2. 手配中の欠品を防ぐため(仕入れ・生産待ち)
  3. トラブルを吸収する(バッファー)

つまり適正在庫では上記の3つについて考慮する必要があります。

需要予測は当てにならない

適正在庫を算出する際によく話題になるのが、需要予測です。
近年、AI(人工知能)が普及して、需要予測への期待が高まっています。

需要予測の定義と前提は次の通りです。

需要予測とは?
特定の商品の需要 動向を決める各種の要因とその需要に与える影響を分析し,これをもとに市場調査や 各種の予測結果を考慮して将来の需要を予測すること。

需要予測の前提

  1. データは出所がはっきりしていて、質の高い、一次情報であること
  2. 全ての条件が等しいとき、需要も等しくなる。

問題なのが、2番目です。
需要予測をする際は、「条件」の類似性とその設定が極めて大切となります。
人工知能を使ったとしても、予測に与える条件を推定して、データをそろえるのは人間です。
市場動向が変わったり、販売方法を変えるだけでも予測は当たらなくなります。

機械的な需要予測が使える品目は限定的で次のような特徴が必要です。

  1. 比較的長い間売れ続けている定番品
  2. 需要変動に与える要素が比較的わかりやすい

適正在庫の設定方法は2種類ある

適正在庫の設定方法は、大きく分けて2パターンあります。

  1. 実務的観点から設定する
  2. 経営的観点から設定する

私のお勧めは、経営的観点から設定する方法ですが、
まずは一般的な「実務的観点から求める」方法を解説します。

適正在庫の計算方法

実務的観点で適正在庫を設定する時の
1つ目の在庫の役割「お客様・後工程を待たせないため(需要数)」を
満たすための計算方法です。

適正在庫数 = 一定期間の需要数 + 安全在庫数

例えば、1日の平均需要数が10個、安全在庫が20個とすると、
30日間の適正在庫は、
適正在庫数 = 10 × 30 + 20 = 320
となります。

この式の中で重要なのは、「需要数」です。
どれくらいの需要があるのかをデータとして蓄積しておくことが必要です。

なお安全在庫に関しては、次の式で算出できます。
安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×ルート(発注リードタイム+発注間隔)

安全在庫に関する詳しい解説と求め方はこちら
安全在庫とは?

適正在庫を設定する1つ目のポイントは、需要数を記録・把握するということです。

なお、過去データが全くない新商品の場合は、販売計画数が需要数の代わりになります。

しかし、これだけでは不十分です。
上記の計算式は、そのうちの「後工程・お客様を待たせないため」だけを
満たすものであって、それ以外を満たしていません。
適正在庫では、残り2つの在庫の役割についても考慮しなければいけません。

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経営的な観点からみた適正在庫

ここからは、経営的な観点から見た適正在庫の設定方法について
解説します。

私のお勧めはどちらかと言えば、経営的な観点から適正在庫を
設定する方法がお勧めです。

その理由は、実務的観点からの適正在庫の設定はボトムアップ方式になります。
そのため、どうしても積み上げ方式になるので、在庫が膨れがちです。
改善体質が備わっていない会社の場合は、経営的な観点から
適正在庫を設定するトップダウン方式を取り、目標に向かって
現状の在庫管理を改善して、会社が理想とする適正在庫金額に近づけていく方法がお勧めです。
その時に利用するのが、在庫回転率です。

在庫回転日数(在庫回転率)は在庫管理における最重要管理指標です。
在庫回転率は次の計算式で求めます。

  • 在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
  • 在庫回転日数 = 日数 ÷ 在庫回転率

在庫回転率・在庫回転日数について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
在庫回転率と在庫回転日数の求め方

経営的観点からの適正在庫の計算方法

上記の通り、在庫回転率(在庫回転日数)の計算式は
次の通りです。

  • 在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
  • 在庫回転日数 = 日数 ÷ 在庫回転率

つまり、売上原価または在庫金額を決めれば、自然と目標となる
在庫回転日数を決まります。

売上原価を決める
売上原価を大きくするということは、売上を大きくする
ということです。どちらかというと営業努力ということになります。

ただ、売上を増やすという方法をはき違えて、無理に売り上げを増やそう
とするとかえって在庫が増えます。
これは売上至上主義(売上さえ大きければよい)という会社にありがちな
パターンです。
売上原価を決める方法を考えるのは、適正在庫の設定では得策ではありません。

在庫金額を決める
もう一つの方法は、在庫金額を決める方法です。
適正在庫金額の設定ではこちらの方法がお勧めです。

下の図をご覧ください。
製造業・卸売業・小売業の売上と在庫金額の関係を示したものです。
売上と在庫金額の関係
赤で囲った比率は、売上高に対する在庫金額の比率です。
この比率が高ければ、高いほど赤字になる傾向が強いようです。

目安となる在庫金額は、それぞれ次の通りです。

  • 製造業:8%未満
  • 卸売業:4%未満
  • 小売業:4.5%未満

上記の目安から適正在庫金額が決まります。

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適正在庫とリードタイム (手配中の欠品を防ぐ)

次に「手配中の欠品を防ぐため(仕入れ・生産待ち)」について
解説します。

手配中の欠品と適正在庫の関係について分かりやすく理解できる図を用意しました。

下の図を見てください。
適正在庫とリードタイムの関係

お客様の要求納期と、自社がお客様の注文をもらってから出荷までにかかる日数(会社リードタイム)を比較したものです。

  • お客様の要求納期:40日
  • 会社リードタイム:30日

この場合、在庫は必要でしょうか?
間違いなく不要ですね。
注文を受けてから、準備をしても十分時間があるので、在庫を持つ必要はありません。

これは、注文住宅やフルオーダーメイドの服は、このパターンです。

続いて次の図を見てください。
適正在庫とリードタイムの関係
この場合は、

  • お客様の要求納期:30日
  • 会社リードタイム:45日

この場合、お客様から注文を受けて準備を始めると15日遅れます。
従って在庫を持つ必要があります。

これが在庫を持つ意味です。
さらに、在庫は15日分必要だということが分かります。
これがいわゆる適正在庫です。

在庫は時間の前借りと言われる理由です。

適正在庫を構成する3つのリードタイム

製造業を例にとって考えてみると、
それぞれ、次の3つのリードタイムがあります。

適正在庫と3つのリードタイム

  1. 発注リードタイム
    材料を発注してから、工場に納品されるまでにかかる時間(日数)
  2. 製造リードタイム
    生産に着手してから、生産完了までにかかる時間(日数)
  3. 出荷リードタイム
    製品を出荷してから客先に届くまでの時間(日数)

この3つのリードタイムを足した時間が工場が商品をお客に
届けるために必要なリードタイムです。

なお、製造業以外の小売業・卸売業の会社リードタイムは、
製造リードタイムを除く2つのリードタイムです。

適正在庫を設定する2つ目のポイントは
発注・製造・出荷についてそれぞれどれくらいの時間がかかっているかを把握することです。

適正在庫と生産方式

さらに製造業の場合は、生産方式によって適正在庫の設定が変わります。
生産方式は大きく分けて2つあります。

  • 受注生産(注文を受けてから生産を開始する)
  • 見込み生産(あらかじめ生産をして在庫を持つ)

受注生産では在庫は不要ですが、見込み生産では在庫が必要です。
適正在庫は見込み生産において必要ですが、どの状態で在庫を持つか
によって、適正在庫量が変わります。
それを表すのがデカップリングポイントです。

デカップリングポイントに関する詳しい解説はこちらをご覧ください。
デカップリングポイントとは?

適正在庫と変動(バッファー)

実務的観点から適正在庫を設定する
3つ目の「トラブルを吸収する(バッファー)」について解説します。

現実の世界では様々なトラブルや変動します。
例えば、

  • 仕入れ先の納期遅れ
  • 仕入れ品の不良
  • 生産遅れ
  • 生産設備のトラブルや不良の発生
  • 交通渋滞や自然災害
  • 納期短縮

こういったトラブルを吸収するために在庫をもつ必要があります。
こういったトラブルが、

  • どんな時に
  • どれくらいの頻度
  • どれくらいの影響
    という観点で、トラブルの発生とその大きさを見積もります。

周期性(季節変動)

トラブルのほかに、商品需要の周期性があります。
例えば、アイスクリームであれば夏に売れ行きが良く、冬は悪いのが一般的です。
これは、毎年繰り返されることでほぼ同じ傾向です。

このように、季節変動などの周期性がある場合があります。

適正在庫を設定する3つ目のポイントは、トラブル・周期性を見積もることです。
トラブルと周期性を見積もるためには、日々のデータの蓄積が欠かせません。

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適正在庫金額と在庫削減

適正在庫と在庫削減

現在の在庫回転日数と、目標の在庫回転日数のギャップも
分かりますから、目標に向かって在庫削減・改善を実施します。

在庫管理110番では、在庫管理セミナーで適正在庫の算出方法と、1000万円削減した事例を交えて改善のポイントを解説しています。

資金繰りから適正在庫を決める

資金繰り(運転資金)から、適正在庫を決めることができます。
在庫金額と同じように目指す運転資金額またはCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)を決めます。在庫金額と同じように、目指すべき在庫日数が計算できます。

キャッシュコンバージョンサイクルは、欧米の企業で当たり前になりつつ
ある経営指標です。キャッシュフロー経営を重視する際には必須となる指標です。

在庫管理セミナーでは、キャッシュコンバージョンサイクル(運転資金)と、在庫管理の関係についても解説しています。
在庫管理セミナーについて詳しく見る

目標適正在庫在庫金額へのアプローチ

目標が決まれば改善です。改善の目の付け所をご紹介します。
適正在庫在庫金額へのアプローチは大きく分けて2つの方法があります。

  • リードタイムの短縮
  • 変動を少なくする

そして、具体的な改善のターゲットは次の3つです。

  1. 仕入れ(仕入先)
  2. 生産
  3. 市場
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仕入先改善の視点

仕入先が要因になるのは、製造業であれば材料発注、
卸売・小売業であれば、商品発注に関連することです。

  • 発注リードタイム
    発注リードタイムが長い。
  • ロット
    ロットが大きく、必要な量だけ買えない。
  • 納期遅れ
    指定した納期に材料や商品が入ってこない。
  • 不良
    納入された材料や商品が不良で、数が減ってしまう。

生産改善の視点

生産の改善の視点は、次の2つに分かれます。

  1. 生産能力に関わること
  2. それ以外

生産能力

商品を生産する工場には生産能力があります。
原則として単位時間当たりの生産能力を超えて生産を
することはできません。
そこで、生産の前倒しが必要になります。

  • 工場の生産能力が50個(会社リードタイムは5日)
  • お客からのオーダーが500個(要求納期は10日)

会社リードタイムは5日、お客様の要求納期は10日なので
時間だけ単純に見れば、5日の余裕があります。

ただし、製造業の場合は生産能力を加味しなければいけません。

仮に会社リードタイムの内訳が下記のようだったとします。

  • 発注リードタイム:2日
  • 生産リードタイム:1日(1日に50個生産できる)
  • 出荷リードタイム:1日

5日間の余裕がありますが、工場の生産能力が50個しかなければ、
200個(50個×4日)しか作れません。

顧客リードタイムの方が長いですが、
この工場の生産能力では、10日で100個しかつくれません。
そのため、さらに10日前に300個を作っておく必要が
あります。要する時間は6日です。

お客から生産能力を超える注文が続く場合は、次の3つのうち
いずれかが必要です。

  • 前倒しで見込み生産を行う
  • 生産LTを短くする
  • 生産能力を増強する

それ以外の要因

もう一つがが主に製造過程で起こることです。
例えば、次のような事です。

  • 機械故障:生産能力が落ちてしまう。
  • 欠員:生産能力が落ちてしまう。
  • 廃棄ロス(歩留り、不良):できる予定の数量ができあがらず、余分に
    生産しなければいけなくなる。
  • 段取り:生産以外に時間が取られ、予定よりも生産リードタイムが長くなってしまう。
  • モノの移動:生産以外に時間が取られ、予定よりも製造リードタイムが長くなってしまう。
  • 生産ロット:必要以上に余分に作ってしまう。
  • 各種事務処理:処理待ちで生産が止まる。
  • ミス:指示数や出来高数が違う。

これは、4Mの何らかの不調によるものです。

4Mについてはこちらをご覧ください。
製造業の4Mとは

市場変化を捉える

市場が要因になるのは、季節変動や流行、嗜好、法律改正等に関連することです。
例えば、次のような事です。

  • 定期的な需要変動:アイスクリームの需要
  • イベント・行事:お正月、クリスマス、祭り
  • 一時的な需要変動:テレビ番組に取り上げられ、一時的に殺到
  • 消費税増税:増税前の一時的な消費の盛り上がり

市場については、自社ではコントロールできません。
経済動向を注視するとともに、在庫データをとり変化を見逃さないようにします。

在庫管理110番では、在庫管理セミナーで適正在庫の算出方法と、1000万円削減した事例を交えて改善のポイントを解説しています。

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適正在庫を維持する方法

適正在庫は一度設定したら終わりではなく、定期的に見直さなければ
いけません。
先ほど市場変化についてご説明しましたが、商品が同じようにずっと
売れ続けることは無いからです。
周期的な変動やイベント・行事に合わせて動く商品であれば、その動向
に合わせて、設定を変えなければいけません。

また、商品寿命の観点で長期的なトレンドを見る必要もあります。

私は以前コンサルティングした会社で、いわゆる定番と呼ばれる商品の
90%以上が、商品をリリースしてから2年間かけて緩やかに需要が落ち
ているという事実を需要データから突き止めました。
事実がありました。

自社の商品や業界独特の商品の動きもあります。
適正在庫にとってデータの収集や分析は欠かせません。

過剰・滞留在庫を見逃さない

欠品は過敏に反応しますが、どうしても後手になってしまうのが
過剰在庫・滞留在庫です。
欠品は「在庫が無い」という情報で捕捉できますが、過剰・滞留在庫は
意識しておかなければ見つけられません。

ヘドロのように静かに溜まっていきます。
過剰・滞留在庫は手を打つのが遅くなればなるほど、処分しにくくなるなど対策が打ちづらくなります。早めに見つけることがポイントです。

例えば、1か月に1回、6か月に1回など期日を決めて、リストアップして定期的に処分するなど手を打ちます。

システムを使えば、過剰・滞留在庫を自動的に捕捉して、アラームを飛ばしたり、リストアップしたりすることができます。

弊社の在庫管理システム「成長する在庫管理システム」は、
過剰・滞留在庫の補足する機能を搭載した適正在庫管理に強い在庫管理システムです。

適正在庫を実現する成長する在庫管理システム

自社の適正在庫と設定方法の手順(まとめ)

適正在庫の設定方法を解説しました。

実務的観点から適正在庫を決める

  1. 自社の会社リードタイムを調べる
  2. 標準的な要求納期を調べる
  3. 2-1で標準的な適正在庫を決める(安全在庫を含まない)
  4. 変動を調べる
  5. 変動分を安全在庫として持つ

経営的観点から適正在庫を決める

  1. 目標とする在庫金額(運転資金)を決める
  2. 在庫回転率の式に1を当てはめて目標の在庫回転率を求める
  3. 現在の在庫回転日数を目標値に近づけるために改善する

在庫管理セミナーでは、経営的・実務的観点からの適正在庫の求め方、1000万円削減を実現した改善事例をもとに、適正在庫と誰でもできる仕組みづくりについて学べます。

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