コロナ禍において、在庫状況やキャッシュフローの状態が悪化している企業は少なくありません。それは今、三現主義(現場、現物、現実)が困難であるためです。
在庫管理における課題を、どうすれば改善できるのでしょうか。それには在庫額や在庫回転の状況を、客観的な方法(キャッシュ化速度)で診断することが近道です。
そこで今回は、データマネジメントによる「在庫診断クリック」をご紹介します。(データマネジメントは、データをただ管理するのではなく「経営戦略を決定する上での重要な資産」と捉え、意思決定のために常時利用可能な状態に改善・維持することを意味します)
在庫診断クリニックとは、財務諸表を基に在庫管理のどの部分に問題があるかを診断して、必要な処方箋を提案するサービスです。診断には、3つのステップがあります。それぞれのステップを、事例を挙げながらわかりやすく紹介いたします。
また症状を分析するための「プロダクト・カルテ」を導入しながら、実際の運用をしていきます。
データマネジメントによる在庫診断クリニックとプロダクト・カルテは、在庫管理における健康診断です。自社の健康状態を把握して、治療していきたい企業にとって有益な在庫管理方法となるでしょう。
在庫診断クリニックは在庫管理の症状を見つける問診
在庫は業務オペレーション(調達、生産、販売、在庫管理)や業界の商習慣の結果であり、欠品や過剰在庫の要因が多岐に渡るため、単純な原因究明できません。
その問題を解決するのが「在庫診断クリニック」です。
在庫診断クリニックでは、財務諸表のP/LとB/Sによる数値的な分析と専門家による問診を組み合わせて、在庫管理のどの部分に問題があるかどうかを確認した上で、今、最優先で必要な処方箋(改善方法)をご提案します。
サプライチェーンは人体に例えると、循環器系に相当します。血液は体内を一周するのに約20秒かかります。この流れが遅くなると、重病が疑われます。
在庫は会社にとって血液のようなものです。在庫の流れが滞れば会社のキャッシュフローが悪化し、経営に悪影響を与えます。
在庫診断クリニックのような手法は欧米企業では資産効率を測る経営指標として広く使われています。
具体的には、支払から代金回収までの資金の出と入を買掛金、在庫、売掛金の動向を金額と回転の両方から確認して、運転資本をチェックし資金繰りと在庫の関係を明らかにし、会社の課題をあぶり出します。
運転資本(資金)=売掛金+在庫―買掛金
キャッシュ化速度(CCC)=売掛金回転日数+在庫回転日数-買掛金回転日数
詳しいキャッシュ加速度の求め方はこちらで解説しています。
活用方法:
仮に在庫金額が増加しており悪化傾向にある場合、資金繰りを改善するためには、
どのくらい在庫回転を上げる必要があるか等、金額を回転に置き換えて
目標を定めて、在庫管理における改善活動の判断材料にします。
3つのステップ
在庫診断クリニックでは、3つのステップを踏みます。
- 【ステップ1】 問診 (財務諸表とヒヤリング)
- 【ステップ2】 処方箋の提示 (即効性のある処方薬) 1か月
- 【ステップ3】 体質強化策の提示 (内視鏡検査、体力補強剤による抜本的な対策) 1~3か月(要相談)
【ステップ1】問診の事例
以下は大手スポーツ用品メーカーの在庫診断クリニックの診断結果です。
診断結果:
在庫は金額、回転とも危険水域。月次ベースでの再検査および
目標値とのかい離分析が急務。運転資本の8割は在庫増!
【同業他社との比較】
在庫診断クリニックでは、同業他社との比較により、どこに改善の余地があるかも提案します。食品メーカーである森永乳業と山崎製パンでキャッシュ化速度を比較しました。
森永乳業の数値を100とした場合、山崎製パンの売上は180%(2019年度)、
2019年度(2019年4月~2020年3月)で比較したとき、森永乳業に比べ山崎製パンは、売上規模が大きいにも関わらず、平均在庫は35%、運転資本は63%という結果でした。
【山崎製パンはなぜキャッシュ化速度がこんなに早いのか?】
なぜ、山崎製パンはキャッシュ化速度がこんなに早いのでしょうか?
それを実現している最大の要因は、高速オペレーションです。
山崎製パンは全国26か所の工場で月間4,000種類のパンを製造、 一年間では10,000種類のパンを製造しています。毎朝、前日の生産、販売、在庫、最新見込みをベースに当日の生産計画を立案している超高速オペレーションといえます。
両社とも日本を代表する超優良企業ですが、キャッシュ化速度には大きな違いがあります。
【ステップ2】(処方箋の提示)の事例
ステップ1の問診で、現状を把握しました。
ステップ2では、改善策となる処方箋を提示します。実施内容は以下の通りです。
- 月次での在庫金額と在庫回転日数の見える化
- 月次(週次)でのPSI(調達・生産、販売、在庫)管理
+在庫回転の見える化 (カテゴリー別)
- 経営層、販売、調達、製造、物流関係者と共有
- 準備期間を経て、会社の業績評価指標を決定
- 中期計画、年次事業計画に反映
【総枠管理と単品管理】
在庫管理の方法には、主に総枠管理と単品管理があります。
この2つを導入して改善活動を開始します。
総枠管理とは、経営陣が資産回転として活用し、在庫金額の妥当性を確認するための管理指標です。
単品管理とは、商品毎の在庫を数量または重量をベースに欠品や過不足がないかどうかを確認するための指標です。
私が推奨する測定方法は以下の通りです。
在庫回転日数=四半期末在庫÷翌月の売上原価 × 30日
一方の単品管理は、商品毎の在庫を数量または重量をベースに欠品や過不足が
ないかどうかを確認するための指標です。(推奨する測定基準は、総枠管理と同じ)
【ステップ3 体質強化】
ステップ2で改善のための処方箋まで提示しました。
ステップ3で体質強化策を実施します。
- 在庫の単品管理を管理指標として導入し、改善活動を本格化。
データ状況と目的を明確にします。
- 在庫決定の要因となる販売見込精度の見える化(販売側)
- 約束納期遵守率の見える化(製造側、物流側)等、ニーズに
応じた対応を検討します。
- プロセス別リードタイムの短縮
特に調達リードタイム、生産リードタイム、配送リードタイムに
おける待機時間を短縮します。
プロダクト・カルテとは
プロダクト・カルテは私が在庫の状況を診断する上で考案した他には無いオリジナルサービスです。こちらも医療でいうカルテと同じです。商品の状況(症状)を分かりやすく一目で確認できるのが、プロダクト・カルテの特徴です。プロダクト・カルテは主に、5項目から構成されます。
- PSIバランス(生産・販売・在庫):
商品単体の生産・販売・在庫の過去実績(月次、週次)を確認し、異常な数値がないかを見える化します。なお製造業以外の場合は、生産の部分は仕入れに置き換え考えて考えます。
- 在庫回転日数:
PSIバランスと合わせて、在庫回転日数(月次、週次)を確認し、トレンドを点検。管理会計としての在庫回転日数は、先行の売上見込/実績で算出します。 (通常は、先行1か月又は4週間)
- 鮮度(在庫金額・比率):
生産後、又は販売会社の倉庫に入ってからどのくらい経過しているか、
その商品全体に占める割合を点検します。(例えば、0~2週間、2~4週間、4~6週間、6週間以上と区分します)
売れ筋商品でも余剰生産すると、ロットによって期間が跨るといったケースがあるため、鮮度の悪化につながります。
売れ筋商品が最も運転資本を圧迫する要因であり、売れ筋商品こそ、きめ細かな鮮度管理が求められます。
- 鮮度+将来の購買計画:
当該商品に対して、販売が工場(納入先)に対してどれだけ発注しているかを点検します。
- 鮮度予測:
現在の鮮度に対して、販売見込みを考慮した上で、鮮度はどのように推移するか
を点検します。
例えば、
今は滞留在庫であっても、対策が予定されており、消化する見込みなのか?
または商品を導入直後であるが、販売見込みも厳しく、鮮度は悪化と見込むか?
などです。
商品のライフサイクル別在庫管理の重要性
在庫診断クリニックとプロダクト・カルテを実施する上で
重要なことは、ライフサイクル別の在庫管理を意識することです。
商品のライフサイクルとは、商品を新商品として市場に投入してからの売上の推移のことです。
導入期と成長期はある程度、販売機会の損失を意識してやや多めの在庫を持つ傾向にありますが、この段階で、プロダクト・カルテの推移を週単位で把握し、成熟期、衰退期に備えることが重要です。
在庫診断クリニックで経営の健康状態をチェックしませんか?
データマネジメントによる在庫診断クリニックとプロダクト・カルテをご紹介しました。
人体の健康状態と同じく、経営も状態が悪化して手遅れになれば手の打ちようがありません。そうなる前に健康診断(在庫診断クリニック)を受け、早期発見しましょう。
さらに、在庫診断クリニックでは、早期発見だけではなく、改善のための適切な処方箋も提示します。
- コロナ禍で、在庫状況が悪化した
- キャッシュフローを改善したい
- 在庫管理における自社の課題、改善方法ががわからない
- 現場に問題があるが、目指すべきゴールの設定方法がわからない
- 財務体質を良くしたい
こういったお悩みやご希望がある場合は、一度、在庫診断クリニックを受けることをお勧めします。