システム導入は、数十万円から数百万円の費用が発生する先行投資です。
中小企業や小規模事業者がシステム導入を見送る理由として、経済的な理由があったり、システム導入後の効果に不安があったりします。そこで、「IT導入補助金」という制度を活用し、専門家の知恵を借りながらシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
IT導入補助金は経済産業省が主催する補助金制度で、導入費用の1/2から2/3を補助し、最大450万円の補助額が交付されます。この制度を活用することで、業務自動化に必要な資金調達ができるだけでなく、従業員の業務効率向上にも期待できます。
本記事では、実際に複数の企業へ在庫管理システムの導入を行っているIT導入支援事業者がIT導入補助金についてわかりやすく解説します。
ぜひIT導入補助金を活用して、業務の生産性向上につなげてください。
目次
IT導入補助金の概要をわかりやすく解説
ここで解説するIT導入補助金の内容は以下です。
- IT導入補助金の目的と概要(対象業種・対象業務プロセス)
- 交付申請の流れ
- 交付申請スケジュール
- 交付申請に必要な書類
なお、補助金と助成金の違いについて知りたい場合は下記に記載しています。
☑合わせて読みたい!:中小企業向け、助成金の活用方法|補助金との違いと選択方法
それでは順に解説します。
IT導入補助金の目的と概要
IT導入補助金の目的は、中小企業や小規模事業者などを対象にITツールを活用した業務効率化の促進をすることです。自社の課題解決可能なITツールの導入経費を一部補助します。
IT導入補助金には下記3つの枠を設けており、それぞれ目的や対象ツール、補助率などが異なります。
- 通常枠(A・B類型)
- セキュリティ対策推進枠
- デジタル化基盤導入枠
補助金交付の対象となるのは、IT導入支援事業者が提供するITツールです。IT導入支援事業者は事前に事務局へ登録されてなければいけません。
なお、交付対象はソフトウェアの購入のみならず、サポートやオプションなどの役務にかかった費用も含まれます。
IT導入補助金はほかの補助金とは申請方法が異なり、中小企業・小規模事業者などの交付申請者は、IT導入支援事業者と協力をして申請する必要があります。
補助金の交付申請はITツールを導入したい企業が行いますが、交付申請の手続きサポートや補助事業実施の支援、アフターサポートをIT導入支援事業者から受けられるのがIT導入補助金の特徴です。
参考リンク▼
IT導入補助金2023
2023年改訂 交付申請の手引き サービス等生産性向上IT導入支援事業事務局
対象となる業種
「通常枠(A・B類型)」「セキュリティ対策推進枠」「デジタル基盤導入枠」の申請対象となる業種は以下の通りです。下記表は一部抜粋したものです。申請を検討する企業は参考リンクから公募要領が確認できます。
業種分類 | 定義 |
---|---|
製造業、建設業、運輸業 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人事業主 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人事業主 |
サービス業(ソフトウェア業又は情報処理サービス業、旅館業を除く) | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人事業主 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人事業主 |
旅館業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が200人以下の会社及び個人事業主 |
一部抜粋:IT導入補助金2023 公募要領 通常枠(A・B類型)より
対象となる業種は中小企業や小規模事業者であり、ほとんどの中小企業事業者が当てはまるでしょう。
参考リンク▼
IT導入補助金2023 公募要領 通常枠(A・B類型)
IT導入補助金2023 公募要領 セキュリティ対策推進枠
IT導入補助金2023 公募要領 デジタル化基盤導入枠
対象となる業務プロセスと補助対象経費
各申請枠で対象となる業務プロセスは以下の通りです。
【通常枠(A・B類型)】
|
販売管理システムや在庫管理システム、勤怠管理システム、RPAツール、Web会議システムなどが対象です。/p>
【セキュリティ対策推進枠】
サイバー攻撃被害による潜在的な生産性低下を防ぐセキュリティ対策に必要なITツールが対象です。「サイバーセキュリティお助け隊サービス取扱事業者」が提供するサービスがセキュリティ対策推進枠に該当します。
【デジタル化基盤導入枠】
|
PC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機といった事務端末、POSレジ・モバイルPOSレジ・発券機といった受発注端末の導入が対象です。
また、補助対象経費および補助率等については下記の通りです。
出典:交付申請の手引き 1-6
IT導入補助金交付申請の流れ
IT導入補助金の申請を希望する場合は、gBizIDプライムのアカウント取得から始めます。理由は下記の2つです。
- gBizIDプライムのアカウントはIT導入補助金以外の補助金申請にも使うため
- アカウント取得にかかる期間は2~3週間、混んでいる場合は4週間かかるため
gBizIDプライムの申請~アカウント発行を待っているうちに公募期間が終わるリスクが高くなります。IT導入支援事業者へ問い合わせする前もしくは、問い合わせと同時にgBizIDプライムのアカウントを取得しておきましょう。
ここで解説する大まかな交付申請の流れは以下の通りです。
- IT導入支援事業者およびITツールの選定
- SECURITY ACTIONの自己宣言
- みらデジ経営チェック
- 交付申請作成・情報入力(1回目)
- 交付申請作成・情報入力(2回目)
- ITツール契約
- 事業実施報告と確定検査
- 事業実施効果報告
それでは順に解説します。
ステップ1|gBizIDプライムのアカウント取得
gBizIDプライムのアカウントは、全補助金の交付申請から審査・採点、採択通知、実績報告、確定検査、確定通知、効果報告のすべてのプロセスで使用します。補助金の交付申請をする企業はアカウント作成が必須です。
IT導入支援事業者の選定完了後にアカウント取得をしていると公募期間に間に合わない可能性が出てきます。とくに公募開始から時間が経っている場合は、予算が尽き次第公募終了となるため事前にアカウント取得しておくことが重要です。
gBizIDプライムのアカウント申請に必要なものは以下の通りです。
|
ステップ2|IT導入支援事業者およびITツールの選定
引用:公式サイト
「中小企業・小規模事業者のみなさま」から「IT導入支援事業者・ITツール検索」をクリックします。「IT導入支援事業者・ITツール検索はこちら」をクリックし、検索画面へ移行します。
検索画面は「営業エリア」の選択が必須です。そのほか、探しているITツールに該当する項目にチェックもしくは入力をすると、検索結果が表示されます。
検索結果に表示された会社名の下にあるマークの意味は下記の通りです。
また、会社名をクリックすると下記のような詳細情報が表示されます。会社URLからITツールの詳細情報を確かめましょう。
IT導入支援事業者を選ぶポイントは、申請必要書類の確認やアドバイスをきちんと行う事業者を選ぶことです。のちに交付申請書類の内容は採択率にもかかわるため、IT導入支援事業者選びは慎重に行いましょう。
ステップ3|SECURITY ACTIONの自己宣言
SECURITY ACTIONとは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する中小企業・小規模事業者等自らが、情報セキュリティ対策に取組むことを自己宣言する制度です。「★1つ星」または「★★2つ星」を宣言する必要があります。
参考リンク▼
SECURITY ACTION概要説明
SECURITY ACTION申し込みURL
ステップ4|みらデジ経営チェック
みらデジ経営チェックとは、中小企業庁が実施する経営課題解決に向けた気づきを提供するチェックツールです。簡単な設問に回答することで、経営課題やデジタル化進捗度合いを同業他社との比較が可能となります。
gBizIDアカウントと連携し、経営チェック結果が表示されていることを、みらデジ事業者マイページにて確認します。
【注意点】gBizIDアカウントと連携を忘れずに行ってください。(忘れていると、IT導入補助金で落とされる大きな原因になります)
参考リンク:みらデジ
ステップ5|交付申請作成・情報入力(1回目)
ステップ1からステップ4までの作業が済んだら、アカウント発行された申請マイページから交付申請の作成を行います。
- 基本情報
- 財務情報
- 経営情報
- 計画数値(セキュリティ対策推進枠のみ)
- 必要書類の添付
- 申請類型の選択
必要書類添付に不備があると、次の作業に進めません。再度、必要書類を集めることとなり、申請期限に間に合わないリスクが高くなります。必要書類は各交付申請枠の手引きを確認しながら用意をしましょう。
1回目の交付申請の情報入力が済んだら、IT導入支援事業者に導入するツール情報と事業計画値を入力してもらいます。IT導入支援事業者での入力が済んだらステップ6に移ります。
ステップ6|交付申請作成・情報入力(2回目)
申請者マイページでITツール導入後の計画や表明・宣誓を行います。
- 交付申請の要件確認
- 主たる事業所における従業員の事業所内最低賃金
- 給与支給総額の計画値(通常枠/セキュリティ対策推進枠)
- 賃上げ引き上げ計画の表明
- 宣誓
交付申請作成時は、IT導入支援事業者に入力情報の確認やアドバイスを求めましょう。
IT導入支援事業者の確認後、確定すると担当者携帯番号にSMS認証が送られます。認証完了すれば交付申請書類の提出は完了です。
ステップ7|ITツール契約
事務局から「交付決定」の通知を受けたらITツールを発注し、契約、支払いを行います。事務局からの交付決定通知の前に契約を行うと補助金の申請対象外となるため、手順を間違わないようにしましょう。
また、支払い方法についても規定があります。支払いの事実に関する客観性の担保のため、原則、銀行振込及びクレジットカード1回払いのみとしています。支払い方法についても注意が必要です。
ステップ8|事業実施報告と確定検査
ITツールの導入が完了した後は、申請マイページから発注や契約、納品、支払いを行ったことのわかる証憑書類を提出し、事業実施報告をします。
実施報告後、確定検査というITツール導入の事実確認があります。交付決定を受けていないITツールは補助金の交付対象外となるので、IT導入支援事業者とよく話し合い、理解して導入することが必要です。
ステップ9|事業実施効果報告
確定検査で適切なITツールの導入を認められると補助金額が確定します。事務局はITツールを導入した企業へ補助金確定内容を通知します。通知を受け取った企業が申請マイページで補助金額の確認と承認をすると補助金が交付される仕組みです。
補助金が交付されたら事業実施効果報告を3年間提出します。事業実施効果報告とは、ITツール導入後、申請時と比べて生産性が向上したか確かめる報告です。入力する項目は「売上」「原価」「従業員数及び就業時間」「給与支給総額」「事業場内最低賃金」等の数値目標に対する結果を入力します。ここでもIT導入支援事業者のフォローを受けながら実施するのがポイントです。
IT導入補助金の交付申請に必要な書類
法人と個人事業主では、補助金交付申請に必要な書類が異なります。記載不備があると申請書類として認められないため、「交付申請の手引き 2-8」を確かめて用意をしましょう。
法人 | 個人事業主 |
---|---|
履歴事項全部証明書
| 運転免許証または運転経歴証明書または住民票
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法人税の納税証明書(その1またはその2)
| 所得税の納税証明書(その1またはその2)
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確定申告書
|
IT導入補助金の交付申請スケジュール
交付申請期間は以下の通りです。
開始:2023年3月28日(火)~
通常枠とセキュリティ対策推進枠は4次締切分(2023年7月31日17時)まで、デジタル化基盤導入枠は6次締切分(2023年7月31日17時)まで設けられています。※2023年5月現在
交付申請スケジュールは毎年ほぼ同時期に行っています。3月下旬にIT導入補助金の第1次公募が発表され、予算が尽きるまで第2次、第3次…と募集します。公募終了の目安は12月前後です。
IT導入補助金交付申請についてのFAQ
ここでは、IT導入補助金交付申請についての質問をまとめました。
IT導入支援事業者とIT補助事業者は誰を指すか
「IT導入支援事業者」とは、中小企業・小規模事業者などに対し、ツール導入や申請サポート・業務支援・アフターサポートを行うパートナーを指します。
一方、「IT補助事業者」は中小企業・小規模事業者を指し、生産性向上のための業務プロセス改善と効率化できるITツールの導入を行います。
IT導入補助金は返済が必要なのか
返済は不要です。ただし、採択後に「事業実施報告」や「効果報告」を行わなければ補助金の返還を求められます。
IT導入補助金は何回も利用できるのか
IT導入補助金2023の公募期間中は、1法人・1個人事業主あたり1申請のみです。ただし、同期間中に「通常枠(A・B類型)」「セキュリティ対策推進枠」「デジタル化基盤導入枠」の申請枠を越えて申請することは可能です。
さらに、各締切回で公表される採択結果で不採択となった場合や、交付決定後に申請の取り下げを行った場合も、次回以降の交付申請ができます。
※「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を含んだITツールをいずれかの枠で申請している場合は、その他の枠での申請はできません。
また、IT導入補助金2022で「通常枠(A・B類型)」と「デジタル化基盤導入類型」で交付決定を受けた事業者は、交付決定日から12か月以内のIT導入補助金2023申請ができません。
採択後いつ振り込まれるのか
補助金の交付は以下のタイミングで行われます。
採択決定 → ITツールの契約~導入・代金支払い → 事業実績報告書の作成~提出 → 補助金確定通知および承認 → 補助金の交付
IT導入補助金はITツール導入後に支給されるため、ITツール代金にかかる資金は事前の用意が必要です。
IT導入補助金を利用する3つのメリット
IT導入補助金は申請~採択までに労力のかかる補助金ですが、採択されれば大きなメリットがあります。ここでは以下3つのメリットについて解説します。
- 一部補助ありでITツール導入可能
- ものづくり補助金にくらべて申請必要書類が少ない
- IT導入補助金は審査期間が約1か月と短い
それでは順に解説します。
メリット1:一部補助ありでITツール導入可能
IT導入補助金の交付決定を受けることで、ツール導入に必要な資金の負担を軽減できます。補助金は正しい手続きとITツール導入後の計画を実現性もって伝えられれば、費用を抑えてITツールの導入が可能です。ツール代金を全額負担となると数十万円から数百万円かかりますが、補助金を活用してITツール導入すれば、およそ1/2から2/3のコスト削減が期待できます。
メリット2:ものづくり補助金にくらべて申請必要書類が少ない
IT導入補助金はオンライン申請でき、必要書類は前述したとおりです。
一方、ものづくり補助金は事業計画書の提出が必要となります。事業計画書の内容は「製品やサービスの開発が革新的であるか」、「市場性はあるか」、「地域経済への貢献や国の政策に合致しているか」などと事業内容を細かく記載しなければなりません。
ものづくり補助金にくらべてIT導入補助金は申請必要書類が比較的少なく、申請ハードルが下がる補助金といえます。
メリット3:IT導入補助金は審査期間が約1か月と短い
ものづくり補助金の審査期間は約1か月と記載していますが、スケジュールを確かめると約2か月設けられています。IT導入補助金は約1か月の審査期間で、交付決定後は手続きを速やかに済ませれば補助金交付されるため、ITツールの導入検討中の企業は資金繰りに役立ちます。
IT導入補助金申請の際のポイント
IT導入補助金の交付申請手続きはITツールを導入する企業だけでは行えません。IT導入支援事業者と一緒に交付申請手続きを進める必要があります。そこで、ここではIT導入補助金交付申請の際のポイントを3つ解説します。
ITツール導入資金は事前に用意する
前述している内容と重複しますが、補助金は「ITツール導入にかかった金額の何割」という計算で返ってくるため、事前に導入資金を用意し、ツール代を支払わなければなりません。
資金面については、IT導入支援事業者とも相談しながら交付申請手続きを進める必要があります。
IT導入支援事業者のサポートを受けて採択率を高める
補助金は国や地方公共団体の限られた予算内で交付されます。助成金とは異なり、効果を期待できる事業者にのみ補助金交付を行うのが特徴です。2022年の通常枠(A・B類型)の採択率は58%と、交付申請すればかならず補助金が交付されるわけではありません。
2022年の採択結果からわかるように、書類や事業計画の準備は入念に行う必要があると判断できます。
参考記事:IT導入補助金2022の採択率と不採択理由6選!支援事業者がコツを解説
事業実施後に結果を出す必要がある
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者などのITツール活用による業務効率化の促進を目的とするため、計画通りに進んでいない場合や効果が出ていない場合は、補助金の返還を命じられる可能性があります。IT導入支援事業者のアフターサポートを受けながら計画通りの効果を出す施策が必要です。
生産現場・物流現場のIT導入を検討中なら専門家へご相談を
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者の業務効率化を目的とした補助金です。事務局に登録されたIT導入支援事業者とITツールのみにしか交付申請できないことを念頭に置き、自社で活用できるITツールを探してみましょう。
当サイトを運営する瀬戸内scm株式会社では、IT導入補助金の活用が可能な『在庫管理システム』を提供しています。Excelで独自の在庫管理をしている企業様は、IT導入補助金の説明とともに「自社の現場に合ったシステムとはどんなものか」を一度、専門家と話してみませんか?