貯蔵品と棚卸資産の違い、在庫管理の方法

「決算時期になると『貯蔵品』という言葉を聞くけど、正直よくわからない…」
「未使用の事務用品も資産になるって本当？」
「消耗品費と何が違うの？ 日々の管理はどうすればいいの？」

経理担当者や個人事業主の方で、このような疑問をお持ちではありませんか？

貯蔵品は、棚卸資産の中でも特に見落とされがちな項目ですが、会社の利益や税額に直接影響する重要な勘定科目です。

適切な会計処理はもちろん、日々の在庫管理がコスト削減や業務効率化の鍵を握ります。

この記事では、棚卸資産における貯蔵品の定義から、具体的な仕訳方法、さらには明日から使える貯蔵品の在庫管理方法まで、初心者の方にもわかりやすく徹底的に解説します。

この記事を読めば、貯蔵品に関するあらゆる疑問が解消され、自信を持って決算業務や日々の備品管理に臨めるようになります。

貯蔵品とは「販売目的ではない未使用の資産」

貯蔵品とは、棚卸資産であり、そのうち「販売を目的とせず、社内で使用・消費するために保有している物品」です。なおかつ「決算日時点で未使用のもの」を指します。

例えば、期末に余っている未使用のコピー用紙や切手、パンフレットなどがこれにあたります。

これらは購入した時点では「消耗品費」などの費用として処理されますが、期末に未使用のものは、その期の費用ではなく、将来使うための「資産」として貸借対照表に計上し直す必要があるのです。

貯蔵品は貸借対照表の「資産の部」に計上されますが、その性質によって「製品」「仕掛品」「商品」「貯蔵品」といった勘定科目に分類されます。

それぞれの違いを一覧表にまとめました。

貯蔵品と消耗品の違い

紛らわしいものに「消耗品」があります。消耗品費を資産に振り替えるにあたって使用する勘定科目は、「貯蔵品」と「消耗品」のどちらでも構いません。

一般的な解釈では、貯蔵品は消耗品のほか、切手や収入印紙のような金銭価値のあるものを含むため、消耗品より広義なので実務で使われやすい勘定科目です。

ただ、棚卸資産の内容をより詳細に把握するために、切手や収入印紙のような金銭価値がある物品を貯蔵品、それ以外を消耗品と区別しても差支えありません。

なぜ貯蔵品の資産計上が重要なのか？見過ごせない3つの理由

「なぜ未使用の文房具まで資産として数える必要があるの？」と感じるかもしれません。

その理由は、会計と税務における重要な原則に基づいています。

理由1：費用の発生と収益を対応させ、正しい期間損益を計算するため

会計には「費用収益対応の原則」という考え方があります。

これは、その期の収益（売上）に対応する費用だけを計上し、正しい利益（収益－費用）を計算するためのルールです。

例えば、来期に使用する目的で大量に購入した梱包材の代金を、すべて今期の費用として計上してしまうと、今期の利益が不当に少なく計算されてしまいます。

期末に未使用の分を「貯蔵品（資産）」として計上することで、費用を翌期以降に繰り延べ、各期の損益を正しく計算できるのです。

理由2：会社の財政状態を正確に把握するため

貸借対照表は、会社の財産状況を示す成績表のようなものです。

貯蔵品も会社のれっきとした会社の資産です。

これを正しく計上しなければ、会社が保有する資産を過小に評価してしまい、金融機関からの融資判断や経営分析において、不正確な情報を提供することにつながりかねません。

理由3：税務上のルールであり、計上漏れは追徴課税のリスクがあるため

法人税法上も、原則として期末に未使用の消耗品などは資産計上することが求められています。

もし貯蔵品の計上を意図的に行わず、費用を過大に計上して利益を圧縮したと判断された場合、税務調査で指摘を受け、本来納めるべきだった税金（追徴課税）や延滞税、過少申告加算税といったペナルティが課されるリスクがあります。

【具体例】これはどっち？貯蔵品と他の科目を徹底比較

貯蔵品の概念をより深く理解するために、具体的な品目や他の勘定科目との違いを見ていきましょう。

分かりやすいように一覧でまとめました。

消耗品費との違いは「期末に未使用かどうか」

貯蔵品と最も混同しやすいのが「消耗品費」です。違いは非常にシンプルです。

• 消耗品費：購入し、期中に使い切ったもの＝費用
• 貯蔵品：購入したが、期末時点でまだ使っていないもの＝棚卸資産

初心者でも安心！貯蔵品の会計処理と仕訳例を3ステップで解説

それでは、実際の会計処理（仕訳）を見ていきましょう。ここでは、実務で最も一般的な「購入時に費用として処理し、決算時に未使用分を資産に振り替える方法」を3ステップで解説します。

Step1：購入時の処理（費用処理が一般的）

期中に事務用品（コピー用紙）を10,000円分、現金で購入した。
この時点では、すべて費用として計上します。

Step2：決算時の処理（未使用分を資産へ振替）

決算日を迎え、在庫を確認したところ、購入したコピー用紙のうち3,000円分が未使用で残っていた。この未使用分を費用から資産（貯蔵品）へ振り替えます。
この仕訳により、消耗品費が3,000円減り、その分が貯蔵品という資産に変わります。結果として、今期の費用は7,000円（10,000円 - 3,000円）となり、損益計算が適正化されます。

Step3：翌期首の処理（資産を費用へ再振替）

翌期の期首になったら、前期末に資産計上した貯蔵品を、再び費用（消耗品費）に振り戻す仕訳（再振替仕訳）を行います。
これにより、期首の時点で消耗品費として費用計上され、期中の会計処理と整合性が取れます。この再振替仕訳は忘れやすいので注意しましょう。

貯蔵品を費用計上できる？

原則として、貯蔵品は資産計上しなければいけませんが、一定の条件を満たす消耗品については費用計上しても良いとされています。

法人税基本通達2-2-15によると、「経常的に消費するもの」かつ「毎年おおむね一定量を取得するもの」に限り、購入時の損金処理することが認められています。

ただし、期によって費用計上したり、資産計上したりとコロコロ変えてはいけません。

担当者が「これは面倒だから費用にして貯蔵品計上はやめよう」と勝手な判断で行うのではなく、会社の税理士や公認会計士に確認をしたうえで、「購入時の損金処理」とするか「期末に貯蔵品として資産計上」するかを決めましょう。

【実践編】コスト削減と業務効率化！貯蔵品の上手な在庫管理3つのステップ

正しい会計処理のためには、期末に在庫を正確に把握することが不可欠です。

貯蔵品の在庫管理の考え方は、「数を把握するタイミングと業務効率」で２つあります。

1. 常に何がいくつあるかを把握しておきたい
2. 普段は欠品しない程度の管理をして決算のときだけ数を数える

常に何がいくつあるかを把握しておきたい

この場合は、一般的な在庫管理と全く同じです。

エクセルやシステムを使って、入出庫を管理して常に最新在庫が分かる状態にします。

普段は欠品しない程度の管理をして決算のときだけ数を数える

コピー用紙やボールペンを１本使うたびに出庫記録を付けたりするのは非常に手間がかかり、業務効率が低下してしまう可能性が高いです。

そこで、決算時の棚卸の時だけ数を数え、それ以外は入出庫を記録せず、欠品しない程度にざっくりと管理するという方法を取っても良いでしょう。

在庫管理の実務負担を考えると、大多数の貯蔵品は「普段は欠品しない程度の管理をして決算のときだけ数を数える」としておかないと、業務負担が非常に大きくなります。

一方、貯蔵品であっても在庫管理したほうが良いアドバイスする場合、以下３つの観点から考えます。

• 在庫金額へのインパクト：高額である（買いすぎによって、在庫金額に影響を与えるため）
• 入手性：発注から仕入まで時間がかかる（欠品するリスクがある）
• 代替性：その物品の代替品が無い（欠品するリスクが高い）

例えば、貯蔵品としてボールペンや切手を資産計上する場合は、「普段は欠品しない程度の管理をして決算のときだけ数を数える」で十分でしょう。

なぜなら、いつでもどこでも買えますし、代替品（ボールペンは多数のメーカーが販売しているため）も多いため、在庫管理は不要と考えて良いでしょう。

貯蔵品に関するよくある質問（Q&A）

最後に、実務でよく寄せられる質問にお答えします。

Q１． 貯蔵品は在庫ですか？
A. 資産計上するのであれば在庫です。

ただし、在庫金額・入手性・代替性の３点から考えて、どの程度の在庫管理が必要かを判断します。

Q２．貯蔵品はいくらから資産計上すべきですか？
A. 明確な金額基準はありませんが、「重要性の原則」に基づいて判断します。

会計には「重要性の原則」という考え方があり、金額的なインパクトが小さく、重要性の乏しいものについては、煩雑な会計処理を省略しても良いとされています。

会社の実態に合わせて「合計10万円未満は計上しない」といった社内ルールを設け、継続してそのルールを適用することが一般的です。

Q３．収入印紙や切手も貯蔵品になりますか？

A. はい、期末に未使用のものは貯蔵品として資産計上します。

収入印紙や切手は購入時に「租税公課」や「通信費」として費用処理します。

期末に未使用であれば資産（貯蔵品）となります。特に収入印紙は金額が大きくなることがあるため、計上漏れがないよう注意が必要です。

Q４．棚卸（実地棚卸）はどのように行えばいいですか？

A. 製品や部品などの「実地棚卸」と同じ同じ方法で構いません。

「棚卸漏れ」に注意が必要です。その理由は、２つあります。

1. 担当者の意識が薄い：貯蔵品は現場ではなく、総務部や事務所などに置いてあるものが多いと思いますので、製造や商品管理の現場にいる人と比べると担当者の在庫管理の意識が薄い可能性が高いためです。
2. 資産計上するものとしないものを区別できるようにする：「資産計上する貯蔵品」を明確にしておかないと、担当者が「棚卸しなくていいはず」と勝手な解釈をしてしまう場合があります。リストや表示等を整備して、これは「棚卸が必要」と誰でもわかるようにします。

まとめ：貯蔵品の正しい理解と管理が、健全な会社経営につながる

今回は、棚卸資産の中でも特に「貯蔵品」に焦点を当て、会計処理から日々の在庫管理まで解説しました。

最後に重要なポイントをまとめます。

• 貯蔵品は、販売目的ではない未使用の消耗品などを指す資産。
• 仕訳の方法は、購入時に費用計上して、決算時に資産に振り替える
• 全ての貯蔵品を、最新在庫がリアルタイムで分かる状態にするのは業務負担が大きいため、決算だけ数を把握するというのも一つの手
• 少額の場合は、棚卸資産として計上しなくても良い。
• 棚卸資産として計上するものは、棚卸漏れを防ぐため、計上するものはリストや表示等を整備して見える化する

在庫管理システムの活用

日々の在庫管理の重要性は理解していても、

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