【成功事例】在庫管理で経営を効率化させた企業に学ぶ(コロナ対策)
今回は、在庫管理によって経営を効率化させた成功事例を紹介します。在庫管理において、いかにキャッシュの流れを良くするかは、大きな課題です。コロナ禍では、資金効率が悪化した企業も少なくないでしょう。
そんな中、コロナ禍の市場変化に、上手く対応した企業が2社あります。資金効率を示すキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)や運転資本に注目をして、2社を比較してきましょう。
在庫管理の課題を解決したい方、キャッシュフローの改善に興味のある方は、直近の成功事例からヒントを学べます。
目次
在庫管理で注目の間接資材業界の大手2社
この記事で取り上げたい2社とは、トラスコ中山株式会社(以下、トラスコ中山)と株式会社MonotaRO(以下、モノタロウ)です。
どちらの企業も間接資材業界と呼ばれている業界に位置しています。そもそも間接資材業界がどのような業界なのでしょうか。
間接資材業界とは
間接資材業界は、英語でMRO(Maintenance Repair and Operations)と呼ばれています。MROはメンテナンス(保守)、リペア(修理)、オペレーションズ(稼働)の頭文字で、主に工場や作業場で業務を行うために必要な器具や資材を販売する業界です。
関節資材業界の特徴を5つにまとめてみました。
- 生産において最終製品に組み込まれない資材。一方で生産に直接かかわる資材は直資材と呼ばれる。
- アイテム数は1,000 万点を超える。測定計測や工作機工具、電気機械などの産業機器や、穴あけ工具、はしご、脚立、切削工具の工業機器など。OA事務用機器、電化製品、清掃用具など住設用品も含む。
- 間接資材メーカーは国内外で約1万社(大手メーカーは数社のみで、多くは中小企業)
- 主要な顧客は製造業、建設業などの工場や作業現場。しかしオフィス用品・文具・雑貨も扱っていることから、一般的なオフィス・事業所、個人もエンドユーザーである。
- 国内の市場規模:約8兆円前後と推測される。商業統計調査が廃止されたことから、直近のデータは不明。
(参照:商業統計|経済産業省)
間接資材業界のトラスコ中山とモノタロウは、2018年第18回ポーター賞を受賞したことで話題になりました。
経営が優秀な企業に贈られるポーター賞
ポーター賞とは、イノベーションによって高い収益性を実現している優良企業に贈られる賞です。
2001年7月、一橋ビジネススクールが主催となって創設されました。
賞の名前は、ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授に由来しています。 過去には、ほけんの窓口グループ株式会社や株式会社伊藤園、オイシックス株式会社といった企業が受賞してきました。
栄えあるポーター賞を受賞したトラスコ中山とモノタロウについて、それぞれの経営活動や在庫管理に対する考え方を確認していきましょう。
トラスコ中山の経営活動・在庫管理
トラスコ中山の経営活動
- 1959年に大阪で設立。業界最後発で、対面販売を基本とする専門商社 。
- TRUSCOには「Trust」と「Company」を組み合わせた、信頼を生む企業という意味がある。
- アイテム数は230万を扱う。うち40万アイテムが在庫。
- 物流センターは国内26か所。自動倉庫、無人輸送車、自動包装機を完備。
- 電力はすべて太陽光でカバー。災害時での運営もできる。
トラスコ中山の在庫管理
在庫管理において最重視する指標は一般的な「在庫回転率」ではなく在庫ヒット率。
在庫ヒット率とは、受注のうちどれだけを在庫から出荷できたかを示す指標です。
下記のグラフは、アイテム数と在庫ヒット率の推移を示したグラフです。
2019年より在庫ヒット率は90%を 超え、即日即納を達成しています。 2020年には、究極の短納期を実現するためにMROストッカーを稼働させています。
MROストッカー(2020年1月開始)とは
需要を先読みし、「納期ゼロ」を目指す (ユーザーの便利性向上)
- 過去の見積もりデータなどを基に、顧客工場に専用棚に置く商品を選定
- 販売実績や季節変動などを分析して需要を先読み(AIの活用)
- 在庫がなくなる前に、トラスコの倉庫から配送
・ユーザーメリット: - 在庫管理の不要(在庫補充の自動化)
- 在庫管理コストの削減 (経費の削減)
- 使った分だけ支払う (キャッシュフローの改善)
・将来の展望:現在はゼネコンなどで導入しているが、数年後 600か所まで増やし、究極の短納期を実現
※日経新聞(2020年10月29日)により
モノタロウの経営活動・在庫管理
モノタロウの経営活動
- 2000年に兵庫県で設立されたネットで商品を販売する専門通販。
- 物流倉庫は国内の2か所(兵庫・尼崎と茨城・笠間)。海外は韓国とインドネシア に展開。
- 通信販売による規模・DBを生かした低コスト・効率的な販売を行う。
- ワンプライスを貫く。 統一価格で価格交渉を行わない。
- PB品、自社輸入商品により格安を実現。
モノタロウの在庫管理
1800万点という豊富なアイテムを取り扱い、約460~470万の在庫を抱えています。
下のグラフは、モノタロウの商品取り扱い点数と在庫数の推移です。
年々、取り扱い点数の増加とともに在庫数も増えています。
モノタロウは、1つの拠点により多くの商材を持ち、徹底した在庫管理を行うことが特徴です。顧客先の購買管理システムと連携させた間接資材の販売も行っています。
*コロナ禍におけるCCC分析
トラスコ中山とモノタロウは、同じ間接資材業界でも、在庫管理に対する考え方が異なります。特にコロナ禍では、資本効率化に大きな差が生じました。
キャッシュコンバージョンサイクル(以下、CCC)の観点から2社を分析します。
CCCとは、企業が資金を回収する効率性を示す指標です。
数値が小さいほど、資金繰りが優れています。
詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
キャッシュコンバージョンサイクルとは?
在庫、運転資本の変化とCCC分析
下表はトラスコ中山とモノタロウの直近1年間の販売、粗利率、在庫、 運転資本の変化とCCCを1Q(4~6月)と2Q(7~9月)から分析したものです(両社とも決算期は12月) 。
CCCの算出方法は以下の通り(米国Dell社の測定方法を採用)
CCC=売掛金回転日数(DSO)+ 在庫回転日数(DIO)- 買掛金回転日数(DPO)
DSO=(当該四半期末売掛金)÷(当該四半期売上)×90日
DIO=(当該四半期末在庫)÷(当該四半期売上原価)×90日
DPO=(当該四半期末買掛金)÷(当該四半期売上原価)×90日
1Q(4~6月)と2Q(7~9月)について、両社の特徴を見ていきましょう。
1Qの特徴
<トラスコ中山>
売上で前年を下回る。在庫を調整するも、在庫回転日数は、96日と前年の89日を上回り、結果、CCCは8日悪化し109日。
<モノタロウ>
売上は前年比20%増、在庫、運転資本ともに増えるが、在庫回転は 40日と3日短縮。結果CCCは3日短縮し、43日。
2Qの特徴
<トラスコ中山>
売上は前年比8%減なるも在庫も昨年を下回る。在庫回転は4日短縮し85日。結果CCCは3日短縮し、102日。粗利率は1.9ポイント悪化
<モノタロウ>
売上前年比17%増。在庫、運転資本ともに増えるが、在庫回転は2日短縮の40日。結果CCCは2日短縮し、44日。粗利益率は0.2ポイント改善
CCCでキャッシュ化速度を検証
直近の14四半期で、キャッシュ化する速度のトレンドを読み解きます。
下図は、両社のCCCトレンドをグラフ化したものです。
ここから両社のCCCの違いが浮き彫りになります。
<トラスコ中山>
1Qまで悪化傾向で2Qでは改善 。前年同期比では下回るレベルだが、100日超が続いています。
<モノタロウ>
モノタロウは1Q,2Qともに前年を下回っており、45日前後で推移しています。
在庫回転日数の推移
直近の14四半期で、在庫回転日数の推移についても目を向けてみましょう。
在庫回転日数については、こちらで詳しく学べます。
在庫回転率とは?
下図は、両社の在庫回転日数のトレンドをグラフ化したものです。
CCCと同様、在庫回転日数からも両社の違いが浮き彫りになります。
<トラスコ中山>
在庫回転日数は1Qで悪化傾向だが、2Qでは改善。 前年同期比では下回るレベルだが、3年間では上昇傾向にある。
<モノタロウ>
1Q,2Qともに前年を下回り、40日をキープし、継続して改善傾向。
在庫と運転資本の関係を金額で確認すると実態が見える
次に2社の過去14四半期の在庫、売掛金、買掛金、運転資本を確認してみます。
CCCで金額と回転日数の両面から、四半期毎の推移を比較すると、それぞれの実態がみえてきます。
下のグラフと表は、トラスコ中山の在庫、売掛金、買掛金、運転資本の推移を示したものです。
トラスコ中山は在庫および運転資本の上昇は金額、日数とも相関関係にあります。
一方で売掛金と買掛金は金額、日数とも安定的に推移しています。
次に、モノタロウも同様に在庫、売掛金、買掛金、運転資本の推移を見てみましょう。
モノタロウは売上増に伴って、在庫、売掛金、買掛金、運転資本とも金額は上昇傾向です。一方、回転日数では45日前後で推移しています。
CCCを見ても分かる通り在庫を効率的にキャッシュに変えていることが分かります。
売掛金、買掛金は業界の商慣習によりますが、管理可能である在庫回転は改善傾向にあり、理想的と言えるでしょう。
在庫と運転資本の関係性について、より詳しく学びたい方は、こちらの特集がおすすめです。コロナ禍在庫と運転資本の関連性(日米欧スポーツ用品業界を事例に)
両社の在庫回転日数の違いはどこにあるのか?
両社の在庫回転日数の差は、なぜ生じているのでしょうか。
それは取引数・販売先の違いです。対面販売が中心のトラスコ中山と、通販が中心のモノタロウは、顧客視点を意識している点では同じです。
顧客数は、製造業を中心にした約5500社のトラスコ中山に対して、モノタロウの取引口座数は520万と3桁以上違います。
両社はコロナ禍で中小企業向けの需要を減らしましたが、モノタロウは個人顧客や新型コロナウイルス関連のアイテムを求める顧客の需要を、大幅に増やしました。この結果、モノタロウは過去最高益(2020年1~9月期の連結決算)を上げました。
一方で、在庫ヒット率重視のトラスコ中山は、ファクトリールートにおける設備投資は減少しています。しかし巣ごもり需要によるBtoCの通販企業、ホームセンタールートのプロショップへの売上は拡大しています。粗利率の高い商品群が売れていることから、今後の利益拡大に期待をしたいところです。
なお2020年11月2日時点の株価時価総額では、モノタロウはトラスコ中山の7.8倍の 約1兆4135億円と、投資家からの評価に差が見られます。
最後に日経新聞(2020年8月21日)でモノタロウを分析しています
- 増収増益
新型コロナウイルスで顧客網が個人にも拡大。中小製造業向けなどで経済停滞の影響でるも、登録口座増加で増収。自動化を進めた倉庫からの出荷拡大などで費用の伸びを抑制し、増益へ。 - 韓国が黒字維持
韓国事業が引き続き黒字の見通し。他の海外事業の収益化も急ぐ。
在庫管理で経営を効率化させるために
間接資材業界のトラスコ中山とモノタロウに関して、コロナ禍のCCCやキャッシュの流れ、在庫管理の実態を比較してきました。
どちらも在庫管理に徹しながらも、特にコロナ禍の需要変化に対応したモノタロウは、優れた業績を残すことができました。
最後に、今回の分析から学んだ2つのポイントを挙げておきます。
- 納期遵守率、在庫ヒット率は9割を超えると要注意
顧客満足度の指標として、納期遵守率、在庫ヒット率は重要です。しかし9割を超えると、在庫管理コストの増加リスクが拡大しやすくなります。究極の顧客満足度は100%かもしれませんが、視点を変えて、顧客不満足度を点検してみてはいかがでしょうか。
在庫ヒット率(欠品率)の視点(大手アパレルの事例) - バランス・スコアカードの重要性
特に上場企業の場合、投資家を意識した活動が求められます。そのために活用したいのがバランス・スコアカードです。バランス・スコアカードとは、4つのフレームワークで、ロジカルに戦略を組み立てる経営管理手法です。 こちらに導入方法を具体的にまとめています。
バランス・スコアカードについてはこちらをご覧ください。
バランス・スコアカードとは?
バランス・スコアカードの4つのフレームワークには財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点があります。
財務の視点と顧客の視点は、特にコロナ禍のような景気後退期には反目し合う傾向にあります。しかし 活動を停止するのではく、モノタロウのようなフレキシブルな対応が求められます。
仮に、経営課題をキャッシュフロー経営とした場合、以下が想定できます。
平時からこのような視点が求められているのではないでしょうか。
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