コロナ禍在庫と運転資本の関連性(日米欧スポーツ用品業界を事例に)

コロナ禍によってすべての業種はサプライチェーンの総点検を
せざるを得ない状況です。
これまでのサプライチェーンと管理体質がこのコロナ禍でどう影響したのか、
また在庫との関連性をここでは日・米・欧のスポーツ用品業界を
比較して考察します。

【関連記事】
これまでも、コロナ禍でのCCC分析を、業種別に行ってきました。
業界ごとのキャッシュ化速度を参考にしてください。

スポーツ用品業界の特徴

まず、スポーツ用品業界がどのようなサプライチェーンなのかを
ご紹介します。
スポーツ用品業界の共通点は、生産地が中国をはじめとする
アジアに集中して、船で出荷されています。
つまり、時間のかかる遅いサプライチェーンの典型例です。

スポーツ用品業界のキャッシュ化速度(CCC):コロナ禍前

国内3社(アシックス、ミズノ、デサント)と
海外4社(ナイキ、アディダス、プーマ、アンダーアーマー)
を取り上げ、直近の12四半期を比較してみましょう。

まずは、キャッシュ化速度(CCC)です。
スポーツ用品業界のCCC
日米欧の比較では、ナイキ、アディダス、プーマの3社はCCCが
それぞれ、100日を切っているのに対し、日本企業3社は相対的に高いという点です。

一方で、在庫回転日数(DIO)を比較してもCCCと比較すると顕著ではないですが、欧米メーカーの方が小さい同じような傾向です。
スポーツ用品業界の在庫回転日数

なお、CCC(キャッシュコンバージョンサイクル:キャッシュ化速度)は以下の
式で計算します。

CCC=売掛金回転日数+ 在庫回転日数(DIO)- 買掛金回転日数
DIO=(当該四半期末在庫)÷(当該四半期売上原価)×90日

ナイキはなぜCCCが短いのか?

ここで、ナイキはなぜCCCが短いのか?
そのカギはナイキのサプライチェーン改革です。

ナイキは566の関係工場で100万人が働き、
年間13億の商品を生産し、75もの物流倉庫を通じて
190の国々の3万もの卸や販売代理店に販売してきました。

しかし消費者の嗜好が多様になり、少品種・大量生産では
うまくいかなくなったため、新たな施策を打ち出しました。

米QUARTZ(2017年10月26日付け)によると、
ナイキは製造計画から完成までのリードタイムを現在の60日から、
実に1/6にあたる10日に縮めると発表しました。

サプライヤーとの戦略を見直し、あるいは一部の委託を
オフショアリングからニアショアリング(遠い国から近い国)
へ変更し、そして設備投資を積極的に行うという内容です。

これによって、ナイキはCCCを大幅短縮する戦略です。

スポーツ用品業界のコロナによる影響

WHO(国連・世界保健機関)は2020年3月に
コロナウイルスをパンデミックと宣言後、
スポーツ用品業界は、

  • 生産の一次停止
  • 外出自粛規制
  • スポーツ店・施設の営業自粛
  • スポーツイベントの延期等により
    これらの影響によって大打撃を受けました。

2020年の4-6月の売上・在庫・運転資本の前年対比、およびCCCの比較を
行った結果が以下の表です。

CCCの前年比較

  • 売上:前年同期比で約30%~50%下落
  • 在庫:6月末在庫は同、約20%~50%上昇

そしてこの影響により運転資本は増加しました。
日米欧関係なく全社とも同じような傾向です。

一方、キャッシュ化速度(CCC)で確認してみましょう。

  • 売掛金回転日数:ナイキ、アディダスを除く5社は悪化(特にアンダーアーマーは19日悪化)
  • 在庫回転日数:各社、倍に近い回転日数を記録
  • 買掛金(DPO):ナイキを除く6社は買掛金回転日数を大幅に延期

通常、CCCを改善するためには、売掛金回転日数と在庫回転日数を
短縮し、買掛金回転日数を延ばすと言われます。

この場合、想定できる要因として

  • 売掛金:実際の代金回収の遅延、またはサイトを延ばして売上を計上
  • 在庫:売上減に伴う手持ち在庫増または、既に発注済み在庫の移動(輸送中)
  • 買掛金:資金繰り悪化による支払い遅延

過去13四半期のトレンド

キャッシュコンバージョンサイクルのトレンド(過去13四半期)
キャッシュコンバージョンサイクルの比較
在庫回転日数のトレンド(過去13四半期)
在庫回転日数の比較

グラフをご覧いただくとわかるように、
2019年4Q(2020年1~3月)からCCC,DIOともに悪化の兆候があり、
2020年1Q(2020年4~6月)で悪化が加速したといえるでしょう。

在庫と運転資本の関係を金額で確認すると実態が見える

ここでは、スポーツ用品業界で、CCCが最も低いナイキと最も高い
デサントについて、過去13四半期の在庫、売掛金、買掛金、運転資本
を確認してみます。
CCCで金額と回転日数の両面から、四半期毎の推移を確認すると実態がみえてきます。

ナイキの在庫、売掛金、買掛金、運転資本(過去13四半期)
ナイキの推移グラフ
ナイキの推移の比較表


デサントの在庫、売掛金、買掛金、運転資本(過去13四半期)
デサントの推移グラフ
デサントの推移の比較表

両社に共通している点は、以下の通りです。

  • 売上減に伴う売掛金の減少(2020年1Q)
  • コロナ禍前から在庫過多の状況は変わらず、コロナ禍で更に悪化

スポーツ用品業界大手が抱える課題は、過剰在庫の状態にあったということが分かります。
過剰在庫による資本の滞留はキャッシュフロー悪化の主要因です。
キャッシュの回収
抜本的なサプライチェーン再構築が急務といえるでしょう。

スポーツ用品業界で求められる改善策

ここで、私が考えるスポーツ用品業界で求められる改善策をご紹介します。

1.オペレーションサイクルを週次単位で把握

週次オペレーション
調達から店頭在庫までを週次で把握することで変化対応型への
シフトが求められます。

2.見込み生産の進化

見込み生産の進化で堅牢なサプライチェーン
ピッチを狭くして、生販在(PSI)をより細かく精査し、
特に在庫の偏在に関しては、タイムリーな把握が重要です。
QCDに加え、F(柔軟性)をいかに高めるかです。

3.プロセスごとのリードタイムの把握

プロセスごとのリードタイムの把握
スポーツ用品業界の最大の盲点は流通在庫のタイムリーな
把握であるといわれてきました。

これを機に他業種の取組みを参考に
押し込み型販売からの脱却が求められます。

4.計画サイクルの短縮

計画サイクルの短縮
生産現場においても変化対応型が求められます。
販売予測がより困難な今、見込みよりも製造現場がどれだけ
フレキシブルに対応できるか、そのためにはより効果的な内示
と品質の担保が求められます。
そのためにどのような資金援助、人的援助が求められるか、
委託製造側に対して、戦略的な関係を構築する好機でもあります。

リーマンショック、東日本大震災、タイ大洪水からの教訓

最後に、2008年のリーマンショックから2011年の東日本大震災、タイ大洪水
における日米企業の在庫回転日数を紹介します。
リーマンショック、東日本大震災、タイ大洪水からの教訓
米国企業のアップル、デル、HPはこれら災害に対して在庫回転は
ほとんど影響を受けていません。
しかし、日本企業、特にエレクトロニクスは大打撃を受け、在庫は圧縮したものの販売苦戦により、在庫回転日数はかつてないほど乱高下しました。
今回のコロナ禍はそれを凌ぐだけにグローバル企業にとっては、ビジネスモデルの再検討が求められていると言っても過言ではないでしょう。

発生型問題解決から設定型問題解決への転換

発生型問題型と設定問題型の解決方法の違い
長期化するコロナ禍をしのげないという仮説に立って、
今後のオペレーションを再点検する必要があります。

これはスポーツ用品業界だけの課題ではなく、すべての小売業に
共通するテーマでしょう。発生型問題解決でコロナ禍をしのげれば
問題ありませんが、オンラインの効果を最大限に生かした究極的な
マーケティングによる低在庫オペレーションは一つの仮説かもしれません。

高井先生の記事一覧

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