在庫管理アドバイザーの岡本です。
今回は、老舗の家族経営企業(特に戦前や戦後直後)によくある在庫管理の問題のご相談の事例と改善策を包み隠さずご紹介します。
自社の在庫管理の正常化にお役立てください。
目次
絶好調の販売が時代の流れで不調に
ご相談内容は以下の通りです。
大変お世話になります。実家の家業の在庫管理に困っております。
1927年創業の日本人形店を東京で経営しておりました。
当時は好調でしたが、その後不況
過去の大量に仕入れたものが残っており、かなりの在庫量です。特に西陣織の織物
親や事業を自分の代で終わらせようと考えていたようですが、私は西陣織問屋としての新いインテリア事業
そのために、在庫管理をおこなって
在庫管理のめどがついたら、IT化を本格的に進めたいと考えています。
在庫の管理と整理に人手が必要です。
5年以上頭を抱え本当にストレスで在庫管理などと検索していたら
ほんとうに泣きたい気持ちですが、親の残してくれた財産を活かしたいので何とかお力お借りできると幸いです。
気が付いたら不良在庫で倉庫がいっぱいになっていた・・・
というのは、まさに昭和の企業によくあるお悩みです。
老舗企業の在庫管理の問題点
この企業に限りませんが、老舗の家族経営企業によくある問題点としては、
在庫管理の基礎の基礎から全くできていないという点です。
そのために今回は、在庫管理をするための土台をしっかり整えるためのアドバイスを行いました。
今回ご提案したのは、在庫管理を正しくやる前に必須作業である、整理と品番の付与です。
整理の実施
まず、倉庫の中には乱雑に商品が置かれている状態でしたが、その中には明らかな不良品(虫食いや色褪せ等)がありました。
それらは商品価値がないので、在庫管理の対象から外さないといけません。
お手伝い要員として友人が3名きてくれるということでしたが、友人は不良品かどうかの判断ができません。
そんな状態で友人に応援を頼んだら、
「これ、不良品かな??」と、友人3名から声をかけられまくって、作業が進まないのが目に見えています。
なので、大変ですが整理は良品・不良品の見分けがつく、相談者1人でやることにしました。
ハネたものはすぐに捨てられませんので、棚から下して脇に置いておきます。
※棚を空けることは、整頓の準備につながります。
整頓の前準備
今後の目標として、何がどこにあるかが分かる状態にするために、整頓が必要です。
整頓は相談者1名でやる必要は無いのですが、前準備はやっておかないといけません。
前準備とは、棚番の付与です。
全ての棚に棚番を付与しました。
手伝ってもらう作業を決定する
お手伝いがきてくれたらあれもこれもやってもらいたい気持ちになるのはわかります。
しかし、時間は有限ですし、友人は素人です。
作業のポイント
- 作業にあまり多くを期待しない。(最低限必要なこと(メイン作業)を、着実にやってもらうことが重要)
- お手伝いしてくれる友人の作業の手が止まらない(=待ちが発生しない)ようにする。
- 止まらないようにするために、簡単な作業にとどめる。判断に迷う作業はさせない。
- 相談者は当日の作業をフルで実施しない。(理由:3人の質問に答えられるのは相談者のみ。3人がスムーズかつ停滞のしないように作業できるようにサポートが望ましい)
やってもらう作業は、
- メイン作業(絶対にやってほしい作業)
- サブ作業(できればやってもらうとありがたい作業)
に分けます。サブ作業はメイン作業を終えても十分に時間がある場合のみにやってもらう作業です。
作業時間の見積もりを立てる
やってもらいたいことを決める前にまず、持ち時間の見積もりを立てます。
仮に3名が8時間働いてくれるとしたら、持ち時間は24時間です。
休憩を1人当たり60分間取るとすれば、持ち時間は21時間です。
21時間を分に換算すると、
21×60=1260分です。
仮に2000点の商品に対して作業する場合、1商品当たりの
持ち時間は1260÷2000=0.63分(=37.8秒)
1商品にかけられる時間は約37秒です。
作業時間以外にも移動などの時間もありますから、
1商品にかけられる正味時間は30秒くらいでしょう。
つまり、メイン作業は30秒以内にできる作業にしなければいけないということです。
本当にやらなければいけないことに絞りこむ
この時点で、メイン作業を何にしたらよいかが分からないというお悩みも良くあります。
管理には定石があり、定石を外れると間違いなく絶対に失敗します。
在庫管理の出発点は、管理対象を決めて把握することです。
この会社の最大の問題点は、商品管理が全くできていないため何があるかがサッパリわからないということでした。
つまり、まず必要なのは、商品リストです。
今回、お手伝い要員の3名には、商品の写真を撮ることに専念してもらいました。
作業当日に起こりうる問題点をできる限りつぶす
作業当日には約2000点の商品の写真を1点あたり30秒で撮影してもらわないといけません。
4大ロスになるような時間を作らないようにするために、当日起こるうる問題点をつぶしておきます。
起こりそうな問題で致命的なのは、次の2つです。
- 同じ商品を2回、3回と撮影してしまう
- 商品の撮影忘れがある
この2つを防止するために、連番を印刷した紙を用意します。
写真を撮影したら連番を貼る、という作業工程にすれば写真を撮ったものがわかります。
しかも連番なので、何枚写真を撮ったか、商品数がどれくらいあるかもわかるので一石二鳥です。
たとえば、連番を2000用意して1820番以降が余ったら、1819点くらいの商品があることを予想できます。
さらにやり忘れを防ぐために、棚のどこから写真を撮っていくかを決めます。
何の指示もしなければ棚の中段くらいから作業開始することが多いです。そうなると、下段等を忘れがちです。
今回の場合は、棚の最下段左側から、写真を撮っていくということにしました。
商品リスト作成当日の作業工程を手順で整理すると次のようになります。
- 写真を撮る。
- 番号を付ける。
- 番号の写真を撮る。
- 番号表を渡し、棚の最初と最後の番号を記録する。(どの棚にどの商品があるかを後から整理できる)
なお、お手伝いの人が来た時に、口頭の説明だけではなく、一度流れを実際にやってみてみせるのが大切です。
分かっているようで意外とわかっていません。
商品リストの整理と登録
この会社がやるべきことは、整理と商品リストを作ることです。
写真を撮ってもらうことで、商品リストの前準備ができました。
次のステージは、品番と商品情報の整備です。
- 写真の整理
- 商品の一覧化(まずはエクセル等を使って一覧化)
- 各商品の登録項目の決定と登録(仕様(色、長さ、素材等)など、販売するにあたって必要な情報)
これができれば、雑多にあった商品が全て一覧化されるため通販で出品することができます。
在庫管理は基本が大切
今回、アドバイスした在庫管理の方法は、
昭和と令和の在庫管理の違い
昭和の時代は、
- 作れば売れる
- 仕入れれば売れる
といったように、とにかく需要が供給よりも圧倒的に強い時代でした。
しかも、消費者は購入先を選択できる余地がなく、独占販売状態でした。
さらに、人口も多いというボーナスもありました。
作ったもの、仕入れたものがすぐに出ていくので、その時代は、在庫管理等不要です。
しかし、現在はその全く逆です。
昭和の需要と供給
- 需要と供給:物不足。圧倒的に需要が強い。
- 購入先の選択:購入できるのは店舗のみ。
- 競合:国内メーカーばかり。しかもまだまだ少ない。
- 人口:増え続けている。
現代の需要と供給
- 需要と供給:供給が圧倒的に多く過剰
- 購入先の選択:店舗だけではなく、ネットでも買える
- 競合:国内だけではなく、海外メーカーも進出(家電が分かりやすい例)
- 人口:減り続けている
昭和の在庫管理は、とにかく大量に仕入れられることが大切でしたが、
令和の在庫管理は、選別と絞り込みをスピーディーに行えることが大切です。
昭和の在庫管理から脱却しましょう
今回のような事例はまだまだあるのではないか・・・と思っています。
しかも、これらはどんなに高性能なシステムを導入しても解決はできません。
- 何から手を付けて良いのかわからない。
- 事業を継続したいが今の状態だと難しい
- 事業を継承したので、今の現状をリセットしたい
といったお悩みがありましたら、ぜひ在庫管理の専門家にご相談ください。
現状の改善からシステム化までを見据えた在庫管理のアドバイスを実施します。
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