デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を活用してビジネスの構造や業務プロセスを根本から変革することです。
DXの目的は、競争力を高め、顧客価値を創出することにあります。
2025年の壁と言われるように、既存システムの問題や業務自体の問題が課題となっています。
この課題を克服できない場合は、年間最大12兆円の経済損失が生じると言われています。
(参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~ 経済産業省)
システムを導入すればDXが実現できると思っている経営者や、自社のシステムを売るためにDXと言っている会社も多いです。
しかし、システムの導入だけでは真のDXは実現しません。
本記事は、大手システム会社で数多くのシステム導入プロジェクトを担当した実務者が、DXの成功に必要な要素とステップを詳しく解説します。
目次
DXの基本要素
DXを成功させるためには、「人」、「プロセス」、「テクノロジー」の3つの要素が不可欠です。
- 「人」には、リーダーシップや社員のスキルアップが求められます。
- 「プロセス」は、業務フローの見直しや効率化を図ることが重要です。
- 「テクノロジー」は、最新のデジタルツールやプラットフォームを導入し、業務をサポートします。
これらの要素が融合することで、DXは成功し、効果的に推進されます。
DXを成功に導く6ステップ
それでは、人・プロセス・テクノロジーの3要素を活かして、DXを成功に導くためのステップをご紹介します。
- ビジョンの設定と共有
- 現状分析と課題の設定
- 戦略策定と計画立案
- 適切な技術の選定と導入
- 変革の推進と人材育成
- 持続可能なDXの実践
それぞれのステップを具体的に解説します。
ビジョンの設定と共有
DXを成功させる第一歩は明確なビジョンを設定し、それを全社で共有することです。
経営層が強力なリーダーシップを発揮し、DXの重要性と具体的な目標を全社員に示します。
企業全体が一丸となって取り組む姿勢を作ります。
ビジョンの共有は、プロジェクトの方向性を統一し、社員のモチベーションを高める効果もあります。
現状分析と課題の特定
次に、現状の業務プロセスやシステムを詳細に分析し、DX推進のための課題を明確にします。
この段階では、社内の各部門からフィードバックを収集します。
技術的なギャップや改善点を洗い出します。
現状分析により、どの部分にデジタル技術を導入することで最大の効果が得られるかを特定します。
戦略策定と計画立案
現状分析に基づき、長期的なDX戦略を策定します。
この戦略には、具体的な目標や達成すべきマイルストーン(中間目標)を含めます。
短期的な目標も設定しKPIを明確にして進捗を管理します。
この時に、以下の点も整えておくと良いでしょう。
ガバナンス体制
CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)やCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)などのリーダーシップポジションを設け、責任と権限を明確にします。
リスク管理とセキュリティ対策
デジタル化に伴うリスクを適切に管理し、情報セキュリティ対策を強化します。これにより、デジタルインフラの信頼性と安全性を確保します。
中小企業で、自社にサーバーを置くのはセキュリティ上好ましくありません。
サーバー専業の会社が提供する「外部サーバー」に移行すると良いでしょう。
計画立案では、リソース配分や予算、スケジュールを具体的に決定し、戦略の実行に必要な体制を整えます。
DXの進捗を定期的に評価し、必要に応じて計画を修正します。KPI(重要業績評価指標)を設定し、短期・中期・長期の目標達成度をモニタリングします。これにより、PDCAサイクルを回して持続的な改善を図ります。
経済産業省が提供するガイドライン「デジタルガバナンス・コード」が戦略立案や計画立案に役立ちます。
フレームワークを活用し戦略の実行性を高める
戦略の実効性を高めるために3C分析、SWOT分析、PEST分析などのフレームワークを活用して外部環境や内部資源を体系的に評価することが重要です。これにより、戦略の実行可能性が向上します。
3C分析
マーケティングや経営戦略を立てる際に用いられるフレームワークの一つです。
『Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)』
の3つの視点から分析します。
- Customer(顧客): 市場のニーズや顧客の動向を把握します。これにより、ターゲットとなる顧客層を明確にし、彼らのニーズに応える戦略を立てることができます。
- Competitor(競合): 競合企業の戦略や強み、弱みを分析します。競合との差別化ポイントを見つけ出し、自社が競争優位に立つための戦略を策定します。
- Company(自社): 自社の強みや弱みを評価し、どのリソースや能力が競争優位性を持っているかを明確にします。
SWOT分析
既存事業の改善点や伸ばすべきポイント、将来的なリスクやチャンスなどを調査するフレームワークです。「Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)」の4つの要素を分析します。
- Strengths(強み): 自社の内部資源や能力で競争優位を持つ要素を特定します。
- Weaknesses(弱み): 改善が必要な内部の欠点や劣位を特定します。
- Opportunities(機会): 市場や業界の外部環境で、自社に有利に働く可能性のある要因を特定します。
- Threats(脅威): 自社の成長や成功を妨げる外部のリスクや障害を特定します。
以上を縦軸に内部要因(強み・弱み)、横軸に外部要因(機会・脅威)を配置してマトリクス化します。各要素がどのように関連しているかを視覚的に整理します。
PEST分析
企業や組織が外部環境を評価するために使用するツールで、4つの主要な環境要因を分析するフレームワークです。
「Political(政治)、Economic(経済)、Social(社会)、Technological(技術)」の4つの外部環境要因を分析します。
- Political(政治): 法律、規制、政府の政策など、ビジネスに影響を与える政治的要因を評価します。
- Economic(経済): 経済成長率、為替レート、インフレ率など、経済的な要因を分析します。
- Social(社会): 消費者の価値観、ライフスタイル、人口動態など、社会的な要因を分析します。
- Technological(技術): 新技術の開発や技術革新がビジネスに与える影響を評価します。
KPIの設定例
設定するKPIの具体例をご紹介します。自社のKPIの設定の参考にしてください。
短期KPI(1年以内)
- 従業員のデジタルスキル向上
- 業務プロセスのデジタル化(対象業務のデジタル化完了率、ペーパーレス化の進捗率)
- 導入したシステム(導入完了日、稼働率)
中期KPI(1〜3年)
- 生産性向上(業務効率化率、自動化プロセスによる労働時間削減)
- 顧客満足度の向上(顧客満足度スコア、顧客クレームの削減率)
長期KPI(3年以上)
- 市場シェアの拡大
- コスト削減率
適切な技術の選定と導入
DXを推進するためには、適切な技術の選定と導入が重要です。
最新のITインフラやデジタルツールを整備し、企業のニーズに合ったソリューションを選びます。
技術の導入だけでなく、それを効果的に活用するためのトレーニングやサポート体制の構築も欠かせません。
これにより、新技術が企業全体に浸透し業務効率を高めることができます。
変革の推進と人材育成
DXの成功には、変革を推進するリーダーの育成と、社員全体のスキル向上が不可欠です。
リーダーシッププログラムや研修を通じて、変革をリードできる人材を育成します。
また、全社員に対してもDXの意義や新しいツールの使い方を教育し、変革の受け入れ態勢を整えます。
これにより、組織全体でDXを推進する文化を築くことができます。
持続可能なDXの実践
DXは一度の導入で終わりではなく、持続的な改善とフィードバックが重要です。
定期的に成果を評価し、必要に応じて戦略や技術を調整します。
継続的な改善サイクルを回すことで、DXの効果を最大化し企業の競争力を維持します。
また、社員からのフィードバックを重視し、現場の意見を反映させるも重要です。
業務全体にデジタルツールを導入する前に、小さくDXを推進することもできます。
例えば、在庫管理に悩んでいる卸売業の場合、スマホで入出庫と在庫管理を行えるアプリがあります。
スマホで使えるシンプルな在庫管理アプリMonoC(モノシー)の詳しい機能はこちら
上記のようなプチデジタルツールを導入して、ステップアップでDXを推進することもできます。
具体的なDXの取り組み例
DXの取り組み例をいくつか紹介します。自社のDXに取り組む参考にしてください。
製造業のDX事例
将来的な人手不足を見越して人力による属人的な検査の削減と不良率の削減をDX化。
生産ラインにIoTセンサーを導入し、リアルタイムで設備の稼働状況を監視するシステムを構築しました。
このシステムにより、人力に頼らない異常検知と予知保全が可能となり、設備の故障による生産停止時間が大幅に削減が期待できる。結果として、生産性の向上とメンテナンスコストの削減、さらには在庫削減が期待できる。
小売業のDX事例
多様化する嗜好と短命化する商品寿命に対応するために、顧客データを活用したパーソナライズドマーケティングをDXによって実現。
デジタル化された顧客データを分析し、顧客の購買行動や嗜好を把握することで、個別にカスタマイズされたプロモーションを展開できるようになった。その結果、顧客のリピート率の向上とそれによって売上が増加が期待できる。さらには、商品を売り切ることができるようになるため不良在庫の削減も期待できる。
システムだけではDXできない理由
システムを導入するだけではDXは成功しません。
デジタル技術の導入は重要ですが、そこには人がいます。会社に文化もあります。
技術だけに頼るアプローチでは、組織の変革が伴わず、期待される成果を得ることは難しいでしょう。
DXの本質は、企業全体の変革にあり、システムはその一部に過ぎません。
DXがうまくいかない、失敗した、何も変わらなかったという企業のために、DXが失敗する要因を解説します。
DXが失敗する主な5つの要因
DXが失敗する主な5つの要因は以下の通りです。
- 経営層のコミットメント不足
- 現場が抵抗する
- 技術にのみフォーカスしてしまう
- 技術にのみフォーカスしてしまう
- 現実的でないスケジュールと予算
- コミュニケーション不足
それぞれについて解説します。
経営層のコミットメント不足
経営層がDXの重要性を十分に理解することが重要です。
理解できていないとプロジェクト全体の方向性が曖昧になりがちです。
システムを導入すればいいということではありません。
DXを成功に導くステップで解説した通り、DXの成功には『ビジョンの設定と共有』が最も重要です。
ビジョンを設定するのは経営層の役割です。
実現したいビジョンを明確にし、正面から向き合う必要があります。
失敗パターンは、「他の企業もやっているから、とりあえずうちもDX!」です。
ビジョンなきDXは、成功することのない、お金と時間と労力の無駄遣いです。
現場が抵抗する
新しいシステムやプロセスに対する現場の抵抗がDXの失敗原因となることがあります。
従業員が新技術に適応できない場合、旧来の業務フローに固執し、変革の効果が発揮されません。
人は、変化を嫌います。従業員は今までのものがいいと思いがちです。
どのような未来を実現するのか、しっかりと説明し、一時的な負担を受け入れてもらう必要があります。
技術にのみフォーカスしてしまう
DXの目的を技術導入だけに限定すると、組織全体の統合が不十分となります。
そのため、期待される成果を得られないことがあります。
システム化がDXではありません。
AI、IoT、RFIDなど、最新の技術があれば、「何かできそう!」と飛びつきたくなる気持ちもわかりますが、
最新の技術を使用することが正解ではありません。
特定の技術を売り込むシステム会社には注意しましょう。
在庫管理110番に相談をしてきた会社様で、
「システム導入プロジェクトを2年近く続けているが、一向に前に進まない。どうすれば良いのか?」というご相談がありました。
聞いてみると、プロジェクトを進めているシステム会社が主力技術と、その会社が扱っている商品の特性が全く合っていないのです。
システム会社は、自社の技術を無理やりねじ込むような進め方をしていて、「何かおかしい・・・」と不信感をもち、弊社に相談がありました。
現実的でないスケジュールと予算
DXプロジェクトに現実的でないスケジュールや予算は設定してはいけません。
マンパワーでどうにかなる問題ではありません。
途中で資金が枯渇したり、計画が遅延したりします。
プロジェクトの予算が少なすぎると、プロジェクトが中断してしまったり、質の低いシステムが出来上がります。
予算がどうしても取れない場合は、小規模で部分的にDXを進めることも一つの方法です。
コミュニケーション不足
組織内でのコミュニケーション不足がDXの失敗を招くこともあります。
情報共有が不十分な場合、プロジェクトチーム間の連携が取れず、無駄な作業や誤解が生じます。
よくあるコミュニケーション不足の問題点は、実際に利用する実務部門が「そんなこと聞いていない、知らなかった」というものです。
DX導入を主導するプロジェクトチームが実務部門とのコミュニケーションが不足していることが多いです。
まとめ
デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させるためのロードマップは、「人」、「プロセス」、「テクノロジー」の3要素が必要です。
成功するためのロードマップは、以下の通りです。
- ビジョン設定
- 現状分析
- 戦略策定
- 適切な技術導入
ただし、システム導入だけではDXは成功しません。
DX失敗の要因には経営層のコミットメント不足や現場の抵抗などがあげられます。
変革推進する意識を高め、人材育成と教育を続けて組織全体の変革がDX成功のためのカギです。
DXにもお勧め!生産性を上げることができる在庫管理システム
成長する在庫管理システムは、システムを導入したけど使いこなせない、自社に必要な機能が無いといった不満を解消するために在庫管理の専門家が監修し開発した在庫管理システムです。
成長する在庫管理システムには、小さく導入して大きく育てることができる在庫管理システムです。
会社全体のDXを行いたいけど、一気に進めるのが不安・・・という時に役立ちます。
既存のシステムとの連携も可能で、さらに、自社の特殊な業務をシステム化することも可能です。
実務経験がありこれまで500社以上の相談やコンサルティングを行った在庫管理の専門家が導入までご支援しますので、自社の課題解決と運用に合ったシステムが構築できます。
低コストで自社に必要な機能を持ったシステムが導入できる
DXは専門家にアドバイスを
DXを成功させることは簡単ではありません。
外部の専門家の知識と経験を活用することで、企業はDXの効果を最大化し、競争力を高めることができます。
DXを成功させるためには、単に技術を導入するだけではありません。
専門家の支援を受けながら、組織全体の変革を推進することが重要です。
些細なことでも遠慮なくご相談ください!