アパレルの在庫管理と運転資金

アパレルの在庫管理と運転資金の関係

今回は日本の大手5社の在庫管理と各社の対応、コロナの影響について
解説します。
コロナ禍は、世界のアパレル業界に甚大な影響を与えています。

「ZARA」などを展開する世界最大手インディテックス(スペイン)
は店舗の大量閉鎖、オンラインの拡充に踏み切りました。

具体的には、全体の16%に相当する最大1200店を2021年までに閉鎖し、
新型コロナウイルス後の消費行動の変化を見据え、デジタル化に
経営資源を集中投入します。

2022年には売上の4分の1をオンライン販売で稼ぐと表明しました。

コロナ禍は、需要と供給の不一致に加え、店舗運営、投資計画
で多大な影響を及ぼしています。

【関連記事】
これまでも、コロナ禍でのCCC分析を、業種別に行ってきました。
業界ごとのキャッシュ化速度を参考にしてください。

日本のアパレル業界のサプライチェーンマネジメントの優先課題

アパレル業界のサプライチェーンの課題
矢野経済研究所の調査によると
アパレル企業のサプライチェーンマネジメント(SCM)の課題(複数回答)は、
在庫の最小化が54.7%で最も多いことが分かります。
在庫の廃棄量の軽減6.7%と合わせると、在庫関連は61.4%となります。
(出所:矢野経済研究所による調査2019年6月: 国内主要アパレルメーカー、小売業75社)

「在庫の最小化」を可能にする方法としてマスカスタマイゼーション
とAIなどのテクノロジーを活用したソリューションを需要予測やエンドユーザーの需要喚起に役立てている企業が増えていると分析しています。

コロナ禍においては、需要予測の難易度は極めて高いといえるでしょう。
需要予測に頼らない根本的な体質改善が威力を発揮します。

※マスカスタマイゼーション
従来の大量生産と同様の効率性でオーダーメイドの
一点物を生産・販売する取組みであり、見込生産以外の受注生産の1つ

業績にコロナが与えた影響

国内大手5社(ファーストリテイリング、しまむら、オンワードHD、
AOKIホールディングス、ワールド)の直近13四半期を比較してみましょう。
※ワールドは、決算短信に売掛金、買掛金にその他債権、その他債務を含んでいるため、売上、在庫のみの分析になります。

計算式は下記の通りです。

  • CCC=売掛金回転日数(DSO)+ 在庫回転日数(DIO)- 買掛金回転日数(DPO)
  • DSO(売掛金回転日数)=(当該四半期末売掛金)÷(当該四半期売上)×90日
  • DPO(買掛金回転日数)=(当該四半期末買掛金)÷(当該四半期売上原価)×90日
  • DIO(在庫回転日数)=(当該四半期末在庫)÷(当該四半期売上原価)×90日

アパレル大手各社の業績比較
(注:2020.1Qは2020年3月~5月、または4月~6月)

売上の落ち込みに比べ、在庫は仕入調整等により抑制されていることが分かります。

アパレル大手各社のキャッシュコンバージョンサイクルの比較
CCCはファーストリテイリングとオンワードHDの悪化が顕著です。
しまむら、AOKIホールディングスとも悪化はしていますが、上記2社ほどではありません。

アパレル大手各社の在庫回転日数の比較
在庫回転日数(DIO)はしまむらとAOKIホールディングスを除き、
大幅に悪化していることが分かります。

各社とも売掛金回転日数(DSO)は前年比、あまり変化は見られません。
買掛金(DPO)はファーストリテイリングを除き、変化は見られません。

在庫管理に関する各社決算説明

在庫に関するアパレル大手各社の決算説明は以下の通りです。

ファーストリテイリング(3-5月):
5月末の在庫は、店舗の臨時休業により、3月、4月の
売上が計画を大きく下回った。
そのため、在庫は前年同期末比で216億円増加しました。

しまむら(3-5月):
他社に比べて過剰在庫に陥っていない主な要因は2つです。

  1. 夏物商品の仕入れ調整
    2019年から強化している短期生産を活用して早い時期での
    発注比率を抑えていた。
  2. 週次オペレーション体制の導入
    毎週の売上状況を見ながら、1店舗当たりの在庫が
    過剰にならないよう、きめ細かな仕入調整を行った。

ワールド(4-6月):
最終1.5ヶ月のコロナの影響で秋冬商品消化の踏み込みが遅く、
売れ残ってしまう悪循環に陥った。
唯一の救いは、在庫コントロールが効いたことです。

在庫と運転資金の関係を金額で確認すると実態が見える

ここでは、アパレル最大手のファーストリテイリングと第2位の
しまむらのCCCについて、過去13四半期の在庫、売掛金、
買掛金、運転資金を確認・比較します。

CCCで金額と回転日数の両面から、四半期毎の推移を確認すると
両社の実態がみえてきます。

ファーストリテイリングの在庫、売掛金、買掛金、運転資本
ファーストリテイリングの在庫、売掛金、買掛金、運転資本
ファーストリテイリングの在庫、売掛金、買掛金、運転資本

しまむらの在庫、売掛金、買掛金、運転資本
ファーストリテイリングの在庫、売掛金、買掛金、運転資本
ファーストリテイリングの在庫、売掛金、買掛金、運転資本

ファーストリテイリング(売上約2兆円)の海外売上比率は国内を上回るため、国内主体のしまむら(売上約5000億円)との単純比較はできません。
しかし、両社の在庫回転日数に大きな違いがあります。
この点に着目して、ここで両社の取組みを確認してみましょう。

サプライチェーン改革(ファーストリテイリング)

ファーストリテイリングの主要なサプライチェーン改革は次の4点です。

  • 倉庫の全自動化
  • 欠品と過剰を防ぐ在庫の最適化
  • 企画、生産、物流のリードタイムの削減
  • サプライチェーン情報の可視化・一元化

具体的には、
店舗などから得た世界中の顧客情報、物流や工場などの情報を
リアルタイムでグローバルヘッドクォーターに集積し、このデータを基に可視化しました。
このデータによって、全員が同じ情報を同時に見ることで意思決定の精度を上げる。

また「7つの無駄の削減」や「ジャストインタイム(JIT)」などで有名な
トヨタ生産方式とも多くの共通点があるようです。
(出所:MONOist 2019年11月15日『ユニクロのサプライチェーン改革、デジタル技術で“トヨタ生産方式の理想”実現へ』を参考に改編)

在庫の月次管理から週次管理へ(しまむら)

2015年12月末決算短信に約8割の売り上げを占めるしまむら事業で、
「在庫管理を月次管理から週次管理に変更することにより、大幅に業務効率を改善した」という記載がありました。

私はこの記事に大変興味を持ち、効率経営のしまむらが週次管理を本格的に導入した背景と内容について徹底的に調査しました。

過剰在庫の常態化からの脱却

しまむらは、500店舗の時は、「超高速回転」でうまく機能していました。
しかし、同じやり方で1300店舗を運営するのは難しいようでした。

その結果、不良在庫がたまり、前のシーズンの商品の値引き販売の常態化し、
収益を圧迫するようになりました。

そこで、2015年初めに不良在庫をためないような仕組みを作り直し、
グループ3000店の目標に向けて布石を打ちました。

不良在庫をためない仕組み作り

不良在庫を溜めない仕組みは主に2つの改革から成り立ちます。

  1. 改革その1:売れ残りは処分する
    店舗内のすべての商品に販売期限を設けました。
    それを過ぎたものに関しては処分し、売り場をすっきりさせました。
  2. 改革その2:在庫管理の権限を強化
    商品の在庫管理を担うコントローラーの発言力を強化。
    商品部から独立させ、商品の仕入れ価格や量の妥当性を監視できるようにしました。
    バイヤーの過剰な仕入を防ぐ役割を果たします。


    コントローラーの人数を増やして一人あたりの担当店舗数を減らし、
    その代わりに担当する商品分野を広げたてきめ細やかな管理をできるようにしました。

この2つの改革の成果として、不良在庫のたまりにくい体質へと立て
直しに成功し、グループ店舗数3000にむけての仕組みが確立できました。
(出所:日経ビジネス2016年4月4日号を参考に改編)

2020年5月末のしまむらグループの店舗数は
2206店舗(国内2152、海外54)ですが、改革が順調に進んでいる
証といえるでしょう。

これからのアパレル業界に求められる在庫管理とは?

コロナでアパレル業界の悪習が露呈されました。
そして、今回のアパレル業界大手の分析結果で何が効果的かが明らかになりました。
求められるのは次の2点です。

キャッシュとオペレーションのサイクルは一心同体

キャッシュとオペレーションのサイクルの関係

アパレル業界の商品ライフは3ヶ月と言われます。
であるならば四半期(13週間)の動向を正確に把握して
着地点を常に意識した目標管理だけでなく、しまむらが実施したような週次管理を
実施し、変化点管理が急務でしょう。

週次PSIの導入

変化点管理に有効なのは、PSI管理です。
仕入れ・販売・在庫をタイムリーにとらえ、迅速かつ適切な処置を実施します。
PSI管理
PSI管理

具体的には、商品別、カテゴリー別、店舗別、地域別
週次PSI管理を金額で把握することが効果的でしょう。

管理と自律の見える化の連鎖

見える化とは?
現場力を強化するには、現場が能動的に高次元の問題を解決する問題解決能力を磨くことが必要です。

問題解決能力を磨くためには、
問題を発見すること、つまり「見える化」が重要です。
「自律の見える化」:現場の問題解決のための可視化
「管理の見える化」:経営者や本社が経営/事業管理のために行う可視化
両者は車の両輪となって動かないと期待した効果はなかなか得られません。

どちらか一方だとかえって無駄に管理強化が進むだけです。
それを防ぐためには情報共有、共通認識だけではだめで、
一体活動につなげることの重要です。

一体活動とは、具体的にコーポレート・プロジェクトのような組織体で推進します。
評価・インセンティブはもとより、活動を通じて人材の質(やる気・能力)を引き出すことです。

見える化する時のポイント

  • 鮮度・タイミングを重視する
  • アナログ、デジタルを使い分ける
  • 分かりやすく、シンプルに
  • 本当の勝負は見えた後

また見える化は継続的なサイクルが重要です。
見える化の後は、迅速かつ適切に具体的な改善やアクションに
つなげていかなければいけません。

(出所:『見える化~強い企業をつくる「見える」仕組み』、『現場力を鍛える~「強い現場」をつくる7つの条件』遠藤功著(東洋経済新報社を参考に改編)

高井先生の記事一覧

この記事の執筆した高井先生はCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)
やPSI管理などに関する経験と深い知見を有しており、当サイトに数多くご寄稿いただいてます。

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