在庫鮮度管理-事例キューピー
キューピーは1925年に日本で初めてマヨネーズを導入した企業です。
一般的にマヨネーズの賞味期限は、10か月から1年ですが、賞味期限内であっても商品価値は下落するという危機感がありました。
鮮度管理手法はアサヒビールから鮮度管理手法を学んだとも言われています。
市場のマーケットリーダーとして、卓越した技術開発力、商品開発力は抜群です。
在庫管理だけでなく、オペレーション強化の取り組みは、他業界でも大変参考になります。
在庫削減をSCM(サプライチェーン)のメインテーマに位置付ける。
新鮮度管理を導入し、ある一定の成果を上げておりました。その後、SCMの目的をコスト削減から企業体質の強化にいかに転換したかという事例を紹介します。
目次
在庫削減を阻む課題
2000年当時、家庭向けと業務用を合わせて約3800アイテムの商品がありました。卸や小売店など取引先の事情に詳しい営業部門の役割を重視。
単品ごとに営業部門が販売計画に基づいて商品の製造計画を立案していました。
ところが営業部門は販売予算を達成しようと、実際の需要見込みよりも
高い販売計画を立て、見込みが外れるケースがありました。
これが在庫削減の大きな支障になっていました。
在庫削減を推進する対策
アイテム数と平均在庫日数 (出所:LOGI-BIZ 2002年5月号)
新鮮度管理と呼ぶプロジェクトを推進。
製造計画の立案プロセスや工場における製造体制の見直しを行いました。
次のような改革を実施しました。
- 商品アイテム数の削減
- 受注センターの集約
その結果、1999年時点で平均21日分の製品在庫を
2002年に12日分に短縮。
さらに2003年には10日分まで削減することを狙いました。
新システム稼働後は、
- 主力商品約2500アイテムについて過去36カ月分の販売実績データを基に、3カ月先まで単品ごとの需要を予測。
- 製造計画と物流計画を作成
- アイテム数を3000以下に絞り、在庫の削減や管理精度の向上に注力
- 2002年1月に情報物流本部が在庫日数、在庫量などの項目ごと営業や生産を評価する仕組みを導入。結果、04年には12日を切りました。
その後、増加基調に転じたことに加え、過剰な欠品を生むなどの非効率にもつながりました。
コミュニケーション型SCM
その対策として、06年以降、コミュニケーション型SCMに転換し、増加傾向にあった在庫日数は、09年に一気に10.2日まで下がりました。
- 経営への影響度が高い商品やプロモーション要素が強いアイテムに関しては、販売、生産、物流部門が話し合って意思決定を行い体制に切り替える。
- 生販物の打ち合わせは定例会議のほか、担当者レベルでも頻繁に実施。
SCM成功のカギはコミュニケーション
当時の藤田正美執行役員ロジスティクス推進室長によると、
「従来のようなシステム任せではなく、関連部門のスタッフが密にコミュニケーションを取りながら、互いに納得できる最適な販売計画や生産計画を策定する。統計だけでは計れない人間の意志を落とし込むことで、より経営に貢献することが目的だ」
「もちろん在庫は重要な指標の一つだが、一喜一憂はしない。重要なのは企業全体に貢献できるSCMを実現できるかどうか。今は在庫削減に加えて、在庫のピークを分散する取り組みを進めている」
賞味期限の延長
食品廃棄の削減及び非常時に商品の供給を維持するため、賞味期限の延長はメーカーとして取り組むべき課題であるとのマネジメント判断。
2002年より賞味期限延長に力を入れる。
マヨネーズについては2016年3月出荷分より賞味期限を10か月から1年に延長
容量の適正化
世帯構成の変化に合わせ、開封後の商品をおいしく使い切ることを重視した容量の適正化なども行う。
今後も社会的課題の解決につながるような技術開発・商品開発を進めている点も特筆すべき点です。
キャッシュコンバージョンサイクルの推移
キューピーのCCC直近13四半期を確認してみましょう。
17年度の売上は前年比+3%に対して、平均の運転資本も+3%増ですが、絶対額でも約600億円を下回るレベルを維持しています。
また商品の特性上、売上に季節変動はあまりなく、安定しています。
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の特徴としては、DSO(売掛債権回転日数)が他の食品業界と比べて高い傾向にあります。
DIO(棚卸回転日数)を抑えているのは食品業界の共通といえるでしょう。
在庫額は300億円を下回るレベルで安定しており、サプライチェーン効果といえるでしょう。
在庫鮮度を意識するということは、キャッシュを意識したオペレーションに切り替えるといっても過言ではないでしょう。国内の売上成長が鈍化する中、海外売上は全体の8-9%ですが、前年比2桁増と好調に推移。
在庫鮮度はキューピーの経営体質の要といえるでしょう。
では運転資本を圧縮するには、どのような策が考えられるでしょうか?
売上が増えても、在庫が増えず、売掛金も増えないようなビジネスモデルとして
自社によるネット通販が考えられます。ネットとリアルの共有です。
キューピーも一部商品でネット通販を導入しています。
または特定顧客を絞った受注生産型、補充型オペレーションが考えられます。
原料の調達から小売販売まで一気通貫オペレーションは資金の流動性が
求められ、新たなビジネスモデルになるでしょう。
在庫鮮度管理事例
高井先生の記事一覧
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やPSI管理などに関する経験と深い知見を有しており、当サイトに数多くご寄稿いただいてます。
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高井先生は実務的な管理会計のスペシャリストです。
ソニーにて多数のご経験を積まれ、実績を残されています。
欧米ではスタンダードな経営指標であるキャッシュ・コンバージョン・サイクルの普及に努めている数少ない専門家です。
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