データ分析には経験が必要となり、すぐに取りかかるのは難しい・・・と感じる方、必見です!
今回、誰でも実践できる「適正在庫のためのデータ分析の基本」をお伝えします。
目次
適正在庫のためのデータ分析の流れ
適正在庫を実現し続けるためのデータ分析の流れは、以下のようになります。
- 仮説を立てる
- 仮説をデータとして取れるようにする
- データを貯める
- データ分析をする
- 分析結果をもとに仮説を検証する
- 適切に見直しする
データ分析では1~5を繰り返して、仮説の検証を繰り返して、信頼できる現状に
あう結果が得られるようにします。
上記の手順に沿って、中小企業がエクセルで実践できるデータ分析を解説します。
仮説を立てる(何が需要に影響を与えているのか?)
適正在庫の実現のためにデータ分析をするためには、販売・出庫情報(何を、いつ、いくつ)だけでは不十分です。理由は、単なる「1つの商品が売れた」という情報だけだからです。
「その商品がなぜ売れたのか?」をつかむためにデータ分析をするには、
「商品が売れた」という情報に加えて、「なぜ売れた?」、「どんな特徴・属性の商品が売れた?」がセットで必要になります。
この2つの情報がわかるようになれば、
- いつ頃よく売れるのか?
- 何がおこったら売れやすくなるのか?
ということがわかるようになり、売れそうなタイミングの前に在庫を積み増ししたり、逆に売れ行きが鈍るタイミングで在庫を減らせるので、適正在庫の維持が可能になります。
例えば、ケーキの販売数に影響を与える要素について考えてみましょう。
- 「クリスマス」は需要に影響を与える大きなイベントになりそうです。
- 「誕生日」も影響を与えそうです。ちなみに、統計によると9月の出生数が多いそうです。つまり、9月に誕生日ケーキの販売数が多いのではないか?と考えます。
- 逆に、出生数が少ない月はケーキの需要が落ちるかもしれません。
上記のようなものを「仮説」といいます。
仮説と商品の販売データを組み合わせてデータ分析を行い、
- 仮説として正しい(影響を与えている)か?
- 正しい場合、影響の大きさはどれくらいか?
を1つずつ見ていき、仮説を検証し、「これは使える(影響を与えている)」という変数を採用します。
最終的に、変数として採用された仮説はデータ分析の数式になります。
- 変数:影響を与える要素
- 係数:要素が影響を与える大きさ
仮説をみんなで出し合う
まず、ぜひやっていただきたいのは、需要に影響を与えていそうな「要素」を書き出すことです。
「要素出し」に一番役立つのは、現場の経験です。
それぞれの立場や役割で、お客様に接しているはずです。
「○○があると、お客様が増えるよな」とか、
「月末になったら、よく○○が売れるな」
といった現場の経験に基づく勘をそれぞれ持っているはずです。
どんどん出し合いましょう。
要素を考えるうえで、参考になる情報をいくつか挙げます。
- 季節、曜日、時間帯
- イベント(節分やクリスマス、入学式や引っ越しシーズン)
- 他の商品の販売
- 気象(気温、台風、大雨、大雪、熱帯夜など)
- 購入者の属性(年齢、性別、職業など)
- 立地(地域特性)
いかがでしょうか。
このように考えれば、いろいろと出てくると思います。
逆に出てこないと、普段の仕事のスタイルからまず変えていくべきです。
仮説出しは、一つの部署ではなく複数の部署でやると効果的です。
部署や担当者によって、さまざまな立場でお客様に接しているはずなので、それぞれが考えている「需要に影響を与えていると思うこと」は違うはずです。
この際に、データ分析の専門家やコンサルタントを交えて、あなたの会社の固有事情だけではなく、
専門的、一般的視点からあなたの会社に無い視点からサポートを受けるのも良いでしょう。
分析に必要なデータについて知っておくべきこと
データ分析には必ずデータが必要です。
適正在庫を目指すためにはデータ分析が必須ですが、残念ながら、データの整備自体が全くできていないという会社がほとんどです。データが無ければ、データ分析はできません。
さらにいうと、3つの条件を備えていないデータは、データとしての価値はありません。
データに求められる3つの条件
データ分析をするためには、次の3つが無いと精度の高い分析はできません。
- データの精度:正確なデータ
- データの質:分析に必要な属性(変数)
- データの量:分析するために必要なデータ数
データの量は、多ければ多いほうが、データの精度は高くなります。
しいて言えば、季節変動や季節性のイベントの影響を仮説として考えている場合は、
少なくとも2年分くらいのデータが必要です。
理由は、季節要因やクリスマスなどの定期的なイベントの影響の有無は、1回(1年だけ)
では判断できないからです。
このように、データ分析をしたくても、データがない限りは実施する土俵にすら立てません。
データ分析をするためには、普段から地道にしっかりとデータ蓄積することが一番重要です。
商品(部品)マスタをしっかりと整備する
まず、ぜひやっていただきたいのは、商品(部品)マスタをしっかりと整備することです。
データは販売数や仕入れ数のように、その都度とらなければいけないデータだけではなく、商品自体が「属性」としてもっているデータも重要な要素です。
例えば、
- 販売開始日
- 商品カテゴリー
- 定番品、特注品、限定品
のような商品が持つ独自のデータです。
データ分析がしっかりとできている会社は、マスタのデータをきちんと整備できています。
一方、そうでない会社は、マスタのデータを整備できておらず、大半が「その他」だったりします。
マスタの整備は日々の積み重ねです。後からまとめてやるのはとても大変なので、普段から地道にコツコツとやる仕組みを整えましょう。
イベント(その都度発生する)を記録する
商品の「属性」として取れないが、重要なのはその時々に発生するイベントデータです。
例えば、
- 対象の商品を値引きした
- 対象の商品がメディア(テレビ、新聞、雑誌)で紹介された
- ドラマの舞台になった、ドラマの中で出てきた
- 有名人やインフルエンサーが紹介した(SNSや動画)
- 気象の急激な変化(気温が急に上がった、台風が来た、大雪が降った)
- 法律や規制(規制緩和など)
皆様が扱っている商品でも、「何かが起こるとよく売れる」というものがあるのではないでしょうか?
仮にそれらが需要に影響を与える要素として「仮説」として立てているのであれば、この情報も取っておく必要があります。
データは取得の容易性と所在で4つに分類する
蓄積するデータは、データの所在と取得の容易性に分けて、4つに分類します。
データの所在
まず、データには外部データと内部データの2種類があります。
- 外部データ:国の統計情報や気象情報、調査や企業からの購入などで入手できる自社以外の外部から得られる情報です。
- 内部データ:自社で取ることのできるデータ(仕入れや販売データなど)
データの取得
データを入手するしやすさです。
- 可能:比較的簡単に入手できるデータ、過去のさかのぼって取得できるデータ
- 不可能(困難):他社の内部情報などで、入手自体が不可能(難しいデータ)、その場で取らないと後から取れないデータ
取得が可能データのうち、過去の遡って取得できるデータとは、気象庁の気象情報などが該当します。
逆に、後から取れないデータとは、購入した人にその場で購入理由を聞くといったものです。
また、データの取得自体が不可能または困難な場合は、他のデータで代替または推測することも考えます。
IoTのように、技術革新によってデータ取得ができるようになる場合があります。
身近な例だと、スマートウォッチをつければ、心拍数がわかるようになる・・・といったことです。
自社の供給の限界は市場で決まる(需要上限は無限ではない)
需要は青天井で無限ではなく有限で、必ず上限があります。
その上限を知る手がかりになるのは、総需要とシェア(自社商品の市場占有率)です。
これを知ることで、自社が供給可能な最大値がある程度わかります。(生産能力や仕入れの上限ではなく、市場が受け入れてくれる上限数)
需要の限界は、国の統計情報などを手掛かりにして推測します。例えば、あなたの会社がiphoneのスマホケースを扱っているとします。
iphoneのスマホケースの需要は次のような手順で推測できます。
- 日本人の10代以上(外国人を含む日本在住者)の人口を調べる(10代以前は、スマホを持っていないという仮定です)
- 1人当たりのスマホの保有台数を調べる
- スマホ需要のうち、iphoneとAndroidの割合を調べる
- スマホケースの利用率
- 買い替え頻度
この5つで、日本国内で必要なiphoneの保有台数とスマホケースがどれだけ使われているかがある程度推測できます。
また、特定のプラットフォームのみで販売している場合(例えば、楽天市場だけでスマホケースを販売している)でしたら、楽天市場の総ユーザー数と買い替え頻度がわかれば、スマホケースの総供給上限がわかります。
次に、自社のシェアがわかれるのであれば、シェア率をかけます。
そうすれば、自社の販売総量(=仕入れの総量)がある程度わかります。
ちなみに、あなたの会社で1000種類以上の商品を扱っていたとしても、総需要を知ることで、あなたの会社が仕入れてもよい総量を知ることができます。
1000種類の商品の仕入れ予定数が、あまりにも需要数をかけ離れて多すぎると、まず間違いなく売れ残ることがわかります。
仕入れ先の供給能力の上限を知る
あなたの会社の仕入れ先は、あなたの会社の要求を100%こたえてくれるでしょうか?
仕入れ先にも供給の限界があります。さらに、おそらく他社にも商品を供給していますので、供給能力を全てあなたの会社に振り向けることもできません。
つまり、仕入れ先の供給能力によって、あなたの会社が生産・販売できる上限が決まる場合もあります。
製造業は自社の生産能力で供給数が決まる
製造業の場合は、販売数だけではなく自社の生産能力の限界があります。
おそらく需要総数よりも生産能力の限界によって、供給量が決まるでしょう。
製造業の場合は、自社の生産能力を知ることが必要ということがわかっていただけると思います。
データ分析を実施する
データがたまったら、いよいよデータ分析を実施します。
データ分析をやるときの定石が2つあります。
1つめは、まずはざっくりからスタートすることです。
- 商品であれば、1つ1つの商品の分析ではなく、商品カテゴリー
- 1日単位ではなく、週単位や1か月単位
といったように、まずは大きなところから分析します。
大きなところから分析をすることで、カテゴリー等でざっくりと大まかに見ることで動きの傾向を把握できます。
たとえば、アイスクリームは夏場に売れ行きが伸びやすい。
というのは、アイスクリームというカテゴリーで見た時の傾向です。
個々の商品で見ると傾向は変わってくるかもしれませんが、傾向としては参考になりますし、外れも少ないでしょう。
データ分析の優先順位を決める
発注や在庫管理では、数点の商品や部品を担当することは少なく、数百点、多ければ数千点を担当することになるでしょう。全ての品目に対して時間をかけることは難しいです。
そこで、担当している商品全てではなく、重点管理をしなければいけない商品をデータ分析の対象に絞り込みます。
重要なものを見つけるには、ABC分析を使うと良いでしょう。(ABC分析のやり方)
ABC分析の指標には様々なものがありますが、お勧めの方法は以下の2点です。
- 単価によって優先順位をつける
- 商品寿命によって優先順位をつける
単価(在庫金額)によって優先順位をつける
一番ポピュラーなのは、在庫金額や単価の多い品目に管理の重点を置くことです。
たとえば、
- A:1つ10万円するエンジン
- B:1つ2円のボルト
あなたでしたら、どちらに力を入れて管理をしますか?
間違いなく、「A」でしょう。Aは過剰在庫になっても、欠品してもリスクがあります。
商品寿命によって優先順位をつける
次の優先順位のつけ方は、商品のライフサイクルによって決める方法です。
商品のライフサイクルは、
- 成長期:販売数が伸びて行っている状態
- 安定期:販売数が安定している状態
- 衰退期:販売数が徐々に減っていって売れゆきが悪くなっている状態
成長期は、まだ商品の売れ行きが読みにくい時期なので、この時期を重点管理期間にします。
安定期は、過去のデータもたまってきており、売れ行きも安定しているので重点管理から外して簡易的な管理にします。
売れ行きが徐々に停滞してきたら、衰退期のサインです。今後の商品の取り扱いや在庫の持ち方を決めて過剰・滞留在庫にならないようにしたうえで、簡易的な管理を続けます。
データ分析は時系列と相関の2つ
データ分析は大きく分けて、時系列分析・相関分析があります。
- 時系列分析:時間経過にともなって変化するデータを分析すること(毎月の売上データの推移などが時系列データになります)
- 相関分析:2つ以上のデータの関係性の強さを分析すること(例えば、気温が高いほど、アイスクリームの売上が増えるのか?等)
まずは上記のような簡単でエクセルで分析できる範囲で良いでしょう。
お勧めは、下記3つの方法です。
- ピボットテーブルによる集計
- 時系列グラフの作成
- 散布図によるデータ間の相関の確認
上記の方法でデータ分析を実施して、影響がありそうな要素と影響度を調べます。
ある程度、仮説の目星がつけば十分です。
それ以上の専門的な統計分析は、分析の専門家に依頼したほうが良いでしょう。
データのクレンジングや整形はパワークエリを使うと効率的
データ集計をする前にデータを整えたり、無駄なデータを削除したりしていませんか?
それをデータクレンジングといいます。
データクレンジングは意外と時間がかかる作業です。
この作業を劇的に短縮してくれる機能がエクセルに搭載されました。
それがパワークエリです。
分析用データを作るだけでかかっていた膨大な時間をパワークエリを使うことで、想像以上に短縮できます。
私も、パワークエリを使うようになってからデータのクレンジングや整形にかかっていた時間が60分から10分まで劇的に短縮できました。すごくおすすめです!
データの分析結果を検証する
データ分析によって様々な結果が得られます。
ここで忘れてはいけないのは、データ分析が目的ではなくて、需要に与える要素とその影響の大きさを知って、適正在庫に役立てることが目的だということです。数字遊びにならないように気をつけましょう。
データ分析の結果を見て検証すると次のようなことが見えてきます。
- 影響を与えると思っていたことが実はそんなに関係がなかった。
- 予想通り影響を与えていることが分かった
- 影響の大きさがわかった
等です。
当初の仮説があっていれば、それをそのまま採用すれば、発注情報として役立てることができるでしょう。
逆に、当初の仮説が間違っている(思い込みだということがわかった!)のであれば、別の要素でデータ分析を行うと良いでしょう。
私が考えるデータ分析で得られる一番の効果は、
データ分析という客観的な事実を知ることで、単なる思い込みに気づけ、考えを補正できるということだと思っています。
これまで、在庫管理の相談を多数受けてきた経験上、思い込み(過去の経験や起こったこと)にとらわれすぎているということがとても多いのです。
例えば、過去に大量の受注を受けた経験があり、その思い込みから安全在庫を多めに設定していた・・・という方がいらっしゃいました。
実際に、データ分析をしてみると大量の受注を受けたのは、もう5年も前の話であり、その後1回も同じような大量の受注はもらっていない・・・
という事実がわかり、安全在庫を減らせたという事例があります。
思い込みは、過剰在庫になる最も大きな原因のひとつと考えています。
設定の見直しを行う
設定した条件が、ずっと続くことはありません。
社会の変化によって、需要の動向は変わります。適切なタイミングで見直しが必要です。
変化の激しいものであれば3か月に1回程度、安定しているものでも少なくとも1年に1回は見直す必要があります。
また、そのほかにも、需要や仕入れに、影響を及ぼすことが起こった時も見直すタイミングです。
直近の大きな出来事は、コロナウイルスの流行でしょう。
コロナウイルスの流行前と流行中は、さまざまなものの需要が大きく変化しました。
一番わかりやすいのは、マスクでしょう。
コロナウイルスの流行前は、花粉症やインフルエンザ等の、いわゆる季節的なイベントの影響を大きく受ける商材でした。
しかし、コロナウイルスの流行してからは、常備品になり、季節性はほとんどなくなりました。
上記のような場合、コロナウイルスの流行前のデータを使って、マスクの発注数を決める、適正在庫を決めるのは、まったく無意味です。
データ分析をやってみませんか
この記事では、データ分析の入り口部分を解説しました。
具体的なデータ分析は、難しいことをやらずにまずは簡単にやってみることをお勧めします。
データ分析をできるようにしたいので教えてほしい、データ分析ができるシステム作りをしたいといった
データ分析に関するご相談をお気軽にお寄せください。
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