製造業では、PSI管理という言葉が使われます。
PSIとはP(生産・調達)、S(販売)、I(在庫)のこと。
製造・調達・販売が連携を取って業務が遂行されます。
工場が国内にあれば、問題の特定は容易ですが、海外に工場、販売拠点、販売会社があるとより複雑になります。
理由は各市場の特性、言語、通貨、競合相手も異るためです。
目次
システムでは解決できない問題とは?
システムは導入したが、サプライチェーンが上手く機能していない。
在庫の過不足、欠品問題等を抱えているのはなぜか?
約束した注文が予定通りに届かない。
問題は、大きく3つあります。
組織上の問題、人のスキルの問題、システムの問題
組織と人に関係する課題に着目することです。
一般的にサプライチェーンの慢性的課題とは?
販売予測精度と約束納期遵守率は車の両輪のようなものです。
販売側は、製造側/供給側に約束納期遵守を求めます。
品切れを恐れて、安全在庫を持つようになります。
製造側/供給側は販売予測に基づいて最適な計画を立案。
リスクを恐れて、余分な在庫を持つようになります。
売り手市場の時代は、バッファー在庫に意義がありました。
しかし買い手市場の今、バッファー在庫は死蔵在庫にもなります。
重要な管理指標と位置付けて、改善活動を行う
- 販売予測精度:販売の長の管理指標
- 約束納期遵守率:製造・供給又は物流の長の管理指標
販売予測精度の管理方法
有益な指標にするため、指標は単品毎に設定します。
また目標と実際との乖離は、絶対乖離値を使うことです。
売上の販売予測であれば、売上全体の金額で構いませんが、それはオペレーションでは通用しません。
プラス要因とマイナス要因が相殺されるからです。
仮に同じデザインでも色が3色、サイズが5サイズあれば、品数は15品種となります。
その各々の生産・仕入、販売、在庫が重要であるからです。
合計だけを見ると販売見込精度100%達成という評価になります。
しかし、実際、商品Aは品切れ、商品Bは不稼働在庫リスク。
商品毎の乖離は+80%、販売予測精度△80%となります。
合計は商品別の乖離率の絶対値を加重平均で算出するとゼロ。
SCMの構造上の課題は要因分析が何よりも重要
管理指標は、本来、改善のために使われるものです。
販売予測を大きく外した原因はどこにあるのか
ワースト5について以下を確認することです。
下記は下振れした時の要因です。
- 流通在庫(店頭在庫)過多
- 価格問題発生
- マーケティング問題発生
- 配送上の問題
- 与信管理上の問題
サプライチェーンでは上振れ、下振れも同等に扱うべきでしょう。
バッファー在庫を常習化するとオペレーションは脆弱化し、在庫も増えます。
約束納期遵守率の管理方法
たとえば、100台の注文が入ったとします。
納期に間に合うのは70台のみで30台は次回納品。
製造側が販売側に70台と回答したとします。
営業はその旨、取引先に伝え、店頭ではお客様に伝えます。
これが約束になります。
70台出荷できれば、遵守率は100%
ただし、オーダーヒットレートは70%になります。
100台注文が来るものと思って、バッファーを用意すると、外れた時には在庫となります。
製造側/物流側は初回に約束した数量を遵守できるかにどうかを指標とします。
約束納期遵守率の乖離要因の分析が何よりも重要
約束納期遵守率を大きく外した原因はどこにあるのか
(委託生産をしているケースを想定)
ワースト5について以下を確認することです。
- 生産遅延
- マンパワー不足
- 部品不足
- 品質問題発生
- 物流上の問題
中国含むアジア諸国に生産委託している場合の留意点
私の経験からいくつか挙げられます。
- 注文を何でも受けてしまう体質
- 生産計画、調達計画の立案が杜撰
- マンパワー計画の不備
- 部品の調達が思うようにいかない
- 物流費を抑えるため、船の頻度を遅らせる
- 正確な納期回答ができない
工場ごとの管理指標をそろえることです。
事実を把握した上で、改善案を提出させる。
約束納期遵守率は、OEМ先にとっては負担になりますが、QCD(品質、コスト、納期)の重要指標と位置付けることです。
販売予測精度と約束納期遵守率はどの様な業界で適用できるのか?
これら指標は、変化対応型の業界では不適切です。(食品、コンビニ業界)
見込み生産、見込み仕入をしている業界になります。
売り手市場型のやり方が通用する市場、業界といってもいいのかもしれません。
低在庫を目指すためには、バッファー在庫を減らすことが重要です。
管理の頻度はどれくらいが適切か?
販売予測精度はまずは月次、約束納期遵守率は出荷のタイミングに合わせて、週次か月次かを決める。
すべて金額ではなく数量がベースになります。
月次での情報開示
販売予測精度と約束納期遵守率のどちらも所属長の重要指標KPIです。
全社的な開示が求められます。
販売予測精度は月次を、約束納期遵守率はデータが週であっても月次に置き換えて平均数値をとります。
また販売会社、事業所(含むОEМ)にはワースト5について要因分析と対策の提出を求めます。
両者ともサプライチェーンの改善項目として評価することが求められます。
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