在庫管理管理アドバイザーの岡本です。
今回は、適正在庫の実現と生産性向上には欠かせない発注業務の最適化を解説します。
普段、過剰在庫や欠品についてご相談を受けることが多いのですが、
その中で気になっているのは発注方法です。在庫管理がうまくいっている会社と、そうでない会社には、在庫の精度が悪い、2S(整理・整頓)ができていないというほかに、発注方法にも大きな違いがあります。
過去に発注業務の改善で、
- 1人当たり1.5時間かかっていた発注業務を30分に短縮
- 毎回A3サイズの在庫表5枚を見ていたものを2枚に削減
を実現し、発注業務効率を上げたことがあります。そういった事例も踏まえて、解説します。
目次
発注が効率的な会社とそうでない会社の違い
在庫管理がうまくいっている会社(発注業務が効率的)は、
- 発注方法:複数の発注方法を持っている・・・発注にかける時間を減らしている。
- 主に発注業務をやる人:パートやアルバイトなどのいわゆる経験が浅い人・・・コストを抑えている
一方で、在庫管理がうまくいっていない会社(発注業務が非効率)は、
- 発注方法:や1つ(もしくは発注方法という意識がない)・・・時間がかかっている
- 主に発注をやる人:ベテラン社員・・・人的コストが高い
つまり、発注を効率的にやっている会社は、発注にかける時間を減らしつつ、人的なコストも抑えています。
在庫管理がうまくいっている会社は、「発注はベテランの仕事ではない」と言い切ります。
逆に在庫管理がうまくいっていない会社は、「発注は慣れた人にやってもらわないと不安だ」といいます。
この差は、発注をうまく仕組み化して、発注業務を簡素化できているかどうかで生まれます。
まず、発注業務を何とか改善したい会社は、
発注業務の80%(全商品(部品)の80%)をベテランに頼らずパートやアルバイトにやってもらうことを目標にすると良いでしょう。
これを実現すれば、発注業務が属人化せず、担当者が変わっても同じ判断基準で発注ができるようになるため、発注数の急増や急減が起こりにくくなります。
4つの発注方式でメリハリをつける
在庫管理がうまくいっていない会社は、少ない発注担当者がひとつひとつ発注をしているため、負荷がかかりすぎています。
- 発注作業に時間を追われている
- 十分に発注数を決める分析をする時間がない
発注数をじっくりと考える時間がないので、見落としが起こってしまったり、需要の変化をとらえきれず、過剰在庫(不良在庫)や欠品が起こります。一方で、在庫管理がうまくいっている会社は、発注方式を複数持つことでメリハリをつけています。
メリハリの付け方は次を参考にしてください。
- 時間をかけて発注数を決めるもの(発注に時間がかかる)
- 時間をかけずに発注数をきめるもの(発注に時間がかからない)
- 依頼があったら発注するもの(発注に時間がかからない)
- 在庫を持たないもの
この中で、発注に時間がかかるのは実質1だけです。それ以外は、ほとんど時間がかかりません。
つまり、1をベテラン社員に任せ、それ以外の2~3を全てパートやアルバイトなどの経験の浅い人に任せる(もしくは自動化)すると良いです。
1.在庫を持つ、持たないを決める
まず、在庫を持つ、持たないの基準を決めます。
基準になるのは、主に使用(販売)の頻度です。ここで注意したいのは、数量ではなく、頻度ということです。
頻度が高いものは、使用・販売する確率が高いため在庫を持つという判断をします。
2.時間をかけて発注するかどうかを決める
時間をかけて発注するものとは、「発注数を担当者自身が決める必要があるもの」という意味です。
これに属する品物は、ある程度発注に関する経験が必要です。そのためこれをベテランや社員が担当することになります。
どういうものが対象になるかというと、以下の3点です。
- 発注する時期が決まっているもの・・・・船便で運ぶもの、発注する曜日や日付が決まっているもの
- 納期が比較的長いもの・・・納期が60日(2か月)を超えるようなもの
- 過去に実績のないもの・・・新商品やイベントなどの企画で発注するもの
これ以外のものは、原則時間をかける必要はありません。発注数を決める必要がないので、パートやアルバイトなどに任せることができるのです。時間をかけずに発注するものは、発注点発注やダブルビン発注を利用します。
3.在庫を持たないものの発注のポイント
在庫を持たないものは、「発注しないもの=廃番」を決めるのが、一番良い方法です。
在庫管理がうまくいっていない会社は、残念ながら廃番を決める仕組みが整っておらず、担当者が誤って発注してしまったり、10年以上残り続けている滞留在庫が発生します。
発注業務を改善した会社の事例
私がコンサルティングをした会社の事例です。
会社情報
- 多品種少量の商品を扱う卸売業
- ほぼ全商品を海外から輸入
- 従業員数は20名程度、発注担当者は1人
発生していた問題は、
- 発注担当者の代わりがいない
- 欠品が多い
- 発注しっぱなしになっている
といったようなものです。
発注担当者は忙しすぎて、手が回りきっていませんでした。ただ、商品の粗利が高いため、会社として深刻な状態に陥っていませんでした。しかしながら、航空便を船便に変えることによる物流費の削減、ベテラン担当者の代わりが必要ということで、将来のために改善を実施しました。
改善方針は以下の3つです。
- 船便で発注する商品点数を増やして物流費を削減する
- 他の人でも発注できるようにする。(発注担当者の負荷分散と、属人化防止)
- 発注方法の見直しができる体制を作ることによる在庫の適正化
品物を販売頻度で分類する
まず、品物を分類しました。これまで伝えた3つの方法に従います。
- 在庫を持ち、時間をかけて発注するもの:発注頻度が高く、かつ販売数量も多いもの:船便にする
- 在庫を持ち、時間をかけずに発注するもの:発注頻度が高いが、販売数量は少ないもの:従来通り航空便
- 在庫を持たず、受注時に発注するもの:発注頻度が低く、販売数量も少ないもの:従来通り航空便
- 在庫を持たず、発注もしないもの:カタログ落ちした商品
発注頻度が高い、低いに関しては、12か月のうち、販売した月が6か月以上ある場合は「頻度高」にしました。(この会社は、月次ベースで仕入れをしているため。本当は、週次ベースでの仕入れを目指すため中間ステップとなる)
物流コストを抑えるために船便を増やすことが最大の目的だったので、発注頻度だけではなく、販売数量の多さも重要な指標になりました。また、船便は航空便に比べて、調達リードタイムも長くなり、船が遅れるリスクも高いため、在庫も多くなりがちです。したがって、高額品はこれまで通り航空便を使うことで、在庫リスクを低減しました。
持つべき在庫(発注点・安全在庫)を決める
次に着手したのが、「在庫を持ち、時間をかけずに発注するもの」の在庫を決めることです。これまでの販売実績をもとに決めました。するとわかったことが、大半の在庫数が5個以内に収まったのです。これまでの販売数量を改めてじっくりと見てみると、1か月で1~2個といった少量品が全商品の半数以上を占めていたことでした。こういった発見があったのも発注改善に取り組んで得られた成果でした。
また一部の商品はいわゆる季節品(季節によって売れ行きが変わるもの)でした。季節品は、季節に応じて持つべき在庫量を変えないと、過剰在庫や欠品が必ず起こります。そのため、「季節品」をわかるようにしておいて、季節の変わり目に安全在庫量を修正するというオペレーションを加えました。
システムの導入では発注業務は楽にならない
発注業務の効率化(省力化・自動化)を実現しようとしたときに真っ先に思いつくのが在庫管理システムや販売管理システムです。
システムに搭載されているMRP(定期不定量発注の一種)や発注点を使えば、過剰在庫や欠品が無くなります。と、発注方法を変更することを売りにしたものがあります。しかし、これは大きな間違いです。
むしろ、安易は自動化は、過剰在庫や欠品を多発する原因になります。システムは設定値が命なので、設定ミスや放置が大惨事を引き起こします。システム会社に発注が楽にならないとクレームを入れたとしても、「きちんと設定すればよくなりますよ」といわれるだけです。
残念ながらシステム会社の担当者は発注業務をやったことはありません。どうすればいいかという知恵は持っていません。
モノには、様々な需要や仕入れ方があります。それぞれに適した方法を選択しなければいけません。
したがって、たった一つの方法で、発注が劇的に改善することはありえませんし、逆に適さない発注方法によって欠品や過剰在庫の原因になります。
自動発注は適正在庫、発注の手間を省くのに役立つか?
自動発注で実現できるのは、「発注を楽にする」ことであって、過剰在庫や欠品を防ぐことはできません。
需要や仕入れ方に応じて複数の発注方法を持ち、維持する仕組みを作る。そのうえで、システムを導入するのはとても良いです!
もちろん、システムを導入して維持する仕組みを作ることも可能です。
自動発注をすれば、適正在庫が実現できるのではなく、自動発注のロジック(計算の仕組み)を最適化して維持することが適正在庫を実現するカギです。
発注業務の効率化、適正在庫にお悩みの方へ
- ベテランしかできない発注業務を効率化して誰にでもできるようにしたい
- 発注業務のかかる時間を減らしたい
- システムを導入して発注を楽にしたい
在庫管理110番では、発注に関する改善やシステム導入のご相談を無料で受け付け中です。
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