在庫管理アドバイザーの岡本です。
あなたの会社では、期末の棚卸資産をどのような評価方法で算出していますか?
実は評価方法によって、決算時の棚卸資産の金額が大きく変化してしまう危険性があります。
決算の棚卸資産の金額が変わってしまうと、それに伴い利益や税額も変わります。
さらに、棚卸資産の評価方法によっては、業務管理が煩雑になってしまったり、お手元の会計システムが対応していないこともあります。
会社として効率の良い在庫管理と、無駄な税金を支払わないようにしようとすれば、棚卸資産の評価方法は、戦略的に決めなければいけません。
そこで今回は、棚卸資産の6つの評価方法と自社に合った選び方について解説します。
なお、棚卸の実務について知りたい場合は、以下の記事で詳しく解説しています。
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目次
棚卸資産の評価方法は自社で決めることができる
一般的には、事業を開始する際に事業主が評価方法を決めることができます。(※最初の確定申告書を提出する期限までに決定する必要があります。)
以下、国税庁ホームページの抜粋です。
- 普通法人を設立した場合は、設立第1期の確定申告書の提出期限
(合併により設立された法人が法人税法第72条に規定する仮決算をした場合の中間申告書を提出するときは、その中間申告書の提出期限)まで- 公益法人等及び人格のない社団等が新たに収益事業を開始した場合は、新たに収益事業を開始した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで
- 設立後(又は収益事業開始後)新たに他の種類の事業(又は収益事業)を開始し、あるいは事業(又は収益事業)の種類を変更した場合は、他の種類の事業(又は収益事業)を開始し、あるいは事業(又は収益事業)の種類を変更した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限(法人税法第72条に規定する仮決算をした場合の中間申告書を提出するときは、その中間申告書の提出期限)まで
(注)連結親法人については、法人税法施行令第155条の6の規定によって提出してください。
また、外国法人については、法人税法施行令第188条第3項の規定によって提出してください。
税理士に任せっぱなしだと自社に有利な評価方法になっていない恐れがある
中小企業の場合、税理士にいわれるがままに棚卸資産の評価方法を決めていることが多いです。
税理士は、必ずしもあなたの会社に最適な評価方法を選定しているとは限りません。
あなたの業種で一般的に採用されている棚卸資産の評価方法だったり、単純に税理士自身が処理しやすい評価方法だったりします。
実際に大切なのは、あなたの会社にとって有利な棚卸資産の評価方法でなければいけません。
棚卸資産の評価方法は、変更することも可能なので、今からでも遅くありません。
自社に有利な棚卸資産の評価方法を選定しましょう。
次に、選択できる棚卸資産の評価方法をご紹介します。
棚卸資産の6つの評価方法
棚卸資産の評価方法は次の6つです。
- 個別法
- 先入先出法
- 総平均法
- 移動平均法
- 売価還元法
- 最終仕入原価法
各評価方法の取り入れるメリット・デメリットに加えて、各評価方法が一般的に取り入れられている業界について、それぞれご紹介します。
個別法
各仕入の取得金額によって、個別に一点ずつ棚卸資産を評価する方法です。
入荷する品が明確に分かっており、取扱い数量が少ないような、管理が比較的容易にできる企業に向いています。
商品の物流に忠実であることが特徴ですが、それゆえ管理に手間がかかるため、多くの品種と数量を扱う製造業には不向きかもしれません。
不動産業界や小売業の中でも骨董品店など、少数の高額な商品を個別に扱っている業界に向いているでしょう。
先入先出法
先に調達したものから順番に出荷(払い出し)されると想定する方法です。
そのため、決算期の棚卸資産は期末の時価に近い金額で評価されます。
特にデフレ時は、モノの価値が下がるので期末になればなるほど取得価額が低下し、節税効果につながります。
逆にインフレのケースでは、期末になればなるほど取得金額が高くなるので、棚卸資産の取得価格が高くなる可能性があり、棚卸資産金額が多いと評価され、税金が増えてしまいます。
総平均法
期中に仕入れた部品の取得金額の合計を総数量で割って平均値を算出し、一つひとつの取得価格とする方法です。
先入れ先出し法のように、期首・期末で原価が大きく変わることが無いため、期末の在庫金額が予想しやすいの特徴です。
ただし、期中の全取得金額の平均値で、棚卸資産を評価するため、取得金額を全てきっちりと記録しておかなければいけないことが注意点です。計算量が膨大なので、エクセルだと処理しきれない場合があり、システムが必要になるほか、期末まで在庫金額が確定できないのが難点です。
移動平均法
部品を仕入れるたびに、それまでの取得価格の合計と、新たに仕入れた部品の取得価格の合計を在庫の総数量で割って、その部品の単価とする方法です。
総平均法と異なり、常に最新の在庫金額が即座に分かります。
しかし、仕入の度に価を算出しなければならないので、事務処理が煩雑になる点で注意が必要です。
システムがなければ計算が難しい方法なので、excelのみで在庫管理している企業には不向きといえるでしょう。
売価還元法
棚卸資産の金額を売価×原価率で評価する方法です。
原価率は以下の式で算出されます。
原価率の計算方法
原価率=(期首棚卸資産額+当期仕入れ総額)÷(当期売上高+期末棚卸資産の通常の販売予定価格)
取扱い商品の多い、小売業や卸売業で採用されることが多い方法です。
最終仕入原価法
部品の単価を期末に最も近い時期に仕入れたときの取得価格を棚卸資産の単価とする方法です。
部品の受け払いをその都度記録する必要がなく、事務処理もとても簡単なので効率化が図れる、多くの企業が採用している方法です。
一方で、期末まで取得価格を算出できないため、予測しづらいというデメリットがあります。
ちなみに、最終仕入原価法は税法上の法定評価方法です。評価方法の届け出を税務署に行わない場合は、最終仕入原価法で棚卸資産の期末評価を行うこととなります。
もしかすると、知らず知らずのうちに最終仕入原価法になっている可能性も考えられます。
しかし、冒頭で説明したとおり、最終仕入原価法があなたの会社に最適だとは限りません。
届け出が面倒・事務作業が楽だから・・・という理由だけで選択しないようにしましょう。
棚卸資産の評価方法の選び方|4つのポイント
以上、6つの評価方法をお伝えしました。
それぞれの方法に特徴があり、一長一短あるので、どうやって選択すれば良いのか悩むと思います。
基本的には、自社に有利な評価方法か、そして選択した評価を実現することが可能かどうかという観点から選択します。
どの評価方法を選択すれば良いのか、4つのポイントをお伝えします。
- 業種と商品特性:商品の性質や業界特有の慣習に応じて最適な方法を選択します。
- 価格変動の影響:価格変動の大きさに応じて、最も利益計算に適した方法を選びます。
- 税務上(税負担)の考慮:税負担を考慮して、利益の計上をコントロールするために適切な方法を選びます。
- 会計基準の遵守:各国の会計基準に従って適用可能な方法を選びます。
- システムの整備状況:選択した評価方法が実現可能なこと。
業種と商品特性
- 賞味期限がある食品のような商品や材料を主に扱っている場合:先入先出法(FIFO法)が適しています。古い在庫から順に販売するため、廃棄リスクを最小化できます。
- 材料や部品の価格が比較的安定している場合:総平均法や移動平均法が適しています。価格変動の影響を平準化できます。
価格変動の影響
- 骨董品等:1点1点の原価が大きく違い、相場などの変動も大きい場合は個別法が向いています。
- 原価が上昇傾向の場合:仕入れ値が上昇している時には、先入先出法を使用すると古い安価な在庫が費用となり、利益が高く見えます。一方、最終仕入原価法を使用すると新しい高価な在庫が費用となり、利益が低く見えます。
- 原価が下降傾向の場合:仕入れ値が下降している時には、最終仕入原価法を使用すると古い高価な在庫が費用となり、利益が高く見えます。
税務上(税負担)の考慮
- 利益の抑制:物価が上昇している時に最終仕入原価法を使用すると、最新の高価な在庫が費用となり、利益が低く見えるため、税負担を減らせます。
- 利益の増加: 物価が下降している時に先入先出法を使用すると、古い高価な在庫が費用となり、利益が高く見えるため、会社の業績を良く見せることができます。
会計基準
選択する会計基準によって、使用できる棚卸資産の評価方法が異っていたり、定義が違っていたりします。
例えば、IFRS(国際財務報告基準)においても売価還元法は認められていますが「その適用結果が原価と近似する場合 にのみ、簡便法として使用が認められる。」という条件を満たした場合にのみとされています。
システムの整備状況
採用したい棚卸評価方法があったとしても、管理・運用をできなければ実現不可能です。
採用したい棚卸評価方法が扱えるシステムを整備しましょう。
システムが無い場合は、さらに制約が大きくなります。
なぜなら、やりたくても手動では手間がかかりすぎて、実現が困難だからです。
例えば、先入れ先出し法を使用する場合は、仕入の数と原価を常に追っていかないといけないため、手間がかかりすぎて実現は困難でしょう。
一方、総平均法であれば、年間の仕入れ額を平均値を出すだけで算出可能なので、手作業でも実現できる可能性が高いです。
自社にあった在庫の評価方法は?
棚卸資産の評価方法は、4つのポイントからそれぞれ
- 事務処理の工数
- 税金
- 自社の実態に合った
を考慮したうえで、評価方法を税理士や会計士と相談して決定することがおすすめです。
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以上、棚卸資産の評価方法を解説しました。
評価には6つの方法がありますので、自社にあった評価方法を戦略的に選択することで、税金を低く抑えたり、決算時の利益を見込みやすくできるようになります。
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