仕掛品とは、部品や原材料から製品の生産途中の製造業特有の在庫です。
棚卸の際に生産途中の在庫があれば、それは仕掛品として棚卸資産に計上しなければいけません。
また、仕掛品を正しく把握することは、製品の原価管理のためにも大切なことです。
もし、あなたが経理部なら今回解説したことを製造部がきちんとやっているかどうかを確認してください。
もし、あなたが製造部なら、今回解説することを現場で実行してください。
仕掛品の基本についてはこちらで詳しく解説しています。はじめて仕掛品を学ぶ現場担当者の方は併せてご覧ください。
目次
仕掛品の棚卸資産計上はなぜ難しいのか?
決算の際に、原材料や部品、製品はきちんと棚卸して資産計上していると思います。
それは、原材料・部品や製品とはっきりと特定できるからです。しかし、仕掛品はどうでしょうか?
製造途中なので、状態が目まぐるしく変化します。
しかし、面倒だからといって仕掛品を棚卸せずに、完成品とみなして製品として計上したり、その逆に未完成として原材料や部品として計上したりすることは、会社にとって不利益になります。
仕掛品の価値とは?
仕掛品は、会社の棚卸資産です。製造業は、原材料・部品に付加価値を加えることで、製品を作って利益を得ます。
付加価値とは、現場で組み立てたり、加工したりしている人の給料や、工場の光熱費など生産に必要な人件費や経費のことです。
部品、仕掛品、製品の原価を図にすると次のようになります。
製品に必要な全ての部品や原材料に加えて労務費(加工や組立する人件費や間接部門の人件費)さらに経費(光熱費等)を加算したものが仕掛品と製品の原価になります。
部品・原材料から仕掛品、そして製品になるにつれて、付加価値(原価)はどんどん上がっていきます。
次に、仕掛品の原価は次のように増えていきます。
つまり、仕掛品を完成品として棚卸資産計上する、または仕掛品を未完成とみなして部品・原材料と棚卸資産計上をすると、
生産途中に使った人件費や経費を正しく把握できなくなります。それどころか、利益にも影響します。
棚卸資産として計上しないとどうなるか?
製造業の決算時にどのように粗利益(売上総利益)が計算されているかを図にしました。
一般的な業種(小売りや卸売業)は、青い線よりも向かって右側しかありませんが、
製造業は製造原価(当期製造原価:製品を作るのにいくらかかったか?)というものがあります。
仕掛品は、青い線よりも向かって左側(赤色のボックス)にあります。
決算の際に、仕掛品を正しく計上できないと連動して利益が正しく計上できないことがこの図を見ても分かります。
仕掛品を製品として計上する
仮に、仕掛品を製品としてカウントして棚卸資産に計上すると、期末の棚卸資産金額が増えることになります。
粗利益の計算式は、
粗利益 = 売上 ー売上原価
売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製造原価 - 期末製品棚卸高
になるので、期末製品棚卸高の金額が増えることになります。
なお仕掛品を棚卸資産として評価・仕訳する方法はこちらで解説しています。併せてご覧ください。
売上原価を計算すると、売上原価が小さくなります。
その結果、粗利益が大きくなります。
粗利益が大きくなるので、税金をたくさん支払わないといけないということになります。
本来支払う必要のない、税金を支払うのはもったいないと思いませんか?
特に、製品の完成までに長い時間がかかる場合は、仕掛品を正しく計上できていないことは大きな損失です。
仕掛品を部品・原材料として計上する
その逆で、仕掛品を部品・原材料としてカウントして棚卸資産に計上すると、先ほどとは逆で、売上原価が大きくなります。
すると、「粗利益 =売上 - 売上原価」なので、粗利益が小さくなります。
この場合は、支払うべき税金を支払っていないということになり脱税になります。
仮に、税務調査が入れば、間違いなく指摘対象となります。知らなかったでは許されず追徴課税が課されてしまうでしょう。
税金ばかりではなく、自社の製品で本当にどれくらいの利益が出ているのかが分からなることも経営上大きな問題で、どの商品が儲かっているのか?ということがはっきりと見えなくなります。仕掛品は正しく計上する必要があります。
仕掛品の数え方
では、仕掛品はどのようにカウントして計上すればよいのでしょうか?
次が仕掛品を棚卸資産として計上する手順です。
- 工程を決める
- 品番を決める
- 開始で落とすか、完了で落とすか?(原価の決め方)
順を追って解説します。
①工程を決める
部品・原材料、製品と違って、仕掛品は会社で「定義」する必要があります。
定義に必要なのは、工程です。
製品は様々なプロセスを通って、製品になります。
それらは、「工程」と呼ばれます。
工程がきちんと「定義」されていなくても、暗黙の了解で何となく決まっている
と思います。まずはそれを「工程」として定義すると良いでしょう。
例えば、
部品・原材料→工程1→工程2→工程3→製品
というプロセスのものがあったとします。
棚卸をする時点で工程2が終わっている状態であれば、
工程2の仕掛品としてカウントします。
②品番を決める
部品・原材料や製品には、「品番」がついているはずです。
しかし、仕掛品には「品番」が無いはずなので、同じように品番を採番します。
先ほどのような「部品・原材料→工程1→工程2→工程3→製品」という
プロセスをたどるのであれば、工程1、2、3についてそれぞれ仕掛品の品番を設定します。
③仕掛品の原価の決め方
仕掛品の原価は主に
- 仕掛品に含まれる部品や原材料の費用
- 仕掛品を作るのにかかった人件費
- 光熱費などのその他費用
があります。
1は、各工程で使用する部品や原材料の仕入れ値の合計の積み上げなので分かりやすいでしょう。
2は、主に作業員の労務費(給料)なので、その工程にかかった時間に給料を時給換算したものを掛け算すれば良いです。
3については、その工程にいくらかかったのかを正確に出すことは難しいです。
いくらかかったのかを計算することができる費用を「直接費」、そうでない費用を「間接費」といいます。
光熱費などは計算しづらいので、間接費として扱い、「配賦」という方法を使って費用を案分して割り当てます。
例えば、1か月の工程1にかかった光熱費を計算するとします。
仮に、1か月の光熱費 1,000,000円として、製品Aの工程1の仕掛品の費用を
- 製品Aを50台
- 製品Aを1台作るのに、10時間かかる。
- 工程1は、2時間で完了する
製品Aを1台作る時の工程1にかかる光熱費は、
1000000 ÷ 50 ×20%(2/10)=100000円
となります。
なお、1か月に生産する台数に変動があれば、「配賦」が変わりますので、
仕掛品の原価は変わります。
仕掛品と原価管理システムの関係
製造業が在庫管理をする理由の一つとして、「正確な原価を知りたい」という
目的があります。そのために原価管理システムの導入を検討することが多いようですが、
これまでご説明したように、
- 工程を決める
- 工程ごとに必要な部品・原材料を決める
ということをしなければいけません。
システムを入れたら原価管理ができるというのは半分本当ですが、
半分は嘘です。実際に、原価管理ができるシステムを入れていてもうまく運用できている
会社は少ないでしょう。
原価管理をきちんと行うためには、システムの導入は不可欠ですがそれ以前にやるべきことを
きちんとやらなければいけません。
システムによる仕掛品の計上方法
システムによる仕掛品の計上方法は、先ほどの3つのほかにもう一つ
やらなければいけないことがあります。それは、開始・完了の入力です。
工程の開始と完了を入力することで、その工程にかかった時間を計算します。
これがもう一つのハードルになります。
きちんと、工程も必要な部品も設定した。
しかし、肝心の開始・完了入力ができていないと、システム上で仕掛品が計上されません。
作業員をきちんと教育をして開始・完了入力を行ってもらうか、IoT技術などを活用して、
開始・完了を自動的にとれる仕組みを作ります。
仕掛品を棚卸しない方法
いかがでしたでしょうか?
ここまで、
仕掛品の棚卸は思った以上に面倒です。
できれば、仕掛品の棚卸をしたくないのではないでしょうか?
仕掛品をカウントしなくても良い方法が1つだけあります。
棚卸の時に、仕掛品を出さないように、製品として作り切ってしまうか、
それとも生産に着手せず、部品・原材料のままで置いておくかのいずれかです。
そのために必要なことは次の3点です。
- 生産計画を作成して場当たり的な生産をやめる
- 生産計画を守り、遅れが出ないようにする(遅れたら仕掛品が発生する)
- 営業・お客様の調整(棚卸の日や直後などの出荷要請が出ないようにする)
生産計画については、こちらで詳しく解説しています。
仕掛品を正しく計上、原価管理ができるようになりたい
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- 仕掛品が棚卸資産として計上できていない
- 原価管理ができるシステムを入れたが運用できていない
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