棚卸減耗・商品評価損の仕訳方法と基礎知識|会社に与える影響から原因と対策・方法も解説

棚卸減耗の仕訳方法と原因・対策

    在庫管理アドバイザー岡本茂靖

    筆者:岡本茂靖(在庫管理アドバイザー、日本物流学会理事)

    在庫管理、生産管理の実務経験を経て、瀬戸内scm株式会社を設立。

    在庫管理に関して200社以上の個別相談、コンサルティング・システム導入を行っている。

    所属団体、著書・寄稿、外部発表・講師

    所属:日本物流学会、日本MH協会、日本ロジスティクスシステム協会
    著書・寄稿:経費15%削減在庫管理術【基礎知識編】、在庫最適化のためのIoT活用(日刊工業新聞社)、発表:物流における在庫管理の成功事例研究(日本物流学会)、在庫の現品管理基礎、エクセル在庫管理表の作り方・使い方研修(大阪府工業協会)他多数。

    商品や部品の破損や紛失などにより帳簿上と在庫実数に違いが生じることや、品質には問題ないものの流行が過ぎてって売れなくなった商品はありませんか?

    このような場合、会計では棚卸減耗損や商品評価損として処理しなければいけません。

    単に、在庫調整をしてはいけません。

     

    さらに、実務面でも棚卸減耗と商品評価損の発生は問題です。

    例えば、あるはずの物が無かったり、使えると想定していた物が使えなかったりするので、次のような問題が必ず発生します。

    • 製造現場では生産がストップし、計画通りの生産ができません。
    • 営業・販売では、売上の機会損失や顧客の信頼喪失につながります。

    この記事では棚卸減耗と商品評価損の基本的な知識に加え原因や対策から会社に与える影響までをまるっと解説します。

    この記事を読むと分かること
    1. 棚卸減耗損の知識と仕訳方法、原因と対策
    2. 商品評価損の知識と仕訳方法、原因と対策
    3. 棚卸減耗と商品評価損を無くすために最も重要なこと

     

    棚卸減耗は帳簿上在庫数と実地棚卸数の差異があった時の処理

    棚卸減耗とは、棚卸をした際に発生する帳簿上の数量と実地棚卸数量の差異(帳簿棚卸数量>実地棚卸数量)のことです。(一般的に、棚卸減耗損、棚卸差損とも言います)

    たとえば、帳簿上で100個あると思っていたものが、実際には95個だった場合、5個が棚卸減耗の対象になります。

     

    会計上は、帳簿上を実在庫に合わせるために棚卸減耗費として処理します。

     

    棚卸減耗損の計算方法

    棚卸減耗損は帳簿上より実在庫が少ないときにのみ処理します。計算方法は以下の通りです。

     

    棚卸減耗損 = 原価 × (帳簿棚卸数量 - 実地棚卸数量)
    ※原価は1個当たりで計算するので注意してください。

    具体的な数字を当てはめて解説します。

    • 商品1個当たりの原価:10円
    • 帳簿棚卸数量:100個
    • 実地棚卸数量:80個

    棚卸減耗の計算イメージ(ボックス図)

    計算式は、

    @10×(100-80)=200
    この場合の棚卸減耗費は200円です。

    ※計算上の注意点:時価ではなく原価を使います。

    棚卸減耗損の仕訳方法

    棚卸減耗で生じた損失分は、棚卸減耗費で処理して来期に繰越す棚卸資産を減らします。

    棚卸減耗損の会計処理方法は、2パターン(売上原価に含めないケースと含めるケース)があります。

    • 売上原価に含めないケース:売上に貢献していない損失として扱う
    • 売上原価に含めるケース:利益に影響する

    結果的には同じことをやっているのですが、決算書上の見え方が変わるので、どちらの処理方法を選択するかは会社の方針によって選択しましょう。(選択は自由です)

     

    それぞれの仕訳イメージは下図をご覧ください。

    棚卸減耗の仕訳イメージ(売上原価に含める、売上原価に含めない)

     

    • 売上原価に含めない場合:損失として費用で計上。
    • 売上原価に含める場合:棚卸減耗損は売上原価に加算され、仕訳は仕入勘定科目へ振り替えます。

     

    ちなみに、帳簿在庫数よりも実際の棚卸数のほうが多い場合(帳簿棚卸数量<実地棚卸数量)は、

    棚卸差益として処理します。(棚卸減耗益とは言わないので注意!)

     

    棚卸減耗の代表的な5つの原因

    棚卸減耗が発生する原因には保管状況、輸送中、紛失や盗難、商品の取り扱い方などさまざまな要因があります。代表的な5つの原因をご紹介します。

      1. 人為的ミス
        出庫時の記録や入力の漏れ、間違い、入力ミス、転記・伝達ミスなどによって起こります。サンプルとして持ちだしたときにも起こりやすい。
      2. 品質低下
        鉄鋼類の錆などによる劣化、食品類の消費期限切れなどにより、品質保持ができず、在庫が使用できない状態。
      3. 紛失
        文字通り在庫を紛失した状態
      4. 盗難
        工場や倉庫などに部外者が侵入して盗まれること(盗難は内部でも起こり得る)
      5. 破損
        在庫の運搬中に落下させて一部を壊したり、保管中に食品の一部を害虫や害獣に浸食されていたりして、商品として使用できない状態です。

    また、棚卸減耗のより詳しい原因と対策について知りたい方は、「棚卸差異の原因7つと具体的な対策9選を分かりやすく解説」で解説しています。

    商品評価損は商品価値が下がった時の処理

    商品評価損とは、時間経過などが原因で仕入れた時よりも商品価値が下がる時に行う会計処理です。

    原価より時価の方が減少した場合に、勘定科目を商品評価損として仕訳処理します。

     

    商品評価損の計算方法

    商品評価損の計算式は以下の通りです。

    商品評価損 = (1個当たりの原価-時価)×実地棚卸数量

    具体的な数字を当てはめて解説します。

    • 棚卸時点での実数:100個
    • 1個当たりの仕入原価:10円
    • 棚卸時点の時価:9円

    上記の商品評価損の計算式は、

    (@10-@9)×100=100

    この場合の商品評価損は、100円です。

    商品評価損の計算方法(ボックス図)

    ※「原価>時価」なので逆にしないように注意しましょう。

     

    商品評価損の仕訳方法

    商品評価損の仕訳は、費用科目の商品評価損と資産科目の繰越商品で処理します。

    また、商品評価損も棚卸減耗と同様、2つのパターン(売上原価に含めない/含める)の会計処理があります。

    結果は同じですが、決算書の見え方(見せ方)が変わるので、会社の戦略によって選択してください。

    それぞれについての仕訳方法を解説します。

    商品評価損の仕訳方法(売上原価に含める・含めない)

     

    • 売上原価に含めないケース:費用として計上する
    • 売上原価に含めるケース:商品評価損の仕訳は仕入勘定科目へ振り替える

     

    商品評価損の6つの原因

    商品評価損が発生する主な原因を6つ解説します。

    1. 過剰在庫
      在庫が多すぎると、消費期限内に商品が売り切れず価値が低下します。例えば、食品関連では消費期限や賞味期限があるので、期限が近付くと値下げ、期限内に販売しきれない場合は最悪の場合廃棄せざるを得ません。
    2. 劣化
      保管状態や取り扱い方によって起こります。例えば、湿気の影響で金属類では錆が発生し、食品類ではカビが発生して価値が低下します。
    3. 季節の変化
      いわゆる季節商品が影響をうけます。例えば、アパレル全般や季節家電(扇風機やホットカーペット等)は、決まった季節にしか売れにくいです。カレンダーや手帳やイベント商材(節分、クリスマス、正月)も同じです。これらの商材は品質的に全く問題が無くても季節を過ぎると極端に売れなくなり価値が減少します。
    4. 流行の変化
      流行の変化も価値が低下する原因です。流行が過ぎるとユーザーは興味が薄れて購買意欲が低下するので売れ行きが悪くなります。例えば、ファッション性の高い商品だったり、一過性の話題にのっかるような商品はユーザーの興味が薄れると急激に売れ行きが悪くなります。
    5. 技術の進歩(モデルチェンジ、マイナーチェンジ)
      技術の進歩によって価値が低下することが原因です。例えば、スマートフォンの最新機種が販売されると、旧機種の需要が低下して価値が下がります。
    6. 需給バランス
      市場の需要と供給のバランスが崩れた場合に価値が低下することが原因です。例えば、野菜は豊作であれば供給過多になり、値崩れが起こるので価値が低下します。仮に品質が少し悪かったとしても需給バランスで価値が上昇することもあります。

    棚卸減耗と商品評価損が会社経営と現場の実務に与える3つの影響

    棚卸減耗と商品評価損が生じると、現場(販売や生産)を低下させ、結果的に会社の利益を悪化させます。

    会社や現場に与える主な影響を3つご紹介します。

     

    粗利益(売上総利益)が減少する

    棚卸減耗損が発生すると、元々想定していた利益が確保できなくなります。棚卸減耗で利益が減る理由

    上図を見ていただくと分かるように、棚卸減耗損によって粗利益が200円も減っています。

    ※粗利の減少率は40%にもなります!

     

    上図を具体的な数字を当てはめて解説します。(商品Aとして解説します)

    • 原価:100円
    • 仕入数:12個
    • 販売価格:150円
    • 販売数量:10個
    • 期首商品棚卸数:7個

     

    • 期末帳簿在庫数:7個
    • 実地棚卸数:5個(2個の棚卸減耗)

    上記の計算式は以下の通りです。

    棚卸減耗と利益の関係(計算式)

     

    粗利益が減少すれば、投資に資金を使いづらくなるため、将来の成長や効率化に必要な設備やシステムの導入などが遅れる可能性があります。

    操業損や機会損失が発生する

    「あるはずの在庫が無い」場合、棚卸減耗損が発生するだけではありません。

    • 生産現場製造では生産がストップし操業損が発生
    • 営業・販売は売上機会の損失が発生
    • 納品遅れによる顧客からの信頼低下

    もちろん、在庫を探し回ったり、挽回やクレーム対応のために普段と違うオペレーションが発生するので、効率も落ちます。余計なオペレーションによる残業なども発生するため、現場だけではなく、経営にも大きな打撃です。

     

    棚卸減耗損・商品評価損を予防する6つの方法

     

    棚卸減耗損や商品評価損の発生を最小限に食い止めるための代表的な6つの方法を解説します。

    1. 出庫漏れを防ぐ
      出庫(使用、販売、持ち出し)した際には、必ず商品名や数量を記録すれば差異は防げます。
      出庫漏れで多い原因は手書きによる作業です。システムを導入するのも有効な方法です。(棚卸ができる在庫管理システム
    2. 品質低下を防ぐ
      適切な保管場所に置く。在庫回転率を上げる(過剰な仕入をしない)ことも対策になります。
    3. 破損を防ぐ
      破損しないように、以下の対策を行えば損失は減少します。

      • 梱包方法を見直す
      • 商品の取り扱い方・運搬方法を見直す
      • 保護材を使用する
    4. 紛失を防ぐ
      紛失を防ぐ方法は以下の4つです。

      • 2S(整理・整頓)の実施
      • 定期的に数量をチェックする
      • 持ち出した際には、持ち出しチェック表などに記入する
      • 製造数と在庫使用数を日報で照合する
    5. 盗難防止
      盗難防止の方法は次の2つがおすすめです。

      • 関係者以外の入室を禁ずる
      • 在庫を取りに行くメンバーを決めておく
    6. 棚卸ミスを防ぐ
      棚卸の3大ミスは、「カウント漏れ・入力漏れ・転記ミス」です。棚卸ミスを防ぐ方法は、以下の5つです。(棚卸の精度を上げる方法はこちらで学べます

      • 2S(整理・整頓)の実施
      • 棚卸人数を増やす
      • 棚卸したかどうかを分かるようにする
      • 棚卸する、しないを明確にする
      • 棚卸ができるシステムを導入する

     

    以上、対策のポイントをお伝えしました。実施すれば、棚卸減耗損と商品評価損を最小限に抑えられるので、会社の損失は減少して想定した利益の確保ができ、現場は予定・計画通りの販売や生産ができるようになります。

     

    棚卸減耗損・商品評価損が多い・頻発する会社の4つの共通点

    これまで、様々な会社を見てきましたが、棚卸減耗費と商品評価損が多い会社に共通して多い特徴は、次の4点です。

    • 過剰在庫であり、欠品も多い
    • 在庫の置き場が決まっていない(決まっていてもその通りに置かれていない)
    • 業務の進め方がルール化されておらず属人的
    • システムが導入されていないまたは、システムが導入されていても活用されていない

    上記から効果の大きい対策は、次の2点です。

    1. 2S(整理・整頓)
    2. システムを導入して、導入するだけではなくキチンと活用する

    棚卸減耗と商品評価損を無くすために最も重要なこと

    • 棚卸減耗損(棚卸減耗費):実地棚卸数量と帳簿棚卸数量の差異により発生した損失
    • 商品評価損:商品の価値が低下したときに発生する損失

    売上原価の適正性に影響を及ぼします。さらに、操業損や売上の機会損失の発生によるクレーム対応や挽回などによって現場のオペレーションも低下させる原因にもなります。

     

    今回ご紹介したよくある原因を理解して、対策を適切に行えば、棚卸減耗や商品評価損の発生を最小限に抑えられます。

     

    自社の棚卸差異の現状を知る

    まず、やるべきことは自社の現状を知ることが大切どれくらいの棚卸差異が発生しているかを、

    • 棚卸損(帳簿数<実地棚卸数)
    • 棚卸益(帳簿数>実地棚卸数)

    合算した結果は意味がありません。

    例えば、商品AとBでそれぞれ、棚卸差異があったとします。

    • 商品A:帳簿在庫金額200円、実地棚卸金額180円 (20円の棚卸損=10%の棚卸損)
    • 商品B:帳簿在庫金額500円、実地棚卸金額520円 (20円の棚卸益=4%の棚卸益)

    しかし、これを合算すると、棚卸差異が無かったことになります。

    • 帳簿在庫金額の合算:700円
    • 実地棚卸金額の合算:700円

     

    ある会社の社長は棚卸差異率が4%だったので、「うちは差が少ないので大丈夫」と安心していましたが、

    在庫管理110番の在庫管理アドバイザーが調べたところ、棚卸損と棚卸益がそれぞれ30%近くだったので、衝撃を受けていました・・・

     

    また、棚卸差異があるのはわかっているものの、棚卸の数量が合わない、棚卸に時間がかかり過ぎているなど、どうしていいのか困っている場合には棚卸改善セミナー(棚卸精度向上と時間短縮を同時に実現するノウハウ)がおすすめです。

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    在庫管理システムを導入して効率化を促し属人化を排除する

    そもそも棚卸減耗損や商品評価損が発生する原因は、日常業務の在庫の取り扱い方や管理状況ができていないことです。

    • 担当者が個々にエクセルで管理している
    • 在庫の置き場をベテランの長年の記憶で覚えている
    • できる社員に仕事が集中して対応しきれていない
    • 在庫数の確認、置き場の確認、発注数の確認など、とにかく確認作業が多い

    この問題を一挙に解決できるのは在庫管理システムの導入です。

     

    しかし、導入を早まってはいけません。

    在庫管理110番には、システムはあるもののうまく使いこなせていないという悩みを持つ会社から多数ご相談をいただきます。

    具体的には、

    1. 自社に合う機能がない
    2. 他システムと連携できない
    3. 特定のパソコンでしか使えない

    また、導入費用が高すぎて二の足を踏んでいる企業も多いです。

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    成長する在庫管理システム

    『成長する在庫管理システム』には次の特徴があります。

    • クラウドなのでインターネット環境さえあればどこでも使える。
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    このようにお使いの管理システムに対するご不満やお悩み、または新規導入を検討されている場合でも「30日間無料で使えるお試し版」をご用意しておりますので、お気軽にご相談ください。

     

    在庫管理のお問い合わせ、ご相談

    在庫管理110番へのお問い合わせ
    今回ご紹介した棚卸減耗や商品評価損の主な発生原因は、破損や紛失、盗難など日々の在庫管理が適切に行われていないことです。また、実地棚卸のカウントミスや記入漏れなどのニューマンエラーもあり、改善できる内容はたくさんあります。

    そこで、在庫管理110番では、在庫管理の専門家があなたの疑問や質問にお答えする無料個別相談を実施しており、今までの経験を基に在庫管理に関する改善のお手伝いをさせて頂きます。

    • 棚卸減耗・商品評価損について詳しく知りたい
    • 在庫管理システムを導入(入れ替え)したい
    • 在庫管理で困っているのでとりあえず相談したい

    この他にも在庫管理に関することであれば、どのようなお悩みや困っているごとでも構いません。何度でもお気軽にご相談ください。

     

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