棚卸が終了期限に間に合わず中途半端になっている、時間がかかるといったご相談をよく受けます。
具体的な相談内容としては、
- 棚卸作業のミスが多くてやり直しに時間がかかるので、ミスをなくす方法はないか?
- 今の作業方法が非効率だと思うので、効率よく時間短縮する方法はあるのか?
- 時間短縮、間に合わないときの具体的な改善策を知りたい
期限に追われた中途半端な棚卸をすると、適当な棚卸作業になってしまったり、焦りによるミスが増え、棚卸精度が低くなりがちです。
結論からいうと、短い棚卸時間と棚卸精度の両立は可能です。
期限に間に合わない(時間がかかる)原因は、作業マニュアルの不在や個人スキルへの依存(属人化)が考えられます。
これらは非効率を招き、ミスの発見が難しくなり、作業の正確性も低下します。
この記事では、棚卸に間に合わない原因や改善策について具体例を交えて解説します。
紹介した内容を取り入れて改善すれば、ヒューマンエラーの防止や作業時間の短縮にも効果があるので、ぜひ参考にしてください。
- 棚卸が間に合わない(時間がかかる)6つの原因
- 棚卸を間に合わせる(時間短縮)5つの方法
- 棚卸ミスが発生する原因
- 棚卸ミスをなくすための3つの方法
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目次
棚卸が間に合わないと刑事責任を問われる可能性がある
そもそも棚卸は、決算期に正確な在庫金額を算出し、会社の利益として税務署に申告するために行います。
法人税法では確定申告書の提出期限は決算日の2カ月以内と決められており、棚卸期限は厳守しなければなりません。
仮に、棚卸が申告期限までに間に合わず、会社の利益として計上できなければ脱税行為になってしまいます。
なぜなら、会社の納税額は法人税法で定められており、会社の利益に対して納税額が決まります。そのため、税務署に申告した際に棚卸資産を計上し忘れたり、少なく申告したりすると過少申告として脱税行為に該当するからです。
脱税は、金額が大きい場合や悪質と判断された場合には、法人税法の「第5編 罰則 第159条」に「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定められています。
(参考サイト:e-Gov法令検索 法人税法)
以上のことから、棚卸に間に合わなければ、たとえそれが意図的では無かったとしても脱税や虚偽の申告などとされ、刑事責任を問われるケースもあるので、申告期限までには必ず間に合わせましょう。
それでは、なぜ棚卸期限に間に合わないのか、その原因と改善策をご紹介します。
棚卸が期限までに間に合わない(時間がかかる)6つの原因
期限に間に合わせるために、適当で中途半端な棚卸作業になってしまってはいけません。
棚卸は申告のために絶対に必要ですが、それと同じくらい正確な在庫の把握も棚卸の重要な役割です。
棚卸には、在庫精度を確保しつつ、棚卸を間に合わせるということが求められます。
棚卸作業が期限までに間に合わない(時間がかかる)、主な原因は次の6つです。
- 作業手順の不明確さ(作業が個人のスキル任せ)
- 棚卸作業の人数が不足している
- 在庫の2S(整理・整頓)ができていない
- 棚卸の記入内容をごまかしている
- 事務員が棚卸をしている
- 自社に合わない在庫管理システムを導入している
原因1:作業手順の不明確さ(作業が個人のスキル任せ)
作業手順が明確でなければ、個人的なスキルや判断で作業を進めるので次の問題が発生します。
- 個人のスキルによって作業内容が異なるため、作業に統一性がない
- 作業速度に違いが生じるため、要領が良い人は作業が早く、悪い人は作業が遅い
- 記入者の判断により記入方法が異なるため、数量の単位や注意事項、メモ書きの内容が違う
- 棚卸担当部署が要望している内容(数量、単位、在庫の状態など)が得られず、やり直し作業が発生する
作業手順を明確にすれば上記の問題が起こらず、誰でも同じ作業と時間で行えます。
原因2:棚卸作業をする人数が不足している
棚卸人数が不足している要因には、在庫点数と作業員数が釣り合っていない場合や、そもそも従業員が少ない場合もあります。
また、日常業務に追われて棚卸に手が回らない場合など、さまざまな要因がありますが、人数が不足すると次の問題が発生します。
- 棚卸に時間がかかる
- 焦りでカウント・記入のミスが発生しやすくなり、やり直しが発生する
人数不足は作業の遅延だけでなくミスを誘発し、在庫の正確な数量や状態を報告できない可能性があります。
原因3:在庫の2S(整理・整頓)ができていない
整理・整頓は在庫管理の基本中の基本です。在庫が整理・整頓されていなければ、次の問題が発生します。
- 乱雑な保管状態から在庫を探す必要があるため、ムダな時間が発生する
- 在庫が整理整頓されていなければ、整理しながら棚卸作業を行うので必要以上に時間がかかる
- 保管状態にも悪影響を及ぼすため、品質の良否確認に時間がかかる
2S(整理・整頓)の参考記事はこちらをご覧ください。
原因4:棚卸の記入内容をごまかしている
棚卸作業員の中には責任感のある人ばかりではなく、惰性でやらされていると感じて適当に作業する人もいます。
適当に作業する人は、わからないと思って記入内容をごまかして記入する場合があります。
記入内容をごまかせば、その時点での作業は早く終わりますが、あとから帳簿上と数量をすり合わせると、入庫・使用・出庫・在庫の計算が合わず、やり直しが発生します。
そうなると、ごまかした作業員の担当区域すべてを疑ってやり直すことになり、結果として二度手間になるので期限に間に合わない可能性があります。
原因5:事務員が棚卸をしている
棚卸の人数不足や現場作業員が日常業務に追われるなどで、棚卸に従事できないときには、不慣れな事務員が棚卸をすることがありますが、この場合には次の問題が起こります。
- 見たり触ったりしたことがない在庫を調べるため、在庫を網羅してカウント・記載できているのかは不明
- 正確にカウントできているのか定かでない
- 在庫の場所すらよくわかっていないので、在庫がわかっている従業員より時間がかかる
- 在庫の状態・品質はわからないため、良否確認はできない、もしくは正確ではない
事務員が製造・販売現場などの在庫を棚卸する場合には、自社が取り扱っている製品や原材料、部品など、現物を正確に理解できていない可能性があります。
そのため、棚卸をしても正確な数量や状態を把握できず、やり直す可能性や大幅な時間延長につながり、期限までに間に合わない可能性があります。
原因6:自社に合わない在庫管理システムを導入している
棚卸が遅れる原因には、現場作業だけが問題ではなく、導入している在庫管理システムが自社に合っておらず、入力速度やシステムの不具合などが原因で間に合わない場合があります。
- 入力前にマスター登録への追加・削減・変更などができておらず、入力に手間取り遅れる
- 記入済みの棚卸用紙が手元に揃っていないため、入力作業が遅れる
- 通常、在庫管理システムへの入力は他の業務と兼務している従業員が多く、通常業務に追われると入力が後回しになる
- 在庫管理システムの不具合・トラブル・正常に動作しないなどが原因で、入力ができなくて遅れる
- 使い勝手が悪く、入力・修正・集計などに時間がかかる
在庫管理システムの不具合やトラブルは、定期的なメンテナンスを実施することで回避できます。しかし、根本的な問題として、在庫管理システムを提供している業者のシステムは雛形のようなもので、必ずしも自社にマッチしているとは限りません。
作業時間短縮のために導入したシステムでも、使い勝手が悪ければお金の無駄使いでもあり、宝の持ち腐れです。このような悩みや問題を解決したい場合は以下の記事も参考にしてください。
在庫管理システムを導入しても問題が解決しない理由
期限内に終わらせるための5つの改善方法
棚卸を効率よく期限内に終わらせるためには、遅くなる問題点を洗い出し、解決・改善する必要があるので効果的な方法を5つご紹介します。
- 原因分析と業務プロセスの見直し
- 棚卸作業員を増やす
- 棚卸責任者の任命とチームワークの強化
- 棚卸作業者への十分な教育トレーニング
- 棚卸回数を増やす
改善策1:原因分析と業務プロセスの見直し
棚卸が間に合わない原因の洗い出し、分析、プロセスの見直しをすることで期限内に終わるので、原因の洗い出しや分析方法の手順を解説します。
【STEP1】問題点の列挙(何に時間がかかっているのか?)
- 問題の所在を、カウント、記入、システムに分類します
- 問題をできるだけ多く書き出します
問題の所在 | 問題点 |
---|---|
カウント |
|
記入 |
|
システム |
|
【STEP2】原因は何か?
それぞれの問題点に対して、分析・改善の方法を解説します。
STEP1で挙げた、各問題点に関して、「何が原因なのか?」を考えぬきます。
ブレインストーミングの手法を使って、確実なこと以外も仮説や考え得ることも含めて、できる限り多く書き出します。
(「カウント:保管場所が乱雑」を例に挙げて解説します。)
- 過剰・滞留・不良在庫が多いから
- 従業員が保管場所を守らず適当に保管するから
- そもそも保管場所を決めていないから
【STEP3】改善・解決方法を検討する
STEP2で挙げた、原因や問題に対して具体的な改善・解決方法を考え、実行してみます。(この際、100%確実でなくても大丈夫です)
例えば、「過剰・滞留・不良在庫が多いから」の場合は、
予防(過剰・滞留・不良在庫を出さない)と対策(過剰・滞留・不良在庫の処理)
- 予防:過剰・滞留・不良在庫の指標値を設けて、設定値に達したものを早期に処理する
- 対策:整理の実行(具体的な進め方は、整理の具体的な実行方法をご参照ください。)
このプロセスを進めるのに重要なのは、自社の業務を客観的に見る力です。
しかし、ほとんどの会社では、次のような考えが頭にこびりついていることが多く、客観的に見ることができないようです。
- うちの会社(業界)は、他と違って特殊(この考えは、在庫管理110番に来る99%の会社が言う言葉です)
- 昔からやっていて当たり前の習慣になっており、問題や原因とすらおもっていない
- 課題を分解できない
このような場合は、外部の目から客観的に見てもらう、一緒に考えてもらうのが効果的です。
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些細なことでも遠慮なくご相談ください!
改善策2:棚卸作業員を増やす
棚卸作業員の不足は時間がかかることが明白なので、次のことを検討しましょう。
- 棚卸作業者の増員
- 棚卸も含めたパート・アルバイトの補充
- 棚卸の専門業者に依頼する
業務上、棚卸は必要不可欠なので、やらない・遅れてもいいという選択肢はありません。つまり、上記のどれかを取り入れるか、資金を投入して棚卸業務を自動化できるようにするしか方法はありません。
しかし、棚卸未経験者に作業させるためには、作業マニュアルと教育・指導は必須です。
棚卸作業員の人数が足りているかは、計算である程度分かります。
棚卸リソースの確認方法
棚卸リソースは、棚卸時間と、棚卸人数で計算します。
- 棚卸時間:8時間
- 棚卸人数:10人
棚卸リソース=8×10=80時間
時間を分に換算します。80×360=28,800分
商品1点当たりの棚卸時間を計算します。仮に商品点数が10000点だとすれば、
商品1点つを数えるために必要な時間は、
28,800÷10000=2.9分 ※商品1つの棚卸にかけられる時間は約2.9分
もし、この時間が5秒とか10秒など、ありえない時間であれば、明らかに人数が足りないといえるでしょう。
改善策3:棚卸責任者の任命とチームワークの強化
棚卸の責任者を選任することも効果的です。
棚卸作業者が好き勝手にがバラバラに作業するのではなく、全員をまとめて作業に取り組めば、規律の良い棚卸が可能になるので、作業時間の短縮につながります。
在庫点数が多くて時間がかかっている場所があれば、責任者が人員の調整や割り振りもできるようになるので、早く終わったメンバーが応援に行き、サポートすれば作業も早く終わります。
改善策4:棚卸作業者への十分な教育トレーニング
棚卸は在庫数を数えれば良いのですが、作業者の中には責任感の強い人もいれば、残業代稼ぎをする人、ばれないと思って手を抜き、いい加減な作業をする人もいます。そのため、棚卸作業のマニュアルを整備し、棚卸作業員に対して教育トレーニングが必要です。
主な教育内容は以下お通りです。
- カウント方法
- 用紙の記入方法
- 作業時間の目安
- 在庫の状態・品質チェック方法
- 終了後の用紙提出方法
- 棚卸システムへの入力方法
- チェック方法
これらを作業員の全員に教育することで、作業内容や目安時間などが統一され、結果的に時間短縮につながります。
改善策5:棚卸回数を増やす
棚卸回数は年1回でも問題ありませんが、年4回や毎月などと回数を増やせば、それだけ作業員も作業に慣れます。
また、作業員の中には、いかに早く終わらせるかという合理性や効率性を考える人も出てくるため、意見を取り入れて作業に従事すれば時間短縮につながる可能性があります。
しかし、1年に数回棚卸をやっていて、しかもここまで紹介した改善策を行った上で、責任感を持ってマニュアル通りに作業しても大半は数量が合わず、やり直している企業は多く存在します。
その原因は、棚卸差異を根本から潰せていないからです。
特に棚卸差異が多い(在庫精度が低い)会社は、少なくとも3か月に1回以上の棚卸をお勧めします。
棚卸差異の原因になっている問題を改善すれば、そもそも差異が発生しなくなり精度が上がるため時間短縮につながります。
棚卸差異の原因や対策についてわかりやすく紹介している以下の記事も、ぜひ参考にしてください。
(棚卸差異の原因7つと具体的な対策9選を分かりやすく解説)
棚卸ミスが発生する原因と削減するための具体的な作業例
ほとんどの企業が棚卸を人海戦術で行っており、少なからず人がやることなので、ミスは発生します。
機械的なトラブルは事前点検や部品交換などでミスを回避できますが、ヒューマンエラーによるミスは人が作業している以上、完全になくすことはできませんが、少なくすることは可能です。
在庫精度が高い会社は、ヒューマンエラーの発生率が低いため、作業時間も短縮できています。
予防できれば作業時間の遅延削減にもつながるので、具体的な作業例をご紹介します。
棚卸ミスが発生する5つの原因
ミスが発生する主な原因は、ヒューマンエラーによるもので以下の内容が起因しています。
- 作業員の不注意
- 作業員間の連携不足
- 過剰な業務内容
- ストレス
- 作業員への情報共有不足
- 指示命令の徹底不足
このようにヒューマンエラーは人の精神状態と密接な関係があり、作業性は心身の健康状態に大きく左右されます。ミスをなくすためには、寝不足や人間関係など、過度のストレスを感じず作業できる環境を構築することが求められ、結果として作業性の向上および作業時間の短縮につながります。
棚卸ミスをなくすための具体的な作業例
ミスをなくすためには原因を追究し、改善策を講じる必要があるので、その方法を具体的にご紹介します。
具体例1:棚卸前に資料確認を徹底する
棚卸は毎日の業務ではないので、作業方法を忘れがちです。
作業員には、作業前に作業マニュアルと記入用紙を確認させ、決められたルールを徹底させることでミスを軽減できます。
ただし、確認させるだけでは個人の解釈によって作業に違いが発生するため、必ず、責任者がマニュアルを読み上げ、作業手順や注意事項を指導することが必要です。
情報共有ができていれば個人の勝手な判断で起こるミスも削減でき、計画的に作業を進められます。
具体例2:作業の流れを明確化した作業リスト表の作成
作業マニュアルとは別に、作業手順や記入方法などを記載した作業リスト表を作成し、作業を明確化することでミスを削減できます。
作業手順としては、次のように行います。
- 作業前にマニュアルおよびリスト表を確認しながら、作業内容を指導する
- 作業員は作業リスト表と棚卸記入用紙を持って現場に行く
- リスト表の順番に従い、棚卸を実施する
- 終了後、リスト表と記入用紙を回収する
作業リスト表が手元にあれば、作業手順の不手際や迷った際に確認できるので、ミスが軽減できて作業時間も計画通りに進められます。
具体例3:作業担当者間での情報共有を促進
作業員同士が情報共有を行えば、担当場所が早く終わった人は遅れている場所に応援に行くことで、全体の作業時間を短縮できます。
棚卸場所の分担には、次の方法があります。
- 普段から作業している場所の棚卸をその部署の作業員が行う
- 棚卸の専属チームを結成して作業を行う
- 従業員全員で作業を行う
どの方法で行っても、担当区域が早く終わった作業員が応援に回ることで作業時間が短縮できます。さらに応援に回る場合には、次の点を事前に情報共有することがポイントです。
- どの順番で作業するのか
- 担当区域が終わったらどの順番で応援に回るのか
- 応援に行く場合には品質・状態はどのように確認するのか
など、事前に情報共有しておけば、応援に回ってもミスを防止できる上に作業もスムーズに行えるので時間短縮につながります。
また、ここではヒューマンエラーにスポットをあててミスを紹介しましたが、実地棚卸で発生する作業上の具体的なミスについて、以下の記事で紹介しています。
一緒に読むことでより詳しいミスの原因を理解でき、改善に取り組めるので、ぜひ参考にしてください。
ミスのない実地棚卸をするための3つのコツと方法
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