在庫コストの見える化に成功した事例|HP社のCCC・資金繰り分析

見える化

在庫コストとは、在庫があることによって発生する費用です。
通常、物流コストとして代表的なものとして保管費用、輸送費用があります。
一般的に、物流関係者によって把握されるケースが多いようです。

今回は、在庫に起因するコストをテーマに、成功事例として米国HP社のCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)を分析してきます。

在庫起点経営コンサルタントの立場から、今までもCCCの比較分析を積極的に行ってきました。過去の記事もご活用ください。

☑業種別キャッシュコンバージョンサイクル、日本と海外の比較

HP社では、900米ドルのデスクトップに関わる費用として以下を算出してInventory Driven Costs(IDC)としての定義付けをしました。
在庫コストの例

在庫コストは売上の約13%

在庫起因コストは売上の12.7%です。
在庫起因伝統的在庫コスト(金利と保管費)を合わせても10%にすぎません。
在庫起因コストで最も大きいのは、

  • 部品評価減
  • 価格補償費
  • 在庫処分費
  • 減損

価格補償費とは、店頭在庫の値段を下げるために使われる拡販費(バタキ費用)のことです。一般的には、販売費 及び一般管理費に含まれる項目ですが、HP社では在庫起因コストとして扱っています。

在庫コストを見える化

HP社では、製品毎にこれらを「見える化」したのち、コスト改善プロジェクトを立ち上げ、主に3つの具体的施策を実行して効果を上げています。

  1. 見込生産から受注生産に切り替え、月次から週次に変更により、
    製品在庫削減、価格補償費/部品陳腐化リスクの軽減に貢献
  2. 補給型への切り替えによる流通在庫の削減
  3. Supplier-Managed Inventory供給側に在庫をシフトすることと共通部品の割合を増やすことでPCコストを約1~2%削減。

純資産収益率の改善

純資産収益率の改善
HP社は、在庫起因コストと財務指標を組み合わせて、純資産収益率を編み出しました。在庫起因コストを下げることは、費用を下げ、収益を上げるだけに留まらず、棚卸資産回転日数を下げることにより運転資本も下げ、結果として純資産収益率の改善にまでつながります。

商品サイクルが短い商品に効果的

HP社は、在庫起因コストの削減は、価格競争の激しいパソコン業界だけでなく、民生用エレクトロニクス、ファッション、食品業界等といった、商品サイクルが短く、変化の激しい腐りやすい食品業界にも適していると2005年ハーバード・ビジネス・レビューで紹介しています。

在庫コストに適切な管理項目

HP社では在庫処分費まで在庫起因コストに含めて管理されていますが、
在庫コストとして、以下の5項目が適切です。

  1. 金利
  2. 保管費
  3. 部品評価減
  4. 価格補償費
  5. 返品費用

但し、条件として商品毎にこれらの情報がデータとして
タイムリーに取得可能であるかどうかです。

仮に商品毎の情報が入手できなくとも、まずは、カテゴリー単位でもこれら情報を確認した上で、削減のための改善活動を開始することが重要となります。

HP社のキャッシュコンバージョンサイクル

キャッシュコンバージョンサイクル

最後に、直近12四半期のCCCを確認してみましょう。
2017年度の売上は前年比約12%増の6.1兆円です。

一方で、平均運転資本はマイナス3,400億円。
DSO(売掛債権回転日数)とDIO(棚卸資産回転日数)は安定していますが、DPO(買掛債権回転日数)の改善が奏功し、CCCは加速度的に改善。
2017年1Q(7月末)は-43日を記録しています。

キャッシュコンバージョンサイクル
また四半期平均の運転資本は2016年度にプラスからマイナスに転じ、オペレーションでの資金調達は不要だけでなく、売ればいるほど、資金は潤沢になるといえます。世界のPC出荷台数が14四半期連続で減少する中、HP社は8四半期連続で販売台数を伸ばし、業界首位の座を維持しています。
強さの秘訣は変化対応力と徹底した現場オペレーション強化にあります。

高井先生の記事一覧

この記事の執筆した高井先生はCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)
やPSI管理などに関する経験と深い知見を有しており、当サイトに数多くご寄稿いただいてます。

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高井先生は実務的な管理会計のスペシャリストです。
ソニーにて多数のご経験を積まれ、実績を残されています。
欧米ではスタンダードな経営指標であるキャッシュ・コンバージョン・サイクルの普及に努めている数少ない専門家です。
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