在庫に掛かるコストは、在庫起因コストと呼ばれます。
在庫起因コストとは、在庫があることによって発生する費用のことです。
1990年代、 HP社は「在庫起因コスト」(IDC)という、過剰在庫を発生させる要因を特定するツールをHP社は開発しました。
当時は、HP社はPC分野では世界のトップクラスでしたが、在庫問題に悩みました。PC業界では、デル社の受注生産はあまりにも有名ですが、B2B,B2Cを手掛けるHP社は戦略を抜本的に変更し、サプライチェーンを再構築しなければならない状況にありました。
在庫に掛かっているコストが見えれば、サプライチェーンのどこを改善し、どのような戦略に転換すべきかが見えてきます。
ここでは代表的な在庫費用である7大コストを解説します。
目次
在庫にかかる7つのコスト
HP社は7つの費用に着目し、900ドルのデスクトップに関わる費用として以下を算出してInventory Driven Costs(IDC)としての定義付けをしました。
- 在庫金利
- 保管費
- 部品評価減
- 価格補償費
- 在庫処分費
- 返品費用
- 減損
日進月歩で進化していたPC業界では、商品のライフサイクルが4か月と短く、新製品が発表されると、現行商品の売れ行きは激減します。また商慣習である欧米では返品が可能な環境にありました。
それによると、売上の12.7%が在庫起因コストとみなされました。
伝統的在庫コスト(金利と保管費)を合わせても10%にすぎません。
在庫起因コストで最も大きいのは、
- 部品評価減
- 価格補償費
- 在庫処分費
- 減損
価格補償費とは、店頭在庫の値段を下げるために使われる拡販費(バタキ費用)のことです。
一般的に、販売費 及び一般管理費に含まれる項目ですが、HP社では在庫起因コストとして扱っています。
HP社では、製品毎にこれらを「見える化」したのち、コスト改善プロジェクトを立ち上げ、主に3つの具体的施策を実行し、以下のような効果を上げています。
またHP社は、在庫起因コストは、価格競争の激しいパソコン業界だけでなく、エレクトロニクス、ファッション等 商品サイクルが短く、価格下落の激しい業界にも適していると2005年ハーバード・ビジネス・レビューで紹介しています。
HP社では在庫処分費まで在庫起因コストに含めて管理されていますが、
大きく在庫起因コストとして、金利、保管費、在庫評価減、価格補償費、返品費用の5項目が適切であると思います。
そのためには、以下の要件を満たす必要があります。
在庫金利
在庫金利とは、在庫を保有することによる資金負担を、保有期間に応じて、金利という仮想の資金コストに変換した、管理会計上の金利のことです。
在庫金利の計算方法は、棚卸資産残高に、企業の平均資金調達金利などを掛けて算出し、企業の社内事情に応じて決定することが基本となります。
在庫金利の算出方法
在庫金利は具体的には、加重平均資本コストなどを参考に決めます。
さらには、倉庫の賃料や、棚卸資産減耗なども加味し、加重平均資本コストより高めに設定されることが多いようです。
例えば、加重平均資本コストが2.7%であった場合、在庫金利は3%にします。
加重平均資本コスト(WACC)
資本コストとは、企業が資本を調達・維持するために必要なコスト(費用)のことで、通常はパーセンテージ(%)で表示されます。
一般的には加重平均コストが使われます。
WACC(加重平均資本コスト:Weighted Average Cost of Capital)とは、借入にかかるコスト(負債コスト)と株式での調達にかかるコスト(株主資本コスト)を加重平均したものです。
企業が最低限あげなければならない期待(要求)収益率となります。
市中金利を使うよりも、資金コストに注目することをお勧めします。
加重平均資本コストの算出
WACC(%) = 株主資本コスト × 株主資本/(有利子負債 + 株主資本)
+ 負債コスト × (1-実効税率) × 有利子負債/(有利子負債 + 株主資本)
金利率が決まったら、次は、どのように在庫にあてはめたらよいかです。
ほどんとの会社では在庫は日次で把握できていると思いますので、
在庫の品目ごとに金額を掛けることになります。
在庫額 1000円
数量 10000個
加重平均資本コストを3%と仮定すると在庫金利は、
10000×1000×0.03÷365日=822円/日になります。
月末に在庫を圧縮したとしても、月中で発生する金利は在庫金利として累積されます。
日々の在庫推移(棒グラフ)で在庫金利(年利3%として算出)した際の累積在庫金利です。1か月で26,359円発生していることが分かります。
在庫は月末にかけて減少し、1/31には5000個ですが、
在庫金利の50%は1/13の時点ですでに発生しています。
在庫金利を抑えるためには、月中の在庫状況を認識し、在庫金利として把握する
ことでしょう。売れ筋商品、死に筋商品、死蔵在庫に関係なく、在庫金利は平等に発生します。
保管費
外部倉庫と自社倉庫の場合を説明します。
外部倉庫の場合
倉庫業者との取り決め、商品の特性で保管費用は異なります。
例えば、30kgの紙袋に食材の場合、1袋当たりの保管料を決めます。
棚ごと、重量/容量で決める場合もあります。
また3期制では、1日~10日を第1期、11日~20日を第2期、21日~末日を第3期として、それぞれの期で保管料を計算します。
保管料金の算定方法(1期あたり)
保管料:保管数(前期末在庫数+今期入庫数)× 保管単価
紙袋の場合を事例に計算してみます。
第1期: 保管数(1000+400)×保管単価100円=140000円
第2期: (1200+200)× 100円=140000円
第3期: (970+0) × 100円=97000円
保管料合計:377,000円
外部倉庫を使う場合、保管料に加え、荷役料(入出庫に伴う費用)が発生します。
在庫起因コストとして加算されることをお勧めします。
自社倉庫の場合
保管費は、以下の費用があるようです。
- 貯蔵保管に要する設備費用及び光熱費など
(自社倉庫の建設費または倉庫の原価償却費なども含む) - 保険料(倉庫への保険)
- 運搬費用(人件費)
- 棚卸し費用(人件費)
- 陳腐化、設計変更による未利用品、目減りや盗難、台帳との差異による損失処理
- 資本の費用
(在庫はその分資金を投資することになり、この資金調達借入金利、及び在庫金額分を他の投資に回せない機会損失なども含む) - 販売促進用物流加工費用
(商品を特定できればその費用として計上)
月次で把握・管理可能な費用を取捨選択することが望ましいでしょう。
在庫の特性によりますが、費用を在庫に按分するのは、物量又は重量が簡単でしょう。
日次在庫データを使って、プログラムすれば簡単に求められるでしょう。
仮に1000品目を保管、そして1つの棚にはいろいろな製品を保管している場合でも、保管スペースに見合ったコスト配分をする必要があるでしょう。
現場で在庫管理におけるコストダウンを発生させる4大ロスをこちらで解説しています。
在庫評価損
評価損に関しては、企業会計原則で以下、規定されています。
「商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の棚卸資産は、時価が取得原価よりも著しく下落した時には、時価をもって修正しなければならない」
部品に関しては、部品自体が陳腐化したり、本体の生産終了でほかに転用できない時に、評価損の対象となります。
企業によっては、
先々、購入の予定がなく、現在の在庫回転日数の度合いによって、評価損の率(30%、50%、100%)を定めている会社もあるようです。
また商品ライフの短い商品は、1年で100%すべて評価損を実施する会社もあります。
詳細については、監査法人や公認会計士と相談することをお勧めします。
一般的には材料の場合は、取得原価、製品の場合は、売上原価が対象になります。
価格補償費
価格補償費とは、一般的に小売商品の価格を下げるときなど、卸業業者に旧価格で販売した価格を補填することです。
小売価格1000円の商品を800円で納入し、小売価格を800円に
下げるような場合、卸価格800円を600円に下げると、
200円の費用が発生します。
在庫数量が1000個の場合、合計200,000円の費用となります。
複数の商品のキャンペーンをまとめて行った場合は、それを構成する商品の旧価格と改定後の価格の差額を按分することになります。
例えば、一律20%値下げの場合は、商品A、B、Cは以下の価格補償費が発生
返品費用
欧米では返品は商慣習となっており、お客様が購入後、気に入らない場合、一定期間であれば返品が可能となります。
その場合、取引先との間での取り決めにもよりますが、販売価格に返品に伴う物流費が発生します。返品商品は、新装整備できるものもあれば、苑麻亜処分対象となる場合もあります。
いくつもの商品をまとめて返品を受けた場合の物流費は按分になります。
在庫起因コストはすべて変動費、一元管理に意義がある
一般的に、在庫起因コストは管轄部署がそれぞれ管理している
のではないでしょうか?
- 在庫金利: 経理・管理部門
- 保管費: 物流部門
- 在庫評価損:製品は営業部門、材料は調達部門、補修用部品はサービス部門
- 在庫補償費: 営業部門
- 返品費用: 営業部門、物流部門
従って、商品カテゴリー毎のコスト、単品毎のコストを把握するのは容易ではありません。費用には、変動費と固定費がありますが、在庫起因コストは変動費です。
在庫起因コストを把握して、変動費をより正確に把握することにより今まで気づかなかった課題が顕在化します。
改善活動を継続することで、カテゴリー別の損益分岐点分析が可能になります。
在庫起因コスト管理サイクルは週次
在庫起因コストは、その都度集計して、関係者と共有し、改善活動につなげる
ことです。目的は収益性の改善、損益分岐点の改善等、より具体的に定めたうえで
集計結果を月末に経営陣に対して報告する必要があります。
高井先生の記事一覧
この記事の執筆した高井先生はCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)
やPSI管理などに関する経験と深い知見を有しており、当サイトに数多くご寄稿いただいてます。
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