季節性商品の在庫管理ガイド｜欠品・過剰在庫を防ぐ３つのポイント

夏物衣料や冷房・暖房器具など、特定の季節に合わせて需要が大きく変動する「季節商品」。

例えば、昨年たくさん売れたから今年も！と意気込んで大量に仕入れたものの大量に余ってしまった・・・、逆に想像以上に売れ行きが好調で追加発注が間に合わず欠品して販売機会を逃してしまった・・・といったような苦い経験はありませんか？

季節性商品は、特定の時期に需要が集中する一方で、時期を過ぎると需要が激減するため、在庫管理が非常に難しい商品です。

需要予測の精度、発注タイミング、そして売れ残り対策など、考慮すべき点が多く、頭を悩ませている担当者の方も多いのではないでしょうか。

しかし、適切な在庫管理戦略を計画的に実行すれば、欠品と過剰在庫のリスクを最小限に抑え、利益を最大化することも可能です。この記事では、「季節商品在庫管理」に悩むあなたのために、その重要性から具体的な実践方法、予兆を感じ取るために必要なKPIまで詳しく解説します。

この記事では、季節性商品の在庫管理における特有の課題とその原因を深掘りし、具体的な解決策を詳しく解説します。

この記事を読むと分かること

1. 季節性商品の在庫管理がなぜ難しいのか、その理由
2. 【ポイント１】需要予測の精度を高めるための具体的なアプローチ
3. 【ポイント２】過剰在庫や欠品を防ぐための発注・仕入れのコツ
4. 【ポイント３】避けられない売れ残り商品を効果的に活用・処分する方法
5. オフシーズンの保管方法の最適化

この記事を読めば、季節性商品の在庫管理に対する不安を解消し、適正な在庫量を維持するための具体的なヒントが得られます。

季節性商品の管理にはデータ分析が欠かせません。在庫管理110番では、エクセルだけでできるデータ分析研修を行っています。

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1 季節商品の在庫管理はなぜ難しいのか？
- 1.1 在庫管理の失敗が招くリスク
2 失敗しない！季節商品在庫管理の具体的な５つの実践方法
3 【例】季節商品在庫管理のよくある成功と失敗から学ぶ
4 まとめ
5 在庫管理システムは最小限で十分
6 在庫管理に関するご相談、お問合せ

季節商品の在庫管理はなぜ難しいのか？

季節商品の在庫管理が他の商品と比べて特に重要かつ難しい理由は、判断を誤った際の経営へのインパクトが大きいことです。

季節商品の特性：短期間に集中する需要と陳腐化リスク

特定の時期に需要が集中し、そのシーズンが終わると需要が激減、あるいはゼロになることがほとんどです。

例えば、夏物衣料は夏に、冬物暖房器具は冬に需要が集中します。

また、流行の変化が激しい商品は、デザインや機能が翌年には古くなってしまい全く売れなくなる「陳腐化リスク」も抱えています。

そのため、季節性商品はシーズン内に売り切ることが大原則です。さらに、予想以上の売れ行きの場合、追加発注や生産が必要になるため、在庫管理の難易度を高めています。

在庫管理の失敗が招くリスク

季節商品の在庫管理に失敗すると、主に二つの大きなリスクが発生します。

在庫過多：保管コスト増、キャッシュフロー悪化、値引き、廃棄ロス

保管コスト：売れ残った在庫は、倉庫代や管理費などの保管コストを発生させ続けます。
キャッシュフローの悪化：在庫は働かない資産です。売れない在庫は資金の停滞の原因になりキャッシュフローを悪化させる要因となります。仕入れ代金は支払っているのに、売れなければ、現金化できない状態が続くためです。
利益の喪失：最終的に売れ残った商品は、大幅な値引き販売や、最悪の場合廃棄せざるを得なくなり、想定していた利益が得られず大きな損失につながります。

在庫切れ：販売機会損失、顧客満足度低下

販売機会の損失：需要のピーク時に商品が足りなくなると、本来得られたはずの売上を逃す販売機会損失が発生します。
顧客満足の低下：「欲しいときに商品がない」という状態が続くと、顧客満足度を低下させ、リピート購入や他の商品への購買意欲をそいでしまう可能性があります。場合によっては、顧客が競合他社に流れてしまうことも考えられます。

欠品と過剰在庫のリスクをできる限り回避し、ビジネスを安定させるために、的確な季節商品の在庫管理が不可欠なのです。

失敗しない！季節商品在庫管理の具体的な５つの実践方法

では、具体的にどのように季節商品の在庫管理を進めていけばよいのでしょうか。ここでは、失敗を避け、成功確率を高めるための5つのステップを紹介します。

【最優先】在庫管理システムを導入し活用する

Excelなどでの手作業による在庫管理には限界があります。在庫管理システムを導入しデータの蓄積と自動化、省力化によって業務効率と精度を大幅に向上させることができます。

リアルタイムでの在庫状況の可視化：店舗や倉庫にある在庫数をリアルタイムで正確に把握でき、欠品や過剰在庫の兆候を早期に発見できます。
データの蓄積：季節性商品の売れ行きの把握には、少なくとも３年分のデータが必要です。エクセルやスプレッドシートは１ファイルに保管できるデータ量に限界があり不向きです。
業務効率化と人的ミスの削減：数百～数千ある商品をち密に１点ずつみていくのは時間的に不可能です。発注業務の省力化や自動化により、適正量の発注ができるようにします。

「在庫管理を効率化する方法はありますか？」 という問いには、在庫管理システムの導入が最も効果的な解決策の一つとなります。

もし、コスト的にまだ在庫管理システムを導入するのは難しい・・・という場合はエクセルで代替する場合の注意点はこちらの記事で解説しています。

在庫管理システムをエクセルで自作するメリット・注意点と限界

十分な量のデータを収集する

季節性商品のデータ分析、需要予測には過去のデータが不可欠で、少なくとも3年分のデータを収集するようにしましょう。

1年分のデータだけでは、本当に季節性があるかどうか、いつ頃に需要の増減があるのかが特定できません。

毎年新商品を出している場合

毎年新商品を出していたり、モデルチェンジを行っている場合は、商品データは１年分しか取れません。

その場合は、旧モデルや類似商品のデータを代用します。

【ポイント１】データ分析・需要予測を行う

収集したデータを総合的に分析し、担当者の経験や勘だけに頼らない客観的な情報に基づいた判断を行うことが重要です。

季節性商品の在庫管理の成否は、需要トレンドと変動の大きさの把握にかかっていると言っても過言ではありません。以下の要素を考慮し、できる限り正確な需要トレンドをつかみましょう。

データ分析・需要予測の精度は、季節商品の在庫管理を成功させるための土台となります。経験や勘だけに頼るのではなく、様々なデータを分析し、客観的な根拠に基づいた予測を立てることが重要です。ここでは、精度を高めるための具体的な手法をいくつかご紹介します。

過去の販売実績データを徹底分析する

最も基本的ながら重要なのが、過去のデータ分析です。

何を分析するか？：商品別・SKU別: どの商品が、どのバリエーション（色・サイズなど）が、いつ、どれくらい売れたのか。
どう分析するか？：傾向とパターン: 売上の上昇・下降トレンド、特定の曜日や天候による変動パターンなどをグラフ化して可視化します。
分析ツール: エクセルがあれば十分です。高価なシステムや分析ツールは不要です。

エクセルでできるデータ分析の手順と方法はこちらの記事で詳しく解説しています。

データ分析｜エクセルだけでできる簡単で効果的な分析方法

市場トレンドと外部要因を把握する

過去データだけでは捉えきれない変化に対応するため、常に外部環境にも目を向ける必要があります。

情報収集の方法：業界ニュース、専門誌、市場調査レポート
考慮すべき要因：ファッション・デザイントレンド: 特にアパレルや雑貨などで重要です。

気象情報の影響を考慮に入れる

季節商品は、天候や気温の影響を非常に受けやすいものが多くあります。

対象となる商品：アパレル（夏物・冬物衣料、レイングッズなど）
確認すべき情報：気象庁や民間気象情報サービスが提供する短期・長期の天気予報、気温予報、降水量、日照時間など。
活用方法：過去の気象データと販売実績を照らし合わせ、気温が1度上がると売上が何%増えるか、雨の日はどの商品の売上が落ちるか、といった相関関係を分析します。

定量データと定性情報を組み合わせる

データ分析に使えるのは、定量データ（数値情報）だけではなく、定性情報（質的情報）は非常に重要ですが、それだけでは見えない部分もあります。

質的データとは、以下のような情報です。

顧客の属性：性別や年齢、職業など、顧客の情報です。
現場の意見：店舗スタッフなど、顧客と直接接している担当者の肌感覚や意見（「今年は〇〇を探しているお客様が多い」「この商品は△△な点が不評」など）も参考にします。
顧客の声：アンケートやレビュー、SNSでのコメントなど、顧客の直接的なフィードバックも貴重な情報源です。

予測モデルやツールの活用

より高度な予測を行うために、古典的な需要予測手法やAIを用いた需要予測モデルも活用できます。

移動平均法、指数平滑法: Excelなどでも比較的簡単に計算できる基本的な予測モデルです。
在庫管理システムの予測機能: システムによっては、過去データに基づいて自動で需要予測値を算出する機能を持つものもあります。
AI（機械学習）による需要予測: 近年では、AIを活用し、多様な要因を考慮した高精度な予測を行うツールやサービスも登場しています。

データ分析で特に押さえておきたいのはトレンド

データ分析で特に押さえておきたいのは、トレンドの把握です。

特に以下の２点に着目します。

トレンドの発生期間：いつ頃から増加し始めて、そして減少するのか？
トレンドの増減の大きさ：増加の最大・最小の幅

数年分のデータを分析すれば、期間と大きさの傾向がある程度見えてきます。

その期間と大きさを頼りに、次に解説する発注のタイミングと発注数、在庫処分の時期を見極めます。

注意点１

データ分析は、蓄積したデータがあってこそ実施できます。データは財産です。できる限り早期にデータの蓄積を開始しましょう。

注意点２
どんなに精緻にデータ分析を行っても、需要予測を100%的中させることは不可能です。予測はあくまで計画の基礎的な情報であり、計画のブレの幅を小さくさせるものと割り切りましょう。

予測精度を高めることも重要ですが、それよりも実際の販売状況を常にモニタリングし、必要に応じて計画を素早く修正できる体制づくりが重要です。

【ポイント２】適切な発注量とタイミングを見極める

データ分析でトレンドがある程度把握できたら、次はその予測に基づいて「いつ」「どれだけ」発注するかを決定します。

発注リードタイム（発注から納品まで）の把握：仕入先ごとに、発注してから商品が実際に店舗や倉庫に届くまでの期間（リードタイム）を正確に把握します。リードタイムが長い場合は、早めの発注が必要です。
適正な安全在庫の設定：需要予測の誤差や、予期せぬリードタイムの遅延に備え、最低限保持しておくべき在庫量（安全在庫）を設定します。ただし、季節商品は過剰在庫リスクが高いため、安全在庫は慎重に設定する必要があります。
発注計画：需要予測とリードタイム、安全在庫を考慮し、欠品と過剰在庫を最小化できる最適な発注量を算出します。
他部署との連携：マーケティングや営業が販促などを行えば、過去の需要実績と違った需要になる可能性が高くなるため、他部署との連携・調整も忘れてはいけません。
発注ロットの最適化：一度に大量発注するのではなく、販売状況を見ながら小ロットで複数回に分けて発注したり、売れ行き好調な場合に迅速に追加発注したりする柔軟な対応も有効です。
追加発注の検討：追加発注は発注リードタイムの長さで決まります。特に発注リードタイムの長い商材は、追加発注が遅れてしまうと、需要が高い時期を逃してしまい、逆に大量の売れ残りを抱えてしまうリスクが高いため、追加発注が可能かどうかは仕入先との関係や生産体制によります。

発注方法の検討

発注方法は、手間をかけすぎてもダメですし、効率化しすぎてもダメです。

商材の特性や単価、発注作業の手間等を総合的に考慮して決定します。発注方法の特徴と選択方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

４つの発注方法の特徴と選び方｜発注効率向上と適正在庫を両立する方法

【ポイント３】効果的な在庫処分戦略を立てる

どれだけ精緻な予測や発注を行っても、売れ残りがゼロになることは稀です。需要が旺盛なシーズン終了が近づいたら、計画的に在庫を処分していく必要があります。

特に、季節と流行に左右されやすいアパレル等は、翌年にはほぼ売れないため、在庫処分戦略はとても重要です。

データ分析によって得られたトレンドを参考に商品投入当初から、シーズン終了が近づいたら、セールや値引きなどを行うために事前に販売計画や処分計画を立てておくことも重要です。

セール・値引き販売のタイミングと価格設定：シーズン終了前や終了直後など、効果的なタイミングでセールを実施します。値引率は、在庫量や商品の特性、ブランドイメージなどを考慮して決定します。早めに損切りする判断も重要です。
アウトレットや専門業者への売却：自社での販売が難しい場合は、アウトレット店舗での販売や、在庫買取を専門に行う業者への売却も選択肢となります。
翌シーズンへの持ち越し可否判断：定番商品やデザイン変化の少ない商品であれば、翌シーズンに持ち越すことも考えられます。ただし、保管コストや商品の劣化・陳腐化リスクと比較検討し、慎重に判断する必要があります。
廃棄基準の設定と実行：品質が劣化したものや、どうしても売り切れないものは、最終的に廃棄することになります。明確な廃棄基準を設け、損失を確定させることも重要です。

在庫処分は、在庫管理担当者単独では不可能です。

販売・販促部門（営業、販売企画、マーケティングなど）とデータを共有して、処分の実施計画を立てましょう。

商品の売れ行きの状況を管理のために、在庫の状態を管理・評価するKPIを設定すれば、システムによる自動検知が可能なので見逃がすリスクを抑えられます。

在庫の状態を管理し評価するKPI

季節商品の状態を管理し評価するKPIには以下のようなものがあります。

在庫回転率: 一定期間内に在庫がどれだけ入れ替わったかを示す指標で、在庫の流動性（滞留性）が分かります。季節商品は期間が短いため、シーズン中の回転率を見ることが重要です。（参考：在庫回転率の計算方法）
欠品率: 顧客が商品を求めた際に在庫がなく、販売機会を逃した割合。低いほど良い指標です。
廃棄ロス率（廃棄額）: 売れ残り、最終的に廃棄処分となった在庫の割合や金額。これを最小限に抑えることが目標となります。
粗利率: 売上から売上原価を引いた粗利の割合。値引き販売や廃棄ロス、翌年に持ち込んだ場合の保管コストは粗利率を低下させる要因となります。

これらのKPIを定期的にシステムで監視して、変化の予兆を捕まえて、追加発注や在庫処分の時期を見逃がしません。

また、シーズンが終了したらシーズン当初に立てた計画と結果を比較分析して、「どの施策が効果的だったか」「どこに課題があるか」を把握することで、次シーズンの計画精度を高めます。

オフシーズンの保管方法を最適化する

売れ残った商品を翌シーズンへの持ち越しを決定した場合や、販売期間が終了した商品の保管には注意が必要です。

保管場所の確保と環境維持：適切な温度・湿度管理ができる保管場所を確保します。虫食いやカビ、日焼けなどを防ぐための対策も必要です。
品質劣化を防ぐための対策：衣類であれば防虫剤を入れたり、圧縮袋を活用したりするなど、商品の特性に合わせた保管方法を実践します。

オフシーズンの保管コストや手間も考慮に入れ、持ち越しの判断を行うことが重要です。

【例】季節商品在庫管理のよくある成功と失敗から学ぶ

理論だけでなく、起こりがちな例から学ぶことも大切です。

よくある成功例：データ分析と柔軟な販売戦略で在庫を最適化

アパレル企業A社では、過去の販売データと気象予報を組み合わせた独自の需要予測システムを構築。

予測精度を高めるとともに、SNSでの顧客の反応やトレンド情報もリアルタイムで分析し、発注量を微調整しています。さらに、シーズン終盤にはECサイト限定セールやアウトレットチャネルへの早期投入など、複数の販売チャネルを駆使して在庫消化率を高め、利益を確保しています。

よくある失敗例：需要予測の甘さが招いた大量の売れ残り

一方、小売企業B社では、前年の特定シーズン商品の大ヒットを受けて、翌年も同様に大量に仕入れました。 しかし、その年は競合の新商品に人気が集中し、さらに天候不順も重なり、売上が大幅に低迷。需要予測が楽観的すぎたこと、競合分析や外部要因の考慮が不十分だったことが原因で、大量の在庫を抱え、大幅な値引き販売と廃棄処分を余儀なくされ、大きな損失を出してしまいました。

これらの例から、季節商品の在庫管理を成功させる秘訣は、

販売データに基づいた客観的な分析
市場の変化をいち早く察知し柔軟に対応する姿勢
競合や気候など外部要因が販売に与える相関関係の影響もデータ分析に取り入れる

経験と勘だけではなく、データの活用が季節商品の在庫管理においていかに重要かがわかります。

まとめ

この記事では、需要変動が激しい季節性商品の在庫管理について、その難しさの原因から具体的な対策方法まで解説しました。

システムの導入と活用：季節性商品の適切な管理には、少なくとも３年分のデータの蓄積が重要です。欠品や過剰在庫に気づく仕組み、発注業務の効率化が不可欠です。
データ分析と需要予測の重要性：過去のデータ分析や市場トレンドの把握に基づき、可能な限り精度の高い需要予測を行うことが、適正在庫維持の鍵となります。
発注・仕入れの最適化：リードタイムを考慮し、欠品を防ぎつつ過剰在庫を避けるための適切な発注タイミングと発注量を見極める必要があります。
販売戦略との連携：セールやプロモーションなどの販売戦略と在庫状況を連携させ、売り切りを目指す計画的な販売が重要です。
KPIの設定：在庫の状態を管理し評価する共通のＫＰＩを設定し、システムで管理することで素早く見つけ対処できるようになります。
売れ残り対策の準備： どれだけ精緻な需要予測をしても売れ残りは避けられません。売れ残った場合の処分方法（セール、アウトレット、二次流通、寄付など）を事前に計画し損失を最小限に抑えられます。

季節性商品の在庫管理は、企業の収益に直結する重要な業務です。適切な管理を行うことで、販売機会の損失を防ぎ、無駄なコストを削減できます。