製造業の在庫回転率の目安と適正在庫

製造業の在庫回転率の目安

    在庫管理アドバイザー岡本茂靖

    筆者:岡本茂靖(在庫管理アドバイザー、日本物流学会理事)
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    在庫管理110番代表。在庫管理、生産管理の実務経験を経て、瀬戸内scm株式会社を創業。500社以上の相談、コンサルティング実績を持つ。

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    自社の在庫が他社と比べて、多すぎないか、適正かどうか、ということはとても気になりますよね?

    自社の適正在庫が分かれば、経営の健康状態を客観的に評価できますし、改善目標も見えてきます。 今回の記事では、製造業の適正在庫の目安になる在庫回転日数から調べたところ、製造業といっても一律で評価すべきではないということがわかりました。 その理由は次の通りです。

    • 生産するもの、生産方式によって、在庫回転日数に違いがある
    • 在庫金額に占める製品、仕掛品、原材料の割合に違いがある

    今回調査した業種(製造業の中分類)

    製造業といっても、作っているものは様々です。今回調査した製造業15業種(総務省の日本標準産業分類に基づいて分類)は以下の通りです。

    1. 電気機械器具
    2. はん用機械器具
    3. 非鉄金属
    4. 鉄鋼
    5. 印刷・同関連
    6. 化学製品
    7. パルプ・紙・紙加工品
    8. 金属製品
    9. 木材、木製品
    10. 生産用機械器具
    11. 石油製品
    12. 食品
    13. 情報通信機器
    14. 窯業・土石製品
    15. 輸送用機器

    具体的な結果は以下の通りです。

    各割合は、在庫金額を100%として、それぞれ原材料・貯蔵品、仕掛品、製品の在庫金額の割合が何パーセントを占めているかを現したものです。

    上記の結果をご覧いただくとわかるように、製造品によってかなりの差があることがお分かりいただけると思います。

    例えば、食品製造業(資本金1000万円未満)をご覧ください。

    • 原材料・貯蔵品の在庫金額の割合:64.3%
    • 仕掛品の在庫金額の割合:2.0%
    • 製品の在庫金額の割合:33.7%

    仕掛品の金額の割合が小さいため、仕掛品で在庫を持っていることが極端に少ないことが分かります。

    このように、まず、自社の属する産業分類の特徴を認識して、そのうえで自社の在庫の適正在庫を考えるきっかけにしてください。

    他社や同業者との比較も重要ですが、自社の特性をよく知り、自社に最適な適正在庫を設定することが最重要なのが、この結果からもわかります。

    この記事で解説すること
    1. 製造業15業種の在庫金額と回転率を調べてわかった各業種の特徴
    2. 製造業15業種の調査結果
    3. 自社の適正在庫の決め方

    在庫管理アドバイザーから自社の適正在庫の決め方が学べます

    製造業15業種の在庫金額と回転率を調べてわかったこと

    今回の調査で分かったは、次のようなことです。

    1. 装置系製造業は仕掛在庫が少ない傾向
    2. 組立系製造業は仕掛在庫の割合が大きい
    3. 使用する部品点数が多く生産に時間のかかる大型機械類は、特に仕掛品在庫が多い。

    逆に言えば、正味生産リードタイムが短いにも関わらず、仕掛品在庫が多いなどの矛盾が生じていれば、無価値時間(段取りや確認、モノを運ぶ等)が多すぎると想像できます。

    製造業の在庫回転率は自社の特性で評価したほうが良い

    製造業や、他の業種と違って「生産」というプロセスがあります。 一言でに製造業といっても、生産している製品のよって、様々な特徴があります。 例えば、

    • 最終製品の部品点数:自動車のように数万点でてきているものから、数種類でできているものもあります。
    • 大きさ:工作機械のような大きなもの、ネジなどのような小さなもの
    • 扱っている材料:金属や食材、化学材料、木材など
    • 部品の調達方法:主に国内や近隣の業者、主に輸入品を使っている。
    • 生産方法:主に人が生産している。主に装置に投入して生産している。
    • 生産開始方式:見込み生産が多い、受注生産が多い
    • 生産にかかる時間(生産リードタイム):1個当たり10分でできるようなものから、2~3カ月かかるものもある。

    上記のような理由から、一律で評価してはいけないと考えています。

    製造業の15業種の調査結果(在庫回転日数・各在庫の比率)

    今回の調査項目は以下の通りです。

    調査内容

    • 調査対象:資本金1000万円未満と資本金1000~5000万円未満の中小企業
    • 調査項目:在庫回転率(在庫回転日数)、在庫金額に占める「製品、仕掛品、原材料」の在庫金額の割合。

    自社が属する業種の結果をぜひご覧ください。

    製造業全体

    在庫回転率_製造業全体 製造業全体では、次のような結果になりました。

    • 資本金1000万円未満の場合:在庫回転日数・・・39.29日
    • 資本金1000~5000万円未満:在庫回転日数・・・49.29日

    電気機械器具製造業の在庫回転率

    在庫回転率_電気機械

    電気機械器具製造業に含まれる製造品目

    電気エネルギーの発生、貯蔵、送電、変電および利用を行う機械器具を製造する事業所が分類されています。

    たとえば、発電機や通信機器、X線装置などのような比較的部品点数の多いものから、ヒューズ、電球、ダイオードなどの小さな製品までさまざまです。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    製品・仕掛品・原材料の比率に偏りは少ない。 比較的大きなもの(X線装置などの医療機器や厨房機器)から、小さなもの(ヒューズなどの小型部品)を含んでいるためだと考えられます。

    ただ、企業規模で、製品と仕掛品の割合が逆転しているのは、小規模企業は比較的部品などの小さなものを生産し見込み生産が多く、規模の大きな企業は型の機械類を生産しているため受注生産が多いので製品在庫が少ないのでは・・推測できます。

    はん用機械器具製造業の在庫回転率

    在庫回転率_はん用機械

    はん用機械器具製造業に含まれる製造品目

    はん用機械器具製造業には、工業炉やボイラ、タービン、エレベーターなど比較的大型の製品を生産している会社が含まれています。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    全体の在庫金額に占める仕掛品の割合が、生産用機械器具製造業についで大きいです。

     

    小さな部品のように大量に生産することが難しいこと、受注生産が多く製品在庫の割合が少ないと考えられます。

    また、在庫回転日数も比較的長い部類に入ります。 おそらく、大型でありかつ、部品点数が多いのが利用だと考えています。

    非鉄金属製造業の在庫回転率

    在庫回転率_非鉄

    非鉄金属製造業に含まれる製造品目

    鉱石、金属くずなどを処理し、非鉄金属の製錬および精製を行う事業所、非鉄金属の合金製造、圧延、抽伸、押出しを行う事業所および非鉄金属の鋳造、鍛造、その他基礎製品。電線、ケーブルの製造も含まれる。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    基礎製品の特長としては、仕様がある程度決まっており、商品の改廃が少なく、繰り返しの見込み生産をしている企業が多いと想像できます。 そのため、小規模会社は製品の在庫の割合が多いと考えられます。

    ただ、資本金1000万円をこえると、在庫金額に占める原材料の割合が最も大きくなり逆転します。

    企業規模によって、生産品目に特徴があってある程度分業がされているのかもしれません。

     

    規模の問わず共通するのは、仕掛品在庫の少なさです。 装置産業なので、仕掛品としておいておくことがほとんどないと考えられます。

    鉄鋼製造業の在庫回転率

    在庫回転率_鉄鋼

    鉄鋼製造業に含まれる製造品目

    鉱石、金属くずなどを処理し、鉄金属の製錬および精製を行う事業所、圧延、抽伸、押出し製品が含まれます。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    在庫金額の割合は、非鉄金属製造業と似た構成です。 在庫回転日数は、非鉄金属製造業に比べると、やや良い印象を受けます。

    印刷・同関連製造業の在庫回転率

    在庫回転率_印刷

    印刷・同関連製造業に含まれる製造品目

    印刷・同関連製造業には、製本や製版などの業種が含まれています。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    企業規模によって、製品と原材料の割合が逆転しているのが特徴です。

    推測ですが、小規模の事業者は大量の在庫を抱えて短納期の受注生産(少量多品種製造)をしている一方で、規模の大きな事業者は、小規模事業者がやらない、安定した仕様の製品を繰り返し生産しているのではないかと思われます。

    化学製品製造業の在庫回転率

    在庫回転率_化学

    化学製品製造業に含まれる製造品目

    化学製品製造業には、化学反応により製造される製品を作っている会社が含まれています。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    ほとんどの場合、組立による生産ではなく、装置を使う生産なので、原材料を投入すれば、製品が出来上がります。

    そのため、仕掛品の割合が圧倒的に少ないのが特徴です。

    パルプ・紙・紙加工品製造業の在庫回転率

    在庫回転率_紙

    パルプ・紙・紙加工品製造業に含まれる製造品目

    紙そのものや、段ボール、紙からできる紙加工品(紙コップやふすま、壁紙)も含まれます。

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    化学製品と同じく装置産業なので、原材料を投入したら、人の手をあまり加えることない製品が多いと考えられ、そのため、仕掛品の割合が極端に少なくなります。 在庫回転日数は、今回調べた業種の中でもトップクラスで小さい部類です。

    金属製品製造業の在庫回転率

    在庫回転率_金属

    金属製品製造業に含まれる製造品目

    刃物やブリキ缶、洋食器(フォークやスプーン)のような小さなものから、鉄塔などの大型のものまで、さまざまな大きさのものが含まれ ます。

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    生産リードタイムの製品を作る会社が含まれているため、製品・仕掛品・原材料の比率が比較的同じです。

    ただ、規模の小さな会社は、仕掛品の割合が小さく、原材料の割合が多いため、比較的生産リードタイムの短い小さな製品を多品種少量つくっている傾向があると推測できます。

    木材、木製品製造業の在庫回転率

    在庫回転率_木材

    木材、木製品製造業に含まれる製造品目

    木材を原料として製品が含まれており、製材、床板、つまようじや、木製の手工芸品等。※木製家具は別の分類に含まれます。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    製品と原材料の割合が大きいのが特徴です。 資本金1000万円未満の企業の在庫回転日数が、100日を超えており、今回調査した全業種で最大でした。資金繰りはあまり良くないと推測できます。

    生産用機械器具製造業の在庫回転率

    在庫回転率_生産用機械

    生産用機械器具製造業に含まれる製造品目

    工作機械、農業用機械、建設機械、半導体製造装置製造業、金属加工機械製造業など製造業が生産のために使用する機械類が含まれています。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    比較的大型で生産リードタイムが長いため、仕掛品の割合が大きい一方で、受注生産が多いと考えられ、原材料の割合が低いのが特徴です。

    石油製品製造業の在庫回転率

    在庫回転率_石油製品

    石油製品製造業に含まれる製造品目

    原油からガソリン, ナフサなどを作る事業所やそれらを原料としてアスファルトなどが含まれています。

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    装置産業であり基礎的な製品が多くと考えられ、化学製品製造業と同じく、仕掛品の割合がとても小さいのが特徴です。また、比較的在庫回転日数も小さいです。

    食品製造業の在庫回転率

    在庫回転率_食品

    食品製造業に含まれる製造品目

    食品や飲料が含まれています。砂糖や製粉業(小麦粉等)もここに含まれています。 ※パン屋、菓子屋などは、この分類に含まれていません。

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    掛品の割合が小さいのは、装置でつくるものや人の手で作るものでも流れ作業であり、時間がかかるものが少ないと考えられます。

    意外だったのは、在庫回転日数が比較的長いことです。

    小分類を見ると、缶詰や保存が効きやすいものが多かったり、決まった季節にしか原材料を確保できなかったり、熟成期間を要するものが多いのかしれません。

    情報通信機器製造業の在庫回転率

    在庫回転率_情報通信

    情報通信機器製造業に含まれる製造品目

    ラジオやテレビの放送装置,パソコンや電子計算機、無線機、レーダ装置などが含まれます。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    組立生産がメインかつ、小さな製品が多いため生産リードタイムも短いものが多いと考えられ、 製品・仕掛品・原材料の割合がほぼ同じで差がありません。

    窯業・土石製品製造業の在庫回転率

    在庫回転率_窯業

    窯業・土石製品製造業に含まれる製造品目

    板ガラスやガラス製品(瓶やビーカーなどの理化学用品)、コンクリート、セメントや陶器製品などが含まれます。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    はり装置主体の産業のが特徴です。

    輸送用機器製造業の在庫回転率

    在庫回転率_輸送用機械

    自動車・同付属部品製造業に含まれる製造品目

    自動車や鉄道車両、船舶、航空機の完成品およびその部品を作っている会社が含まれます。 完成品から部品までが幅広く含まれます。そして完成車やシャシー、トランスミッションのような部品が多く大きなものから、ブレーキやオイルフィルタ小さな部品までを含むため、製品・仕掛品・原材料の比率に大きな差がありません。

     

    在庫金額の在庫の種類による割合の特徴

    企業規模によって、在庫種類の割合が違うため、生産品目が異なっている可能性があります。

    まとめ

    今回の調査結果を見ながら、自社の状況も把握した上で、自社の状況を確認してみましょう。

    今回の調査で分かったのは、 今回の調査で分かったは、次のようなことです。

    1. 装置系製造業は仕掛在庫が少ない傾向
    2. 組立系製造業は仕掛在庫の割合が大きい
    3. 使用する部品点数が多く生産に時間のかかる大型機械類は、特に仕掛品在庫が多い。

    逆に言えば、生産に時間がかからないにもかかわらず、仕掛品在庫が多いなどの矛盾が生じている場合は、在庫管理や生産に何等かの問題が生じている可能性が高いということです。

    また、原材料・貯蔵品が多く、かつ在庫回転日数が大きい場合は、購入ロットに対して使用数量に対して購入量が多く、調達にかかる発注リードタイムが長い、もしくは、季節や業界の特性上、確保しておかなければいけないのではないかと考えられます。

    同業種の標準データだけで自社の適正在庫は決められない

    業界の標準=自社の適正と言い切るのは早計です。 自社の製品、生産方法から考えていく必要があります。

    • 部品点数
    • 生産リードタイム
    • 部品の調達先:主に国内や近隣の業者または主に輸入品
    • 生産方法:主に組立、主に装置
    • 生産着手:見込み生産、受注生産が多い

    実際の生産リードタイムと、正味リードタイムは違いますので注意しましょう。 (実際の生産リードタイムには、無価値時間(段取り、モノを運ぶ等)を含むため) また、まったく同じような製品を作っていても、生産方式や原材料の調達方法によっては、在庫の持ち方は大きく変わります。 まずは、無価値時間を排除した、自社の本当の適正在庫を知る必要があります。

    自社の適正在庫が分かる

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    在庫管理アドバイザーが講師を務めます

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