自社の適正在庫金額をどうやって設定すれば良いかわからない・・・とお悩みではありませんか?
結論から言えば、適正在庫金額は、会社の方針や戦略によって決めるものです。会社によって適正在庫の定義は違っても構いません。
しいて言えば、決算書から計算した在庫回転率だけで良いのです。
適正在庫と調べると、専門家や数学に詳しい人しか理解できないような内容がたくさん出てきます。
実は、適正在庫金額を決める定義は無く、公式があるわけではなく、難しい統計を覚えるも必要もありません。
適正在庫金額の求め方と目指し方は次の手順で行います。
- 決算書から理想とする在庫金額を決める(決められない場合は、会社のリードタイムから在庫金額を算出する)
- 理想とする在庫金額から在庫回転日数を計算する
- 1と2のギャップを埋める改善を実行する
仮に決算書が使えない、分からない場合は会社のリードタイムから決める方法もありますので、そちらも解説します。
- 適正在庫金額の設定方法
- 適正在庫を目指すためにやるべきこと
- 適正在庫を維持ためにやるべきこと
在庫管理110番では、今回解説する適正在庫の決め方と実現する方法について詳しく解説した在庫管理セミナーを開催中です。
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目次
現状の在庫回転日数を計算する
適正在庫金額は在庫回転率(在庫日数)から計算できます。
在庫回転率の式をおさらいすると、
在庫回転率=売上原価 ÷ 平均在庫((期首棚卸高+期末棚卸高)÷2)
在庫回転日数= 期間 ÷ 在庫回転率(1年であれば、期間=365日)
となります。
在庫回転率の詳しい計算方法と解説は、こちらの記事をご覧ください。
つまり、適正在庫を求めるに当たって必要な数値は、次の3つだけです。
- 在庫回転率
- 売上原価
- 平均在庫
今回は年商1億円、4000万円、平均在庫金額2500万円の会社を事例にして計算します。
在庫金額は2500万円なので、この会社の現状の在庫回転率は、
在庫回転率:4000万円÷2500万円=1.6
在庫日数の計算は、
在庫回転日数:365 ÷ 1.6 =228.1
この会社は約228日分の在庫を持っていることになります。
理想とする在庫金額を決める
適正在庫金額は、会社が決める数値です。
端的に言えば、会社が目指したい財務状態が適正在庫金額です。
決め方としては、
- 決算書の見栄えとして、会社として実現したい在庫金額
- 税理士に在庫金額を○○円削減してくださいと言われた在庫金額
- キャッシュフローの改善の観点から決めた在庫金額
といったような方法です。
繰り返しになりますが、公式や統計などの計算によって決めるべきものではありません。
適正在庫金額は会社のリードタイムから決めることもできる
もし、会社から適正在庫金額の指示が無かったり、適正在庫金額を決めるように指示を受けた場合は、会社のリードタイムからも決めることができます。
会社のリードタイムとは、会社がお客さんに製品を納品するためにかかる日数のことです。
会社のリードタイムは大きく分けて、次の3つで構成されています。
- 調達リードタイム:材料や商品を仕入れるために掛かる時間
- 生産リードタイム:製品を生産するために掛かる時間(製造業のみ)
- 納品リードタイム:製品がお客様に届くまでの時間
仮にこの会社の3つのリードタイムが、
- 調達リードタイム:18日
- 生産リードタイム:20日
- 納品リードタイム: 2日
とすると、トータルリードタイムは、40日という事になります。
これがこの会社の最短リードタイムになりますので、
228日(在庫日数)-40日(会社のリードタイム)=188日
つまり、188日が過剰在庫という事になります。
在庫金額は逆算して、計算します。
在庫回転率=365÷在庫回転日数で計算できるので、
在庫回転率=365÷40=9.1
平均在庫金額=売上原価÷在庫回転率で計算できるので、
平均在庫金額=4000万円 ÷ 9.1≒439万円
となります。つまりこの会社が目指す在庫金額の一つの目安が439万円ということがわかります。
安全在庫を考慮する
次に安全在庫を設定します。
先ほど計算した439万円は、トラブルや納期遅延が無く、全てが予定通りにうまくいった場合に目指せる金額です。
業務の中には予期せぬ出来事や思い通りにならないことが多々あります。
そのことを考慮するために安全在庫を設定します。
在庫削減金額を計算する
- 現在の在庫金額:2500万円
- 理想とする在庫金額:439万円
なので、在庫削減金額は、2500-439 = 2061万円
つまり、在庫削減の目標金額は2061万円ということになります。
情物一致の状態にする
在庫管理で最初に目指すべき、土台ともいえる状態は情物一致です。
情物一致とは、在庫データと現物の数が一致している状態のことです。
情物一致ができてるかどうかを図るのは、棚卸差異率(棚卸精度)です。
具体的には、最低でも棚卸差異率は5%以下(棚卸精度が95%以上)でなければいけません。
情物一致が実現すると、在庫がデータでしっかりと見えるようになります。
在庫の数が合っているかどうかの不安が無くなり、結果的に欠品を恐れ過剰な在庫を持つ必要が無くなります。
2S(整理・整頓)を行う
情物一致を行う上で、まず取り組んでいただきたいのは、2S(整理・整頓)です。
どんなに立派なシステムが合っても、2Sができていないとシステムは機能しません。
整理と整頓については、下記の記事で詳しく説明しています。
適正在庫になっていないものを絞り込み、抽出する
情物一致と整理・整頓ができたら、適正在庫金額を目指すために、改善対象を絞り込みます。
会社の在庫には、すでに適正な状態になっているもの、適正な状態ではないものが混じっています。
むやみに、改善を進めるのは、通常業務の負担を大きくし、かえって逆効果になります。
取り組みの費用対効果の高い対象から優先順位を付けて、的を絞って適正在庫管理に取り組む必要があります。
これは会社全体の目標値なので、どれが削減できる在庫なのか、どの品目の在庫削減を優先的に進めるのかを決めます。
優先度の高い品目の絞り込みに使う手法がABC分析です。
ABC分析で対象の在庫を絞り込む
ABC分析は、金額、時間、数量など対象を問わず
様々なものに使用できます。
ABC分析の方法は、こちらをご覧ください。
標準化・基準化で属人化を排除する
在庫管理ができている会社の共通点は、標準化・基準化です。
逆に、在庫管理に大きな問題のある会社の共通点は、「属人化」です。
やることを決めても、個々が勝手に判断して動いていたら改善はできません。
標準化・基準化することで、やることや判断の統一ができます。
結果的に、個人によるバラつきが無くなって、会社の進むべき方向(適正在庫金額の状態にする)に向かいます。
基準の見直し
改善があと一歩でうまく回っていない会社、同じような改善を何度も繰り返している会社で足りないのは、見直しです。
基準を決めた時の状態が、ずっと同じままで続くことはまずありません。
それに応じて、決めたこと、基準を見直さなければいけません。
在庫管理・適正在庫における基準は、見直すためにあるものです。
(逆に言えば、決まり事があるので、見直すことができるとも言えます)
商品の特性に合う適正な発注を実施する
在庫管理がうまくいっている会社は、発注方法がシステマティック(決まり事がある)です。
一方、在庫管理に問題がある会社は、各担当者の勘と経験に頼り、判断基準はバラバラです。
発注方法も必ず見直しましょう。
製造業の適正在庫化のキモは生産の改善
特に製造業の場合は、生産リードタイムの改善がキモになります。
製造業には「生産」があり、その中には仕掛在庫があります。
つまり、適正在庫金額を目指すためには、生産改善は欠かせません。
1つの製品を生産するのに日数がかかる場合は、この部分に手を入れないと適正在庫金額は実現しません。
工場のリードタイムは次のようになっています。
仕掛品が関係するリードタイムは、製造リードタイムです。
製造リードタイムが長くなればなるほど、仕掛在庫金額は膨らみます。
仕掛品の管理が難しいのは、状態が一定ではなく常に刻々と変化していることです。
他のリードタイムに比べて把握が難しいのが事実ですが、在庫削減の効果が大きいのも事実です。
その理由は仕掛品の特性にあります。
仕掛品は、材料と製品の中間にある在庫です。
作り過ぎは、材料の不足と製品の余剰在庫を引き起こします。
工程間の生産能力に大きな差があると、工程内で欠品や過剰在庫が増えます。
例えば、工程1~3の1時間の生産能力が次のような場合、
- 工程1の生産能力:120個/1時間
- 工程2の生産能力:50個/1時間
- 工程3の生産能力:120個/1時間
工程1の仕掛品は大量に出来上がりますが、工程3は、常に欠品状態です。
工程間の生産能力バランスが悪ければ、材料の余剰と欠品、仕掛品の余剰と欠品がすべて同時に起こります。
生産リードタイムさえきちんと管理できれば、全体の在庫レベルのコントロールがかなりうまくできることが分かります。具体的な方法はこちらをご覧ください。
改善ができない、続かない理由
ここまで説明してきたことを実践しても、現状が変わらない・・・
という時、会社の中で起こっているのは、「決めた基準を使わないこと、改善しないこと」です。
改善プロジェクトの発表会で、成果を発表するとそこで終わってしまうことが多いのです。
徐々に効果が薄れ、いつの間にか元通りになります。
こんなことになる理由は2つあります。
- 改善で決まったことを途中で止めてしまう。
- 上司や幹部が無関心になってしまう。
どちらも悪いのですが、やはり上層部が無関心になるのが一番の問題です。
経営層、管理職は任せっきりにせず、関心をもって定期的にチェックすることが大切です。
適正在庫金額の取り組みで生産性も向上
適正在庫を決めて、基準ができるとやって良いか悪いかという判断が明確になります。
今まで長年の勘や経験に頼ってきた部分が数値化されるため、新入社員やパート・アルバイトも即戦力になります。
熟練の社員は、今まで手を取られていた雑務から解放されて、より高度で付加価値の高い作業に集中できるようになります。
会社の時間当たりの労働生産性が向上します。
高価なITシステムの導入は必要ありません。
まずは、業務内容を理解し、自分たちの手で仕組みを構築することの方が大切です。
まとめ
今回は、適正在庫金額の設定方法と適正在庫を目指すための方法をお伝えしました。
要約すると次のようになります。
- 現在の在庫回転日数を決算書から計算して現状を把握する
- 理想の適正在庫金額を会社が目指したい財務状態から決める
- 財務状態が決められない場合は、会社のリードタイムから適正在庫金額を逆算する。
- 現状が適正在庫に満たない場合は、在庫削減額を決める
- 改善の実施1:情物一致の状態にする
- 改善の実施2:2S(整理・整頓)を行う
- 数多くの在庫品目の中から改善対象を絞り込む
- 標準化・基準化で属人化を排除する
- 商品の特性に合う適正な発注を実施する
- (製造業の場合):生産リードタイムの改善を行う
- 改善を定着させ、続けるためには、経営・管理職の定期的なチェックが大切
適正在庫金額を目指す取り組みは、財務体質の改善だけではなく、生産性の向上にもつながります。
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