「A工場では部品が足りずに生産が止まりかけているのに、B倉庫には同じ部品が使われないまま眠っている」。拠点や倉庫が複数ある会社では、こうしたことが珍しくありません。営業が在庫を聞かれるたびに各拠点へ確認し、返事を待って客先に回答している現場もあります。
こうした状態は、担当者の管理が甘いから起きているわけではありません。在庫が複数の場所に分かれていること自体が把握を難しくし、結果として在庫を増やす原因になっています。原因が構造にある以上、打つべき手もおのずと決まってくるでしょう。
この記事では、複数の拠点で在庫を管理する場合に生じる課題やExcel管理の限界、在庫を一元管理する手順、システムの選び方を解説します。
複数拠点の在庫管理とは?
複数拠点の在庫管理とは、拠点ごとの在庫を正確に把握したうえで、全社の在庫をひとつの基準で見られる状態をつくることです。各拠点の数字を単に足し合わせることではありません。どの拠点に何がいくつあるかを関係者が同じ情報で確認でき、発注や引き当ての判断にそのまま使える状態を指します。
管理の対象になる拠点
管理の対象は、自社工場や自社倉庫だけにとどまりません。店舗のバックヤード、外部に委託している倉庫、営業所の保管スペースなども含めて考えます。
在庫が置かれている場所は、すべて対象と捉えてください。特に外部委託倉庫は自社の目が届きにくく、対象から漏れやすい場所です。
「拠点」と「場所」の違い
複数拠点の在庫を整理するときは、「拠点」と「場所」を2階層に分けて考えます。拠点とは倉庫や店舗のように物理的に離れた単位、場所(ロケーション)とは拠点内の棚や区画のことです。
この2つを混同すると、設計は途中で行き詰まるでしょう。「第2倉庫のA-3棚」のように組み合わせて特定できる形にしておけば、拠点をまたいだ集計と拠点内でのモノ探しの両方に対応できます。多拠点の在庫管理は、この整理から始めましょう。
関連記事:ロケーションの設計と管理の基本|ミス激減&効率化する方法
複数拠点の在庫管理で起きる5つの課題
複数倉庫の在庫管理でつまずく原因は、大きく5つに整理できます。
- 拠点ごとに在庫が見えず、全社の在庫がわからない
- 欠品と過剰在庫が同時に起きる
- 拠点間の在庫移動に手間とコストがかかる
- 二重入力とタイムラグで帳簿と実在庫がずれる
- 棚卸の負担が拠点の数だけ増える
拠点ごとに在庫が見えない
複数拠点で在庫を管理していると、全社の在庫を一目で把握できる担当者が社内にひとりもいなくなる可能性があります。拠点ごとに台帳が分かれている場合、各拠点の担当者に見えるのは自分の在庫だけです。営業が客先で在庫を聞かれても即答できず、確認の往復で商談が止まることもあります。
欠品と過剰在庫の同時発生
複数拠点でよく起きるのが、同じ品目で欠品と過剰在庫が同時に発生するという状況です。ある拠点では品切れなのに、別の拠点には同じ品目が動かないまま残っています。
会社全体では足りているのに、必要な場所にないため出荷できません。結果として追加発注が発生し、全社の在庫はさらに増えます。
拠点間の在庫移動にかかる手間とコスト
拠点間の在庫移動には、輸送費と現場の工数が上乗せでかかります。偏りを解消するために在庫を動かすほど、本来なら不要だったコストが積み上がります。
特に注意したいのが移動中の在庫の扱いでしょう。出した側は在庫を減らし、受け取る側はまだ入庫していないため、どちらの拠点にも計上されない期間が生まれます。
二重入力による帳簿と実在庫のずれ
拠点ごとに記録して後から集約する方式では、集計した時点ですでに情報が古くなっている可能性があります。本社で取りまとめる流れだと、数日分の遅れが避けられません。
同じ内容を拠点の台帳と全社の集計表に二重入力していれば、転記ミスも起こります。帳簿と実在庫が合わなくなり、どちらが正しいのか判断できなくなります。
拠点の数だけ増える棚卸の負担
棚卸の負担は、拠点の数に比例して重くなります。全拠点で日程を合わせられず基準日がずれると、全社としての正しい在庫金額を出せません。
差異が出たときの原因追及も難しくなります。数え間違いなのか、拠点間の移動が記録されていないのかを切り分ける必要があるためです。全拠点を同時に締めるのが難しい場合は、区分ごとに順番に数える循環棚卸へ切り替える方法もあります。
関連記事:循環棚卸の具体的な進め方と効率化する方法
拠点が増えると在庫が増えるのはなぜか
拠点を増やすと、同じ売上を支えるために必要な在庫の総量は増えます。これは管理の巧拙ではなく、在庫を分けて持つことによる構造的な現象です。ここを理解しておかないと、現場でいくら努力しても在庫は減りません。
とはいえ、拠点を分けること自体は合理的な判断です。顧客や生産現場の近くに在庫を置けば、納品までの時間は短くなり、輸送の負担も軽くなります。問題は、在庫が増えるという副作用を見込まずに拠点を増やす点にあります。
拠点ごとの安全在庫が積み上がる仕組み
在庫を複数の拠点に分けると、それぞれの拠点で需要の振れに備える必要が生じます。1か所で持っていれば1回分で済んだ備えを、拠点の数だけ用意しなければなりません。
在庫が1か所にまとまっていれば、注文が想定より多い日と少ない日は互いに打ち消し合うでしょう。ところが拠点が分かれると、この打ち消し合いが起きません。A拠点の余裕をB拠点の不足に回せず、それぞれが自分の拠点の変動に単独で備える形になります。
たとえば、ある品目を1つの倉庫でまとめて管理していたときは、安全在庫が100個あれば欠品を防げていたとしましょう。これを3つの拠点に分けると、1拠点あたり60個、合計で180個ほど必要になるケースがあります。
| 項目 | 1か所に集約 | 3拠点に分散 |
|---|---|---|
| 安全在庫 | 100個 | 1拠点60個・合計180個 |
| 需要の振れへの備え | 全体でまとめて吸収 | 拠点ごとに個別に用意 |
| 他拠点の在庫の活用 | 制約なし | 引き当てできず滞留する |
単純に3倍の300個にはなりませんが、1か所に集約していた100個よりは確実に増えます。この差が、拠点を増やしても在庫が減らない理由です。
※数値は一例です。増え方は品目の動き方や拠点ごとの需要のばらつきによって変わるため、自社のデータで確認してください。
在庫を一元管理して需要の偏りを吸収する
在庫を分けて持つと、ある拠点の余剰で別の拠点の不足を埋められなくなります。A拠点に想定外の注文が入っても、B拠点の在庫を引き当てられなければ欠品として扱われます。一方のB拠点では、売れなかった在庫がそのまま滞留します。
この「拠点の壁」を取り払い、全社の在庫をひとつのまとまりとして扱えるようにすることが、在庫の一元管理です。壁がなくなれば、ある拠点の余剰を別の拠点の需要に充てられるため、持つべき備えは少なくて済みます。複数拠点の在庫管理の目的は、拠点ごとの数字を並べることではなく、この状態をつくることにあります。
Excelでの複数拠点管理
Excelでの複数拠点管理は、拠点数と品目数が少ないうちは十分に機能します。費用をかけずに始められるため、最初の一歩としては現実的な方法です。ただし、事業の成長とともに管理が難しくなるおそれがあります。
Excelで複数拠点の在庫を管理する方法
Excelで複数拠点の在庫管理を行う場合、拠点ごとにシートを分け、品目コードをキーにして集計シートへまとめるのが基本です。
拠点ごとのシートに品目コード・品名・入庫数・出庫数・在庫数を記録し、集計シートではSUMIF関数などで各拠点の在庫数を拾って全社の合計を出します。ピボットテーブルを使えば、品目別と拠点別の在庫数を一覧できる表も作れます。
Excel管理が難しくなるタイミング
Excelでの管理が難しくなるのは、次の3つのいずれかに当てはまったときです。
- 拠点数が増えたとき:シートと参照範囲が増え、拠点を追加するたびに数式の修正が必要です。修正漏れがあっても気づきにくく、いつの間にか合計が合わなくなります。
- 品目数が増えたとき:行数が増えるほどファイルは重くなり、開くだけで時間がかかるでしょう。関数の再計算も遅く、更新のたびに待たされます。
- 同時に扱う人が増えたとき:複数の担当者が同時に編集できません。ファイルをメールでやり取りすると版が分かれ、共有した時点の数字しか見られない状態に陥ります。
3つのうちどれか1つでも当てはまるなら、システム化を検討する時期と考えてよいでしょう。
関連記事:【実例あり】エクセルで在庫管理をおこなう場合のメリット・デメリット
複数拠点の在庫を一元管理する4ステップ
複数拠点の在庫を一元管理するには、運用のルールを整えてから仕組みを入れるという順番が重要です。システムを先に導入しても、拠点ごとの運用が整っていない状態では数字がそろいません。
ステップ1:品目コードと管理ルールの統一
最初にやるべきは、システムの導入ではなく拠点間で言葉と単位を揃えることです。
同じ品目を拠点ごとに違うコードで呼んでいたり、管理していたりすると、どんな仕組みを入れてもデータを突き合わせられません。品目コードを全社で統一し、数える単位もそろえます。入庫と出庫をどの時点で記録するかも決めておきましょう。
ステップ2:在庫データのリアルタイム集約
次に、各拠点の入出庫がその場で全社の在庫に反映される状態をつくりましょう。
クラウド型の在庫管理システムなら、拠点で入力した結果がすぐに共有され、本社が集計する作業そのものが不要です。営業も自分で在庫を確認できるため、拠点への問い合わせも減っていきます。
ステップ3:拠点間の在庫移動のルール化
一元管理を定着させるうえで欠かせないのが、拠点間の在庫移動をどう扱うかを決めておくことです。次の3点を明文化しましょう。
- 誰が移動の要否を判断するか(拠点の担当者か、全社を見る管理者か)
- 移動の指示と受領をどう記録するか
- 輸送中の在庫をどちらの拠点に計上するか
これらの点が曖昧だと、システムを導入しても在庫数が合わない状態は解消されません。特に輸送中の在庫は抜けやすいため、必ずルールに含めてください。
ステップ4:全社基準での適正在庫の見直し
最後に、拠点ごとに積み上げていた在庫を、全社の基準で置き直します。
一元管理ができると拠点をまたいだ引き当てが可能になり、各拠点が重複して備えを持つ必要がなくなります。ここまで実施して、はじめて在庫が減ります。仕組みを入れただけで満足せず、基準そのものを見直しましょう。
関連記事:適正在庫とは|計算方法と実務ですぐに使える維持方法を詳しく解説
複数拠点対応の在庫管理システムを選ぶポイント
複数拠点で使う在庫管理システムは、拠点をまたいだ運用に対応できるかどうかで選びます。単体の倉庫で使う前提の機能だけでは、拠点が増えたときに対応できません。確認すべきは次の5点です。
拠点別の在庫とロケーションを管理できるか
拠点単位と、拠点内の場所単位の2階層で在庫を持てるかを確認します。拠点ごとの合計しか見えない仕組みでは、現場で「どの棚にあるか」がわからず、探す手間が残ります。
拠点間の在庫移動を記録できるか
移動の指示、出庫、受領までを一連の記録として残せるかが重要です。数量の増減としてしか扱えないシステムでは、輸送中の在庫が追えません。履歴が残れば、差異が出たときの原因追及も容易になります。
拠点ごとに権限を分けられるか
拠点ごとに操作できる範囲を設定できるかも確認しましょう。自分の拠点は登録・修正でき、他拠点は閲覧のみと設定できれば、誤操作を防ぎながら全社の在庫を共有できます。
既存のシステムと連携できるか
販売管理や生産管理と在庫データを連携できるかを確認します。連携できない場合は二重入力が残り、ステップ2で目指したリアルタイムの集約が実現しません。
在庫管理110番が提供する「成長する在庫管理システム」では、既存の基幹システムや会計・販売・生産管理システムとCSVやAPIで連携できます。今の仕組みを入れ替えずに、在庫だけを一元化する進め方も選べます。
自社の運用に合わせられるか
最後に見ておきたいのが、自社の運用に合わせて調整できる余地があるかという点です。パッケージの機能に業務を合わせようとすると、拠点ごとの事情を吸収しきれず、現場で使われないまま終わってしまいます。
「成長する在庫管理システム」は、必要な機能だけを選んで追加できるパーツオーダー方式です。拠点の数や運用の違いに合わせて構成を決められるため、使わない機能に費用をかけずに導入できます。
関連記事:在庫管理システムの比較・選び方と導入メリットを徹底解説
まとめ
複数拠点の在庫管理では、拠点が分かれること自体が在庫を増やす原因になります。まずは品目コードと運用ルールを拠点間でそろえ、在庫データをリアルタイムに集約できる状態をつくりましょう。そのうえで移動のルールを決め、全社基準で適正在庫を見直せば、在庫は着実に減っていきます。
まずは自社の在庫がどの拠点にどれだけあるかを、見える状態にするところから始めてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
拠点が2つでも在庫を一元管理する意味はありますか?
2拠点でも意味はあります。拠点が分かれた時点で、それぞれが個別に備えを持つため在庫が増えるからです。多拠点の在庫管理は、2つに分かれた段階から検討する価値があります。
複数拠点の在庫管理はExcelでもできますか?
可能です。拠点ごとにシートを分け、品目コードをキーに集計する方法が基本です。ただし複数拠点の在庫管理をExcelで続けると、拠点数・品目数・同時に扱う人数が増えた段階で限界が訪れます。
拠点間で在庫を移動したとき、どう記録すればよいですか?
移動の指示、出庫、受領を一連の記録として残してください。特に拠点間の在庫移動で抜けやすいのが輸送中の在庫です。どちらの拠点に計上するかをあらかじめ決めておくと、実在庫とのずれを防げます。
クラウド型の在庫管理システムは複数拠点でも使えますか?
使えます。複数拠点の在庫管理でクラウド型が選ばれるのは、各拠点で入力した内容がその場で全社に反映されるためです。本社で集計する作業が不要になり、離れた拠点の在庫もリアルタイムで確認できます。
複数拠点の在庫管理を仕組みで解決しませんか
拠点をまたいだ在庫の偏りをなくすには、全社の在庫をひとつの基準で見られる状態をつくることが欠かせません。在庫管理110番では、複数の拠点や倉庫にも対応できるクラウド型の在庫管理システムをご提供しています。ライセンス数に制限がなく、拠点や担当者が増えても費用が上がらないため、拠点展開を進めている企業にも導入いただけます。
「まずは考え方から整理したい」という場合は、適正在庫の決め方や棚卸の改善が学べるセミナーもご用意しています。
自社の場合はどこから手をつけるべきか迷われている場合は、お気軽にご相談ください。在庫管理の専門家が、状況をうかがったうえで進め方をご提案します。


