在庫管理アドバイザーとして、数多くのご相談を受けてきました。
その中で一番多い悩みは、適正在庫に関することです。
この記事では、自社の適正在庫を知る方法と維持する方法を解説します。
適正在庫とは、「欠品せず、かつ過剰在庫にならない適正な在庫数のこと」と言われています。
適正在庫は難しい数式や需要予測が必要と思われがちです。
しかし実は、需要予測のように難しい統計や数式は不要です。この記事ではどんな会社でも自社の適正在庫を設定できる方法を解説します。
- 適正在庫の計算方法(経営的視点、実務的視点)
- 適正在庫を実現するために必要な改善のポイント
- 適正在庫を維持するポイント
- 安全在庫と適正在庫の違い
- 需要予測と適正在庫の違い
- 適正在庫=会社戦略
それでは、適正在庫について具体的に解説します。 ぜひ、最後までお読みください。
目次
- 1 適正在庫の計算方法は2つある
- 2 適正在庫(経営的観点)を計算する
- 3 適正在庫金額を目指すために改善対象を絞り込む
- 4 適正在庫(実務的観点)を計算する
- 5 適正在庫を実現するための実際の改善
- 6 仕入れ改善の視点
- 7 生産改善の視点
- 8 仕掛品を戦略在庫として持つ(デカップリングポイント)
- 9 適正在庫を維持する
- 10 安全在庫と適正在庫の違い
- 11 需要予測と適正在庫の違い
- 12 適正在庫は会社が戦略的に決めるもの
- 13 自社の適正在庫と設定方法の手順(まとめ)
- 14 適正在庫に高度なシステムは不要
- 15 適正在庫の維持のために在庫管理システムを導入しよう
- 16 適正在庫に関するご相談・お問い合わせ
- 17 適正在庫に関する関連記事
適正在庫の計算方法は2つある
適正在庫というのは、経営側が考える適正在庫と現場が考える適正在庫があります。
- 経営的観点:会社が理想とする財務状況を目指すトップダウン方式
- 実務的観点:現場の実情に合わせて決めるボトムアップ方式
経営視点の適正在庫は、「お金」がメインの視点です。 一方で、実務的観点の適正在庫は、「モノ」がメインの視点です。
適正在庫(経営的観点)を計算する
2つの方法がありますが、改善の土壌が整っていない会社は、経営的観点から決める「トップダウン方式」がお勧めです。
トップダウン方式では、会社が目指す在庫金額が適正在庫です。
この方法では、在庫回転日数を改善して、会社が理想とする適正在庫金額に近づけていきます。
適正在庫の計算手順は次の通りです。
- 売上目標を決める
- 理想とする財務状態(=在庫金額を決める)
- 理想とする在庫回転日数を求める(=適正在庫)
在庫回転日数(在庫回転率)は在庫管理における最重要管理指標です。 在庫回転率は次の計算式で求めます。
- 在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
- 在庫回転日数 = 期間(日数) ÷ 在庫回転率
在庫回転率・在庫回転日数について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
売上目標を決める
売上原価は、売上から粗利益(売上総利益)を引いたものなので売上目標から計算します。
例えば、売上高1億円、粗利率30%であれば売上原価は3000万円です。
もし、売上目標が分からない場合は、とりあえず前年度の売上原価で良いでしょう。売上原価は在庫管理担当者にはあまりなじみが無いですが、経理担当者に聞けばわかります。
在庫金額を決める
次に在庫金額を決めます。
この在庫金額は会社として達成したい在庫金額が良いです。
すでに会社に在庫金額の削減目標があれば、
「達成したい在庫金額(適正在庫金額)=現在の在庫金額-在庫削減目標金額」
ということになります。
売上原価と在庫金額が決まれば、適正在庫金額を決めることができます。
理想的な在庫金額の目安
もし、理想とする在庫金額を決められないという場合は、一般的に理想的な在庫金額が目安になります。
下の表は、業種別・売上規模別に、
- 売上
- 在庫金額
- 在庫金額比率(在庫金額の売上に対する割合)
- 回転日数(在庫回転日数)
を表した表です。
ご覧いただくと分かるように、優良企業の方が赤字企業よりも在庫回転日数の数値が小さい(=在庫がよく回っている)ということがお分かりになるはずです。
もし、自社の目指す在庫回転日数が決められない・・・という場合は、
優良企業の回転日数が取り急ぎ目指すべき在庫回転日数と言って良いでしょう。
さらに、在庫回転日数とともに、注文してもらいたいのは赤枠で囲った部分です。 これは、売上高に対する在庫金額の比率です。
売上に対して在庫金額が大きいと、この割合が大きくなります。
目安となる在庫金額の比率は、それぞれ次の通りです。
- 製造業:8%未満
- 卸売業:4%未満
- 小売業:4.5%未満
会社の目標在庫金額が決められない・・・という場合はぜひ参考にしてみてください。
売上に対して在庫金額の割合が15%を超えていると「在庫が多い」と認識して間違いないでしょう。
上場企業の皆様は、決算書が公開されていますので業績の良い競合企業をベンチマークにしても良いでしょう。
同業や同規模の会社でも驚くほど在庫金額が小さい企業もあります。
後述する適正在庫を実現する方法にも書きましたが、オペレーションやビジネスの仕組みを見ると、うまくやっている会社には共通点が多く、なるほどな・・・と思うところが多いです。
逆に言えば、過剰在庫や欠品が頻繁に起こっている会社にも共通点があるということです。
適正在庫の手法や金額の計算方法など、何か聞きたいことがなんなりと在庫管理アドバイザーまでご相談ください。
【補足】資金繰りから適正在庫を計算する
在庫金額ではなく、資金繰り(運転資金)からも適正在庫を計算できます。
そこで知っておきたい管理指標がキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)です。
キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)とは、簡単に言えば、投資したお金が何日後に手元に戻ってくるかということを表した指標で、キャッシュフロー経営を重視する際には必須となる指標です。
CCCは短い方が良いです。
例えば、CCCが90日の場合、今日100円で仕入を行った場合、その100円が戻ってくるのは約90日後ということになります。
つまり、この商品を売るためには、少なくとも9000円の借金が必要ということです。
ちなみに、アマゾンは創業当初からCCCを意識した経営を行い、成長してきたことは有名な話です。
資本効率(手元にある資本を効率良く使って、どれだけの売上を上げたか?)を重視する現在欧米の企業では当たり前で、日本の上場企業も資本効率を意識しており、これから重要な経営指標になることは確実です。
残念なことに、日本の中小企業はまだまだP/L(損益計算書)重視の経営です。
P/L(損益計算書)重視の経営は、時代の流れがゆっくりで商品寿命が長い時は有効です。
しかし、時代の移り変わりが早く、商品寿命の短い現代では、あっという間に商品価値が無くなり、売れなくなり不良在庫化します。
中小企業も必ず資本効率重視の経営が求められる時代になりますし、「いつか売れる」という昭和の考え方は通用しません。
適正在庫金額を目指すために改善対象を絞り込む
適正在庫金額が決まれば、「削減金額」が明確になります。
目標を目指して改善を進めるだけです。
目標在庫金額から求めた在庫回転率を当てはめます。
上記の場合、この会社の改善前の売上原価が12922642であれば、
現在庫(2,915,443)を目標在庫(2,000,000)にしたい。
現在の在庫金額を目標の適正在庫にするためには在庫削減が必要です。
しかし、何千、何万とある商品や部品を適正在庫にする・・・ということを考えただけでも辛くなります。
何をどう減らせば良いのか途方に暮れてしまうでしょう。
私も在庫管理をやっていましたので大変さはわかります。
現在庫(2,915,443)を目標在庫(2,000,000)になった時の、在庫回転日数を56.5日です。
現在庫には、在庫回転日数=56.5日を超えるものがあるから、在庫金額が大きくなっているということわかります。
つまり、在庫回転日数が56.5日よりも大きな在庫を見つけて、改善すれば良いということになります。
そこで、次のように改善の対象を絞り込みます。
全ての商品や部品の在庫回転日数を調べてA・B・Cの3つのグループに分類します。
- Aグループ:在庫回転日数が56.5日以下の在庫
- Bグループ:在庫回転日数が56.5日より長く113日以下の在庫(目安:適正在庫回転日数の約2倍まで)
- Cグループ:在庫回転日数が113日より長い在庫(目安:適正在庫回転日数の約2倍以上)
つまり、改善対象はBとCグループに入った在庫になります。
こうすることで、効率よく改善対象を絞り込むことができます。
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適正在庫(実務的観点)を計算する
次に実務的観点から適正在庫を計算する方法をご紹介します。
実務的観点から計算する方法は2つあります。
- 必要数から計算する方法
- リードタイムから計算する方法
まずは、必要数から計算する方法について解説します。
必要数から適正在庫を計算する
一番スタンダードな方法です。
適正在庫数を求める式は次の通りです。
適正在庫数 = 一定期間の需要数 + 安全在庫数
例えば、1日の平均需要数が10個、安全在庫が20個とすると30日間の適正在庫は、
適正在庫数 = 10 × 30 + 20 = 320(適正在庫数)
となります。
この式の中で重要なのは、「需要数」です。 この適正在庫の式を使う場合はどれくらいの需要があるのかをデータとして蓄積しておかなければいけません。
需要数は必ず変動するのでバッファー在庫として安全在庫も合わせて設定しなければいけません。
安全在庫の計算式は次の通りです。 安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×ルート(発注リードタイム+発注間隔)
もし、新商品などで過去データが全くない場合(例えば新商品のような場合)は、モデルチェンジ品であれば、類似品の需要数などを参考にします。販売計画数が需要数の代わりになります。
この方法は、きちんと当たれば在庫のムダは無いです。しかし、よほど需要が安定した商材でない限り、需要予測は難しいでしょう。
需要予測は、専門的な知識を持った専門家じゃないとなかなか難しいです。(専門家でもそうそう当たるものではないそうです)※私はあまりこの方法は、中小企業には推奨しません。
適正在庫をリードタイムから計算する
実務的観点から適正在庫を計算するのであれば、おすすめはリードタイムから計算すると良いです。
その方法はとてもシンプル。
もし、あなたが
在庫を何のために持っていますか?と聞かれたら、
「お客さんの注文(納期)に間に合わせるため」と回答するでしょう。
つまり、自社が、仕入れからお客様に納品するまでのリードタイム(会社リードタイム)を適正在庫リードタイムとし、現在の在庫回転日数と比較すれば良いのです。
もし、「現在の在庫回転日数 ー 会社リードタイム」であれば、過剰在庫です。
会社リードタイムを知るためには、会社の中の重要なリードタイムを知り、それらの現状を調査します。
会社のリードタイムは、3つ(仕入れ、生産・準備、納品)に分類する
会社リードタイムを分解すると次の3つのリードタイムになります。
- 発注(仕入れ)リードタイム:材料を発注してから、工場に納品されるまでにかかる日数
- 生産(製造)リードタイム:生産に着手してから、生産完了までにかかる日数
- 出荷(納品)リードタイム:製品を出荷してから客先に届くまでの日数
この3つのリードタイムを合計した会社リードタイムです。
上記は製造業の会社リードタイムですが、加工や組み立ての無い業種(小売業・卸売業等)は、製造リードタイムを除く2つのリードタイム(仕入リードタイム・出荷リードタイム)が会社リードタイムになります。
上記3つの標準リードタイムを足したリードタイムが、おおよそ会社の適正な在庫日数です。しかし、これよりも在庫回転日数が極端に長い場合は、在庫の持ちすぎと考えれます。
適正在庫を実現するための実際の改善
目標が決まれば改善です。ここでは、改善の目の付け所をご紹介します。 適正在庫へのアプローチは大きく分けて2つの方法があります。
- リードタイムの短縮
- 変動(ばらつき)を少なくする
そして、具体的な改善ターゲットは次の3つです。
- 仕入れ(仕入先)
- 生産
- 市場
仕入れ改善の視点
仕入先が適正在庫を阻害する要因となるのは、
- 発注リードタイム:発注リードタイムが長い。
- 発注ロット:発注ロットが大きく、必要な量だけ買えない。
- 納期遅れ:指定した納期に材料や商品が入ってこない。
- 不良:納入された材料や商品が不良で、数が減ってしまう。
そもそも発注リードタイムが決まっていないという会社が多いようです。
1と2に目が行きがちですが、まずは3にしっかりと着目しましょう。
納期が遅れがちな仕入先への発注数は、どうしても多くなりがちです。
そのために、発注リードタイムを決めて、仕入先が指定した納期を守っているかどうかを「納期遵守率」という指標を設定して管理します。
生産改善の視点
生産の改善の視点は、次の2つに分かれます。
- 生産能力
- 生産方式
- それ以外
生産能力(生産リードタイムとボトルネック)
商品を生産する工場には生産能力があります。 原則として単位時間当たりの生産能力を超えて生産をすることはできません。
そこで、生産の前倒しが必要になります。
- 工場の生産能力は1日に50個
- お客からのオーダーが500個(要求納期は4日)
この工場の生産能力では、4日で200個しかつくれません。顧客の要求を守るためには、余分に300個を持っておくのが適正と言えます。
(在庫日数に換算すると6日分の在庫) お客から生産能力を超える注文が続く場合は、次の3つのうちいずれかが必要です。
- 前倒しで見込み生産を行う
- 生産LTを短くする
- 生産能力を増強する
最初は、前倒し生産を行い在庫を積むのが緊急対策になります。しかし、これを行っていると在庫がどんどん積みあがっていくので、本質的な改善として、生産リードタイムを短くしなければいけません。
生産能力の増強(設備導入、人員補強)は最後の手段です。安易に実施してはいけません。
生産リードタイムが伸びてしまう原因
生産リードタイムが伸びてしまう原因は、次のような事です。
- 機械故障:生産能力が落ちてしまう。
- 欠員:生産能力が落ちてしまう。
- 廃棄ロス(歩留り、不良):できる予定の数量ができあがらず、余分に 生産しなければいけなくなる。
- 段取り:生産以外に時間が取られ、予定よりも生産リードタイムが長くなってしまう。
- モノの移動:生産以外に時間が取られ、予定よりも製造リードタイムが長くなってしまう。
- 生産ロット:必要以上に余分に作ってしまう。
- 各種事務処理:処理待ちで生産が止まる。
- ミス:指示数や出来高数が違う。
これらの中で自然に解消するのは欠員くらいで、それ以外の要因は自然に良くなることは無いです。
むしろ放置するとにより拡大する傾向があります。これらはすべて4Mの何らかの不調によるものです。 4Mとは?
生産方式(見込み生産と受注生産)
製造業の場合は、生産方式によって適正在庫の設定が変わります。 生産方式は大きく分けて2つあります。
- 受注生産:注文を受けてから生産を開始する
- 見込み生産:注文を見越してあらかじめ生産をして在庫を持つ
受注生産では在庫は不要ですが、見込み生産は予め生産して在庫を持っておく必要です。
つまり、生産方式によって、適正在庫量が変わるのです。 必ずしも、完全に受注生産や見込み生産である必要はありません。
ある工程の仕掛品までを見込み生産して、その後は受注してから行う・・・という方法でも問題ありません。 次に解説する仕掛品を戦略的に持つという考え方を活用すれば可能です。
仕掛品を戦略在庫として持つ(デカップリングポイント)
さらに製造の途中の状態(仕掛品)で在庫を持つことも可能です。 見込み生産と受注生産の境目のことをデカップリングポイントと言います。
デカップリングポイントに関する詳しい解説はこちらをご覧ください。 ☞デカップリングポイントとは?
この考え方を取り入れて、生産方式を変えて在庫削減と顧客満足を実現した有名な事例は、アメリカのパソコンメーカーのDELLです。(DELLモデルといわれています)
DELLの生産方式の変更
- 従来は、STS:パソコン(完成品)を見込み生産して在庫を持つ。
- 改善後は、BTO:部品在庫を持っておいて、注文を受けてからパソコン組み立てて出荷する
生産方式をSTSからBTOに変えることで、在庫金額を大幅削減しつつ、浮いた管理コストや廃棄コストを製品に還元して低価格化を実現しました。
適正在庫を維持する
適正在庫は一度設定したら終わりではなく、状況に応じて定期的に見直さなければいけません。
例えば、周期的な変動やイベント・行事に合わせて動く商品であれば、その動向に合わせて、設定を変えなければいけません。
また、商品寿命の観点で長期的なトレンドを見る必要もあります。
トラブルや予期せぬ出来事がどれだけ起こるかを見積もる
現実の世界では、想定外のトラブルが起こります。 例えば、
- 仕入れ先の納期遅れ
- 仕入れ品の不良
- 生産遅れ
- 生産設備のトラブルや不良の発生
- 交通渋滞や自然災害
- 納期短縮
こういったトラブルを吸収するために在庫をもつ必要があります。先にあげた納期遵守率のようなデータをしっかりと蓄積して客観的に決定します。経験と勘だけでむやみに決めてはいけません。
需要の周期性(季節変動など)を把握する
トラブルのほかに、商品需要の周期性があります。 例えば、アイスクリームであれば夏に売れ行きが良く、冬は悪いのが一般的です。
アイスクリームの1月と8月の適正在庫量は違うということが分かります。 このように、商品には、季節変動などの周期性がある場合があります。
そのため、周期的な変動に合わせて見直しが必要しなければ、欠品や過剰在庫の原因になります。
トラブルと周期性を見積もるためには、日々のデータの蓄積が欠かせません。
安全在庫と適正在庫の違い
安全在庫と適正在庫は違います。この2つはよおく混同されがちです。
安全在庫とは欠品を防ぐための在庫で、在庫の下限値です。安全在庫の求め方はこちらでご確認ください。
一方、適正在庫は、欠品プラス過剰在庫にもならないようにしなければいけません。
在庫の下限値を設定して欠品を防ぐとともに、上限値を設定して過剰在庫を予防した状態が、適正在庫です。
需要予測と適正在庫の違い
適正在庫と言えば、「需要予測が必要」と考える方は多いのではないでしょうか? しかし、以下の2点の理由から需要予測は中小企業にはお勧めできません。
- 専門部署が必要なくらい人財と時間が必要
- 高度な専門人材が必要だから
精度の高い需要予測をするためには、膨大なデータと連携が必要です。 需要予測は、高価なシステムやAI(人工知能)を導入したからといって、できるものではありません。
実施するためには、次の4点が必要です。
- 質の良いデータが大量に必要
- 部署間連携
- 高度な専門人材
- 高度なシステム
在庫管理の担当者が片手間でやれるような業務ではありません。
高度な人材が、膨大なデータの中から需要予測に適したデータを選定して、需要予測モデルを構築します。
そのモデルはずっと使えるわけでは無く、環境や条件が変わった時に、見極める力も必要です。
需要予測には膨大なデータが必要
需要予測をするためには、膨大な質の良いデータが必須です。
需要予測は次のように定義されています。
特定の商品の需要 動向を決める各種の要因とその需要に与える影響を分析し,これをもとに市場調査や 各種の予測結果を考慮して将来の需要を予測すること。
これは、どういうことかというと、「過去に起こったことと全く同じことが起これば、将来も全く同じことが起こる」というのが需要予測の原則的な考え方です。
これが無ければ、どんなに高度な人がいても、需要予測は成立しません。
また、今回発生したコロナウイルスの流行のように過去に起こったことの無いことが起こると、需要予測は無力です。
コロナの影響を受けていなくても、市場動向が変わったり、販売方法を変える(例えば対面販売だけではなくEC販売も行う等)けでも過去に構築した需要予測モデルを修正しなければいけません。
需要予測しやすいものは何か?
強いて需要予測をしやすいものを挙げるとすれば、次の2つの条件を満たしたものです。
- 比較的長い間売れ続けている定番品
- 需要変動に与える要素が比較的わかっていてその通りになりやすいもの
需要予測の詳しいやり方に興味がある方は、こちらをご覧ください。
需要予測ができるようにデータを貯め準備をしておく
とはいえ、ITの進歩はすさまじく、今後需要予測がより身近になるかもしれません。
その時に、データが無ければ需要予測は一切できません。 今のうちに、データを貯めておきましょう。 需要に影響を与えるのは、季節変動や流行、嗜好、法律改正等などです。
例えば、
- 定期的な需要変動:アイスクリームの需要
- イベント・行事:お正月、クリスマス、祭り
- 一時的な需要変動:テレビ番組に取り上げられ、一時的に殺到
- 消費税増税:増税前の一時的な消費の盛り上がり
もちろん、これらは適正在庫の維持にも役立ちます。 どのように役立てていけば良いかを知りたい場合は、在庫無料個別相談や在庫管理セミナーのご受講をご検討ください。
適正在庫は会社が戦略的に決めるもの
適正在庫に決まった定義はありません。
適正在庫は、会社の方針によって決めるべきものです。
例えば、トヨタ自動車は在庫を持たないという方針ですが、トラスコ中山は在庫を持つことが方針です。
上記のような会社や在庫管理がうまくいっている会社は、会社方針と在庫戦略が一致しています。
逆に、在庫管理がうまくいっていない会社は、在庫管理の基本ができていなかったり、会社方針と在庫戦略がバラバラだったり行き当たりばったりです。
ちなみに、むやみやたらに「うちは欠品ゼロを目指します!」という会社ほど、欠品は多く、在庫戦略は気合と根性のみで、数値的根拠は一切ありません。
今回解説した適正在庫の考え方を繰り返し見返して、自社の適正在庫がどうあるべきか?ということをぜひ考えてみてください。
自社の適正在庫と設定方法の手順(まとめ)
適正在庫の設定方法を解説しました。
経営的観点から適正在庫を決める
- 目標とする在庫金額(運転資金)を決める
- 在庫回転率の式に1を当てはめて目標の在庫回転率を求める
- 現在の在庫回転日数を目標値に近づけるために改善する
実務的観点から適正在庫を決める
- 自社の会社リードタイムを調べる
- 在庫回転日数を比較する
- 理想の会社リードタイムに近づけるために改善する。
適正在庫を実現するための改善を実施する
- 仕入れ改善(発注リードタイムやロット、納期遵守、品質不良)
- 生産改善(生産能力を上げる、生産方式の見直し)
- 仕掛品を戦略在庫として持つ(デカップリングポイント)
適正在庫を維持する
- トラブルや予期せぬ出来事の見積もりを立てる
- 需要の周期性を把握する
勘違いしてはいけないこと
- 安全在庫と適正在庫は違う(安全在庫は下限値のみ、適正在庫は上・下が必要)
- 需要予測と適正在庫は違う(需要予測はリソースがかなり必要。中小企業には向かない)
- 適正在庫は会社戦略(定義は会社によって違う。単純な数式に落とし込めるものではない。)
在庫管理セミナーでは、経営的・実務的観点からの適正在庫の求め方、1000万円削減を実現した改善事例をもとに、適正在庫と誰でもできる仕組みづくりについて学べます。
適正在庫に高度なシステムは不要
「高価なシステムが無いから、適正在庫は難しい」というのも大きな間違いです。
システム会社が進めるシステム化=適正在庫の間違いです。
発注点や自動発注機能
システム会社は、適正在庫を実現させる機能として、発注点や自動発注を上げます。
しかし、発注点や自動発注は単なる、発注の支援機能です。 また、自動発注や発注点は欠品には有効ですが、過剰在庫・滞留在庫には効果を発揮しません。
高度な需要予測機能
需要予測には、次の3つが欠かせません。
- 十分なデータ量(季節性のあるデータを含む場合は少なくとも3年分)
- 精度の高いデータ
- 需要予測モデルを理解し、構築できる高度な人材
大企業の場合は、高度な人材を採用し、専門部署を立て、膨大なデータを集めることは可能かもしれません。
中小企業にはほぼ実現不可能です。
しかし、安心してください。 前述の通り、適正在庫の実現には、需要予測は必須ではありません。 ポイントを押さえたシステムがあれば、十分実現可能です。
適正在庫の維持のために在庫管理システムを導入しよう
私が相談を受け卸売会社は過剰在庫に悩んでいました。
その際、事前調査で分かったのは、
- 売上を作っているのは在庫金額の20%程度しかない。
- 商品の90%以上が、商品をリリースしてから2年後にほぼ例外無く、需要が落ちている
この会社の慢性的な原因は間違いなくこの2つです。
実際に深く実務を調べてみると、徐々に販売が落ちているにも関わらず、商品リリース当初に決めた発注数をほぼ変えずに仕入れしていました。
その結果徐々に在庫が増え、需要が無くなったところで在庫が高止まりします。
適正在庫の維持は過剰・滞留在庫の管理がカギを握っています。
欠品は、在庫が無くなったというサインがでるので必ず気づきます。
しかし、過剰在庫・滞留在庫は、サインが無いため気づけないのです。
の結果、静かにヘドロのように溜まっていきます。
上記の卸売会社の例では、担当者は過去の実績を見て、発注や仕入れを決めていました。
しかし、これまでずっと気づくことができず、慢性的な過剰在庫の原因を把握できずにいました。
過剰・滞留在庫は手を打つのが遅くなればなるほど、処分しにくくなるなど対策が打ちづらくなります。
早めに見つけることがポイントです。
ここで活躍するのが、今回解説した在庫回転日数です。
決めた適正値を超える品目を補足すれば、過剰在庫を未然に防げます。
しかし、何千・何万とある品目をその都度手作業で調べるのは、非効率ですし現実的ではありません。
そこで、在庫管理に是非導入しておきたいのが、在庫管理システムです。
予め在庫回転日数をお知らせするアラート機能を組み込んでおけば、システムが自動で知らせてくれます。
弊社の在庫管理システム「成長する在庫管理システム」では、在庫回転日数を一度に表示する機能を標準装備しています。
また、今回解説したような適正在庫を維持するための機能を、あなたの会社の事情を考慮してカスタマイズで追加可能です。
実務を知り、数多くの在庫管理の悩みに答えてきた在庫管理の専門家だからこそ実現できる、本当に現場で使える在庫管理システムです。
適正在庫に関するご相談・お問い合わせ
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