製造業の在庫回転率・在庫回転日数を調査・計算してみました。
(対象は、資本金1000万円未満と資本金1000~5000万円未満の中小企業、取扱品目の分類は、日本標準産業分類一覧に従っています。)
全体的にみると在庫回転率は、約7.0-9.0(在庫回転日数換算で40.5-52.1)です。
なお在庫回転率および在庫回転日数は、次の計算式で求めることができます。
在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
在庫回転日数=日数÷在庫回転率
自社の状況も把握した上で、比較をしてみてください。今回の算出によって、業界の生産する製品別に分けてみると在庫の状態(原材料・仕掛品・製品)の構成が、かなり特徴的であることがわかりました。
在庫回転率・在庫回転日数とともに、
- 棚卸資産に占める製品
- 仕掛品
- 原材料・貯蔵品
などの在庫金額量にも注目してください。
原材料・貯蔵品が多い場合は、購入ロットもしくは、調達にかかる発注リードタイムが長いことが現れています。仕掛品が多い場合は、工程数が多く製造リードタイムが長いということを意味しています。
どのような状態の在庫が多いか?ということを見れば、業界の特徴や課題が見えてきます。
在庫管理のご担当者様および中小企業の経営者の皆様は、自社の課題を解決するための指標としてご活用ください。
以下、製造業の各業種データを一覧にして紹介します。資本金・売上高・売上原価と見やすいようにまとめていますので簡単に比較いただけます。在庫回転率や棚卸資産、リードタイムは、こちらの記事で説明しているので、あわせてご覧ください。
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もくじ
- 1 製造業全体
- 2 製造業は在庫の持ち方に特徴がある
- 3 製造業の14業種の調査結果(在庫回転日数・各在庫の比率)
- 4 はん用機械器具製造業の在庫回転率
- 5 非鉄金属製造業の在庫回転率
- 6 印刷・同関連製造業の在庫回転率
- 7 自動車・同付属部品製造業の在庫回転率
- 8 化学製品製造業の在庫回転率
- 9 パルプ・紙・紙加工品製造業の在庫回転率
- 10 金属製品製造業の在庫回転率
- 11 木材、木製品製造業の在庫回転率
- 12 生産用機械器具製造業の在庫回転率
- 13 石油製品製造業の在庫回転率
- 14 食品製造業の在庫回転率
- 15 鉄鋼製造業の在庫回転率
- 16 情報通信機器製造業の在庫回転率
- 17 窯業・土石製品製造業の在庫回転率
- 18 輸送用機器製造業の在庫回転率
- 19 業界データだけで自社の適正在庫はわからない
- 20 自社の適正在庫を知る
製造業全体
製造業は在庫の持ち方に特徴がある
一口に製造業といっても、日本標準産業分類一覧の製造業(大分類E:製造業)には中分類で23業種もあります。
例えば、
- 作っているものの完成状態:最終製品(自動車や日用品など)や部品(製品に組み込むもの)を作っている
- 大きさ:工作機械のような大きなもの、ネジなどのような小さなもの
- 扱っている材料:金属や食材、化学材料、木材など
上記のように様々です。
さらに、生産形態も受注生産から見込み生産まで様々です。
一概に製造業だから在庫回転日数は○○日が適正といえません。
そこで、代表的な業種について、在庫回転日数を調べてみると、
在庫の種類(製品・仕掛品・原材料)の持ち方に特徴があることがわかりました。
今回調査したわかったことは、次のようなことです。
- 組立系製造業よりも装置系製造業は、仕掛在庫が少ない傾向にある
- 組立系製造業は仕掛在庫の割合が増える。
- 使用する部品点数が多く生産に時間のかかる大型機械類は、特に仕掛品在庫が多い。
- 売上で見ると、企業規模が大きくなる方が仕掛品在庫が増える
逆に言えば、生産に時間がかからないにもかかわらず、仕掛品在庫が多いなどの矛盾が生じている場合は、在庫管理や生産に何等かの問題が生じている可能性が高いということです。
製造業の14業種の調査結果(在庫回転日数・各在庫の比率)
今回調査した業種は次の14業種です。(業種名は、日本標準産業分類一覧に掲載されている名称です。)
- 電気機械器具製造業
- はん用機械器具製造業
- 非鉄金属製造業
- 印刷・同関連製造業
- 自動車・同付属部品製造業
- 化学製品製造業
- パルプ・紙・紙加工品製造業
- 金属製品製造業
- 木材、木製品製造業
- 生産用機械器具製造業
- 食品製造業
- 情報通信機器製造業
- 窯業・土石製品製造業
- 輸送用機器製造業
また、各業種の製品・仕掛品・原材料の比率を計算しました。
例えば、総在庫(棚卸資産)が、10000の時、
- 製品在庫:7000
- 仕掛品在庫:2000
- 原材料・貯蔵品:1000
の場合、製品・仕掛品・原材料の比率は、
- 製品在庫:70%
- 仕掛品在庫:20%
- 原材料・貯蔵品:10%
ということになります。
各業種の実態を詳しく把握していません。※あくまでも情報からの推測になります。
電気機械器具製造業の在庫回転率
電気機械器具製造業には、比較的大きなもの(X線装置などの医療機器や厨房機器)や小さなもの(ヒューズなどの小型部品)を含んでおり、製品・仕掛品・原材料の比率に偏りは少ないです。
ただ、企業規模で、製品と仕掛品の割合が逆転しているのは、小規模企業は比較的部品などの小さなものを生産していて、見込み生産が多く、規模の大きな企業は型の機械類を生産しているため受注生産が多いので製品在庫が少ないのでは・・推測できます。
はん用機械器具製造業の在庫回転率
はん用機械器具製造業には、工業炉やボイラ、タービンなど比較的大型の製品を生産している会社が含まれています。
したがって、仕掛品の割合が、生産用機械器具製造業についで大きいのが特徴です。
小さな部品のように大量に生産することが難しいこと、受注生産が多いと考えられるため、製品の割合が小さいのも特徴です。
非鉄金属製造業の在庫回転率
非鉄金属製造業には、非鉄金属の製錬および精製や鋳造を行なう会社、 電線やケーブルなどの基礎材を生産する会社が含まれます。基礎製品の特長としては、仕様がある程度決まっており、商品の改廃が少なく繰り返しの見込み生産をしていると想像できます。
そのため、材料を常に多く抱えていることが多いため原材料の比率が多くなっています。一方で生産リードタイムが短い業種が多いと
推定され、仕掛品の在庫金額が小さくなっています。
印刷・同関連製造業の在庫回転率
印刷・同関連製造業には、製本や製版などの業種が含まれています。
企業規模によって、製品と原材料の割合が逆転しているのが特徴です。
おそらくですが、小規模の事業者は大量の在庫を抱えて短納期の受注生産をしている一方で、規模の大きな事業者は、小規模事業者がやらない、安定した仕様の製品を繰り返し生産しているのではないかと思われます。
自動車・同付属部品製造業の在庫回転率
自動車の完成品およびその部品を作っている会社が含まれます。
完成品から部品まで、そしてシャシーのような大きなものから、小さな部品までを含むため、製品・仕掛品・原材料の比率に大きな差がありません。
化学製品製造業の在庫回転率
化学製品製造業には、化学反応により製造される製品を作っている会社が含まれています。
組立式ではなく、装置を使うことがほとんどのため原材料を投入すれば、製品が出来上がります。
そのため、仕掛品の割合が圧倒的に少ないのが特徴です。
パルプ・紙・紙加工品製造業の在庫回転率
パルプ・紙・紙加工品製造業には、紙を作る会社や紙から加工品を作る会社が含まれています。
化学製品と同じく装置産業なので、原材料を投入したら、人の手をあまり加えることなく製品が出来上がります。
そのため、仕掛品の割合が極端に少なくなります。
金属製品製造業の在庫回転率
金属製品製造業には、刃物やブリキ缶のような小さなものから、鉄塔などの大型のものまで、さまざまな大きさ、生産リードタイムの製品を作る会社が含まれているため、製品・仕掛品・原材料の比率が比較的同じです。
ただ、規模の小さな会社は、仕掛品の割合が小さく、原材料の割合が多いため、比較的生産リードタイムの短い小さな製品を多品種少量つくっている傾向があると推測できます。
木材、木製品製造業の在庫回転率
木材、木製品製造業には、製材を行う会社から、木製家具などを作っている会社まで木材を原料として製品を作っている会社が含まれています。手工芸品を生産している会社も多く含まれていると推測されます。
製品と原材料の割合が大きいのが特徴です。
生産用機械器具製造業の在庫回転率
生産用機械器具製造業には、工作機械や半導体製造装置製造業、金属加工機械製造業など製造業が生産のために使用する機械類を生産している会社が含まれます。比較的大型で生産リードタイムが長いため、仕掛品の割合が大きい一方で、受注生産であることがほとんどのため原材料の割合が低いのが特徴です。
石油製品製造業の在庫回転率
石油製品製造業には、原油からガソリン, ナフサなどを作る事業所やそれらを原料としてアスファルトなどを生産している会社が含まれます。装置産業であり基礎的な製品が多く、繰り返し生産のため仕掛品の割合がとても小さいのが特徴です。
装置による生産がメインの業種は、仕掛品の割合が小さいのが特徴です。
食品製造業の在庫回転率
食品製造業には、食品を生産する会社が含まれます。
装置でつくるものや人の手で作るものでも流れ作業であり時間がかかるものが少ないため、仕掛品の割合が小さくなります。
鉄鋼製造業の在庫回転率
鉄鋼製造業には、いわゆる製鉄所のような会社が含まれています。
製鉄には高炉を使うので、製鉄は装置産業ではありますが、原材料や仕掛品の割合が比較的大きいと感じるのでは
ないでしょうか?その理由は、海上輸送(船による輸送)であることと、原材料の生産地が日本から遠いことにありそうです。
情報通信機器製造業の在庫回転率
情報通信機器製造業には、ラジオやテレビの放送装置,や通信装置、レーダ装置などが含まれます。
生産は、組立であること、そして製品には小さなものから大きなものまで含まれているので、製品・仕掛品・原材料の比率
に差があまりありません。
窯業・土石製品製造業の在庫回転率
窯業・土石製品製造業には、板ガラスやガラス製品(瓶やビーカーなどの理化学用品)、陶器などが含まれます。
やはり装置主体の産業なので、仕掛品の割合が小さいのが特徴です。
輸送用機器製造業の在庫回転率
輸送用機器製造業には、自動車、航空機、鉄道などの完成品や、それに付随する部品(ヘッドライトやブレーキなどの部品)を作る会社が含まれています。完成品の生産には資本力が必要なので規模の大きな会社のほうが完成品の生産を担うことが多く、生産リードタイムも長いため、仕掛品の割合が大きくなります。
業界データだけで自社の適正在庫はわからない
製造業の在庫回転日数と、在庫の種類の比率をご覧いただいてわかるように、製造業だから在庫回転日数が○○日が良い
ということもなく、業種によって特徴があることがわかります。
また、まったく同じような製品を作っていても、生産方式や原材料の調達方法によっては、在庫の持ち方は大きく変わります。
そのため、業界の標準ではなく、自社にとって最適な適正在庫を見つけることが重要です。
自社の適正在庫を知る
まず、自社の適正在庫を知り、現状とどれくらいのギャップがあるかを知る必要があります。
在庫管理110番では、自社の適正在庫の決め方がわかるセミナーを定期的に開催しています。
難しい数式を使わなくても、専門人材がいなくても自社の適正在庫を決めることができるようになります。
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