多くの管理薬剤師が、「経営陣からの『在庫を減らせ、キャッシュを回せ』という数字の圧力」というプレッシャー」の板挟みになり、日々すり減るような思いで棚を見つめ在庫管理をしています。
あなたも自分のそうだな・・・と感じることはありませんか?
この記事では、出荷調整下でも欠品を出さないための安全在庫の計算式から、薬剤師の負担を劇的に減らす「ABC分析」による権限移譲のやり方まで、現場のリアルなトラブル対応を交えて徹底的に解説します。
なぜ薬局の「適正在庫」は難しい?医薬品特有の現状課題とジレンマ
最初に他の業種と違う薬局特有の課題やジレンマを整理します。
一般企業の在庫管理との決定的な違い(欠品リスクと患者の命)
一般的な在庫管理(アパレルや飲食など)では、需要予測を基に「在庫切れの確率を数%許容する」という設計が成り立ちます。しかし、薬局ではそれが通用しません。
調剤拒否の禁止(薬剤師法第21条): 薬局には正当な理由がなければ調剤を拒んではならないという法的な義務があります。実務上、不足を「正当な理由」として患者さんにお断りすることは原則として許されません。
安定供給の責務(医薬品医療機器等法 第一条の五 第三項): 薬局開設者には、患者さんに対して医薬品を安定的に供給する体制を維持する責務がある
一般的な小売業であれば「欠品による機会損失」で済みますが、薬局においては「欠品=法的・倫理的な義務不履行」となりかねない極めて重い性質を持っています。
どんなに特殊な薬剤であっても、目の前の患者さんのために準備が求められるというこの重圧こそが、薬局における管理の難易度を跳ね上げ、現場に精神的な負荷をかけ続ける大きな要因となっています。
経営を圧迫する「高薬価医薬品」と「廃棄ロス」のジレンマ
調剤薬局の経営においてリスクの一つが「高薬価医薬品の廃棄ロス」です。近年の医療技術の進歩に伴い、抗がん剤やC型肝炎治療薬、希少疾患(特殊疾患)の治療薬など、1箱・1ボトルで数万〜数十万円、中には1錠で数万円という超高額な医薬品が劇的に増えています。
これらは患者さんにとって命を繋ぐ大切な薬ですが、薬局経営の観点から見ると、極めてハイリスクな「利益の圧迫要因」になり得ます。特に中小規模の薬局や、利益率が極限まで下がっている店舗においては、たった1つの期限切れが発生しただけで、その月の店舗利益が丸ごと吹き飛んでしまうケースもあるでしょう。
規模や経営体力によって影響の大きさは異なりますが、高薬価薬の廃棄が経営に致命的な打撃を与えるという恐怖は、多くの薬局経営者や管理薬剤師に共通する課題です。
このリスクを最小限にコントロールするために不可欠なのが、『適正在庫と安全在庫の使い分け』です。
適正在庫と安全在庫の違いとは?薬局における正しい考え方
現場でよく起こるのが、「在庫を減らそう」という掛け声だけで具体的な基準を決めず、結果として欠品が多発したり、逆に現場が反発して減らなかったりするケースです。
なぜこのようなすれ違いが起きるのでしょうか。その最大の理由は、「適正在庫」と「安全在庫」という、まったく異なる2つの概念を混同してしまっているからです。
| 概念 | 目的・意味合い | 決定の主導権 |
|---|---|---|
| 安全在庫 | 欠品を防ぐためのバッファ(予備) ・需要のブレ(急な処方増)や、発注から納品までの遅れ(リードタイムの変動)を吸収するための「最低限の下限ライン」。 | 現場(薬剤師) 医療安全の観点から、科学的根拠に基づいて算出する。 |
| 適正在庫 | 経営的に適正なボリューム ・安全在庫を確保した上で、棚卸資産の回転率を高め、欠品と過剰在庫の両方を避ける量(上限・下限の両方を管理する)。 | 経営層 + 現場 経営状態と現場の維持コストを考慮して総合的に設定する。 |
適正在庫について詳しく知りたい場合はこちら↓
適正在庫とは?考え方・計算・維持の方法とポイント|完全ガイド
また、在庫管理110番では適正在庫の決め方や計算方法に関するセミナーを対面・オンラインで開催しています。
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発注業務の「属人化」による薬剤師の疲弊と本来業務への影響
これほど難易度が高く、プレッシャーの大きい医薬品の発注・在庫管理業務ですが、多くの薬局における実態は「特定の管理薬剤師やベテラン薬剤師の『長年の経験と勘』」という、極めて強い属人化によって辛うじて成り立っています。
「この薬は〇個必要だ」「あの患者さんは来週あたりに来るはず」といった、個人の記憶と感覚だけに頼る管理スタイルは、担当する管理薬剤師の心身を確実にすり減らします。
業務が仕組み化されていないため、「自分が休んで発注のタイミングがズレたら、明日欠品が起きて店舗に迷惑がかかる」という強い恐怖を常に一人で背負い込むことになるからです。
また、ベテラン薬剤師が退職することも緊急性は低いですがいずれ訪れる重大なリスクです。
在職時のノウハウが引き継がれていないと、欠品だけではなく過剰在庫のリスクも高まります。
直前でノウハウを全て引き継ぐのは不可能です。時間のある今のうちに、予め誰にでもできる仕組み作りが必要です。
【明日から使える】医薬品の適正在庫と発注点の計算・エクセル活用法
前章では、現場の薬剤師が抱える「欠品の恐怖」と、経営陣の「在庫削減」のジレンマについてお伝えしました。この状況を打破するためには、感情論ではなく、数字と仕組みを用いた「ロジカルな在庫管理」への移行が不可欠です。
在庫管理の最適化にはいくつかの段階がありますが、現場で最も緊急性が高く、すぐに効果が出る薬局における発注点の求め方について、具体的な実践ノウハウを解説します。
発注点とは?
発注点とは、「在庫が残り何個になったら、次の注文を出すべきか」という、発注の引き金を引くタイミング(基準値)のことです。
「少なくなってきたから、なんとなく3個発注しよう」というベテランの勘をなくし、誰でも機械的に発注できるようにするための仕組みです。
発注点をロジカルに弾き出すための基本公式は、以下の通りです。
発注点=(1日の平均使用量×リードタイム)+安全在庫
発注点=(5錠×2日)+15錠=25錠
- 1日の平均使用量: 5錠
- リードタイム(注文から納品まで): 2日(例:月曜の閉局後に発注して、水曜の朝に届く)
- 安全在庫(予備として確保したい量): 3日分(=15錠)
発注点について詳しく解説した記事はこちらです発注点発注の計算方法・運用の注意点
調剤薬局の在庫回転率はどのくらいが理想?平均的な目安と計算例
在庫回転率とは、「薬局にある在庫が、一定期間(通常は1年間や1ヶ月間)に何回すべて入れ替わったか(回転したか)」を表す指標です。
分かりやすく言うと、「その在庫、ちゃんと活発に動いてる?それとも棚で眠ったままの『お荷物』になってる?」を測ることです。
経営陣が言う「在庫を削減しろ」という指示の裏には、必ずこの「在庫回転率を上げろ」という意図があります。
しかし、ここで多くの経営コンサルタントや一般企業が犯しがちな薬局経営における最大のトラップがあります。それは「回転率は高ければ高いほど良い」という盲信です。
まずは、ご自身の薬局が現在どの位置にいるのか、日本の薬局業界のベンチマーク(基準)を知ることから始めましょう。
一般社団法人 日本薬局経営学会が実施した薬局経営アンケート調査(24社・106店舗の実測データ)によると、調剤薬局における年間回転率の指標は以下のようになっています。
平均値: 年間 16.355 回転(月換算で約1.36回転)
中央値: 年間 15.09 回転(月換算で約1.25回転)
引用:日本薬局経営学会の調査データ
大手調剤チェーンなどでは18〜20回転を超えるケースもありますが、ばらつきを含めた中小〜中堅規模のリアルな実測値としては、「年間15〜16回転(大まかに月1.2〜1.3回転)」あたりが、現在の薬局経営における健全な標準ラインでしょう。
在庫回転率=売上原価÷平均在庫高
※平均在庫高=期首在庫高と期末在庫高の平均値
在庫回転率の計算方法は、下記の記事で詳しく解説しています。
在庫回転率の計算方法と向上のためのポイント
在庫回転率=年間総売上原価(7,500万円)/平均在庫高(500万円)=15回転
- 年間総売上原価:7,500万円
- 期末の在庫金額(棚卸高):500万円
上記の計算例では、「年間15回転(月に1.25回、在庫が入れ替わっている計算)」となり、上記データの中央値(15.09回転)とほぼ同等で、業界平均的な健全性を保っていると言えます。
一般小売業とは違い、薬局は安全在庫を厚く持つことが多いです。
理由としては、下記の通りです。
- 「欠品」が命に関わる(代替が効かない)
- 急な処方変更や新規患者を予測できない
この実測値(15〜16回転)を大きく上回って回転率を過度に上げすぎると、今度は欠品リスクが跳ね上がる危険性があるため、自店の処方箋特性を見極めながらコントロールする必要があります。
【無料】需要予測を使った安全在庫シュミレーションエクセルのダウンロード

このエクセルは、「在庫管理110番」が提供する、需要予測をベースにした安全在庫のシミュレーションツールです。
従来の過去実績のみに頼る在庫計算とは異なり、将来の需要予測データやその「予測のズレ(予測誤差)」、およびリードタイムを考慮して、欠品を防ぐために最低限必要な「安全在庫数」を自動算出できるのが特徴です。
これにより、欠品リスクを最小限に抑えつつ、過剰在庫による棚眠り(お荷物在庫)を防ぐための「最適な発注ライン」を、エクセル上で視覚的にシミュレーションし、適正な在庫管理の仕組みづくりに役立てることができます。
無料ダウンロード
薬剤師の負担を劇的に減らす!「ABC分析」を使った薬局の在庫管理のコツ
薬局にある数百〜数千品目もの全ての医薬品に対して、同じように毎日数を数え、同じ労力をかけて厳密に管理しようとすれば、どれだけ優秀な薬剤師であっても時間がいくらあっても足りません。
そこで不可欠なのが、重要度に応じて管理の手間や従業員の時間の使い方の掛け方を変える「メリハリ」の意識です。
限られた時間と人手を賢く配分し、薬剤師の負担を劇的に減らすための強力なフレームワークが、「ABC分析」です。
薬局向け「ABC分析」のやり方(使用頻度×薬価で分類)

全ての医薬品を一律に管理するのをやめ、重要度に応じた「メリハリ管理」を実現するためには、まず自店の棚にある薬をA・B・Cの3つのグループに正しく仕分けましょう。
ここで言う「重要度」とは、主に「薬局経営(財務)における影響度の大きさ」を指します。
すべての医薬品に同じ時間をかけて管理するのではなく、店舗のキャッシュフローや在庫効率に与えるインパクトの大きさに応じて管理手法を変えて、管理にメリハリをつけるのがABC分析の真の目的です。
薬局におけるABC分析の最大の特徴は、単純な「出庫数量(出た数)」だけで判断するのではなく、「出庫頻度(数量)× 薬価(単価)」を掛け合わせた【総出庫金額】で分類する点にあります。

在庫管理システムのデータを使って、誰でも簡単にできる具体的な分類手順をステップ順に解説します。
ABC分析の詳しいやり方はこちらの記事で詳しく解説しています。
【ABC分析×エクセル】在庫管理を徹底的に効率化!
STEP 1:直近データ(3ヶ月〜1年分)をエクスポートする
システムから過去3ヶ月〜1年分の「医薬品出庫データ」をダウンロードする。
管理に必要なデータは「医薬品名」「出庫数」「薬価(単価)」の3項目のみ。
STEP 2:「総出庫金額」を算出して並び替える
各薬の「出庫数 × 薬価」を計算し、それぞれの「総出庫金額」を出す。
金額が大きい順(上から順に売れ筋・高額な順)になるようリストを並び替える。
STEP 3:累積金額の構成比(%)を計算する
上から順番に金額を足していき(累積金額)、その合計が全体金額の何%を占めているか(累積構成比)を計算する。
STEP 4:A・B・Cの3ランクに境界線を引く
累積構成比を基準にA・B・Cそれぞれのランクに分類します。
各ランクの基準となる構成比、特徴や管理上の注意点をまとめました。
| ランク | 累積金額の構成比 | 特徴と該当する医薬品のイメージ | やるべきこと | 不動在庫リスク |
|---|---|---|---|---|
| 【重要】Aランク | 全体の0〜75%を占める薬 | 【重点管理品】 金額の大半を占めるトップ集団。 品目数は全体の1〜2割程度と少ない。 抗がん剤、最新のC型肝炎治療薬、生物学的製剤、高額な吸入薬や新薬などがここに入ります。 |
| 1品目あたりの薬価が高いため、処方が途絶えてデッドストック化した場合、キャッシュフローに最も大きな打撃を与える。 |
| 【中重要】Bランク | 全体の75〜95%を占める薬 | 【標準管理】 定期的に広く処方される、薬局の経営を安定して支える主力医薬品。 一般的な降圧薬、糖尿病治療薬、高脂血症治療薬など。 |
| 処方方針の変更や季節性の終わりを見落とすと、気づかないうちに低頻度化し、不動在庫に転落するリスクがある。 |
| 【通常】Cランク | 全体の95〜100%を占める薬 | 【効率管理品】 金額ベースでは全体のわずか5%未満です。 品目数は全体の半分以上(5〜7割)を占める巨大なグループ。 しかし、1錠数円のビタミン剤、解熱鎮痛薬、湿布などの外用薬。 その他、滅多に出ない「死蔵在庫一歩手前」の低頻度薬が含まれます。 |
| 金額ベースの負担はわずかだが、「不動在庫一歩手前」の低頻度薬が紛れ込みやすいため、品目ごとの動向には注意が必要。 |
【重要】Aランク
重点管理品です。
薬局にある全品目のうち「わずか20%前後」の品目数でありながら、店舗の総出庫金額の約80%を占める、いわば「最重要警戒グループ」です。
特にこの中に含まれる「高薬価かつ処方頻度が低い(たまにしか出ない)薬」は、薬局経営のキャッシュフローに最も大きな負担になる存在です。
このグループに属する高額薬に対しては、通常時はシステムやエクセル任せにするのではなく、薬剤師が責任を持って「目視」で現物を確認し、慎重なコントロールが求められます。
具体的には、以下の「実務の節目」のタイミングで調剤棚(または金庫や冷所)の現物とシステム上の在庫数を照合します。
【発注確定の直前】
システムから自動出力された発注候補にAランク品目が含まれている場合、発注ボタンを押す前に、棚の現物数が本当に「0(または発注基準以下)」になっているかを目視で確認します。これにより、入力ミスによる二重発注や過剰仕入れを未然に防ぎます。
【調剤・監査の瞬間】
実際にその薬を調剤し、患者さんへお渡しする監査のタイミングです。「今回使ったことで、棚の残り在庫がいくつになったか(あるいは次回分が完全にゼロになったか)」をその場で目視確認し、次回の来局予定に合わせてお取り寄せの手配(予約発注)へ繋げます。
【毎日の閉局時(または開局時)】
1日の終わりに、Aランク品目の棚をサッと見渡すだけの「1分間チェック」をルーティン化します。超高額薬の紛失防止(防犯・ガバナンス強化)の観点からも、この1日1回の点呼(目視)は非常に有効です。
【中重要】Bランク
標準管理品です。
Aランクと、後述するCランクの間に位置するのが「Bランク」の医薬品です。
品目数としては全体の2〜3割を占め、一般的な降圧薬や糖尿病治療薬など、日常的に広く処方される「薬局の主力医薬品」が該当します。
このBランク品の管理は、「システムの自動発注を最大限に活用し、業務を標準化すること」を目指しましょう。
自動発注を動かすためには、まずシステムに「どのくらい減ったら(発注点)」「いくつまで補充するか(基準在庫)」を正しく設定しましょう。
具体的な行動: 過去3ヶ月〜半年の平均出庫量、納品までにかかる日数(リードタイム)、処方頻度をベースに、品目ごとに数値を設定します。
現場でのメリット: これにより、これまでベテラン薬剤師が「経験と勘」で行っていた発注判断がすべて数値化され、誰が担当しても同じ成果が出るようになります。
Bランクは品目数が全体の2〜3割とそれなりのボリュームがあります。これらを毎日人間の目でチェックしていては、時間がいくらあっても足りません。
具体的な行動: システムが弾き出した発注提案データを、原則として修正せずにそのまま確定(機械的発注)します。Aランクのように「本当にいるかな?」と一つずつ調剤棚を見に行く時間はゼロにします。
現場でのメリット: 発注にかかる時間が「毎日30分」から「ボタンを押すだけの数分」に短縮されます。浮いた時間を、Aランクの厳格な目視管理や、患者さんへの服薬指導(対人業務)に集中させることができます。
機械的な発注点管理(自動発注)は非常に効率的ですが、あらかじめ設定した発注点だけでは対応しきれない「現場のイレギュラー(例外)」が必ず発生します。
例外に対しては、「どんなときに人間が手動で割り込んで修正してよいか」をマニュアル化(標準化)しておくことが、現場を混乱させないためのポイントです。
具体的な行動: 以下のようなケースにおいて、「システムの設定数値を手動で修正・変更してよい基準」をあらかじめ決めておきます。
例:手動で修正しても良いケース
突発的な大量処方(長期処方の患者さんなど): 「〇曜日に90日処方の〇〇さんが来る」と分かっている場合、普段の発注点設定のままでは当日に在庫が足りなくなります。そのため、その数日前に手動で発注数を増やす(または発注点を一時的に引き上げる)という割り込みを行います。
来局スケジュールの変更(次回予約のズレなど): 定期薬の患者さんの来局日が大幅に後ろにずれた場合、普段通りのタイミングで自動発注されてしまうと、薬が使われないまま棚に残り、一時的な過剰在庫になります。この場合は、自動発注の候補から一時的に外す、または発注を保留にする処理を行います。
現場でのメリット
「発注点は原則として機械的に従うが、こういった『現場の例外』のときだけ人間が介入する」という明確なルールが徹底されるため、スタッフの主観による発注量のバラつきを防ぎ、過剰在庫や欠品のリスクを最小限に抑えられます。
【通常】Cランク
効率を最優先して管理するグループです。
品目数ベースでは薬局全体の5〜7割と圧倒的なボリュームを占めますが、金額ベースでは全体のわずか5%未満にすぎない「安価でよく出る薬」が該当します。
Cランク品の管理は、「薬剤師の手を完全に離し、医療事務スタッフへ現場の管理を任せる体制(権限移譲)」を基本とします。
「誰でもできる」仕組みを作り、事務スタッフの力を借りることで、管理薬剤師の負担は驚くほど軽減されます。具体的な仕組み作りは、下記の通りです。
Cランクの薬(ビタミン剤、解熱鎮痛薬、湿布など)は、システム上の数字だけでなく、「実際の棚を見ただけで誰でも在庫状況がわかる状態」を作ることが実務上最も有効です。
カラーラベルの活用: Cランクの医薬品が置いてある棚やバラ箱に「緑色のシール」などを貼り、事務スタッフが管理すべき対象であることを明確にします。
「ここまで減ったら発注」の目印: 箱を重ねて保管している場合、下から2番目の箱に「発注」と書いた付箋やカードを挟んでおきます。事務スタッフは、そのカードが見えた時点で発注作業に回せばよいため、複雑な数字の計算が不要になります。
事務スタッフが棚を回って在庫を数える(カウントする)際の、判断迷路をなくすための専用シートやフォーマットを用意します。
「定数」を明記したリストの作成: シートには「品目名」「現在の在庫(記入欄)」だけでなく、あらかじめ「目指すべき適正な在庫数(定数)」を印刷しておきます。
例: 「カロナール錠200mg:定数1,000錠」とあれば、棚に200錠しかなかった場合、事務スタッフは機械的に「残り800錠(1箱)」を発注候補に入れるだけで済みます。「何錠発注したらいいですか?」という薬剤師への確認(お互いのタイムロス)がゼロになります。
事務スタッフに任せっぱなしにせず、入力してもらった発注データを、管理薬剤師が「1分」で確認・承認して卸業者へ送信できる仕組み(承認ルート)を作っておきましょう。
発注前の「一画面チェック」: 事務スタッフがレセコンや在庫管理システムに数を入力した後、いきなり発注ボタンを押すのではなく、「承認待ち」のステータスで止めさせます。
薬剤師の目視確認: 管理薬剤師は、事務スタッフから回ってきたシートと画面の数字(Cランクのみ)を一目見て、異常な数量(例:1箱でいいのに10箱になっている等)がないかだけを確認し、承認ボタンを押します。
薬剤師による承認が必要な理由
事務スタッフの力を借りる上で、絶対に混同してはならない超重要な鉄則があります。それは、「作業(カウントや入力)は任せるが、最終的な『発注承認(決定)』と『責任』は必ず管理薬剤師が持つ」という点です。
薬局における医薬品の譲受(仕入れ)や保管・管理の最終責任は、法律(薬機法)によって「管理薬剤師」に課せられています。
事務スタッフが自分の判断だけで卸業者へ医薬品を発注・購入する行為は、法的なガバナンスの観点からも絶対に許されません。
過剰在庫・不動在庫の洗い出しと廃棄ロスを最小限に抑える
どうやって頑張って管理をしても過剰在庫や不動在庫のリスクが伴います。
そこで、これから解説するチェックを「定期的に行って、「気づいたらこんなにあった、どうしよう」という状態に陥らないようにしましょう。
現在の在庫リストに、現在庫数・平均使用数・最終出庫日を付け加えて、過剰在庫・不動在庫を見つけ出します。
不動在庫(デッドストック)の判定基準
B・Cランクで「最終出庫日が一年前」「直近3ヶ月の出庫数がゼロ」かつ「現在庫がある」品目
過剰在庫の判定基準
すべてのランクにおいて、「現在庫数 ÷ 1ヶ月の平均使用量 = 在庫月数」を計算します。在庫月数が「2ヶ月以上(※店舗の基準による)」になっている品目は、出庫はあるものの持ちすぎている過剰在庫と判定します。
過剰・不動在庫のあぶり出しを終えたら、次にすでに棚に居座ってしまっている不動在庫の処理に取り組みましょう。
どんなに丁寧に発注点を管理していても、処方の突然の中止や転院によって、一定数の薬は「動かない在庫」へと変化してしまいます。これらを「デッドストック(不動在庫)」として発見し、使用期限を迎えて廃棄ロスになる前に1円でも多く回収するための具体的な仕組みを解説します。
関連記事
不動在庫:過剰在庫・滞留在庫との違い、5つの対策方法
1. 薬局における「過剰在庫・不動在庫」の定義ルールを明文化する
最初に現場の誰もが共通して認識できる「明確な定義(線引き)」を設けます。「なんとなく最近出ていない気がする」という曖昧な状態をなくすため、期間を区切った以下のようなルールを設定します。
例)過剰・不動在庫の定義
過剰在庫: 過去3ヶ月以内に処方はあるが、平均使用量に対して「3ヶ月分以上」の過剰な在庫を抱えている状態。
不動在庫(デッドストック): 処方変更や患者の来局途絶により、「半年(6ヶ月)以上」、一度も調剤(出庫)されていない状態。
毎月の棚卸しのタイミングなどで、この「半年間動いていない薬」のリストを機械的に洗い出す作業をルーティン化(仕組み化)します。
2. 期限前に消費する「店舗間移動(融通)」の仕組みづくり
洗い出された不動在庫を、自店だけで「いつかまた来るかも」と棚に眠らせておくのは最も危険です。使用期限が迫れば迫るほど、他店でも引き取れなくなり、最終的な廃棄(純損失)へとカウントダウンが進むからです。
不動在庫を期限前に消費するための、最も有効な手段が「複数店舗間での在庫移動(融通・割当)」です。
【現場のリアル対策】「出荷調整」と「突発処方」を乗り切る薬局のトラブル対応術
前章までで、過去のデータに基づいた「発注点」の計算や「ABC分析」によるメリハリ管理など、平時におけるロジカルな管理の仕組みをお伝えしてきました。
仕組みを作っても薬局の現場を混乱させるのは、計算通りにいかない「出荷調整(供給不足)」などの異常事態です。
例えば、
- 発注点を下回ったから卸に注文したのに、未納や分納で必要な数が納品されない
- 近隣のクリニックが突然ジェネリックのメーカーに変更し、想定外の処方が突発的に飛んできた
こうした現在の薬局業界における最大の痛みに切り込み、システムや教科書的な理論だけでは解決できない「現場のリアルで実践的なトラブル対策」を解説します。
ジェネリック等の供給不足・出荷調整時における在庫の見直し方
限定出荷や出荷調整が常態化している現在、過去の出庫データをもとに算出した「平時の安全在庫」や「発注点」は、正直に言ってまったく役に立ちません。
なぜなら、注文しても予定通りに満額で薬が入ってこないからです。
ここからは、明日から現場で実践できる、2つの実践的なノウハウを公開します。
1. 【代替薬・同一成分メーカー】即時リスト化と棚の視覚化
特定のメーカー品が手に入らないと分かった瞬間から、仕入れの基準を「品目単位」ではなく「成分・規格単位」に強制的に切り替えます。
代替薬リストの共有
「A社の〇〇錠がストップしたら、B社、C社、最悪の場合は先発品の〇〇で対応する」という代替優先順位リストを作成し、調剤室の全員(パート薬剤師や事務スタッフ含む)が見える場所に貼り出します。
棚の「面管理」と警告POP
採用メーカーを1社に絞るのを諦め、手に入なるメーカーのものを複数混在させて総量で安全在庫を維持します。このとき、調剤ミスを防ぐために、棚には「〇〇錠:現在メーカー混在・複数箇所にあり監査注意!」といった目立つPOPを貼り、バラバラの箱からでも確実に残数を追えるように4S(整理・整頓)を泥臭く徹底します。
2. 【情報共有】「近隣薬局との在庫融通グループLINE」の立ち上げと活用
卸からの納品が絶望的な場合、最後のライフラインとなるのが「地域の薬局ネットワーク」です。競合という垣根を越え、近隣の個人薬局や他チェーンの店舗とリアルタイムで繋がる「在庫融通用のグループLINE」を今すぐ立ち上げ、または参加してください。
「緊急です!〇〇錠10mgを30錠、どなたか分けていただけないでしょうか?明日、当店の夕方便で卸から1箱入庫予定なので、明日現物でお返し(または翌月清算)可能です!」
「うちの棚に25日分(1箱未開封)余ってます!今からチャリで持って行きますか?」
こうした、お互いのデッドストックや過剰在庫を地域全体で相殺し合うネットワークこそが、出荷調整下における「究極の安全在庫」となります。
データが通用しない時代だからこそ、薬剤師の「足」と「言葉」、そして「地域のつながり」というアクションで患者さんの薬を守り抜く。これこそが、現在の調剤薬局に求められているリアルなリスクマネジメントです。
地域のつながりは強力な武器ですが、医薬品の流通は法律で厳格に管理されています。以下の鉄則を必ず遵守してください。
現物返しはNG(薬機法上の義務): 薬局間で医薬品の行き来があった場合、薬機法施行規則第14条に基づき、品名・数量・相手方薬局・日時などの必要事項を書面に記録し、3年間の保存が義務付けられています。
「貸し借り(現物返し)」という曖昧な処理は認められません。国が示すガイドラインに則り、その都度必ず「譲渡・譲受証」を発行し、金銭清算を行ってください。
緊急時のみ: 予備のストック目的は違法。「目の前の患者に今すぐ必要」な場合に限る。
麻薬・向精神薬は除外: 法律が異なるため、安易な持ち運びやLINEでのやり取りは厳禁。
個人情報の秘匿: 患者名や疾患名は一切書き込まない。
季節変動(インフルエンザ・花粉症等)の需要予測と発注のタイミング
出荷調整と並ぶ現場の大きなイレギュラーが、季節によって需要が爆発的に跳ね上がる「季節変動薬(抗インフルエンザ薬、抗ヒスタミン薬、解熱鎮痛のドライシロップなど)」のコントロールです。
過剰在庫による廃棄リスクを最小限に抑えつつ、ピーク時にも患者さんへ滞りなく医薬品を届ける(安定供給を維持する)ためには、「流行時期から逆算した、1〜2ヶ月前からの段階的な先行発注スケジュール」の構築が不可欠です。
これらの薬剤は、周囲で流行が始まってから発注していては、全国的な需要急増による出荷調整の波に飲まれ、またたく間に欠品を起こします。
かといって、焦ってシーズン初期に大量に抱え込めば、その年の流行が空振りに終わった(あるいは飛散量が少なかった)場合に、大量のデッドストックと廃棄ロスを生むことになります。
【1〜2ヶ月前:仕込み期】
過去のデータから「最低限動く基礎量」を算出します。当サイトのABC分析解説でも触れている通り、薬局においては「約20%の品目が全体の約80%の金額(価値)を占める(パレートの法則)」という大原則があります。シーズン中に主軸(Aランク)となる季節変動薬をあらかじめリストアップし、流通が安定しているうちに、この重要品目の第1陣を【先行発注】で確保しておきます。
【2週間〜直前:初動期】
地域のリアルタイムな動向(ドクターの口コミ、近隣学校の閉鎖情報)をキャッチし、発注点を「シーズン仕様(平時の2〜3倍)」へ引き上げる。
【ピーク期〜後半:着地コントロール期】
流行のピークを迎えたら、追加発注は「小容量・高頻度」に切り替え、シーズン終了時に在庫が残らないよう「引き際」をコントロールする。
参考記事明日からできる需要予測の実践と精度向上のコツ - 現実的なステップと成功への道筋
調剤薬局に在庫がない場合(欠品時)の患者対応と近隣店舗との連携
どんなに緻密に発注点を計算し、ABC分析を徹底していても、深刻な出荷調整や突発的な大量処方が重なれば、「今、目の前で薬が足りない」という最悪の瞬間はゼロにはできません。
しかし、欠品は「薬局の評価が失墜するピンチ」であると同時に、その後のフォロー次第で「ここまで丁寧にしてくれるのかと、信頼を勝ち取るチャンス」にも変わります。
薬が足りないと言われた時、患者さんが最も知りたいのは「謝罪の言葉」ではなく、「で、私の治療はどうなるの?」という具体的な解決策です。
単に「在庫がありません」と突っぱねたり、「出荷調整でいつ入るか分かりません」と医療従事者としての責任を放棄したような言い方をしたりするのは絶対にNGです。
以下の3つのステップに沿って、誠実に、かつ明確な選択肢を提示します。
- 事実の伝達とお詫び(誠実・迅速に)
「〇〇さん、大変申し訳ございません。本日処方されているお薬のうち、こちらの〇〇錠ですが、全国的な供給不足(または突発的な需要)の影響で、現在当店の棚の在庫が〇日分(〇錠)足りない状態となっております。せっかくお越しいただいたのに、ご不便をおかけしてしまい本当に申し訳ありません。」 - 次に、具体的な解決策の提示(3つの選択肢)
「〇〇さんの治療を止めないために、今からお薬をご用意いたします。以下の3つのうち、〇〇さんにとって最もご都合の良い方法をお選びいただけますでしょうか?」- 提案A:近隣融通(お急ぎの場合)
「車で5分のところにある当社の系列店舗(または協力薬局)に確認したところ、幸いにも在庫がございました。今から私どものスタッフが急ぎで取りに走りますので、あと【約〇分】だけお待ちいただければ、本日すべてまとめてお渡しできます。」 - 提案B:残りは当日夜・翌日にご自宅へお届け(または郵送)
「本日お出しできる〇日分だけを先にお持ち帰りいただき、足りない残りの分は、本日の夜(または明日〇時)までに、私どもが責任を持って【ご自宅まで直接お届け】するか、【郵送】にてお手配させていただきます。これなら二度お越しいただく手間はございません。ただし、薬剤の種類によっては配送できない場合があります。」 - 提案C:バラ売り(分割調剤)+後日来局
「手元にある〇日分を先にお渡しし、残りは卸業者から手配して、次回のご来局時にお渡しいたします。」
- 提案A:近隣融通(お急ぎの場合)
医薬品の廃棄ロスが出た場合の正しい廃棄方法と廃棄率の計算
どれほど厳格にABC分析を行い、適切な状態を維持していても、処方の突然の中止や患者さんの転院などにより、使用期限切れによる廃棄ロスを100%ゼロにすることは不可能です。
万が一、期限切れの医薬品が発生してしまった場合、管理薬剤師には「法規制に則った正しい処分」と、「経営数字としての正しい管理・報告」という2つの重要な任務が課せられます。
1. 法規制に則った正しい廃棄手順(産業廃棄物と特別管理産業廃棄物の区分)
薬局から出る期限切れの医薬品は、一般の家庭ゴミとは異なり、法律(廃棄物処理法)上「産業廃棄物」に分類されます。
さらに、医薬品の性質や成分によっては、人の健康や生活環境に被害を生ずるおそれがあるとして、より厳格な管理が必要な「特別管理産業廃棄物」に指定されるため、正しい区分と処理手順の理解が不可欠です。
産業廃棄物・特別管理産業廃棄物
薬局の廃棄物は、そのリスクに応じて以下のように二分され、それぞれ処理方法が異なります。
| 廃棄物の区分 | 該当する主な医薬品 | 処理業者・手続きの注意点 |
|---|---|---|
| 一般的な産業廃棄物(普通産廃) | 通常の医療用医薬品(一般的なPTPシート、錠剤、外用薬など) | 自治体から許可を受けた「産業廃棄物処理業者」へ委託。 |
| 特別管理産業廃棄物(特管物) | 高薬価な抗がん剤(細胞毒性物質)、生物学的製剤、引火性のあるアルコール類、および感染性廃棄物(使用済み注射針など) | 処理基準が厳格なため、「特別管理産業廃棄物処理業」の許可を持つ専門業者への委託が必須。 |
マニフェスト(産業廃棄物管理票)の発行
どちらの区分であっても、廃棄を委託する際は必ず「マニフェスト(紙または電子)」を発行し、処理の全工程を記録・管理する義務があります。
なお、マニフェストは「5年間の保存義務」があるため、調剤室の鍵付きの棚などで厳重に保管します。特に特別管理産業廃棄物の場合は、マニフェストの管理や交付状況の報告など、より厳格な運用が求められます。
厳重警戒:制度上の特殊な手続きを要する医薬品
上記の産廃・特管物の区分とは別に、麻薬及び向精神薬取締法などの個別法によって、さらに厳格な手続きが義務づけられている医薬品があります。
麻薬
使用期限が切れた麻薬は、勝手に業者へ引き渡したり廃棄したりすることは法律で禁止されています。事前に都道府県知事へ「麻薬廃棄届」を提出し、麻薬取締官や都道府県職員などの『立会い』のもとで廃棄処分を行う必要があります。
毒薬・劇薬、向精神薬
他の医薬品と混ざらないよう明確に区別し、鍵のかかる保管庫等で一時保管した上で、適切な許可を持つ専門業者に委託して処分(焼却等)を行います。処分記録は必ず帳簿(またはシステム)に明記します。
2. 経営陣への適切な報告と「廃棄率」の計算式
発生した廃棄ロスは、純損失です。経営陣に対して感情的に「申し訳ありません」と謝るのではなく、客観的な経営数字(エビデンス)として正しく算出し、報告するのが管理薬剤師の仕事です。
店舗の管理の健全性を測るために、以下の「廃棄率(医薬品廃棄率)」の計算式を用います。
廃棄率(%)=廃棄金額/医薬品の総購入金額×100
年間の総医薬品仕入れ高が「6,000万円」の薬局で、期限切れによって廃棄した薬の総額(薬価)が「18万円」だった場合は、下記の計算式になります。
- 廃棄率=18万円/6,000万円×100
- 廃棄率=0.003×100=0.3%
【事例】緊急避妊薬など厳格な要件・指導が求められる医薬品の管理体制
近年の規制緩和に伴い、厚生労働省による「緊急避妊薬の薬局での試行的販売(試験販売)」の動向が大きな注目を集めています。将来的な一般用医薬品(OTC)化への議論が進む一方で、これらは通常の医薬品とはまったく異なる極めて厳格な管理要件と専門的な指導が求められる対象です。
調剤薬局が社会的なインフラとして正しく機能しつつ、予期せぬトラブルから店舗を守るための、一歩踏み込んだ管理体制について解説します。
試験販売の動向と薬局に課せられる「高いハードル」
緊急避妊薬(レボノルゲストレル等)の試験販売に参加する、あるいは調剤で取り扱うにあたっては、単に「薬を棚に置いておく」だけでは許されません。
国が定める厳格な要件を満たす必要があります。(※本章に記載の要件や運用ルールは、2026年時点の試行調査およびガイドラインに基づきます。最新の制度動向は必ず厚生労働省や所属の薬剤師会の発表をご確認ください)
研修修了薬剤師の常駐: 都道府県薬剤師会等が実施する専門の研修を修了した薬剤師が勤務している時間帯のみ、取り扱い(販売・調剤)が可能となります。
プライバシーに配慮した環境(個室等)の確保: 患者さんのプライバシーを完全に守るため、他の来局者に会話が聞こえないような「個室」または「パーティションで区切られた専用の相談スペース」の設置が必須要件です。
防犯と誤用防止を両立する「鍵付き保管」の徹底
緊急避妊薬は、その適応の特殊性や高薬価であるという側面に加え、万が一の盗難や、スタッフの知識不足による誤調剤・誤販売を防ぐため、物理的なセキュリティ体制を構築しなければなりません。
【物理的管理の鉄則】鍵付き保管の義務化
緊急避妊薬や、それに類する厳格な管理が必要な医薬品(調剤用の向精神薬や一部のハイリスク薬など)は、通常の調剤棚には並べず、「鍵付きの保管庫(金庫または施錠できる引き出し)」の中へ隔離して保管しましょう。
エクセルからシステムへ!医薬品在庫管理システムの選び方と導入メリット
ここまで、発注点の設定方法や、ABC分析による現場のメリハリ管理について解説してきました。これらの仕組みを導入するだけでも、あなたの薬局の在庫環境は劇的に改善し、薬剤師の負担は大幅に軽減されます。
しかし、店舗の処方箋枚数が月に千枚を超えたり、備蓄品目数が1,000、2,000と膨れ上がったり、あるいは複数店舗を展開するようになると、どれだけ数式を工夫しても「エクセル管理そのものの限界」が確実にやってきます。
エクセル管理の限界とシステム化を検討すべきタイミング
無料のエクセルテンプレートやGoogleスプレッドシートを用いた管理は、コストをかけずに導入できるため、小規模な店舗や品目数が少ない段階では非常に有効な手段です。
しかし、薬局の規模が拡大し、取り扱い品目数が数百から数千へと増えていくにつれ、エクセルによる「手動管理」は必ず限界を迎えます。どれだけ注意を払っていても防ぎきれないヒューマンエラーのリスクが現場をじわじわと圧迫し始めるからです。
エクセル管理から専用の「医薬品在庫管理システム」への移行(予算化の検討)を始めるべき基準は以下の通りです。
- 備蓄品目数が「1,000品目」を超えたとき:
人間の目と手動入力で、ミスなくリアルタイムにコントロールできる限界値の目安です。 - 発注業務に毎日「30分以上」費やしているとき:
レセコンからデータを抽出し、エクセルに貼り付け、さらにそれを各卸のWebシステムに打ち直す……この「作業」に時間を奪われているなら、システム化によってその時間をすべて対人業務へ還元できます。 - 月に複数回の「入力ミスが原因の欠品」が発生したとき:
これは現場のスタッフが疲弊している、あるいは仕組みが限界を迎えているという、何よりの危険サイン(アラート)です。
エクセルでの管理体制の構築は、現場に「発注点」や「重要度分類」のロジックを浸透させるための必要なステップです。
しかし、そこから先にある「確実な医療安全」と「現場の業務効率化(DX)」を両立させるためには、テクノロジーへの投資(システム化)へとステップアップするタイミングを正しく見極めることが重要になります。
医薬品在庫管理システムでできること(自動発注・期限管理)
エクセルによる手動管理の限界を突破し、薬局の管理を完全に自動化・最適化するのが「専用の医薬品在庫管理システム」です。
システムを導入することで、これまでの「数える」「計算する」「悩む」といったアナログな業務スタイルは一変します。レセコンや調剤機器と高度に連携し、テクノロジーが24時間体制で監視する、次世代のリアルタイム管理の実力について解説します。
エクセル管理との最大の決定的な違いは、「手入力・転記が一切不要になる」点です。
患者さんから処方箋を受け取り、それをレセコンに入力して確定ボタンを押した(調剤が完了した)その瞬間に、システム内のデータから「1錠単位」「1包単位」で自動的に引き落とされます。
- 入力ミスの根絶
「残数を数え間違える」「テンキーの打ち込みを間違う」といった人間のヒューマンエラーが介入する余地がそもそもありません。 - タイムラグのない正確性
常に「今、この瞬間の正しい棚残数」が画面上に反映されるため、「データ上はあるはずなのに、棚に行ったら薬がない」というタイムラグ欠品を未然に防ぐことができます。
エクセル管理において、最も手がかかり、かつ見落としが発生しやすいのが「使用期限のチェック」です。管理システムは、この領域でも絶大な威力を発揮します。
- 入庫時のロット・期限紐付け
卸から届いた医薬品のバーコード(GS1データバー)を端末でピッと読み取るだけで、その箱の「製造番号(ロット)」と「使用期限」が自動でシステムに登録されます。 - デッドストックと期限切れのダブルアラート
「使用期限が残り半年の薬がある」「あと3ヶ月で切れるのに、過去3ヶ月間一度も動いていない」といった危険な品目をシステムが自動検知し、画面上やメールで薬剤師にアラート(警告)を出します。
棚の奥でひっそりと期限を迎えてしまうような「隠れデッドストック」を早期に発見し、「系列店舗や近隣の協力薬局への譲渡」による融通や、「薬局間在庫売買サービス」への出品、条件を満たした卸への返品へと、期限が切れる前に余裕を持って回すことができるようになります。
複数店舗(チェーン)での在庫共有・クラウド一元管理の強み
自店だけの最適化(エクセル管理など)にとどまらず、系列店舗やグループ全体を巻き込んで在庫管理のステージを劇的に引き上げるのが、「クラウドによる一元管理(共有化)」です。
複数店舗を展開する調剤薬局チェーンや、近隣に複数の分院・姉妹店を持つ薬局において、店舗ごとの「在庫の偏り」は、過剰在庫と欠品を同時に引き起こす経営を圧迫する最大の原因になります。
これをクラウド型の医薬品在庫管理システムで情報を共有してリアルタイムに可視化し、本部主導で組織的な最適化を行うことで、会社全体の廃棄ロスを驚異的なスピードで削減するのです。
- グループ全体のデッドストック(廃棄)の激減
使用期限を迎える前に、消費確率の高い店舗へ在庫を「強制配分」できるため、会社全体の年間廃棄金額は劇的に下がります。 - 新規仕入れ高の抑制:
他店から移動してきた在庫で処方を賄えるため、卸業者への月々の新規発注金額(仕入れコスト)を抑えることができます。結果として、会社全体の適正在庫(欠品と過剰在庫を避ける在庫量)の維持がしやすくなります。 - 「デッドスペース」の削減と医療安全:
不要な在庫を必要とする他店へ速やかに移動させることで、各店舗の棚から不要な不動在庫が消え、今動いている薬だけが整然と並ぶようになるため、調剤室の省スペース化と調剤ミス(取り違え)の防止にも繋がります。
メディセオなど卸売業者のシステム(レセコン)との連携
新しく独立した管理システムを導入するとなると、「コスト面や操作方法の変更にハードルを感じる」ということも少なくありません。
そこで、最も現実的かつ今あるインフラを最大活用できるアプローチが、メディセオなどの医薬品卸売業者が提供する発注・管理システムとの連携(EDI連携)です。
普段から医薬品を仕入れている卸のネットワークと、自店のレセコンや管理システムをダイレクトに繋ぐことで、初期投資を抑えながら劇的な業務効率化を実現できます。
EDI連携で発注の手間を省く
EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)連携とは、薬局のシステムと卸の基幹システムをインターネット回線で直結し、発注や納品データを電子化してやり取りする仕組みのことです。
通常、システムが非連携の薬局では、レセコンやエクセルで「何が必要か」をリストアップした後、卸の専用Webサイトを開いて手動で品番(JANコードなど)を1品目ずつ打ち直して発注する、という二度手間が発生します。
主要な卸(メディセオ、アルフレッサ、スズケン、東邦薬品など)のシステムとEDI連携を組むことで、自店システムで確定した発注データが、ボタンを1クリックするだけで、各卸の注文受領システムへ直接瞬時に送信されます。これにより、毎日発生していた「打ち直し・探し直し」の手間と時間が100%ゼロになります。
経営陣を説得する!システム導入による費用対効果(コスト削減)の示し方
管理薬剤師がどれほど現場で「システムを入れて在庫管理を効率化したい!」と熱望しても、経営陣や本部から「それで、投資した分の元は取れるの?(ROIはあるの?)」と突き返されてしまえば、稟議はそこでストップしてしまいます。
経営陣が見ているのは現場の苦労ではなく、常に「数字(費用対効果)」だからです。
システム導入を勝ち取るためには、感情論ではなく、「廃棄ロスの削減額」と「薬剤師の残業代削減額」の2軸を組み合わせたロジカルな稟議書(コスト削減のシミュレーション)を提示するのが最も効果的です。
1. 経営陣に刺さる「ROI(投資対効果)」の基本ロジック
稟議を通すための大原則は、「システムの年間維持費(ランニングコスト)」よりも、「システム導入によって削れる無駄なコスト(リターン)」の方が確実に大きいことを数字で証明することです。
削除できる年間コスト=①年間の医薬品廃棄ロスの削減額+②薬剤師の残業代
この「①+②」の合計額が、導入したいシステムの年間費用を上回っていれば、その瞬間に「投資価値あり」というロジックが成立します。
「年間総医薬品仕入れ高6,000万円(月商500万円)の店舗」が、「初期費用30万円、月額利用料3万円(年間36万円)」の在庫管理システムを導入する場合の、具体的な投資対効果(ROI)のシミュレーションです。
前述の「廃棄率(%)= 期限切れ廃棄金額 ÷ 年間総医薬品仕入れ高 × 100」の式をベースに試算します。
現状: 現在、自店で有効な店舗間移動の仕組みがなく、廃棄率 0.3%に相当する年間18万円(6,000万円×0.3%)の期限切れ廃棄ロスが発生している。
導入後: システムによる期限切れアラートと、他店への自動融通により、廃棄率を0.1%(年間6万円)まで引き下げ、廃棄ロスを「3分の1」に圧縮可能。
効果(年間メリット):
現状18万円−導入後6万円=12万円の削減
以下の「年間残業代 = 時給 × 月間残業時間 × 12ヶ月」の式に当てはめて算出します。
現状: 管理薬剤師が、閉局後に毎日30分(月20日=月10時間)、棚残数のチェックと各卸への手動発注作業を「残業」として行っている。割増賃金を含む薬剤師の残業時給を「3,600円」とした場合、毎月の残業代は3万6,000円(3,600円×10時間)発生している。
現在の年間残業代の式:
3,600円/時×10時間/月×12ヶ月=43万2,000円
導入後: レセコン連動のリアルタイム管理と自動発注機能により、毎日の作業時間は「ほぼ0分(最後の確認・1クリックのみ)」になり、この時間を100%カットできる。
効果(年間メリット):
発注に伴う残業代の削減=43万2,000円の削減
医薬品の適正在庫についてよくある質問
ここからは、医薬品の適正在庫について、よくある質問を3つ紹介します。


調剤薬局の在庫回転率は「年間15〜16回転(月換算で約1.25〜1.36回転)」が中堅〜中小規模薬局における健全な目安とされています。回転期間に換算すると「約0.75〜0.8ヶ月分(約23〜24日分)」です。
なぜなら、これ以上回転率が低い(在庫期間が長い)と、棚卸資産として現金が固定化され経営のキャッシュフローが悪化する一方、逆に回転率が高すぎると、突発的な処方に対応できず欠品リスクが跳ね上がるからです。かかりつけ薬局としての供給義務と経営効率を両立させるための、不動のボーダーラインが「年間15〜16回転」という水準です。


なぜなら、注文しても満額で薬が入ってこない異常事態下では、平時の安全在庫の公式は機能しないからです。手元の在庫が尽きる前に代替品の手配や他店からの譲受といった「次のアクション」を起こすための猶予時間を、設定の書き換え(仕組みの修正)によって泥臭く確保することが最優先となります。


なぜなら、この水準を超えると、人間の目と手動入力による管理は限界を迎え、入力漏れやタイポによる「ヒューマンエラーに起因する欠品」や「ファイルの破損・属人化」のリスクが急激に高まるからです。業務効率化(DX)によって薬剤師を単純作業から解放し、対人業務へリソースをシフトするべき明確なサインと言えます。
まとめ:医薬品の適正在庫を維持し、選ばれる「かかりつけ薬局」へ
この記事では、出荷調整が続く厳しい環境下において、医薬品の適正在庫を論理的・組織的に維持するための具体的なノウハウを解説しました。
平均値: 年間 16.355 回転(月換算で約1.36回転)
中央値: 年間 15.09 回転(月換算で約1.25回転)
STEP
直近データ(3ヶ月〜1年分)をエクスポートする
「総出庫金額」を算出して並び替える
累積金額の構成比(%)を計算する
A・B・Cの3ランクに境界線を引く
A~Cランクの定義と境界線
Aランク(全体の0〜75%の境界線): 累積金額の構成比が75%に達するまでのグループ。品目数は全体の1〜2割と少ないが、金額の大半を占める超高額・最重要管理医薬品です。発注時は必ず人間の目で「棚の現物」を目視確認し、過剰在庫を徹底排除します。
Bランク(全体の75〜95%の境界線): 累積金額の構成比が75%を超えてから95%に達するまでのグループ。定期的に広く処方される、薬局の経営を支える主力・標準管理医薬品です。基本はシステムによる自動発注(発注点管理)で機械的に運用し、半年に1回ランクの変動を見直します。
Cランク(全体の95〜100%の境界線): 累積金額の構成比が95%を超えて100%までのグループ。品目数は非常に多いが、金額はわずか5%未満の安価・低頻度医薬品です。最も不動在庫(デッドストック)になりやすいため、現場に任せきりにせず定期的な点検が必要です
現在の在庫リストに、現在庫数・平均使用数・最終出庫日を付け加える
不動在庫(デッドストック)の判定基準
B・Cランクで「最終出庫日が一年前」「直近3ヶ月の出庫数がゼロ」かつ「現在庫がある」品目
過剰在庫の判定基準
「現在庫数 ÷ 1ヶ月の平均使用量 = 在庫月数」を計算し、在庫月数が「2ヶ月以上(※店舗の基準による)」になっている品目
適正在庫の決め方・計算方法を学ぶなら「在庫管理セミナー」の受講がおすすめ
「そもそもうちの薬局の適正在庫ってどれくらい?」
「うちの薬局の在庫管理を見直したい」
「薬局の適正在庫を維持するやり方を教えて欲しい」
このような悩みを持っている場合は、在庫管理110番の適正在庫セミナーがお勧めです。
「適正在庫管理セミナー」では、少人数制で実施しており、疑問に思ったことをその場で質問できます。
【少人数制】450人以上が受講!
受講者特典
在庫管理成熟度レベル、問題チェックシート
在庫管理アドバイザーによる無料在庫相談
自社では気づかなかったあなたの会社が最優先で取り組むべき課題も知ることができます。




