損益分岐点管理をする方法
管理会計において、損益分岐点は重要なキーワードとなります。
損益分岐点とは、自社が利益を出せる限界点を知ることです。
損益分岐点を管理することで、自社の何が問題でどこを改善すればよいのかが
見えます。
具体的な改善につなげるためには、固定費と変動費に分解します。
これで初めて管轄する組織、個々人レベルまで落とし込んで
改善活動につなげることが極めて重要です。
今回は、管理会計をするために必要な損益分岐点管理をするための手法と管理する上のポイントを
解説します。
- 損益分岐点分析
- ABC(活動基準原価計算Activity Based Costing)
- ABM(活動基準原価管理Activity Based Management)
目次
ABC(活動基準原価計算Activity-Based Costing)
ABC(活動基準原価計算Activity-Based Costing)とは、
原価対象となる製品やサービス、さらには顧客や販売チャネルなどが消費する活動に原価を集計する手法のことです。
製品やサービスを製造(または販売)するには、様々な活動を行うため、
活動の利用量を基準として活動に集計された原価(活動原価)を製品に配賦することが求められます。
下表は組立型製造業のあるラインにおける事例です。
(出所:『スタンダード管理会計』小林啓孝/伊藤嘉博/清水孝/長谷川恵一著、東洋経済新報社を参考に改編)
ここでは、製品3種類を完成するのに必要な活動として、
- 機械装置の段取活動
- 部品の組み立て活動
- 筐体の組立活動、
- 部品の配送活動
- 完成品の検査活動
- 設計・試作活動の6つがあるとします。
それぞれの活動に対して間接材料費、間接労務費および間接経費を集計します。
次に、それぞれの製品が活動にどれだけ利用したかを認識します。
活動の利用量を基準として活動に集計された原価(活動原価)
を製品に配賦します。これら活動はコスト・プールと呼ばれます。
生産に関する様々なコスト・プールに対し、集計された費用のうち、
活動に対して配賦するためのコスト・ドライバーを資源ドライバー、
また製品に配賦するためのコスト・ドライバーを活動ドライバーと呼びます。
ABCを採用するメリット
これまでブラックボックスになっていた「間接費」の存在を複数の活動によって明らかにして製品に配賦できることです。
基準がこれまでのようにもともと決められたものではなく、製品に合った形で明確になるために本来の原価が算出できるので、製品価格も適正なものとすることが可能となります。
これにより、たとえばこれまで競合相手に価格面で勝てない理由
が判明したり、今後の競争力強化を考えた際、どの活動にそのコストがかかりすぎているかがわかったりします。
間接費を「可視化」できるようになるというのが最大のメリットです。
ABCを採用するデメリット
ABCにはメリットだけではなく、デメリットもあります。
コスト・プールとそれに対するコスト・ドライバーを決定しなければならないという手間です。
コスト・ドライバーはまず間接費総額からそれぞれの活動に対する
配賦を決めていきますが、そのためにはそれぞれのコスト・プール
を決定し、さらにそれらの1回当たりの費用を決めていく必要があります。
ABM(活動基準原価管理Activity-Based Management)
ABMとは、顧客によって受け取られる価値および
その価値を提供することによって達成される利益を改善
するための経路として、活動の管理の焦点を当てたものです。
ABC(活動基準原価計算)とABM(活動基準原価管理)の
関係は以下のように表現できます。
(出所:『スタンダード管理会計』小林啓孝/伊藤嘉博/清水孝/長谷川恵一著、東洋経済新報社を参考に改編)
縦の流れはABCを示しています。
すなわち、活動が資源を消費し、原価計算対象が活動を消費するという流れです。
これに対して、横の流れは業務コスト・ドライバーを示しています。
活動を生むのは業務コスト・ドライバーであり、その活動の業績を
測定するためには、何らかの業績尺度が必要になります。
業績尺度を測定して初めて管理の対象になります。
プロセスのパフォーマンスを向上させる
活動基準原価管理の目的は、プロセスのパフォーマンスを向上させることです。
業績ではなくプロセスという言葉を使うのは、それが財務的なものに
限定されていないという意味でもあります。
すなわち、利益を獲得するために必要な顧客価値の提供に関して、
プロセスを考えるということです。
一般的には、活動基準原価管理は活動に集約される原価を低減していくことが目的とされます。
活動基準原価管理では、次の3つを分析します。
- 活動分析
- 業務コスト・ドライバー分析
- 業績分析
活動分析
活動分析は、活動基準原価管理の中核をなすものです。
活動基準原価管理は、顧客価値に焦点を合わせているため、活動が目的に沿ったものかどうかを確認する必要があります。
顧客価値の創出に役立つ活動を付加価値活動と呼び、顧客価値を生み出していない活動を非付加価値活動といいます。
生産活動においては、顧客価値を創出しているのは加工時間と段取時間の一部です。
段取時間は、スムースに加工が実行できるように、また、複数の製品を生産する際に様々な問題を生じさせない活動であるので、顧客価値を創出します。
しかし、手待ち時間や間接作業時間は、製品の価値を生み出すことはありません。
したがって、手待ち時間や間接作業時間は基本的には排除すべき活動です。
これらを維持することによって、製品の価値は減少することはありません。
トヨタの7つのムダ
ちなみにトヨタ自動車では、付加価値を生まない諸要素として、
7つのムダを定義し、現場から徹底的に排除することを改善として
取り組んでおり、その一つに手待ちのムダだけでなく、
加工のムダを入れるなど、無駄を徹底的に排除するカルチャー
が根付いています。
- つくりすぎのムダ
- 手待ちのムダ
- 運搬のムダ
- 加工そのもののムダ
- 在庫のムダ
- 動作のムダ
- 不良をつくるムダ
換言すると、トヨタは在庫量だけでなく、削減可能な
リードタイムに着目している点です。
在庫回転を語る上でこの二つは極めて重要です。
業務コスト・ドライバー分析
非付加価値活動を削除すれば問題解決できるかというと、それは間違いです。
なぜならば非付加価値活動が存在しているということは、業務コスト・ドライバーが存在しているからです。
そのドライバーがなぜ存在しているのかを確認しなければ、
有効なプロセス・マネジメントを行うことはできません。
業績分析
活動が効率的かつ有効に実施されているかどうかは、何らかの尺度によって測定し、その尺度の値が目標値に届いているかどうかを確認することが業務分析です。
(出所:『スタンダード管理会計』小林啓孝/伊藤嘉博/清水孝/長谷川恵一著、東洋経済新報社を参考に改編)
この図は活動変化の低減のための流れを示したものです。
最初に業務プロセスの流れを活動に分解します。
そして活動を非付加価値活動と付加価値活動に分類し、
業績測定および業績コスト・ドライバー分析を行います。
非付加価値活動については、基本的には削除する方向で検討します。
一方、付加価値活動については、ベスト・プラクティスの
ベンチマークなどによって、能率を向上させることに焦点が当てられます。
両者とも改善につながるようなプロセス・マネジメントの
プロセスを経て、新しい業務プロセス全体の改善へとつなげます。
高井先生の記事一覧
この記事の執筆した高井先生は管理会計や損益分岐点分析、CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)
やPSI管理などに関する経験と深い知見を有しており、当サイトに数多くご寄稿いただいてます。
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