安全在庫は欠品を防ぎ、生産停止や販売機会の損失を防ぎ、売上を最大化できます。
しかし残念ながら、安全在庫がうまく活用できておらず、過剰在庫の原因になっている企業が多いのも事実です。
そこでこの記事は、実務経験とコンサルティング経験のある在庫管理の専門家が、安全在庫の計算方法を具体例を示しながら分かりやすく解説します。
さらに、計算方法だけではなく、運用上見落としやすいミスや陥りやすい注意点も解説しますので、現場の運用にすぐに組み込んで、役立てていただけます。
- 安全在庫の計算方法
- 安全在庫の見直し方と注意点
- 公式を使えない場合もある
- 安全在庫と適正在庫の違い
目次
安全在庫とは欠品を防ぐための在庫
安全在庫とは、想定外(想定しにくいこと)のことが発生したときの欠品を防ぐためのバッファー在庫(緩衝在庫、安心在庫)です。
例えば、次のようなことのために設定します。
- 想定以上の需要変動
- 不良
- 納期遅れ
- 生産遅れ
11個以上を使用するようなことになってしまうと、1個足りず欠品になってしまいます。
安全在庫の計算式
安全在庫の計算方法は以下の通りです。
安全在庫を計算するために必要な4つの数字
- 安全係数:欠品の許容率
- 出庫数の標準偏差:出庫数のバラつき
- 発注リードタイム:発注してから納品されるまでの日数
- 発注間隔:発注する間隔
安全在庫の安全係数(欠品許容率)を決める
安全係数とは、欠品をどれくらい許容するかというものです。(例えば、欠品許容率=1%の場合は、確率1%の欠品を認めるといった具合です。)
欠品許容率によって、安全係数が決まります。
一般的に良く使われる値を以下の表にまとめました。
※欠品許容率を小さくすればするほど、安全在庫は増えていきます。
一般的によく利用される欠品許容率は、5%(安全係数=1.65)です。
補足(安全係数をエクセル関数で計算)
ちなみに安全在庫係数はエクセル関数『NORM.S.INV』でも計算可能です。
例えば、欠品許容率5%の場合は、NORM.S.INV(1-0.05)で計算可能です。
上記の表に無い欠品許容率を計算したい場合は、使ってみると良いでしょう。
在庫管理110番で配布している自動計算フォーマットでは、自由に欠品許容率を計算可能です。
➽【無料ダウンロード】安全在庫を計算できるエクセルフォーマット
【注意点】欠品許容率=0%は設定できない。
絶対に欠品しない、欠品許容率=0%は統計に基づくものなので設定できません。
ちなみに、0.000001%・・・・という限りなく0%に近い安全在庫係数は計算可能です。
需要数の標準偏差
標準偏差とは、平均値からの実際の需要数のバラつき具合のことです。
標準偏差は、安全在庫を設定したい商品(部品)の過去の出庫数(使用・出荷・販売)数量から計算します。
標準偏差の計算は、手計算だと難しいですが、エクセルの関数『STDEV.P関数』を使えば簡単です。
(標準偏差を計算する関数はSTDEV.Sもありますが、STDEV.P関数で問題ありません。※補足:STDEV.Sは全数調査、STDEV.Pは標本調査(一部のデータ)です)
1か月間の標準偏差 =STDEV.P(1か月間の出庫数)
となります。標準偏差は対象になるデータが多ければ多いほど現実的な値に近づくので、最低でも20データ以上は用意しましょう。
リードタイムの計算
リードタイムと発注間隔の合計のルート(√:平方根)を計算します。
今回の計算例では、リードタイム=5、発注間隔=0で計算しています。
リードタイム
リードタイムは計算する安全在庫によって使い分けます。
例えば、
- 部品や商品の仕入れの安全在庫を計算する場合:発注リードタイム(仕入れ先に発注してから、納品されるまでの日数)
- 仕掛品の安全在庫を計算する場合:製造リードタイム(生産着手から完了するまでの時間や日数)
今回の例では、発注リードタイム=5日で設定しました。
リードタイムについては、こちらで詳しく解説しています。
発注間隔
発注間隔とは、次の発注日までの日数が決まっている定期発注の際に設定します。
例えば、
- 毎週水曜日に発注する場合:発注間隔は7日。
- 月末に1回発注する場合:発注間隔は30日。
発注点発注の場合は、発注間隔=0日になります。
【注意点】
勘違いしやすいのが発注点の計算と安全在庫の計算を混同することです。
安全在庫は発注点を計算する要素の一つです。
発注点の計算は、次の通りです。
発注点=平均出庫数量×(発注リードタイム)+安全在庫数
ルート(平方根)の計算
発注リードタイムと発注間隔が分かったら、エクセル関数『SQRT』を使ってリードタイムの平方根を計算します。
今回の計算式と計算結果は、
SQRT(5+0)≒2.2361
それらを全て掛け算すると安全在庫が計算できます。
安全在庫=6.8363という結果になります。
今回の在庫数は個数なので小数点は繰り上げて、7個にします。
【無料】自動計算用エクセルフォーマットのダウンロード
今回解説した安全在庫を自動で計算できるエクセルフォーマットをご用意しました。
関数を全て埋め込んでいるので、必要な数字をいれるだけで安全在庫を自動で計算します。
在庫管理110番では、在庫管理表など在庫管理や在庫分析に役立つフォーマットが無料でダウンロードできます。
計算結果で出た安全在庫は過剰になることが多い
日々、在庫管理をしているあなたから見ると、安全在庫の公式で計算してみると、感覚よりも思ったよりも在庫数が多いな・・・という印象ではないでしょうか?
実は、私も安全在庫の公式を実際に実務で計算してみて、同じような印象を受けました。
個人的な見解ですが、公式を使って計算した安全在庫数は過剰になりがちだと感じています。
実務を知らないシステム会社は、安全在庫の公式を勧めがちです。しかし、何も考えずにむやみに適用すると返って在庫が増えます。
そのため、在庫管理の実務経験者としては、安全在庫の公式で求めた値はあくまでも目安にすることをお勧めします。
むしろ出てきた値を参考に、少し調整するくらいがちょうどよいでしょう。
安全在庫を適切に使いこなすための注意点
安全在庫の公式は、必要な数値を当てはめるだけで計算できるため、とても便利です。
しかし、安全在庫を最初に設定しっぱなしで、見直さないケースがとても多いです。
実は、このことが原因で、安全在庫が滞留在庫や不良在庫原因になることはとても多いです。
安全在庫を正しく運用するためには、次の3点が必要です。
- 季節に応じて定期的に見直す
- 商品ライフサイクルに合わせて見直す
- 滞留・不良在庫化に注意する
- 安全在庫の公式が使える条件になっている
季節に応じて定期的に見直す
この場合、1年のデータで安全在庫を計算した場合、
- 冬は在庫過多
- 夏は在庫過少
といった状態になってしまうでしょう。
そのため、夏と冬で安全在庫を設定する必要があります。
つまり、安全在庫は需要状況によって適宜最適なものに設定し直さなければなりません。
季節のように需要が変化することを周期的変動といいます。
商品のライフサイクルに合わせて見直す
どんな商品にも導入期・成長期・成熟期・衰退期といったライフサイクルがあります。
ライフサイクルに応じて、安全在庫を設定します。例えば次のように設定します。
- 導入期:実績が無いため、計画に基づいて設定し、1~2か月に1回程度定期的に見直す。
- 成長期:売上が急増しているため安全在庫も多めに設定して、売上機会の損失を防ぎます。
- 衰退期:売れ行きが鈍ってきているため、安全在庫を少なく設定して、不良在庫になるリスクを避ける
安全在庫の公式が使える条件になっていること
今回解説した安全在庫の公式は、『需要数が正規分布に従っている』ことが使える条件です。
正規分布に従っていない場合は、安全在庫の公式を使ってはいけません。
安全在庫の公式が使えるパターンと使えないパターンは以下の通りです。
正規分布にしたがっているかはヒストグラムを使えば分かる
安全在庫の公式が使える=正規分布に従っているかどうかは、ヒストグラムを作れば一目瞭然です。
ヒストグラムの解説とエクセル(excel)でヒストグラムを作成する方法は以下の記事をご覧ください。
安全在庫と適正在庫は違う
安全在庫の役割は、欠品防止(売上機会の損失回避)をするのが目的です。
需要が減った商品の安全在庫に気づかないと、滞留在庫や不良在庫の原因になります。
こういったケースは非常に多いため、適正在庫の考え方を取り入れることをお勧めします。
適正在庫とは、在庫数の下限だけではなく、上限も決めて過剰在庫も防ぐことです。
過剰在庫も管理できるのは適正在庫だけです。
つまり、適正在庫とは、1つの値ではなく、幅をもって設定するもので下限在庫と上限在庫の間の在庫数ということができます。
適切な安全在庫を設定するためのまとめ
ここまで解説したことを簡単にまとめます。
- 安全在庫とは、需要変動や納期遅れ、生産遅れなどの想定外のできごとによる欠品を防ぎ、生産停止や販売機会の損失を防ぎ、売上を最大化するためのもの
- 公式は、安全係数×出庫数(販売数、使用数)の標準偏差×ルート(リードタイム+発注間隔)
- 設定しっぱなしはダメ!季節、商品ライフサイクルに合わせて定期的に見直すこと
- 公式は、万能ではない。正規分布に従っていることが最低条件。
- 公式がそのまま使えない場合は、使用するデータを工夫する必要がある。
- 安全在庫は過剰在庫の原因になることもある(欠品を防ぐためのものであって、過剰在庫は防げない)
安全在庫で欠品を100%防ぐことはできない
安全在庫の目的は欠品を防ぐことですが、事実上、欠品を100%防ぐことはできません。
逆に安全在庫の持ちすぎは、在庫として多くのお金が滞留しキャッシュフローの悪化の原因になるため注意しましょう。
実用的な自社の適正在庫と安全在庫の計算方法がわかる
安全在庫の公式は、条件が整っている場合でしか、適用しにくいという特徴があります。
あらゆる状況に適用できる、適正在庫の計算方法を在庫管理セミナーでお伝えしています。
自社の適正在庫の計算方法を知りたい方にお勧めです。難しい計算式は使わず、エクセルで計算できます。
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安全在庫に関するよくある質問
安全在庫の計算について在庫管理110番に寄せられるよくある質問をご紹介します。
条件に当てはまらない場合は、個別に確認する必要があります。例えば夏と冬で季節変動があるものであれば、夏のデータだけを集めて安全在庫の公式を使うなど工夫が必要です。
ただし、類似データを使うという方法があります。例えばモデルチェンジ・マイナーチェンジの場合は、過去モデルのデータを使うことで安全在庫を計算できます。
ただし、新商品は旧商品を改良したもののはずですので、設定後1~2か月以内には一度、少なすぎないか、多すぎないか、データを確認したほうが良いでしょう。
安全在庫を計算する際の「②出庫数(販売数、使用数)の標準偏差」を"月間(=月単位)で算出した場合は、発注リードタイムも「月単位=○○ヶ月」で計算しないといけませんか?それとも「日単位=○○日)で計算できるのでしょうか?
(リードタイムが4か月の場合、3(月単位)で良いのか120(日単位)なのか。)
標準偏差を「月」で計算したのであれば、発注リードタイムも「月」にします。
例えば海外から船で仕入れる場合、洋上在庫(船の上にある在庫)が存在しますが、安全在庫に含めてよろしいでしょうか。
船で3~4か月かける場合、この日数を発注リードタイムに含めても良いかという質問になります。
ここでポイントになるのは、「発注リードタイム」に関する考え方です。
通常、発注リードタイムは、仕入先が出荷してから会社に到着するまでの日数とすることが多いはずです。 ちなみに、船で輸入する品物の発注リードタイムを分類すると、「仕入先~港までのリードタイム」、「航行リードタイム(いわゆる洋上在庫)」、「到着後リードタイム(船が到着してから、会社に届くまでのリードタイム)」です。
今回のご質問だと、「航行リードタイム」を含めるべきなのか?ということですが、「仕入先が出荷してから会社に到着するまでの日数」と考えると冒頭の通り含めた方が良いと思われます。
安全在庫に関するご相談
「在庫管理110番」では、無料相談を実施中です。よくある質問はある程度まとめましたが、自社の場合はどうするのか?等、もっと知りたい事、具体的に知りたい事があれば、お気軽にご相談ください。
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