安全在庫とは、需要変動などのバラつきによって起こる可能性がある欠品を、ある程度防ぐための在庫のことです。
発注リードタイムの期間内に見込まれる需要数に加算して持ちます。
なので、例えば1か月間の持つべき在庫の総数量は、
1か月分の在庫数量 = 1か月間の平均使用数量 + 安全在庫
となります。
もくじ

仮に1日の使用量を10個と想定します。
その時、11個以上を使用するようなことになってしまうと、1個足りません。
その分だけ欠品になってしまいます。
上記の図の場合、安全在庫を5個と設定して欠品対策にしたため、一時的な使用量の増加を乗り切ることができました。
上記のように、安全在庫を設定して需要変動を吸収して欠品を防ぎます。
安全在庫の計算方法
安全在庫の計算式は以下の通りです。
安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×ルート(発注リードタイム+発注間隔)
安全在庫を求める式は、次の数値から成り立ちます。
それぞれの項目について説明します。
- 安全係数
- 使用量の標準偏差
- 発注リードタイム
- 発注間隔
安全在庫の安全係数
安全係数とは、欠品をどれくらい許容するかというものです。
100%から欠品許容率を引くと、求めることができます。
安全在庫の安全係数は、決まった値があります。
一般的に良く使われる値は、以下の表の値を参考にしてください。
よく採用される安全係数は1.65です。
(欠品許容率5%)
つまり、欠品許容率5%ということは、100回のうち5回は欠品が起こるかもしれないということになります。
なお、欠品許容率は、エクセルの関数のNORMSINVを使って求られるので、表には無い安全係数を設定できます。
エクセルの関数式で表すと、
欠品許容率=NORMSINV(1-割合)
欠品許容率5%の場合は、次のようになります。
NORMSINV(1-0.05)≒1.65
【関連記事】
使用数量の標準偏差を計算する
標準偏差とは、平均値からのバラつきのことを言います。
標準偏差が大きければ大きいほど、平均値からのばらつき具合が大きいということになります。
標準偏差は、
- 安全在庫を求めたい対象の部品
- 製品の過去の出庫数(使用・出荷・販売)数量
から求めます。
標準偏差の計算は、手計算だととても難しいですが、エクセルの関数を使えば簡単です。
標準偏差を求める関数は、STDEV関数です。
エクセルには、標準偏差に関する関数がいくつかありますが、STDEV関数で問題ありません。
<1か月間の出庫数量の標準偏差を求めたい場合>
1か月間の標準偏差 =STDEV(1か月間の出庫数)
となります。標準偏差は対象になるデータが多ければ多いほど現実的な値に近づきます。
また標準偏差は在庫管理書式で自動計算できます。
こちらで無料配布中です。
ルート(発注リードタイム+発注間隔)
発注リードタイムと発注間隔の合計のルート(√:平方根)です。
平方根はエクセルのSQRT関数で簡単に求められます。
<発注リードタイム>
発注リードタイムとは、仕入れ先に発注してから、納品されるまでの日数です。例えば、月曜に発注して金曜に納品されるのであれば、発注リードタイムは4日です。
発注リードタイムについては、こちらで詳しく解説しています。
<発注間隔>
発注間隔とは、次の発注日までの日数のことです。
これは、定期発注の時だけに使います。
例えば、毎週1回発注する場合、発注間隔は7日になります。
なお、不定期発注(発注点発注など)の場合は、発注する日を決めず、必要に応じて発注するため、発注間隔は0日になります。
安全在庫の計算例
発注リードタイムが5日の部品だとします。
(実際にエクセルで計算しました)
欠品許容率を5%と設定します。
安全係数の表から、数値は1.65になります。
次に、STDEV関数を使って使用量の標準偏差を求めます。
(実務で計算する場合は、データ量はもっと多いほうがいいです。)
最後にSQRT関数を使って、発注リードタイムのルートを求めます。
(不定期発注なので、発注間隔は0日です)
それらを全て掛け算すると安全在庫が計算できます。
安全在庫=6.8363という結果がでました。
6.8363という数量は存在しないので、繰上げして7個にします。
これが今回の安全在庫になります。
【無料】安全在庫の自動計算エクセル
今回、安全在庫を計算できる書式をご用意しました。
その他、在庫管理表など在庫管理や在庫分析に役立つ書式がありますので、そちらもよろしければぜひご利用ください。
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在庫の使用数量は正規分布か?
安全在庫の公式を使うときに1点注意点があります。
この安全在庫の求め方は、調査対象のデータが正規分布であることを前提にしています。
正規分布でないと、誤った結果になる危険があります。
そこで、ヒストグラムを作成してみて、データのかたちを見てみます。
(正確に調べる場合は、検定をしますが実務でそこまで求める必要はありません)
正規分布
正規分布とは、上記のようなデータ分布のことです。
平均値付近のデータ数が最も多い1つの山のデータ分布です。
これが、最小値や最大値の方に偏っていたり、2山だったりすると正規分布ではありません。
安全在庫の見直し
季節性などがある場合は、データが偏りがちになります。
例えば、アイスクリームのようなものの場合は、冬は販売数が少なくなり、夏は販売数が多くなるでしょう。
この場合、1年のデータで安全在庫を計算すると、
- 冬は在庫過多
- 夏は在庫過少
といった状態になってしまうでしょう。
そのため、夏と冬にデータを分けて、それぞれで安全在庫を設定する必要があります。
つまり、安全在庫は需要状況によって適宜最適なものに設定しなおす必要があります。
安全在庫で欠品を100%防ぐことはできない
安全在庫の目的は欠品を防ぐことですが、事実上、欠品を100%防ぐことはできません。
安全在庫の公式は統計学によって算出します。
欠品許容率を0.00000…と限りなく0に近づけることは可能ですが、0にはできません。
また、欠品許容率を限りなく下げたからと言って、絶対に欠品が起こらないとは言い切れません。
もし、絶対に欠品を起こしたくないのであれば、無限に在庫を持つ必要があります。
資金やスペースが無限にあれば大量に在庫を持てます。
ただ、これでも絶対に欠品を起こさないという保証は誰にもできません
計算上の安全在庫は実務では過剰になりがち
自分の感覚よりも在庫数が多くなるな・・・
私が安全在庫の公式を実際に実務で使ってみた感想です。
個人的な見解ですが、上記の式を使って算出した安全在庫は明らかに過剰でした。
データのばらつきもあるので、いくつか計算をしてみたのですが、これで求めた安全在庫数を全ての品目に適用すると、とんでもない在庫金額になります。
答えをはっきりと出したい、専門家(特にIT在庫管理システムの専門家)は、この式の使いたがることが多いですが、実際に適用すると返って在庫が増えます。(欠品がなくなりましたよね?と言われるかもしれませんが・・)
安全在庫の公式で求めた値はあくまでも目安にすることをお勧めします。
むしろ出てきた値を参考に、調整するくらいがちょうどよいでしょう。
安全在庫を設定した後も安心せずに在庫数を必ず見守ってください。
採用する場合も、徐々に減らす方向で考えたほうがよいと思っています。
安全在庫と適正在庫は違う
安全在庫とは、欠品を防ぐための在庫の下限値です。
つまり、安全在庫では過剰在庫を防げません。
安全在庫=適正在庫と誤った説明が多く世の中に出回っているので注意してください。
実際に、安全在庫を設定してさらに過剰在庫が増え大変困っている会社もありました。
過剰在庫も管理できるのは適正在庫です。
適正在庫は、在庫の上限も設定するので、過剰在庫を防ぐことができます。
私の経験でも安全在庫を設定すれば、安心と思っていると、過剰在庫を見落とすので、在庫がどんどん増えます。
すると不思議なことに欠品もどんどん増えていきます。
安全在庫だけではなく、過剰在庫の管理も大切です。
適正在庫の計算・設定方法については、こちらのページで解説しています。
安全在庫とともにぜひご覧ください。
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