在庫管理アドバイザーとして、数多くのご相談を受けてきました。
その中で一番多い悩みは、適正在庫に関することです。
この記事では、自社の適正在庫を知る方法と維持する方法を解説します。
適正在庫とは、「欠品せず、かつ過剰在庫にならない適正な在庫数のこと」と言われています。
適正在庫は難しい数式や需要予測が必要と思われがちです。
しかし実は、需要予測のように難しい統計や数式は不要です。この記事ではどんな会社でも自社の適正在庫を設定できる方法を解説します。
それでは、適正在庫について具体的に解説します。 ぜひ、最後までお読みください。
目次
- 1 安全在庫と適正在庫の違い
- 2 需要予測と適正在庫の違い
- 3 適正在庫の3つの計算方法
- 4 適正在庫(経営的観点)を計算する
- 5 適正在庫(実務的観点)を計算する
- 6 経済的発注量
- 7 適正在庫は経験や勘に頼らず客観的に決める
- 8 適正在庫を維持するためのポイント
- 9 需要予測を適正在庫の維持に取り入れる方法
- 10 適正在庫の実現・維持をサポートするためのシステム・ツール
- 11 【全業種共通】適正在庫を実現するために取り組みたい改善の3つポイント
- 12 【業種別】適正在庫を実現し維持する方法
- 13 適正在庫は会社が戦略的に決めるもの
- 14 適正在庫の実現・維持方法のまとめ
- 15 適正在庫の実現・維持を専門家から学ぶ
- 16 適正在庫に関するご相談・お問い合わせ
- 17 適正在庫に関する関連記事
安全在庫と適正在庫の違い
まず、最初に安全在庫と適正在庫は違います。この2つはよおく混同されがちなので、最初にお伝えします。
安全在庫とは欠品を防ぐための在庫で在庫の下限値です。
一方、適正在庫は「欠品せず、かつ過剰在庫にならない適正な在庫数のこと」ですから過剰在庫も防がないといけません。
従って、上限値も管理するのが適正在庫です。
在庫の下限値を設定して欠品を防ぐとともに、上限値を設定して過剰在庫を予防した状態が適正在庫です。
つまり、適正在庫は「数」ではなく、幅(上限値と下限値の間)で見れば良いのです。
需要予測と適正在庫の違い
需要予測と適正在庫を混同されている場合があります。
仕入や生産のロット数などの都合があるため、「需要数=適正数」とならないこともあります。
需要予測は、あくまでも「先々の需要数の予測」であり、適正在庫ではありません。
適正在庫の3つの計算方法
適正在庫の計算方法は、いくつかあります。主な計算方法を3つ解説します。
- 経営的観点:会社が理想とする財務状況を目指すトップダウン方式
- 実務的観点:現場の実情に合わせて主にリードタイムを使って決めるボトムアップ方式
- 経済的発注量:発注するコストも考慮に入れて計算する方法
適正在庫(経営的観点)を計算する
改善の土壌が整っていない会社は、経営的観点から決める「トップダウン方式」がお勧めです。
経営的観点から適正在庫を決める場合は、「会社が目指す在庫金額=適正在庫」です。
経営的観点から計算する方法は3つあります。
- 売上から計算する
- 在庫回転率から計算する
- 資金繰りから計算する
売上から適正在庫を計算する方法
売上に対する在庫金額の比率から決める方法です。在庫金額の比率の計算式は、
在庫金額の比率=在庫金額÷売上
売上に対して在庫金額が大きいとこの割合が大きくなります。(=売上のわりに在庫が多い)
下の表は、業種別・売上規模別に、以下の項目をまとめた表です。
赤枠の「比率」が売上に対する在庫金額の比率です。
ご覧いただくと分かるように、優良企業に比べて、赤字企業の方が比率の割合が大きいです。
目安となる在庫金額の比率は、それぞれ次の通りです。
- 製造業:8%未満
- 卸売業:4%未満
- 小売業:4.5%未満
会社の目標在庫金額が決められない・・・という場合はぜひ参考にしてみてください。
利益率や同業種でも扱っているもので多少の誤差はありますが、売上に対して在庫金額の割合が15%を超えていると「在庫が多い」と認識して間違いないでしょう。
在庫回転率から適正在庫を計算する方法
在庫回転率とは、在庫の流動性(滞留度)を表す指標です。
- 在庫回転率が大きい: 在庫の流動性が良いことを示し、在庫効率が高い。(商品が早く売れている、部品が早く使われている)
- 在庫回転率が小さい: 在庫が滞留していることを示します。(仕入れた商品が売れるまでに時間がかかっている、仕入に対して売れ行きが少ない)
在庫回転率は次の計算式で求めます。
- 在庫回転率=売上原価÷平均在庫(期首在庫と期末在庫の平均値)
- 在庫回転日数=期間(日数) ÷ 在庫回転率 ※日数とは期首から期末までの日数
会社が目指す(理想とする)財務目標から在庫回転率を計算します。
適正在庫の計算手順は次の通りです。
- 売上目標を決める
- 理想とする財務状態(=在庫金額、売上原価を決める)
- 理想とする在庫回転日数を求める(=適正在庫)
会社から目標が示されない、目標の設定の仕方が分からないという場合は、下記の表を参考にしてください。
ご覧いただくと分かるように、優良企業に比べて、赤字企業の方が比率の割合が大きいです。
目安となる在庫回転日数(在庫回転率)は、それぞれ次の通りです。
- 製造業:30日(12)
- 卸売業:15日(24)
- 小売業:15日(24)
※カッコ内は在庫回転率
資金繰りから適正在庫を計算する
運転資金からも適正在庫を計算できます。
運転資金とは、会社を運営するために必要な現金(=いわゆる資金繰り)のことです。
この金額が少ないほうが、資金繰りが楽といえます。
そこで知っておきたい管理指標がキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)です。
CCCは日数で表し、投資した金額が何日後に返ってくるかを表す指標で、キャッシュフロー経営を重視する際には必須となる指標です。
例えば、CCCが90日の場合、今日100円で仕入を行った場合、その100円が戻ってくるのは約90日後ということになります。
つまり、この商品を毎日売り続けるためには、少なくとも9000円の借金が必要ということです。
CCCの計算式は次の通りです。
CCC = 棚卸資産回転日数+売掛債権回転日数-買掛債務回転日数
- 棚卸資産回転日数:在庫回転日数のこと
- 売掛債権回転日数:いわゆる売掛。販売先への請求から現金が入金されるまでの日数
- 買掛債務回転日数:いわゆる買掛。仕入先からの請求を払うまでの日数
当然、CCCは短い方が良いです。
ちなみに、アマゾンは創業当初からCCCを意識した経営を行い、成長してきたことは有名な話です。
資本効率(手元にある資本を効率良く使って、どれだけの売上を上げたか?)を重視する現在欧米の企業では当たり前で、日本の上場企業も資本効率を意識しています。中小企業にとっても重要な経営指標になることは確実です。
適正在庫(実務的観点)を計算する
次に実務的観点から適正在庫を計算する方法をご紹介します。
実務的観点から計算する方法は2つあります。
- 必要数から計算する方法
- リードタイムから計算する方法
サイクル在庫から適正在庫を計算する
サイクル在庫とは、一定期間内の需要数(販売数や使用数)を満たすための在庫数(つまり必要な在庫数)のことです。
サイクル在庫数を求める式は次の通りです。
サイクル在庫数 = 一定期間の平均需要数 + 安全在庫数
例えば、1日の平均需要数が10個、安全在庫が20個とすると30日間の適正在庫は、
サイクル在庫数 = 10 × 30 + 20 = 320(適正在庫数)
となります。
この式の中で重要なのは、「一定期間の平均需要数」です。
サイクル在庫を適正在庫として使う場合は、どれくらいの需要があるのかをデータとして蓄積しておかなければいけません。
また、需要数は必ず変動するのでバッファー在庫として安全在庫も合わせて設定するのが良いでしょう。
安全在庫の計算式は次の通りです。
安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×ルート(発注リードタイム+発注間隔)
新規商品のサイクル在庫を計算したい時
もし、過去データが全くない場合(例:新商品やモデルチェンジ品)は、類似品の需要数などを参考にします。
このサイクル在庫を使った適正在庫を決める方法は、当たれば在庫のムダは無いです。
しかし、よほど需要が安定した商材でない限り難しいのが現実なので、在庫管理の専門家として中小企業には推奨しづらい方法です。
サイクル在庫の計算や活用方法を詳しく知りたい場合はこちらの記事をご覧ください。
リードタイムから適正在庫をから計算する
実務的観点から適正在庫を計算するのであれば、リードタイムから計算するのがお勧めです。
その考え方はとてもシンプルです。
自社が、仕入れからお客様に納品するまでのリードタイム(会社リードタイム)を適正在庫リードタイムとします。
会社リードタイムには3つの重要なリードタイムがあります。
3つの重要なリードタイム
- 仕入れ(発注)リードタイム:材料を発注してから、工場に納品されるまでにかかる日数
- 生産(製造)リードタイム:生産に着手してから、生産完了までにかかる日数
- 納品(出荷)リードタイム:製品を出荷してから客先に届くまでの日数
※加工や組み立ての無い業種(小売業・卸売業等)は、生産リードタイムは除いて考えてください。
上記3つの標準リードタイムを足したリードタイムが、おおよそ会社の適正な在庫日数です。しかし、これよりも在庫回転日数が極端に長い場合は、在庫の持ちすぎと考えれます。
リードタイムを使った適正在庫の設定は、在庫を日数で計算するため、需要変化に対して柔軟性があります。
また、平均在庫日数などの過去のデータが不要なため、中小企業にお勧めの適正在庫の設定方法です。
自社の適正在庫を知りたい、今の設定値が正しいかどうかを判断したいという場合はこちらをご覧ください。
経済的発注量
経済的発注量(EOQ)とは、欠品や過剰在庫ではなく、総コスト(在庫費用+発注費用)を最小限に抑える発注量を求める方法です。
- 在庫費用:倉庫費用や光熱費など、在庫を維持するために必要な費用
- 発注費用:発注時にかかる人件費などの費用
EOQは以下の式で計算します。
EOQ=√2DS/H
- D = 必要数(需要数)
- S = 1回の発注コスト
- H = 1単位あたりの年間保管コスト
EOQを活用することで、発注頻度と在庫保管コストのバランスを最適化した適正在庫を算出できます。
発注に手間がかかり、かつ保管コストのかかる商品に有効な適正在庫の設定方法です。
適正在庫は経験や勘に頼らず客観的に決める
同業や同規模の会社でも驚くほど在庫金額が小さい企業もあります。
後述する適正在庫を実現する方法にも書きましたが、うまくやっている会社には共通点が多く、オペレーションやビジネスの仕組みを見ると在庫回転率の良さに納得します。
その秘密は2つあります。
- 担当者の経験や勘に頼りすぎない
- 資本効率を重視した経営
担当者の経験や勘に頼りすぎない
担当者の経験や勘だけに頼った属人的な在庫管理は、その担当者がいなくなった途端に崩壊します。
また、そういった担当者は優秀だったりベテランであることが多いので、忙しく全てに手が回りません。
忙しさのあまり、在庫管理に手が回らず、欠品が多発したり、過剰在庫になってしまうこともよくあることです。
経験豊富な優秀な担当者がいるうちに、適正在庫の仕組みを作ることをお勧めします。
資本効率を考えた経営
残念なことに、日本の中小企業はまだまだP/L(損益計算書)重視の経営です。
P/L(損益計算書)重視の経営は、時代の流れがゆっくりで商品寿命が長い時は有効です。
しかし、時代の移り変わりが早く、商品寿命の短い現代では、あっという間に商品価値が無くなり、売れなくなり不良在庫化します。
大手企業では、資本効率の良い経営がようやく主流です。(欧米では10年以上前から主流です)
中小企業も賃上げや原価高騰などにさらされており、昔のような考え方のんびりした経営は、もはや通用しません。「いつか売れる」という昭和の考え方は通用しません。
在庫管理110番では、今回解説した適正在庫の計算方法を自社に適用するための方法を解説した在庫管理セミナーを毎月開催しています。
受講者特典もありますので、もしあなたが適正在庫に悩んでいるのであれば、お勧めのセミナーです。
適正在庫を維持するためのポイント
適正在庫は一度設定したら終わりではなく、定期的に見直さなければいけません。
ここからは適正在庫を維持するための着目点を解説します。
見直すポイントは、
- 季節などの周期的な変動
- 商品寿命
- マイナーチェンジやモデルチェンジ
- トラブルや予期せぬ出来事の発生率
周期的な需要変動(季節変動など)を把握する
例えば、アイスクリームであれば夏に売れ行きが良く、冬は悪いのが一般的です。
アイスクリームの1月と8月の適正在庫量は違うということが分かります。 このように、商品には、季節変動などの周期性がある場合があります。
そのため、周期的な変動に合わせて見直しが必要しなければ、欠品や過剰在庫の原因になります。
トラブルと周期性を見積もるためには、日々のデータの蓄積が欠かせません。
商品寿命
季節などの1年単位の変動ではなく、長期的なトレンドを見る必要もあります。
昔売れていたものが、徐々に売れなくなっていくことはよくあることです、それが商品寿命です。
一般的に商品には、次の3つのステージがあります。
- 成長期:販売数が伸びて行っている状態
- 安定期:販売数が安定している状態
- 衰退期:販売数が徐々に減っていって売れゆきが悪くなっている状態
各ステージで適正在庫が異なります。特に注意したいのは、安定期から衰退期です。
なぜなら、成長期はどんどん売れる時期なので、多少過剰な仕入や生産をしても滞留することなく十分売れるからです。
危険なのは、「成長期」と同じ感覚で発注し、在庫を持つことです。実は、担当者任せで一番起こりやすい過剰在庫の原因です。
マイナーチェンジやモデルチェンジ
商品寿命を決めるもう一方の要素として挙げられるのは、マイナーチェンジやモデルチェンジです。
一般的にモデルチェンジやマイナーチェンジのタイミングで旧商品の売れ行きはガタ落ちします。
新商品を出す時期は、過去の需要は当てになりません。適正在庫も新商品をリリースする前に見直すべきです。
トラブルや予期せぬ出来事がどれだけ起こるかを見積もる
現実の世界では、想定外のトラブルが起こります。 例えば、
- 仕入れ先の納期遅れ
- 仕入れ品の不良
- 生産遅れ
- 生産設備のトラブルや不良の発生
- 交通渋滞や自然災害
- 納期短縮
こういったトラブルを吸収するために在庫をもつ必要があります。先にあげた納期遵守率のようなデータをしっかりと蓄積して客観的に決定します。経験と勘だけでむやみに決めてはいけません。
こういったトラブルや予期せぬ出来事への対応では、安全在庫を用意します。
需要予測を適正在庫の維持に取り入れる方法
実施するためには、次の4点が必要です。
- 大量に質の良いデータが必要
- 高度な専門人材
- 部署間連携
需要予測には大量のデータが必要
需要予測は次のように定義されています。
需要予測とは、特定の商品の需要 動向を決める各種の要因とその需要に与える影響を分析し,これをもとに市場調査や 各種の予測結果を考慮して将来の需要を予測すること。
もっと簡単に言えば、「過去に起こったことと全く同じことが起これば、将来も全く同じことが起こる」というのが需要予測の原則的な考え方です。
需要予測をするためには、大量にしかも質の良いデータが必須です。
これが無ければ、需要予測は実施できません。
高度な知識を持った人材が必要
精度の高い需要予測をするためには、膨大なデータと高価なシステムやAI(人工知能)を導入したからといってできるものではありません。
それを使いこなせる高度な人材が必要です。
高度な人材が、膨大なデータの中身を見て、需要予測に適したデータを選定して、需要予測モデルを構築します。
そのモデルはずっと使えるわけでは無く、環境や条件が変わった時に、見極める力も必要です。
例えば、次のようなことが考えられます。
- 定期的な需要変動:アイスクリームの需要
- イベント・行事:お正月、クリスマス、祭り
- 一時的な需要変動:テレビ番組に取り上げられ、一時的に殺到
- 消費税増税:増税前の一時的な消費の盛り上がり
- 販売方法の変更:ネットショップでの販売を始めた
在庫管理の担当者が片手間でやれるような業務ではありません。
部署間連携
高度な人材が一人で奔走しても、需要予測は適正在庫に生かせません。
仮に、正確な需要予測数が出たとしても、発注ロットや生産ロットの都合で、需要予測数通りにならないこともあるでしょう。
各部署が自部門だけの都合を乗り越えて連携し、会社全体で取り組むことが必要です。
適正在庫の実現・維持をサポートするためのシステム・ツール
適正在庫を維持するためには、適切なシステムの導入が不可欠です。以下にいくつかの代表的なシステムとその機能を紹介します。
ERPシステム
ERPシステム(Enterprise Resource Planning)は、企業の経営資源(人材、資材、資金、情報)を統合的に管理するシステムです。
これにより、業務の効率化、情報の一元化、部門間の連携強化を図ることができます。
主な機能には、会計、在庫管理、生産管理、人事管理などが含まれ、リアルタイムでのデータ共有と分析が可能です。
ただし、様々な機能が一元化されている高度なシステムのため、導入費用が高額です。一般的には安くても1000万円~はかかるといわれています。
在庫管理システム
倉庫内の在庫をリアルタイムで追跡し、効率的な在庫管理を実現します。
入出庫管理、棚卸し、ロケーション管理などをサポートします。
在庫管理システムは、ERPシステムに比べると比較的安価なものもそろっており、数千円から利用することができます。
需要予測ソフト
過去の販売データや市場トレンドを分析して将来の需要を予測します。
AIや機械学習を活用することで、予測の精度を高めます。
ただし、需要予測ソフトはデータが大量(少なくとも3年分くらい)にあり、かつ精度が高いことが前提です。
蓄積データが全くない場合は、需要予測ソフトを入れても全く機能しません。
また、先ほど解説した通り、需要予測ソフトを使いこなせる高度な人材も必要です。
在庫管理システムの導入が最優先
中小企業の場合は、まず最初に在庫管理システムを導入することをお勧めします。
在庫管理システムを導入すれば、在庫情報の一元化、リアルタイム化が可能になり、業務効率が上がります。
さらに、データが蓄積できるので、需要予測ソフトの導入も可能になります。
企業規模が大きくなってきたときに、ERPシステムの導入を検討すると良いでしょう。
在庫管理110番が開発した「成長する在庫管理システム」をご紹介します。
今回解説したような適正在庫を維持するための機能を、あなたの会社の事情を考慮してカスタマイズで追加可能です。
実務を知り、数多くの在庫管理の悩みに答えてきた在庫管理の専門家だからこそ実現できる、本当に現場で使える在庫管理システムです。
【全業種共通】適正在庫を実現するために取り組みたい改善の3つポイント
適正在庫の目標の達成と維持には、現在の業務を見直したり改善することが欠かせません。
適正在庫に大きな影響を持つ3つのポイントは以下の通りです。
- 仕入改善
- 生産改善
- 仕掛品在庫を戦略的に持つ
仕入れ改善の視点
仕入先が適正在庫を阻害する要因となるのは、
- 発注リードタイム:発注リードタイムが長い。
- 発注ロット:発注ロットが大きく、必要な量だけ買えない。
- 納期遅れ:指定した納期に材料や商品が入ってこない。
- 不良:納入された材料や商品が不良で、数が減ってしまう。
そもそも発注リードタイムが決まっていないという会社が多いようです。
1と2に目が行きがちですが、まずは3にしっかりと着目しましょう。
納期が遅れがちな仕入先への発注数は、どうしても多くなりがちです。
そのために、発注リードタイムを決めて、仕入先が指定した納期を守っているかどうかを「納期遵守率」という指標を設定して管理します。
生産改善の視点
生産の改善の視点は、次の2つに分かれます。
- 生産能力
- 生産方式
- それ以外
生産能力(生産リードタイムとボトルネック)
商品を生産する工場には生産能力があります。 原則として単位時間当たりの生産能力を超えて生産をすることはできません。
そこで、生産の前倒しが必要になります。
- 工場の生産能力は1日に50個
- お客からのオーダーが500個(要求納期は4日)
この工場の生産能力では、4日で200個しかつくれません。顧客の要求を守るためには、余分に300個を持っておくのが適正と言えます。
(在庫日数に換算すると6日分の在庫) お客から生産能力を超える注文が続く場合は、次の3つのうちいずれかが必要です。
- 前倒しで見込み生産を行う
- 生産LTを短くする
- 生産能力を増強する
最初は、前倒し生産を行い在庫を積むのが緊急対策になります。しかし、これを行っていると在庫がどんどん積みあがっていくので、本質的な改善として、生産リードタイムを短くしなければいけません。
生産能力の増強(設備導入、人員補強)は最後の手段です。安易に実施してはいけません。
生産リードタイムが伸びてしまう原因は、次のような事です。
- 機械故障:生産能力が落ちてしまう。
- 欠員:生産能力が落ちてしまう。
- 廃棄ロス(歩留り、不良):できる予定の数量ができあがらず、余分に 生産しなければいけなくなる。
- 段取り:生産以外に時間が取られ、予定よりも生産リードタイムが長くなってしまう。
- モノの移動:生産以外に時間が取られ、予定よりも製造リードタイムが長くなってしまう。
- 生産ロット:必要以上に余分に作ってしまう。
- 各種事務処理:処理待ちで生産が止まる。
- ミス:指示数や出来高数が違う。
これらの中で自然に解消するのは欠員くらいで、それ以外の要因は自然に良くなることは無いです。
むしろ放置するとにより拡大する傾向があります。これらはすべて4Mの何らかの不調によるものです。 4Mとは?
生産方式(見込み生産と受注生産)
製造業の場合は、生産方式によって適正在庫の設定が変わります。 生産方式は大きく分けて2つあります。
- 受注生産:注文を受けてから生産を開始する
- 見込み生産:注文を見越してあらかじめ生産をして在庫を持つ
受注生産では在庫は不要ですが、見込み生産は予め生産して在庫を持っておく必要です。
つまり、生産方式によって、適正在庫量が変わるのです。 必ずしも、完全に受注生産や見込み生産である必要はありません。
ある工程の仕掛品までを見込み生産して、その後は受注してから行う・・・という方法でも問題ありません。 次に解説する仕掛品を戦略的に持つという考え方を活用すれば可能です。
仕掛品を戦略在庫として持つ(デカップリングポイント)
さらに製造の途中の状態(仕掛品)で在庫を持つことも可能です。 見込み生産と受注生産の境目のことをデカップリングポイントと言います。
デカップリングポイントに関する詳しい解説はこちらをご覧ください。 ☞デカップリングポイントとは?
この考え方を取り入れて、生産方式を変えて在庫削減と顧客満足を実現した有名な事例は、アメリカのパソコンメーカーのDELLです。(DELLモデルといわれています)
DELLの生産方式の変更
- 従来は、STS:パソコン(完成品)を見込み生産して在庫を持つ。
- 改善後は、BTO:部品在庫を持っておいて、注文を受けてからパソコン組み立てて出荷する
生産方式をSTSからBTOに変えることで、在庫金額を大幅削減しつつ、浮いた管理コストや廃棄コストを製品に還元して低価格化を実現しました。
適正在庫の実現・維持する具体的な方法は以下のページで解説しています。
適正在庫の実現・維持のために実践できる10個の方法(全業種共通)
【業種別】適正在庫を実現し維持する方法
小売業・卸売業と製造業の適正在庫の実現方法について解説します。
小売業・卸売業がやるべき適正在庫の実現・維持方法
適正在庫の実現と維持で重要なのは「仕入れ」です。
実現・維持のためにやるべき手順は以下の通りです。
- 発注の基本の整備と実施
- 適切な発注方法の選定
- 売上データの活用
発注の基本の整備と実施
そのためにまずやってほしいのは、次の2点です。
- 発注リードタイムの設定
- 納期管理
適切な発注方法の選定
上記ができたら、発注方法の見直しを行いましょう。
発注方法は、大きく分けて4つあるので、発注作業の効率と需要変動に応じて適切な方法を選びます。
発注方法の解説は下記の解説記事をご覧ください。
売上データの活用
最後の取り組みたいのは、商品のトレンドや季節変動の見極めです。
売上データを分析し、商品ごとの売れ行きの特徴をつかんで、適正在庫の維持に生かします。
データ分析を活用した事例を1つご紹介します。
過剰在庫に悩んでいた会社で私がコンサルティングを実施した時に行った調査で分かったことは、
- 売上を作っているのは在庫金額の20%程度しかない。
- 商品の90%以上が、商品をリリースしてから2年後にほぼ例外無く、需要が落ちている
この会社の慢性的な過剰在庫の原因は間違いなくこの2つです。
実際に深く実務を調べてみると、徐々に販売が落ちているにも関わらず、商品リリース当初に決めた発注数をほぼ変えずに仕入れしていました。その結果徐々に在庫が増え、需要が無くなったところで在庫が高止まりします。
適正在庫の維持は過剰・滞留在庫の管理がカギを握っています。
欠品は、在庫が無くなったというサインがでるので必ず気づきます。
しかし、過剰在庫・滞留在庫は、サインが無いため気づけないのです。その結果、静かにヘドロのように溜まっていきます。
相談を受けた会社では卸売会社の例では、ベテランの担当者が過去の実績を見て、経験と勘で発注や仕入れを決めていました。しかし、私が指摘したようなことにずっと気づくことができませんでした。
データ分析はエクセルで十分可能です。
データ分析の具体的な手順は下記の解説記事をご覧ください。
製造業がやるべき適正在庫の実現・維持方法
製造業が適正在庫を維持するために最優先でやりたいのが、生産効率の向上です。
生産効率の向上は、仕掛品の在庫削減につながり、生産リードタイムの短縮にも役立ちます。
製造業の適正在庫の実現・維持は、生産というプロセスを挟むため他の業種と比べて複雑です。
製造業の適正在庫の実現・維持する具体的な方法は以下のページで解説しています。
適正在庫の実現・維持のために実践できる5つの方法(製造業限定)
適正在庫は会社が戦略的に決めるもの
適正在庫に決まった定義はありません。
ここまで、解説してきた方法は、在庫管理を実現・維持するためのノウハウであり、実際の適正在庫は、会社の方針によって決めるべきものです。
例えば、トヨタ自動車は在庫を持たないという方針ですが、トラスコ中山は在庫を持つことが会社戦略で、真逆の考え方です。
上記のように会社方針と在庫戦略が一致している会社は、在庫管理がうまくいっています。
逆に、在庫管理がうまくいっていない会社は、会社方針と在庫戦略がバラバラだったり行き当たりばったりです。
むやみやたらに「うちは欠品ゼロを目指します!」という会社ほど、欠品は多く、在庫戦略は気合と根性のみで、数値的根拠は一切ありません。
今回解説した適正在庫の考え方を繰り返し見返して、自社の適正在庫がどうあるべきか?ということをぜひ考えてみてください。
こちらの記事も適正在庫の実現と維持に役立ちますので、ぜひご覧ください。
「在庫管理改善」を3ステップで実現|削減活動を無理なく達成する手順
適正在庫の実現・維持方法のまとめ
適正在庫の設定方法を解説しました。
経営的観点から適正在庫を決める
- 目標とする在庫金額(運転資金)を決める
- 在庫回転率の式に1を当てはめて目標の在庫回転率を求める
- 現在の在庫回転日数を目標値に近づけるために改善する
実務的観点から適正在庫を決める
- 自社の会社リードタイムを調べる
- 在庫回転日数を比較する
- 理想の会社リードタイムに近づけるために改善する。
適正在庫を実現するための改善を実施する
- 仕入れ改善(発注リードタイムやロット、納期遵守、品質不良)
- 生産改善(生産能力を上げる、生産方式の見直し)
- 仕掛品を戦略在庫として持つ(デカップリングポイント)
適正在庫を維持する
- トラブルや予期せぬ出来事の見積もりを立てる
- 需要の周期性を把握する
勘違いしてはいけないこと
- 安全在庫と適正在庫は違う(安全在庫は下限値のみ、適正在庫は上・下が必要)
- 需要予測と適正在庫は違う(需要予測はリソースがかなり必要。中小企業には向かない)
- 適正在庫は会社戦略(定義は会社によって違う。単純な数式に落とし込めるものではない。)
適正在庫の実現・維持を専門家から学ぶ
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適正在庫に関するご相談・お問い合わせ
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適正在庫に関する関連記事