安全在庫は欠品を防ぎ、生産停止や販売機会の損失を防ぎ、売上を最大化できます。 しかし、これまでの経験上、残念ながら安全在庫がうまく活用できておらず、過剰在庫の原因になっている企業が多いのも事実です。
この記事は、実務経験とコンサルティング経験のある在庫管理の専門家が、安全在庫の計算方法を具体例を示しながら分かりやすく解説します。 さらに、計算方法だけではなく、運用上見落としやすいミスや陥りやすい注意点も解説しますので、現場の運用にすぐに組み込んで、役立てていただけます。
- 安全在庫の計算方法
- 安全在庫を設定する際の注意点
- 安全在庫の見直し方
- 安全在庫と適正在庫の違い
目次
安全在庫とは欠品を防ぐための在庫
安全在庫とは、想定以上の需要変動などによって起こる欠品を防ぐための在庫のことです。
例えば1か月間の持つべき在庫の総数量は、
となります。
![安全在庫 安全在庫](https://shikumika.com/wp-content/uploads/2020/12/anzenzaiko.gif)
11個以上を使用するようなことになってしまうと、1個足りず欠品になってしまいます。
安全在庫の計算方法
安全在庫の計算方法は以下の通りです。
安全在庫の計算には以下の値が必要です。
- 安全係数:欠品の許容率
- 出庫数の標準偏差:出庫数のバラつき
- 発注リードタイム:発注してから納品されるまでの日数
- 発注間隔:発注する間隔
安全在庫の計算手順と設定値の注意点
具体的な設定値を入れた安全在庫の計算例を注意点とともに解説します。
![安全在庫の計算方法 安全在庫の計算方法](https://shikumika.com/wp-content/uploads/2020/12/anzenzaiko-2.gif)
安全在庫の安全係数(欠品許容率)を決める
安全係数とは、欠品をどれくらい許容するかというものです。
100%から欠品許容率を引くと、求めることができます。
欠品許容率は、どれくらいまでの欠品上昇率を許容できるかを表す数値です。
安全在庫の安全係数は、決まった値があります。
一般的に良く使われる値は、以下の表の値を参考にしてください。
欠品許容率を小さくすればするほど、安全在庫は増えていきます。
今回の計算例では、よく採用される安全係数(1.65=欠品許容率5%)を使っています。
※欠品許容率5%とは、100回のうち5回は欠品が起こるかもしれない確率
欠品許容率は、エクセルの関数のNORMSINVの計算結果です。表には無い安全係数を設定できます。
エクセル(excel)の関数式で表すと、
欠品許容率=NORMSINV(1-割合)
欠品許容率5%の場合は、次のような計算式になります。
NORMSINV(1-0.05)≒1.65
ちなみに、欠品許容率0%は計算不可能です。
(NORMSINVで計算すると、計算エラーになります。)
需要数の標準偏差
標準偏差とは、平均値からのバラつきのことを言います。
標準偏差の値が大きければ大きいほど、平均値からのばらつき具合が大きいということなので、安全在庫量も増えます。
標準偏差は、安全在庫を設定したい商品(部品)の過去の出庫数(使用・出荷・販売)数量から計算します。
標準偏差の計算は、手計算だと難しいですがエクセルの関数を使えば簡単です。
標準偏差を求める関数は、STDEV.S関数です。
(標準偏差を計算するエクセル関数はSTDEV.Pもありますが、STDEV.S関数で問題ありません。※補足:STDEV.Sは全数調査、STDEV.Pは標本調査(一部のデータ)です)
1か月間の標準偏差 =STDEV.S(1か月間の出庫数)
となります。標準偏差は対象になるデータが多ければ多いほど現実的な値に近づきます。(最低でも20データ以上は用意しましょう。)
発注リードタイムと発注間隔
発注リードタイムと発注間隔の合計のルート(√:平方根)を計算します。
今回の計算例では、発注リードタイム=5、発注間隔=0で計算しています。
発注リードタイム
発注リードタイムとは、仕入れ先に発注してから、納品されるまでの日数です。
今回は発注リードタイム=5日で設定しました。
発注リードタイムについては、こちらで詳しく解説しています。
発注間隔
今回の計算例では、発注間隔=0で計算しました。
発注間隔とは、次の発注日までの日数が決まっている定期発注の際に設定します。
例えば、
- 毎週水曜日に発注する場合:発注間隔は7日。
- 月末に1回発注する場合:発注間隔は30日。
発注点発注の場合は、必要に応じて発注する不定期発注なので、発注間隔は0日になるので設定不要です。
ルートの計算
発注リードタイムと発注間隔が分かったら、エクセルのSQRT関数を使って、発注リードタイムのルートを求めます。
今回の計算式と計算結果は、
SQRT(5+0)≒2.2361
それらを全て掛け算すると安全在庫が計算できます。
安全在庫=6.8363という結果がでました。
6.8363という数量は存在しないので、繰上げして7個にします。
これがこの商品の安全在庫になります。
安全在庫を設定して保有する際の2つの注意点
安全在庫を正しく運用するためには、次の3点に注意します。
- 過剰在庫に注意し定期的に見直す
- 安全在庫の公式が使える条件になっている
過剰在庫に注意する
在庫管理110番では、過剰在庫や不良在庫のお悩みがたくさん寄せられていますが、その原因の大多数が、安全在庫の持ちすぎです。
システムを導入して安全在庫を設定した結果、在庫が増えすぎて、キャッシュフローの悪化と余剰在庫が増えた、、という会社は本当に多いです。
安全在庫は発注する下限在庫を決めて、欠品防止(売上機会の損失回避)をするのが目的です。
放置すれば、過剰在庫・滞留在庫の原因になります。
そこで、安全在庫は定期的に見直さなければいけません。
特に注意したいのは、季節商品などの需要の変動があものです。
例えば、アイスクリームのようなものの場合は、冬は販売数が少なくなり、夏は販売数が多くなるでしょう。
![安全在庫は需要によって見直す](https://shikumika.com/wp-content/uploads/2021/08/anzenzaijko002.png)
この場合、1年のデータで安全在庫を計算した場合、
- 冬は在庫過多
- 夏は在庫過少
といった状態になってしまうでしょう。
そのため、夏と冬で安全在庫を設定する必要があります。
つまり、安全在庫は需要状況によって適宜最適なものに設定し直さなければなりません。
安全在庫の公式が使える条件になっていること
安全在庫の計算式は、『需要数が正規分布に従っている』ことが使える条件が決まっています。
正規分布に従っていない場合は、安全在庫の公式を使ってはいけません。
正規分布とは平均値と最頻値・中央値がほぼ一致していて、それを軸として左右対称となっているデータ分布です。
平均値付近のデータ数が最も多い1つの山のデータ分布です。
これが、最小値や最大値の方に偏っていたり、2山だったりすると、平均値≒中央値≒最頻値にならないため、正規正規分布ではありません。
ヒストグラムを作って、データ分布を調べてみれば一目瞭然です。
ヒストグラムの解説とエクセル(excel)でヒストグラムを作成する方法は以下の記事をご覧ください。
安全在庫で欠品を100%防ぐことはできない
安全在庫の目的は欠品を防ぐことですが、事実上、欠品を100%防ぐことはできません。
安全在庫の公式は統計学によって算出します。
欠品許容率を0.00000...と限りなく0に近づけることは可能ですが、0にはできません。
また、欠品許容率を限りなく下げたからと言って、絶対に欠品が起こらないとは言い切れません。
もし、絶対に欠品を起こしたくないのであれば、無限に在庫を持つ必要があります。
資金やスペースが無限にあれば大量に在庫を持てます。
ただ、これでも絶対に欠品を起こさないという保証は誰にもできません
計算上の安全在庫は実務では過剰になりがち
ぜひ、一度安全在庫の公式を使って、安全在庫を計算してみてください。
あなたの感覚よりも思ったよりも在庫数が多くなるな・・・という印象ではないでしょうか?
私も安全在庫の公式を実際に実務で計算してみて、同じような印象を受けました。
個人的な見解ですが、安全在庫の公式を使って算出した安全在庫は過剰になりがちでした。
データのばらつきもあるので、いくつか計算をしてみたのですが、これで求めた安全在庫数を全ての品目に適用すると、とんでもない在庫金額になり、キャッシュフローの圧迫したり、過剰在庫の原因になります。
実務を知らないシステム会社は、安全在庫の公式を勧めがちです。実際に適用すると返って在庫が増えます。
そのため、在庫管理の実務経験者としては、安全在庫の公式で求めた値はあくまでも目安にすることをお勧めします。
むしろ出てきた値を参考に、調整するくらいがちょうどよいでしょう。
安全在庫と適正在庫は違う
過剰在庫も管理できるのは適正在庫です。
何度も繰り返しますが安全在庫とは、欠品を防ぐための在庫の下限値です。
つまり、安全在庫では過剰在庫を防げません。(※安全在庫=適正在庫と誤った説明が多く世の中に出回っているので注意してください。)
安全在庫がキャッシュフローの悪化や余剰在庫を引き起こすのは、過剰在庫を見落とすことが原因と考えています。
適正在庫とは、在庫数の下限だけではなく、上限も決めて過剰在庫も防ぐことです。
つまり、適正在庫とは、1つの値ではなく、幅をもって設定するもので下限在庫と上限在庫の間の在庫数ということができます。
適正在庫の計算・設定方法については、こちらのページで解説しています。
安全在庫とともにぜひご覧ください。
自社の適正在庫と安全在庫の計算方法がわかる
在庫管理110番では、安全在庫の弱点である
- 過剰在庫に対応できない
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「在庫管理110番」では、無料相談を実施中です。安全在庫や適正在庫に関するご相談など、お気軽にお問い合わせください。
ただし、1か月間でお受けする人数を限定しています(予約制・先着順)
よくある質問
安全在庫の計算について在庫管理110番に寄せられるよくある質問をご紹介します。
![質問する人](https://shikumika.com/wp-content/uploads/2024/04/shitsumon-kun.jpg)
安全在庫を計算する際の「②出庫数(販売数、使用数)の標準偏差」を"月間(=月単位)で算出した場合は、発注リードタイムも「月単位=○○ヶ月」で計算しないといけませんか?それとも「日単位=○○日)で計算できるのでしょうか?
(リードタイムが4か月の場合、3(月単位)で良いのか120(日単位)なのか。)
![在庫管理110番](https://shikumika.com/wp-content/uploads/2024/04/zaiko110-kun.jpg)
標準偏差を「月」で計算したのであれば、発注リードタイムも「月」にします。
![質問する人](https://shikumika.com/wp-content/uploads/2024/04/shitsumon-kun.jpg)
例えば海外から船で仕入れる場合、洋上在庫(船の上にある在庫)が存在しますが、安全在庫に含めてよろしいでしょうか。
船で3~4か月かける場合、この日数を発注リードタイムに含めても良いかという質問になります。
![在庫管理110番](https://shikumika.com/wp-content/uploads/2024/04/zaiko110-kun.jpg)
ここでポイントになるのは、「発注リードタイム」に関する考え方です。
通常、発注リードタイムは、仕入先が出荷してから会社に到着するまでの日数とすることが多いはずです。 ちなみに、船で輸入する品物の発注リードタイムを分類すると、「仕入先~港までのリードタイム」、「航行リードタイム(いわゆる洋上在庫)」、「到着後リードタイム(船が到着してから、会社に届くまでのリードタイム)」です。
今回のご質問だと、「航行リードタイム」を含めるべきなのか?ということですが、「仕入先が出荷してから会社に到着するまでの日数」と考えると冒頭の通り含めた方が良いと思われます。
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