「在庫を切らしてしまった…かと言って在庫はそこまで多く持てない…」
「適正在庫にするにはどうしたらいい?」
在庫管理が必要な現場では、こうした「在庫がないことでの機会・信頼の損失」と「持ちすぎの無駄」の板挟みに悩むことが少なくないですよね。
その悩みを解消する一つの考え方が、適正在庫を意識した在庫管理です。
「適正在庫」とは、単に「欠品しない量」ではありません。欠品も過剰在庫も起こさない、事業を安定して回すために必要な在庫量を指します。
この適正在庫の考え方を取り入れることで、在庫に関する判断を感覚ではなく、根拠を持って考えられるようになります。
ただし、適正在庫は「単に1つの計算式を使えば自動的に決まる」ものではありません。
適正在庫を導き出せる計算式は複数あり、自社の状況に合った計算式を選ばなければ、適切な在庫量は導き出すことができないのです。
そこでこの記事では、適正在庫を算出し、継続的に維持するためのポイントをまとめました。
- 適正在庫とは
- 適正在庫を実現することで得られる3つのこと
- 適正在庫を計算する上で準備すべきデータ
- 需要予測を適正在庫の維持に取り入れる方法と注意点
- 適正在庫を計算する方法
- 適正在庫をコントロールするためのポイント
適正在庫の考え方と算出の前提を理解することで、自社の状況に合った適正在庫を算出できるようになります。
在庫に振り回される状態から抜け出し、安定した在庫管理ができる状態を目指したい方はぜひ最後まで読んでください。
目次
- 1 適正在庫とは
- 2 適正在庫を実現することで得られる3つのこと
- 3 適正在庫を計算する上で準備すべきデータ
- 4 適正在庫を算出する方法は大きく3つ
- 5 適正在庫を計算する方法(1)経営的観点から計算する
- 6 資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を算出する方法
- 7 適正在庫を計算する方法(2)実務的観点から計算する
- 8 適正在庫を計算する方法(3)経済的発注量(EOQ)をもとに計算する
- 9 適正在庫をコントロールするためのポイント
- 10 適正在庫を実現・維持するにはツール・システムの導入が不可欠
- 11 適正在庫に向けて自社の在庫管理レベルと最優先で解決すべき課題を知りたいならプロの講師に相談しよう
- 12 まとめ
適正在庫とは

在庫を「多い・少ない」という感覚だけで判断していると、欠品や過剰在庫の問題は解消できません。
そこで重要になるのが、そもそも「適正在庫」とはどのような在庫を指すのかを正しく理解することです。
この章ではまず、「適正在庫とは何か」という基本的な考え方をお伝えいたします。
適正在庫とは欠品による機会損失と、過剰在庫による無駄を同時に防ぐ在庫量のこと
適正在庫とは、欠品による機会損失と、過剰在庫による無駄を同時に防ぐために設定する在庫量のことです。
在庫を多く持てば欠品のリスクは下がりますが、売れ残りやすくなると、保管コストや廃棄ロスといった無駄が増えていきます。
一方で在庫を減らしすぎると欠品が生じやすくなり、売上機会を逃したり、顧客や現場スタッフの信頼を損ねる可能性があります。
適正在庫は、こうした相反するリスクのバランスを取り、事業を安定して回すために必要な在庫量を考えるための「指標」です。
そのため、「とにかく在庫を減らす」「欠品しないよう多めに持つ」といった考え方とは本質的に異なります。
また、適正在庫は一度決めれば終わりというものではありません。
需要の変化やリードタイムのブレ、取扱商品の特性によって、適切な在庫量は変化していくためです。
だからこそ、適正在庫を考える際には、感覚ではなく、一定の考え方と計算の前提に基づいて在庫量を判断する必要があります。
適正在庫と安全在庫の違い
適正在庫を考える際、安全在庫と混同するケースをよく見かけます。
この2つは役割が異なる在庫であることを踏まえるようにしましょう。
なぜなら、この2つを混同してしまうと、在庫量の設定や計算の考え方が曖昧になり、欠品や過剰在庫の原因になるからです。
適正在庫と安全在庫の違いは以下の通りです。
| 適正在庫と安全在庫の違い | |
|---|---|
| 適正在庫 | 事業を安定して運営するための「基準となる在庫量」 |
| 安全在庫 | 想定外に備えるための「余裕として持つ在庫」 |
適正在庫は、欠品による機会損失と過剰在庫による無駄を防ぐために、事業全体を安定して回すことを目的に設定する在庫量です。「どれくらいの在庫を持つのが全体として最適か」という視点で考えます。
一方、安全在庫は、需要の変動や納期遅延といった想定外の事態に備えるための在庫です。
需要が急に増えたり、仕入れや生産が遅れたりした場合でも、欠品を起こさないようにするためのゆとりとしての役割を持ちます。
この2つを図で表すと次のようになります。

安全在庫を多く持てば欠品のリスクは下がりますが、その分、在庫コストは増えていきます。
そのため、適正在庫を考える際には、「どれくらいの安全在庫を含めるのか」ではなく、まず基準となる適正在庫を整理することが重要です。
以下の記事では「安全在庫」について詳しく解説しています。
適正在庫を実現することで得られる3つのこと

適正在庫がどのようなものを指しているのかお分かりいただけたでしょう。
適正在庫を取り入れ、継続的に維持することで、在庫管理そのものだけでなく、事業全体にもさまざまな良い影響が生まれます。具体的には以下3つの効果が期待できます。
- キャッシュフローが改善する
- 顧客満足度が向上する
- 業務効率が向上する
このような効果が期待できるのは、在庫は単なる保管物ではなく、資金・顧客対応・業務負担などに影響するものだからです。
それぞれの効果について順番に解説していきます。
キャッシュフローが改善する
まず、適正在庫を実現することで、キャッシュフローが大きく改善します。
在庫は、現金が形を変えた「資産」でもあるからです。
必要以上に在庫を抱えると、その分の資金が倉庫や棚の中で固定され、仕入れや人件費に使えるお金が減ってしまうことにつながります。
また、欠品を恐れて多めに仕入れた在庫が、想定よりも売れなかった場合、その在庫はしばらく現金に戻りません。
さらに、値下げや廃棄が発生すれば、利益を圧迫する原因にもなります。

一方、適正在庫で管理できれば売上の見込みに合わせた仕入れができるため、余分な在庫に資金を使わずに済み、手元に使える現金を残すことができます。
適正在庫を維持できれば「売れる分だけにお金を使う」状態をつくることができ、資金の滞留を最小限に抑えらるようになります。
顧客満足度が向上する
次に、適正在庫を実現することで、顧客満足度も安定して向上する点も大きなメリットです。
というのも、顧客にとって重要なのは「必要な時に買えるかどうか」だからです。
欲しいタイミングで商品がない状態が続くと、顧客は不満を感じるだけでなく、「この店は在庫がないことが多い」「来ても無駄かも」と感じるようになります。
一度離れた顧客は、価格やキャンペーンだけでは戻ってこないケースも少なくありません。
適正在庫を保つことで、「必要なときに、いつも買える」という安心感を提供でき、購入機会の損失を防ぐことができます。
顧客満足度は、接客や価格だけで決まるものではありません。欠品を起こさない安定した在庫体制も、重要な顧客体験の一部です。
よって、適正在庫は顧客満足度を向上させる効果もあると言えます。
業務効率が向上する
また、適正在庫を実現することで、日々の業務効率も大きく向上します。
在庫が適正でない状態では、欠品対応や過剰在庫の調整に、余計な時間と手間が発生しやすいからです。
例えば、在庫が足りない場合は、急な発注や代替商品の検討、顧客への説明などが必要になります。
一方、在庫が多すぎる場合は、保管場所の確保や棚卸し、在庫確認の工数が増えていきます。
適正在庫を維持できていれば、発注の判断基準が明確になり、「今、発注すべきかどうか」で迷う時間が減ります。
結果として、在庫に関する確認や調整の手間を最小限に抑えられるようになるのです。
適正在庫は、在庫数を調整するための考え方であると同時に、現場の無駄な作業を減らすための仕組みでもあります。
在庫に振り回される状態から抜け出すことで、業務全体をよりスムーズに回せるようになる効果も期待できます。
適正在庫を計算する上で準備すべきデータ

前章でお伝えしたとおり、適正在庫を実現できれば、余分な在庫に資金を固定化させることなく、売上に見合った仕入れが可能になります。
しかし、適正在庫は「なんとなく」では算出できません。まず正確なデータをそろえることが出発点になります。
適正在庫を計算するために、事前に準備しておきたいデータは以下のとおりです。
| 適正在庫に必要なデータ | |
|---|---|
| リードタイム | 発注から納品までにかかる日数(平均日数、最大日数) |
| 需要実績 | 過去の出荷量、販売量データ(※最低、3年分は必要) |
| 発注ロット | 1回当たりの発注単位数量やMOQ(最低発注量) |
| 売掛金回転日数 | 商品を販売してから、実際にお金が入ってくるまでの日数 平均売掛金 ÷ 売上 × 日数 |
| 買掛金回転日数 | 仕入れをしてから、仕入代金を支払うまでの日数 平均買掛金 ÷ 仕入高 × 日数 |
これらの情報は、日頃のデータが必要になるため、まずデータがない場合は記録したり、過去を振り返ったりして確認しましょう。
どれか一つでも曖昧なままだと、計算式自体は正しくても、導き出される在庫量は実態とかけ離れたものになります。
感覚に頼らない在庫管理を実現するための第一歩にするために、正確な数字を把握するようにしてください。
適正在庫を算出する方法は大きく3つ

計算する上で準備すべきデータが把握できたら、適正在庫の算出に進めます。
適正在庫を算出する方法には、3つのアプローチがあります。
どの方法を選ぶかによって、計算の基準や考え方が変わるため、自社の状況や目的に合った方法を選ぶことが重要です。
| 特徴 | メリット・デメリット | 向いている状況・事業 | |
|---|---|---|---|
| 経営的視点 | 理想とする決算目標から設定する | 【メリット】 事業の目標と連動する 【デメリット】 現場の実態と乖離しやすい | ・資金に余裕がある ・目標重視にしたいとき 例) ・製造業 ・チェーン展開している |
| 実務的視点 | 現場の出荷・販売データやリードタイムから設定する | 【メリット】 現場に合った在庫量になる 【デメリット】 経営目標との整合性は別で調整が必要 | ・小〜中規模の店舗 ・現場重視の事業 例) ・飲食業 ・小売業(店舗・EC) |
| 経済的発注量 | 発注コストも考慮に入れて設定する | 【メリット】 コストの無駄を最大限省ける 【デメリット】 算出方法がやや複雑 | ・仕入れコストが高め ・在庫回転が早い 例) ・高級食品スーパー ・アパレルのECサイト |
※それぞれの方法ごとに計算式を解説しています。気になる項目をクリックすると、該当箇所へ移動できます。
それぞれの方法にはメリット・デメリットがあり、向いている業種や資金状況も異なります。
まずは算出概要を把握し、自社に適した方法を見極めるところから始めましょう。
経営的観点
経営的観点による適正在庫の算出とは、「決算上、これくらいの在庫が望ましい」という目標から逆算して在庫量を決める考え方です。
現場の出荷実績や日々の変動よりも、「年間・月次でどれくらいの在庫を持つのが望ましいか」「在庫金額をどこまでに抑えたいか」といった、会社全体の数字を基準に在庫を設計します。
経営的観点のメリット・デメリットは以下のとおりです。
| 経営的観点のメリット・デメリット | |
|---|---|
| メリット |
|
| デメリット |
|
このような特徴のある経営的観点による算出方法は、以下のようなケースに向いています。
- 資金にある程度の余裕がある
- 在庫金額を決算指標として管理したい
- 各現場ごとの目線ではなく、会社全体で在庫を最適化したい
- 製造業
- 卸売業
- チェーン展開している小売業・サービス業
- 在庫をKPIとして管理している中~大企業
経営的観点の適正在庫は、「会社全体の数字を安定させるための在庫設計」です。
現場主導というより、経営主導で在庫をコントロールしたい場合におすすめです。
経営的観点から計算する方法は以下で解説しています。
適正在庫を計算する方法(1)経営的観点から計算する
実務的観点
実務的観点による適正在庫の算出とは、現場の出荷実績・販売データ・リードタイムなど、日々の実データをもとに在庫量を設定する考え方です。
決算目標や理想値から逆算するのではなく、「実際にどれくらい売れているか」「補充にどれくらい時間がかかるか」「欠品が起きやすいか」といった、現場で起きている事実を基準に在庫を設計します。
実務的観点のメリット・デメリットは以下のとおりです。
| 実務的観点のメリット・デメリット | |
|---|---|
| メリット | ・実際の販売・出荷状況に即した在庫量になる ・欠品や過剰在庫が起きにくい ・現場の感覚と数字が一致しやすく、運用しやすい ・需要変動や繁忙期・閑散期に柔軟に対応できる |
| デメリット | ・在庫金額が増減しやすく、経営数値が不安定になりやすい ・拠点や担当者ごとに判断がバラつく可能性がある・経営目標(利益・在庫圧縮)との調整が別途必要になる |
このような特徴のある実務的観点による算出方法は、以下のようなケースに向いています。
- 需要の変動が大きい
- 現場判断のスピードが重要
- 少人数、または小~中規模で運営している
- まずは欠品防止や売上機会の損失を防ぎたい
- 飲食業
- 小売業(単店舗・EC)
- 少人数、または小~中規模で運営している
- 季節商品やトレンド商品を扱う事業
特に、需要の変動が大きい事業や、現場判断が売上や顧客満足度に直結する業態で採用されやすい方法です。
日々のオペレーションや顧客対応を優先したい場合に、有効な考え方といえるでしょう。
実務的観点から計算する方法は以下で解説しています。
適正在庫を計算する方法(2)実務的観点から計算する
経済的発注量
経済的発注量とは、「どれくらい在庫が必要か」ではなく、「どう発注すれば一番無駄なコストが少ないか」を基準に在庫量を設計する考え方です。
在庫管理では、主に次の2つのコストが発生します。
- 発注コスト(発注作業、事務処理にかかる人件費)
- 在庫コスト(保管スペースの確保、在庫管理する人件費、廃棄リスク)
発注回数を減らして多めに発注をすれば在庫は増え、保管コストや売れ残りリスクが高まります。
一方で、小まめに発注すると在庫は減りますが、発注作業や事務処理のコストが増えていきます。
経済的観点では、この「発注コスト」と「在庫コスト」という相反する2つのコストに注目し、合計コストが最も小さくなる点を探す方法です。
経済的発注量のメリット・デメリットは以下のとおりです。
| 経済的観点のメリット・デメリット | |
|---|---|
| メリット |
|
| デメリット |
|
このような特徴のある経済的観点による算出方法は、以下のようなケースに向いています。
- 仕入れ単価が高く、在庫の金額インパクトが大きい
- 在庫回転が早く、発注頻度が高い
- コスト管理を重視したいフェーズにある
- 高級食品を扱う小売業
- 高級アパレルの店舗
- 部品点数が多い製造業・卸売業
経済的発注量は、「どの発注方法が一番無駄が少ないか」を考えるための在庫管理手法です。 コスト効率を重視した在庫最適化を進めたい場合に、有効なアプローチと言えるでしょう。
経済的観点から計算する方法は以下で解説しています。適正在庫を計算する方法(3)経済的発注量(EOQ)をもとに計算する
適正在庫を計算する方法(1)経営的観点から計算する

前章でお伝えしたとおり、適正在庫の算出方法は大きく3つあります。
まずは、経営層や管理職の視点で重要となる「経営的観点」から見ていきましょう。
経営的観点から適正在庫を考える場合、「経営目標から逆算する」という考え方は共通していますが、計算の切り口は1つではありません。以下3つの算出方法があります。
| 経済的観点から適正在庫を計算する方法 | おすすめのケース |
|---|---|
| 1. 売上から適正在庫を算出する方法 |
|
| 2. 在庫回転率から適正在庫を算出する方法 |
|
| 3. 資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を算出する方法 |
|
どこに軸を置くかによって導き出される適正在庫は変わります。自社の経営状況や課題に合わせて計算方法を選ぶようにしましょう。
売上から適正在庫を算出する方法
売上から適正在庫を算出する方法は、売上規模を基準に「在庫はいくらまで持ってよいか」を決める、最もシンプルな経営的アプローチです。
売上に対して、現在の在庫金額がどの程度の比率になっているかを確認し、その比率が業種ごとの目安内に収まっているかで判断します。
売上から適正在庫を算出するには、以下の計算式を用います。
適正在庫金額(在庫金額の比率) = 在庫金額 ÷ 売上 × 100
計算例
月の売上70万円、在庫金額3万円の場合
在庫30,000円 ÷ 売上700,000円 × 100 = 4.2%
各業種で、目安となる在庫金額の比率は、それぞれ次の通りです。
- 製造業:8%未満
- 卸売業:4%未満
- 小売業:4.5%未満
※ 商材特性やビジネスモデル、利益率(原価率)により適正値は変動します。
算出された数値を業種別の目安と比較してみましょう。
たとえば卸売業(目安:4%未満)の場合、4.2%は基準をやや上回っている状態となります。
つまり、売上規模に対して在庫をやや多めに保有している可能性があるため、仕入れ量の見直しや滞留在庫の削減を検討する必要がある、という判断になります。
一方、製造業(目安:8%未満)であれば、4.2%は基準内に収まっているため、概ね適正水準と判断できます。ただし、目安よりも低い数値なので、欠品による機会損失が起きていないかを確認することが重要です。
適正在庫をピンポイントで算出するというより、現在の在庫水準が売上規模に対して適切かどうかを判断するための指標として活用するのがポイントです。
在庫回転率から適正在庫を算出する方法
在庫回転率を使った方法は、在庫金額そのものを直接求めるのではなく、在庫が「どれくらいのスピードで動いているか」を基準に、在庫量が適切かどうかを判断する方法です。
在庫回転率から適正在庫を算出する計算式は以下になります。

- 平均在庫金額 = (期首在庫高 + 期末在庫高) ÷ 2
- 在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
- 在庫回転日数 = 日数 ÷ 在庫回転率
計算例
月の売上原価:50万円、期首在庫高:30万円、期末在庫高:20万円、期間:30日の場合
- 平均在庫金額⇒(300,000円 + 200,000円)÷ 2 = 250,000円
- 在庫回転率⇒ 500,000円 ÷ 250,000円 = 2回
- 在庫回転日数⇒ 30日 ÷ 2 = 15日
目安となる在庫回転日数は業種によって異なりますが、一般的には以下が参考値とされています。
- 製造業:30〜60日
- 卸売業:15〜30日
- 小売業:15〜20日
※ 商材特性やビジネスモデル、発注リードタイムにより適正値は変動します。
参考値と計算結果の数値が乖離していれば、在庫回転日数を目安範囲に収めるように在庫量を調整をしていきましょう。
在庫の持ちすぎや滞留を防ぐと、「期末在庫高」が減少します。期首と期末の在庫が減れば、その分、平均在庫金額も下がるため、結果として在庫回転日数も短くすることができます。
つまり、在庫を滞留させずに回せるようになることで、適正在庫に近づいていくことができます。
資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を算出する方法
資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を算出する方法は、「会社が無理なく回せるお金の範囲で、在庫量を決める」という、最も現実的な経営視点の考え方です。
資金繰りの観点から適正在庫を考える場合、ポイントは 「在庫にお金を使ってから、現金が戻ってくるまで何日かかるか」で算出します。
この期間を数値で把握するために使われるのが、キャッシュコンバージョンサイクル(CCC) です。
たとえばCCCが90日の場合、「今日仕入れに使ったお金は、約90日後にようやく回収できる」という意味になります。キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)は、次の計算式で求めます。

計算例
40日 + 30日 − 20日 = 50日
上記の例だと、仕入れに使ったお金は、50日後に現金として戻ってくる ということになります。
CCCが長いほど、在庫や売掛金にお金が縛られる期間が長いので、その分、運転資金が多く必要になるという状態になります。
つまり、在庫回転日数を短くできる在庫量= 資金繰り的に無理のない適正在庫と考えることができます。
適正在庫を計算する方法(2)実務的観点から計算する

前章では、売上規模を基準に在庫水準を判断する「経営的観点」からの算出方法を解説しました。
しかし、売上比率が適正であっても、現場で欠品が発生していれば意味がありません。
そこで重要になるのが、日々の発注や納品サイクルを踏まえた「実務的観点」です。
実務的観点から適正在庫を計算する方法は、現場で実際に必要となる在庫数をもとに在庫量を決める考え方です。
実務的観点からの算出方法には、主に次の2つがあります。
| 実務的観点から適正在庫を計算する方法 | おすすめのケース |
|---|---|
| 1. サイクル在庫から適正在庫を算出する方法 | ・発注ロット(1回の発注数)がある程度決まっている ・定期発注をしている ⇒在庫管理の「最初の一歩」としておすすめ |
| 2. リードタイムから算出する方法 | ・発注~納品までに時間がかかる ・リードタイムが一定ではない(遅れが出やすい) ⇒欠品防止を重視したい場合におすすめ |
実務的観点から見る場合はどちらか一方ではなく、サイクル在庫+リードタイムを組み合わせて管理することで、より現実的な適正在庫に近づきます。
サイクル在庫から適正在庫を算出する方法
サイクル在庫とは、一定期間の需要(販売数・使用数)を満たすために、通常保有しておく在庫量のことです。
日々の消費量や発注サイクルといった、現場の動きを基準に考えるのが特徴です。
発注 → 納品 → 消費(販売)という流れを繰り返す中で、在庫は「最大」と「最小」を行き来しますが、その平均的な在庫量がサイクル在庫になります。

サイクル在庫から適正在庫を導くには、次の計算式で求めます。
- サイクル在庫数 = 1回の発注数 ÷ 2
- 安全在庫 =(最大消費量 × 最大リードタイム)-(平均消費量 × 平均リードタイム)
- 適正在庫 = サイクル在庫 + 安全在庫
計算例
1回の発注数(発注ロット)が 300個 の場合(最大在庫:300個、最小在庫:0個)
平均消費量:10個/日、最大消費量:15個/日
平均リードタイム:5日、最大リードタイム:7日
※最小在庫0個⇒在庫がなくなるタイミングもある現場という想定
- サイクル在庫数 =300 ÷ 2 = 150個
- (15個 × 7日)-(10個 × 5日)= 105個 - 50個= 55個
- 150個 + 55個 = 205個
上記の例を見ると、この商品は通常運転に必要な在庫(サイクル在庫)150個に、需要増や納期遅れに備える安全在庫55個を加え、約205個を維持することが適正在庫と判断できます。
この水準を基準に、発注量や発注タイミングを調整していくことで、在庫の持ちすぎ・欠品を防ぎやすくなります。
リードタイムから算出する方法
リードタイムから適正在庫を算出する方法は、「発注してから納品されるまでの期間中に、どれだけ在庫が必要か」を基準に考える実務的なアプローチです。
発注後すぐに商品が届かない以上、リードタイム中に消費される分の在庫をあらかじめ確保しておかないと、欠品が発生します。
特に、以下のケースではリードタイムを基準に在庫を設計すると適正在庫になりやすいです。
・納期が安定しない
・仕入れ先が遠い・海外
・発注頻度を下げたい
リードタイムから適正在庫を導くには、次の計算式で求めます。
- リードタイム在庫 = 平均消費量 × 平均リードタイム
- 安全在庫 =(最大消費量 × 最大リードタイム)-(平均消費量 × 平均リードタイム)
- 適正在庫 = リードタイム在庫 + 安全在庫
※ 消費量は「1日あたり」や「1週間あたり」など、単位をそろえて計算します。
計算例
平均消費量:10個/日、最大消費量:15個/日平均リードタイム:5日、最大リードタイム:7日
- リードタイム在庫 = 10個 × 5日 = 50個
- 安全在庫=(15個 × 7日)-(10個 × 5日)= 105個 - 50個= 55個
- 適正在庫 = 50個 + 55個 = 105個
この場合、約105個の在庫を維持しておくことで、納期遅延や需要増にも対応できると判断できます。
適正在庫を計算する方法(3)経済的発注量(EOQ)をもとに計算する
ここまで、売上・在庫回転率・リードタイムなどを基準に、「どれくらい在庫を持つべきか」という視点で適正在庫の考え方を整理してきました。
一方で、「在庫はいくつ必要か」ではなく、「どう発注(生産)すればムダなコストを最小にできるか」という切り口から在庫を設計する方法もあります。

それが、経済的発注量(EOQ:Economic Order Quantity)です。経済的発注量(EOQ)は以下の計算式で算出します。

EOQ=√2DS÷H
- D = 必要数(需要数)
- S = 1回の発注コスト
- H = 1個あたりの年間保管コスト
1回の発注コスト(S):5,000円
1個あたりの年間保管コスト(H):100円
この場合の経済的発注量(EOQ)は、次のように計算できます。 EOQ = √(2 × 6,000 × 5,000 ÷ 100)
= √600,000
≒ 775個
つまり、この商品は1回あたり約775個で発注するのが、発注コストと在庫保管コストのバランスが最も良い状態だと判断できます。
適正在庫をコントロールするためのポイント

ここまで、適正在庫の「計算方法」について解説してきました。
しかし、適正在庫は一度計算すれば終わりではありません。
実際の現場では、売れ方が変わったり、仕入れ価格やリードタイムが変わったりなどの変化が日常的に起こるからです。
つまり、適正在庫は算出すると同時に『コントロールし続ける』ことも大切になります。
コントロールする際は以下4つのポイントを押さえて行いましょう。
- 受発注数や現在在庫数の管理を徹底する
- 在庫の保管場所を見直して整理する
- 売れ方や商品の変化に合わせて適正在庫を見直す
- 自社を取り巻くトラブルや予期せぬ出来事を見積もっておく
ここからは、適正在庫を現場で機能させるために重要な4つの実践ポイント を解説します。
受発注数や現在庫数の管理を徹底する
適正在庫を維持するうえで最も重要なのは、受発注数と現在庫数を常に正確に把握できる状態を作ることです。
計算をどれだけ正確に行っても、現場の在庫数が曖昧であれば意味がありません。
「いま何個あるのか」「すでに何個発注しているのか」が分からなければ、欠品や二重発注は簡単に起こります。
そのためには、在庫を「見える化」する仕組みが不可欠です。
在庫管理ソフトやクラウドシステムを活用し、現在庫数・発注残・入荷予定日をいつでも確認できる状態を整えましょう。
適正在庫と言える状態は計算よりも「管理精度」で差がつきます。
在庫数をリアルタイムで把握できる環境を整えることが、適正在庫を機能させる第一歩です。
在庫の保管場所を見直して整理する
適正在庫を維持するためには、在庫の保管場所を整理し、「どこに何があるか」が一目で分かる状態をつくることも大切なポイントです。
保管場所が乱雑だと、在庫があるのに見当たらなくて再発注してしまったり、古い在庫が埋もれて劣化したりと、ムダなコストや欠品リスクが発生しやすくなります。
いくら適正在庫で発注できても、現場で正しく把握・運用できていなければ、適正在庫とは言えない状態なのです。
このような事態を防ぐために、以下のような整理方法を採用してみてください。
- 定位置管理(置き場所を固定する)
- 先入先出の徹底
- 棚番号やラベルを貼る
- 動きの速い商品を取り出しやすい位置に配置する
保管場所を見直し、整理された環境をつくることが、在庫精度を高め、ムダな発注や滞留を防ぐ第一歩になります。
売れ方や商品の変化に合わせて適正在庫を見直す
適正在庫は「一度計算したら終わり」ではなく、売れ方や商品の変化に合わせて定期的に見直すことも重要です。
季節要因、流行、競合の動き、商品の仕様変更などによって、売れ行きは変化するものだからです。
たとえば、次のような変化は在庫見直しのサインです。
| 在庫見直しのタイミング | |
|---|---|
| 季節の変わり目 | 夏場に売れる商品、年末に需要が集中する商品などは、繁忙期前に在庫を増やす必要があります。 |
| 商品の長期的な売れ行きの変化 | 徐々に販売数が落ちている商品は、発注ロットを減らすなどの調整が必要です。 |
| マイナーチェンジやモデルチェンジ | 新モデル発売前に旧モデルを大量に抱えてしまうと、値引き販売や廃棄につながります。 |
適正在庫は固定された数字ではなく、変化に合わせて動かすものです。
月次・四半期ごとなど、定期的に売上データや在庫回転日数を確認し、今の売れ方に合った在庫量に調整する仕組みをつくることが、在庫最適化の鍵になります。
自社を取り巻くトラブルや予期せぬ出来事を見積もっておく
適正在庫を安定して維持するためには、トラブルや予期せぬ出来事をあらかじめ想定しておくことが重要です。
どれだけ精密に計算しても、現実には想定外の出来事が起こるからです。トラブルとは、例えば以下のようなものがあります。
- 仕入先の納期遅延
- 物流の混乱
- 急な需要増加
- 原材料の供給不足
- 為替や価格の急変
「通常時の最適」だけで設計すると、こうした外部要因があるときにすぐ欠品や過剰在庫に陥ってしまいます。
そのため、以下のような対策を取り入れて「トラブル時にも耐えられる設計」であることが理想です。
- 仕入先を複数確保しておく
- 緊急発注が可能か確認しておく
- リードタイムの最大値も想定して安全在庫を設計する
リスクをゼロにすることはできませんが、起こりうる事態を想定しておくだけでも、在庫の崩れ方は大きく変わります。
状況によっては、以下のような課題もあるからです。
- データが十分に揃っていない
- 予測精度にばらつきがある
- 外部環境の変化が急激である
こうした状況にある場合は「完璧な予測」を目指すのではなく、定期的に見直しながら調整していく姿勢が現実的です。
適正在庫は、一度決めたら終わりではなく、環境変化に応じて整えていくものだと考えるとよいでしょう。
適正在庫を実現・維持するにはツール・システムの導入が不可欠

適正在庫を実現するためには、在庫を見える化し、継続的に管理できる仕組みを整えることが不可欠です。そこで有効なのが、ツール・システムの活用です。
適正在庫を維持するために活用できるおすすめのツール・システムは、以下の通りです。
| ツール・システム | 役割 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 在庫管理システム | 受発注数・現在在庫数のリアルタイム把握、発注点アラート、入出庫履歴の自動記録 | ・在庫数が増えてきたとき ・属人管理をなくしたいとき |
| ERPシステム | 在庫・売上・仕入・会計を一元管理、在庫金額とキャッシュフローの連動 | ・経営指標と在庫を連動させたいとき ・拠点が複数ある |
| 需要予測ソフト | 販売傾向の分析、季節変動やトレンドの反映 | ・需要変動が大きい業種 ・商品点数が大きいとき |
ただし、需要予測については自社を取り巻くトラブルや予期せぬ出来事を見積もっておくでもお伝えしたとおり、データが十分に揃っていて、かつ精度が高くないとソフトの活用は難しいでしょう。
まずは、在庫管理システムを導入することがおすすめです。在庫情報の一元化、リアルタイム化が可能になり、業務効率が上がります。
それだけでなく、システムによってデータを蓄積することもできるため、需要予測ソフトを段階的に導入することが可能になります。
スマートフォンケースの製造・卸売・EC販売を行う企業が、Excel管理の限界を感じて在庫管理システムを導入した事例です。
【導入前の課題】
- Excel管理で在庫数がリアルタイムで把握できない
- 発注判断が担当者の感覚頼り
- ・急な発注・問合せに対応できない
【導入後の改善点】
- 在庫をリアルタイムで一元管理
- 無駄のない発注判断が可能に
- 適正在庫の維持で在庫ロス削減
- 資金繰りの改善
ツール・システムの導入後、リアルタイムで在庫数や在庫金額を把握できるようになったことで、発注量の最適化が可能になりました。
属人化解消され、機会損失の削減も実現し、利益率の向上につながっています。
このように、ツール・システムを活用することで、在庫管理は「経験と勘」から「データに基づく判断」へと変わり、適正在庫を実現・維持しやすくなります。
適正在庫に向けて自社の在庫管理レベルと最優先で解決すべき課題を知りたいならプロの講師に相談しよう

在庫管理は、単純に計算式を当てはめれば終わるものではありません。
会社ごとに業態・販売チャネル・仕入リードタイム・資金繰りの条件が異なるため、自社の状況に合った最適解を見つけることが重要です。
ただ、改善すべき課題は何か、どの考え方が自社にフィットするのか、どのツールを優先的に導入すべきかは、第三者の目線で客観的に整理することで、初めて気づきを得られることもあります。
在庫管理のプロは「知識として知っている」だけではなく、自社で実際に運用できる形に落とし込むための方法も網羅していることが特長です。相談することで以下のようなサポートを得られます。
- 自社の在庫管理レベルを客観的に評価してもらえる
- 最優先で解決すべき課題を明確にしてもらえる
- 適した計算方法・ツール選びの方向性を提示してもらえる
- 実務で使える運用設計を一緒に検討してもらえる
自社の在庫管理をレベルアップさせ、適正在庫を継続して実現・維持したいなら、ぜひプロ講師による個別相談を活用してください。 在庫管理110番対面型とオンラインで開催中です! 現役の在庫管理アドバイザーが講師なので、明日から現場で使える情報を得られます。
対面型とオンラインで開催中です。
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自社の適正在庫の計算方法がわかる
まとめ
「適正在庫」とは、単に「欠品しない量」ではありません。欠品も過剰在庫も起こさない、事業を安定して回すために必要な在庫量を指します。
この適正在庫の考え方を取り入れることで、在庫に関する判断を感覚ではなく、根拠を持って考えられるようになります。
適正在庫を取り入れ、継続的に維持することで、在庫管理そのものだけでなく、事業全体にもさまざまな良い影響が生まれます。具体的には以下3つの効果が期待できます。
2. 顧客満足度が向上する
3. 業務効率が向上する
適正在庫を算出する方法には、3つのアプローチがあります。
どの方法を選ぶかによって、計算の基準や考え方が変わるため、自社の状況や目的に合った方法を選ぶことが重要です。
| 特徴 | メリット・デメリット | 向いている状況・事業 | |
|---|---|---|---|
| 経営的観点 | 理想とする決算目標から設定する | 【メリット】 事業の目標と連動する 【デメリット】 現場の実態と乖離しやすい | ・資金に余裕がある ・目標重視にしたいとき 例) ・製造業 ・チェーン展開している |
| 実務的観点 | 現場の出荷・販売データやリードタイムから設定する | 【メリット】 現場に合った在庫量になる 【デメリット】 経営目標との整合性は別で調整が必要 | ・小〜中規模の店舗 ・現場重視の事業 例) ・飲食業 ・小売業(店舗・EC) |
| 経済的発注量 | 発注コストも考慮に入れて設定する | 【メリット】 コストの無駄を最大限省ける 【デメリット】 算出方法がやや複雑 | ・仕入れコストが高め ・在庫回転が早い 例) ・高級食品スーパー ・アパレルのECサイト |
適正在庫は算出すると同時に『コントロールし続ける』ことも大切になります。
コントロールする際は以下4つのポイントを押さえて行いましょう。
2. 在庫の保管場所を見直して整理する
3. 売れ方や商品の変化に合わせて適正在庫を見直す
4. 自社を取り巻くトラブルや予期せぬ出来事を見積もっておく
在庫問題の多くは、現場の努力不足ではなく「構造の不備」から生まれます。
データの精度、発注ルール、保管方法、情報共有の体制などを整えなければ、計算式だけでは適正在庫は維持できません。
重要なのは、一度決めて終わりにしないことです。
市場や需要は常に変化します。だからこそ、在庫も定期的に見直し、改善を続ける姿勢が必要です。 ぜひ本記事を適正在庫の実現に役立ててください。



