「在庫を切らしてしまった…かと言って在庫はそこまで多く持てない…」
「適正在庫にするにはどうしたらいい?」
在庫管理が必要な現場では、こうした「在庫がないことでの機会・信頼の損失」と「持ちすぎの無駄」の板挟みに悩むことが少なくないですよね。
その悩みを解消する一つの考え方が、適正在庫を意識した在庫管理です。
「適正在庫」とは、単に「欠品しない量」ではありません。欠品も過剰在庫も起こさない、事業を安定して回すために必要な在庫量を指します。
この適正在庫の考え方を取り入れることで、在庫に関する判断を感覚ではなく、根拠を持って考えられるようになります。
ただし、適正在庫は「単に1つの計算式を使えば自動的に決まる」ものではありません。
適正在庫を導き出せる計算式は複数あり、自社の状況に合った計算式を選ばなければ、適切な在庫量は導き出すことができないのです。
そこでこの記事では、適正在庫を算出し、継続的に維持するためのポイントをまとめました。
- 適正在庫とは
- 適正在庫を実現することで得られる3つのこと
- 適正在庫を計算する上で準備すべきデータ
- 需要予測を適正在庫の維持に取り入れる方法と注意点
- 適正在庫を計算する方法
- 適正在庫をコントロールするためのポイント
適正在庫の考え方と算出の前提を理解することで、自社の状況に合った適正在庫を算出できるようになります。
在庫に振り回される状態から抜け出し、安定した在庫管理ができる状態を目指したい方はぜひ最後まで読んでください。
目次
- 1 適正在庫とは
- 2 適正在庫を算出する方法は大きく3つ
- 3 適正在庫を計算する方法(1)経営的観点から計算する
- 4 資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を算出する方法
- 5 適正在庫を計算する方法(2)実務的観点から計算する
- 6 適正在庫を計算する方法(3)経済的発注量(EOQ)をもとに計算する
- 7 適正在庫をコントロールするためのポイント
- 8 8-4.自社を取り巻くトラブルや予期せぬ出来事を見積もっておく
- 9 適正在庫を実務的観点から計算する方法
- 10 経済的発注量(EOQ)
- 11 適正在庫を見直して維持するための4つのポイント
- 12 需要予測を適正在庫の維持に取り入れる方法と注意点
- 13 適正在庫の実現・維持をサポートするためのシステム・ツール
- 14 適正在庫のさらなる低減・安定化を目指す方法(小売業・卸売業)
- 15 適正在庫のさらなる低減・安定化を目指す方法(小売業・卸売業)
- 16 まとめ
- 17 自社の適正在庫の計算方法が分かる在庫管理セミナー
- 18 適正在庫に関するご相談・お問い合わせ
- 19 適正在庫に関する関連記事
適正在庫とは

在庫を「多い・少ない」という感覚だけで判断していると、欠品や過剰在庫の問題は解消できません。
そこで重要になるのが、そもそも「適正在庫」とはどのような在庫を指すのかを正しく理解することです。
この章ではまず、「適正在庫とは何か」という基本的な考え方をお伝えいたします。
適正在庫とは欠品による機会損失と、過剰在庫による無駄を同時に防ぐ在庫量のこと
適正在庫とは、欠品による機会損失と、過剰在庫による無駄を同時に防ぐために設定する在庫量のことです。
在庫を多く持てば欠品のリスクは下がりますが、売れ残りやすくなると、保管コストや廃棄ロスといった無駄が増えていきます。
一方で在庫を減らしすぎると欠品が生じやすくなり、売上機会を逃したり、顧客や現場スタッフの信頼を損ねる可能性があります。
適正在庫は、こうした相反するリスクのバランスを取り、事業を安定して回すために必要な在庫量を考えるための「指標」です。
そのため、「とにかく在庫を減らす」「欠品しないよう多めに持つ」といった考え方とは本質的に異なります。
また、適正在庫は一度決めれば終わりというものではありません。
需要の変化やリードタイムのブレ、取扱商品の特性によって、適切な在庫量は変化していくためです。
だからこそ、適正在庫を考える際には、感覚ではなく、一定の考え方と計算の前提に基づいて在庫量を判断する必要があります。
適正在庫と安全在庫の違い
適正在庫を考える際、安全在庫と混同するケースをよく見かけます。
この2つは役割が異なる在庫であることを踏まえるようにしましょう。
なぜなら、この2つを混同してしまうと、在庫量の設定や計算の考え方が曖昧になり、欠品や過剰在庫の原因になるからです。
適正在庫と安全在庫の違いは以下の通りです。
| 適正在庫と安全在庫の違い | |
|---|---|
| 適正在庫 | 事業を安定して運営するための「基準となる在庫量」 |
| 安全在庫 | 想定外に備えるための「余裕として持つ在庫」 |
適正在庫は、欠品による機会損失と過剰在庫による無駄を防ぐために、事業全体を安定して回すことを目的に設定する在庫量です。「どれくらいの在庫を持つのが全体として最適か」という視点で考えます。
一方、安全在庫は、需要の変動や納期遅延といった想定外の事態に備えるための在庫です。
需要が急に増えたり、仕入れや生産が遅れたりした場合でも、欠品を起こさないようにするためのゆとりとしての役割を持ちます。
この2つを図で表すと次のようになります。

安全在庫を多く持てば欠品のリスクは下がりますが、その分、在庫コストは増えていきます。
そのため、適正在庫を考える際には、「どれくらいの安全在庫を含めるのか」ではなく、まず基準となる適正在庫を整理することが重要です。
以下の記事では「安全在庫」について詳しく解説しています。
適正在庫を実現することで得られる3つのこと

適正在庫がどのようなものを指しているのかお分かりいただけたでしょう。
適正在庫を取り入れ、継続的に維持することで、在庫管理そのものだけでなく、事業全体にもさまざまな良い影響が生まれます。具体的には以下3つの効果が期待できます。
- キャッシュフローが改善する
- 顧客満足度が向上する
- 業務効率が向上する
このような効果が期待できるのは、在庫は単なる保管物ではなく、資金・顧客対応・業務負担などに影響するものだからです。
それぞれの効果について順番に解説していきます。
キャッシュフローが改善する
まず、適正在庫を実現することで、キャッシュフローが大きく改善されます。
在庫は、現金が形を変えた「資産」でもあるからです。
必要以上に在庫を抱えると、その分の資金が倉庫や棚の中で固定され、仕入れや人件費に使えるお金が減ってしまうことにつながります。
また、欠品を恐れて多めに仕入れた在庫が、想定よりも売れなかった場合、その在庫はしばらく現金に戻りません。
さらに、値下げや廃棄が発生すれば、利益を圧迫する原因にもなります。

一方、適正在庫で管理できれば売上の見込みに合わせた仕入れができるため、余分な在庫に資金を使わずに済み、手元に使える現金を残すことができます。
適正在庫を維持できれば「売れる分だけにお金を使う」状態をつくることができ、資金の滞留を最小限に抑えらるようになります。
顧客満足度が向上する
次に、適正在庫を実現することで、顧客満足度も安定して向上する点も大きなメリットです。
というのも、顧客にとって重要なのは「必要な時に買えるかどうか」だからです。
欲しいタイミングで商品がない状態が続くと、顧客は不満を感じるだけでなく、「この店は在庫がないことが多い」「来ても無駄かも」と感じるようになります。
一度離れた顧客は、価格やキャンペーンだけでは戻ってこないケースも少なくありません。
適正在庫を保つことで、「必要なときに、いつも買える」という安心感を提供でき、購入機会の損失を防ぐことができます。
顧客満足度は、接客や価格だけで決まるものではありません。欠品を起こさない安定した在庫体制も、重要な顧客体験の一部です。
よって、適正在庫は顧客満足度を向上させる効果もあると言えます。
業務効率が向上する
また、適正在庫を実現することで、日々の業務効率も大きく向上します。
在庫が適正でない状態では、欠品対応や過剰在庫の調整に、余計な時間と手間が発生しやすいからです。
例えば、在庫が足りない場合は、急な発注や代替商品の検討、顧客への説明などが必要になります。
一方、在庫が多すぎる場合は、保管場所の確保や棚卸し、在庫確認の工数が増えていきます。
適正在庫を維持できていれば、発注の判断基準が明確になり、「今、発注すべきかどうか」で迷う時間が減ります。
結果として、在庫に関する確認や調整の手間を最小限に抑えられるようになるのです。
適正在庫は、在庫数を調整するための考え方であると同時に、現場の無駄な作業を減らすための仕組みでもあります。
在庫に振り回される状態から抜け出すことで、業務全体をよりスムーズに回せるようになる効果も期待できます。
適正在庫を計算する上で準備すべきデータ

前章でお伝えしたとおり、適正在庫を実現できれば、余分な在庫に資金を固定化させることなく、売上に見合った仕入れが可能になります。
しかし、適正在庫は「なんとなく」では算出できません。まず正確なデータをそろえることが出発点になります。
適正在庫を計算するために、事前に準備しておきたいデータは以下のとおりです。
| 適正在庫に必要なデータ | |
|---|---|
| リードタイム | 発注から納品までにかかる日数(平均日数、最大日数) |
| 需要実績 | 過去の出荷量、販売量データ(※最低、3年分は必要) |
| 発注ロット | 1回当たりの発注単位数量やMOQ(最低発注量) |
| 売掛金回転日数 | 商品を販売してから、実際にお金が入ってくるまでの日数 平均売掛金 ÷ 売上 × 日数 |
| 買掛金回転日数 | 仕入れをしてから、仕入代金を支払うまでの日数 平均買掛金 ÷ 仕入高 × 日数 |
これらの情報は、日頃のデータが必要になるため、まずデータがない場合は記録したり、過去を振り返ったりして確認しましょう。
どれか一つでも曖昧なままだと、計算式自体は正しくても、導き出される在庫量は実態とかけ離れたものになります。
感覚に頼らない在庫管理を実現するための第一歩にするために、正確な数字を把握するようにしてください。
適正在庫を算出する方法は大きく3つ

計算する上で準備すべきデータが把握できたら、適正在庫の算出に進めます。
適正在庫を算出する方法には、3つのアプローチがあります。
どの方法を選ぶかによって、計算の基準や考え方が変わるため、自社の状況や目的に合った方法を選ぶことが重要です。
| 特徴 | メリット・デメリット | 向いている状況・事業 | |
|---|---|---|---|
| 経営的視点 | 理想とする決算目標から設定する | 【メリット】 事業の目標と連動する 【デメリット】 現場の実態と乖離しやすい | ・資金に余裕がある ・目標重視にしたいとき 例) ・製造業 ・チェーン展開している |
| 実務的視点 | 現場の出荷・販売データやリードタイムから設定する | 【メリット】 現場に合った在庫量になる 【デメリット】 経営目標との整合性は別で調整が必要 | ・小〜中規模の店舗 ・現場重視の事業 例) ・飲食業 ・小売業(店舗・EC) |
| 経済的発注量 | 発注コストも考慮に入れて設定する | 【メリット】 コストの無駄を最大限省ける 【デメリット】 算出方法がやや複雑 | ・仕入れコストが高め ・在庫回転が早い 例) ・高級食品スーパー ・アパレルのECサイト |
※それぞれの方法ごとに計算式を解説しています。気になる項目をクリックすると、該当箇所へ移動できます。
それぞれの方法にはメリット・デメリットがあり、向いている業種や資金状況も異なります。
まずは算出概要を把握し、自社に適した方法を見極めるところから始めましょう。
経営的観点
経営的観点による適正在庫の算出とは、「決算上、これくらいの在庫が望ましい」という目標から逆算して在庫量を決める考え方です。
現場の出荷実績や日々の変動よりも、「年間・月次でどれくらいの在庫を持つのが望ましいか」「在庫金額をどこまでに抑えたいか」といった、会社全体の数字を基準に在庫を設計します。
経営的観点のメリット・デメリットは以下のとおりです。
| 経営的観点のメリット・デメリット | |
|---|---|
| メリット |
|
| デメリット |
|
このような特徴のある経営的観点による算出方法は、以下のようなケースに向いています。
- 資金にある程度の余裕がある
- 在庫金額を決算指標として管理したい
- 各現場ごとの目線ではなく、会社全体で在庫を最適化したい
- 製造業
- 卸売業
- チェーン展開している小売業・サービス業
- 在庫をKPIとして管理している中~大企業
経営的観点の適正在庫は、「会社全体の数字を安定させるための在庫設計」です。
現場主導というより、経営主導で在庫をコントロールしたい場合におすすめです。
経営的観点から計算する方法は以下で解説しています。
5.適正在庫を計算する方法(1)経営的観点から計算する
実務的観点
実務的観点による適正在庫の算出とは、現場の出荷実績・販売データ・リードタイムなど、日々の実データをもとに在庫量を設定する考え方です。
決算目標や理想値から逆算するのではなく、「実際にどれくらい売れているか」「補充にどれくらい時間がかかるか」「欠品が起きやすいか」といった、現場で起きている事実を基準に在庫を設計します。
実務的観点のメリット・デメリットは以下のとおりです。
| 実務的観点のメリット・デメリット | |
|---|---|
| メリット | ・実際の販売・出荷状況に即した在庫量になる ・欠品や過剰在庫が起きにくい ・現場の感覚と数字が一致しやすく、運用しやすい ・需要変動や繁忙期・閑散期に柔軟に対応できる |
| デメリット | ・在庫金額が増減しやすく、経営数値が不安定になりやすい ・拠点や担当者ごとに判断がバラつく可能性がある・経営目標(利益・在庫圧縮)との調整が別途必要になる |
このような特徴のある実務的観点による算出方法は、以下のようなケースに向いています。
- 需要の変動が大きい
- 現場判断のスピードが重要
- 少人数、または小~中規模で運営している
- まずは欠品防止や売上機会の損失を防ぎたい
- 飲食業
- 小売業(単店舗・EC)
- 少人数、または小~中規模で運営している
- 季節商品やトレンド商品を扱う事業
日々のオペレーションや顧客対応を優先したい場合に、有効な考え方といえるでしょう。
実務的観点から計算する方法は以下で解説しています。
6.適正在庫を計算する方法(2)実務的観点から計算する
経済的発注量
経済的発注量とは、「どれくらい在庫が必要か」ではなく、「どう発注すれば一番無駄なコストが少ないか」を基準に在庫量を設計する考え方です。
在庫管理では、主に次の2つのコストが発生します。
・発注コスト(発注作業、事務処理にかかる人件費)
・在庫コスト(保管スペースの確保、在庫管理する人件費、廃棄リスク)
発注回数を減らして多めに発注をすれば在庫は増え、保管コストや売れ残りリスクが高まります。
一方で、小まめに発注すると在庫は減りますが、発注作業や事務処理のコストが増えていきます。
経済的観点では、この「発注コスト」と「在庫コスト」という相反する2つのコストに注目し、合計コストが最も小さくなる点を探す方法です。
経済的発注量のメリット・デメリットは以下のとおりです。
| 経済的観点のメリット・デメリット | |
|---|---|
| メリット |
|
| デメリット |
|
このような特徴のある経済的観点による算出方法は、以下のようなケースに向いています。
- 仕入れ単価が高く、在庫の金額インパクトが大きい
- 在庫回転が早く、発注頻度が高い
- コスト管理を重視したいフェーズにある
- 高級食品を扱う小売業
- 高級アパレルの店舗
- 部品点数が多い製造業・卸売業
経済的発注量は、「どの発注方法が一番無駄が少ないか」を考えるための在庫管理手法です。 コスト効率を重視した在庫最適化を進めたい場合に、有効なアプローチと言えるでしょう。
経済的観点から計算する方法は以下で解説しています。 7.適正在庫を計算する方法(3)経済的発注量(EOQ)をもとに計算する
適正在庫を計算する方法(1)経営的観点から計算する

前章でお伝えしたとおり、適正在庫の算出方法は大きく3つあります。
まずは、経営層や管理職の視点で重要となる「経営的観点」から見ていきましょう。
経営的観点から適正在庫を考える場合、「経営目標から逆算する」という考え方は共通していますが、計算の切り口は1つではありません。以下3つの算出方法があります。
| 経済的観点から適正在庫を計算する方法 | おすすめのケース |
|---|---|
| 1. 売上から適正在庫を算出する方法 | ・在庫管理を数値で見始めたばかり ・売上が比較的安定している ⇒ まず基準を作りたいときにおすすめ |
| 2. 在庫回転率から適正在庫を算出する方法 | ・どの在庫が多すぎるのか分からない ・商品数が多く、商品によって回転数が異なる ⇒ 在庫の効率を良くしたいときにおすすめ |
| 3. 資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を算出する方法 | ・手元資金に余裕がない ・在庫金額をコントロールしたい ⇒ キャッシュを守りたいときにおすすめ |
どこに軸を置くかによって導き出される適正在庫は変わります。自社の経営状況や課題に合わせて計算方法を選ぶようにしましょう。
売上から適正在庫を算出する方法
売上から適正在庫を算出する方法は、売上規模を基準に「在庫はいくらまで持ってよいか」を決める、最もシンプルな経営的アプローチです。
売上に対して、現在の在庫金額がどの程度の比率になっているかを確認し、その比率が業種ごとの目安内に収まっているかで判断します。
売上から適正在庫を算出するには、以下の計算式を用います。
各業種で、目安となる在庫金額の比率は、それぞれ次の通りです。
- 製造業:8%未満
- 卸売業:4%未満
- 小売業:4.5%未満
※ 商材特性やビジネスモデル、利益率(原価率)により適正値は変動します。
算出された数値を業種別の目安と比較してみましょう。
たとえば卸売業(目安:4%未満)の場合、4.2%は基準をやや上回っている状態となります。
つまり、売上規模に対して在庫をやや多めに保有している可能性があるため、仕入れ量の見直しや滞留在庫の削減を検討する必要がある、という判断になります。
一方、製造業(目安:8%未満)であれば、4.2%は基準内に収まっているため、概ね適正水準と判断できます。ただし、目安よりも低い数値なので、欠品による機会損失が起きていないかを確認することが重要です。
適正在庫をピンポイントで算出するというより、現在の在庫水準が売上規模に対して適切かどうかを判断するための指標として活用するのがポイントです。
在庫回転率から適正在庫を算出する方法
在庫回転率を使った方法は、在庫金額そのものを直接求めるのではなく、在庫が「どれくらいのスピードで動いているか」を基準に、在庫量が適切かどうかを判断する方法です。
在庫回転率から適正在庫を算出する計算式は以下になります。
- 平均在庫金額 = (期首在庫高 + 期末在庫高) ÷ 2
- 在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
- 在庫回転日数 = 日数 ÷ 在庫回転率
※日数とは期首から期末までの日数
計算例- 平均在庫金額⇒(300,000円 + 200,000円)÷ 2 = 250,000円
- 在庫回転率⇒ 500,000円 ÷ 250,000円 = 2回
- 在庫回転日数⇒ 30日 ÷ 2 = 15日
目安となる在庫回転日数は業種によって異なりますが、一般的には以下が参考値とされています。
- 製造業:30〜60日
- 卸売業:15〜30日
- 小売業:15〜20日
※ 商材特性やビジネスモデル、発注リードタイムにより適正値は変動します。
参考値と計算結果の数値が乖離していれば、在庫回転日数を目安範囲に収めるように在庫量を調整をしていきましょう。
在庫の持ちすぎや滞留を防ぐと、「期末在庫高」が減少します。期首と期末の在庫が減れば、その分、平均在庫金額も下がるため、結果として在庫回転日数も短くすることができます。
つまり、在庫を滞留させずに回せるようになることで、適正在庫に近づいていくことができます。
資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を算出する方法
資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を算出する方法は、「会社が無理なく回せるお金の範囲で、在庫量を決める」という、最も現実的な経営視点の考え方です。
資金繰りの観点から適正在庫を考える場合、ポイントは 「在庫にお金を使ってから、現金が戻ってくるまで何日かかるか」 で算出します。
この期間を数値で把握するために使われるのが、キャッシュコンバージョンサイクル(CCC) です。
たとえばCCCが90日の場合、「今日仕入れに使ったお金は、約90日後にようやく回収できる」という意味になります。キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)は、次の計算式で求めます。
計算例
上記の例だと、仕入れに使ったお金は、50日後に現金として戻ってくる ということになります。
CCCが長いほど、在庫や売掛金にお金が縛られる期間が長いので、その分、運転資金が多く必要になるという状態になります。
つまり、在庫回転日数を短くできる在庫量= 資金繰り的に無理のない適正在庫と考えることができます。
適正在庫を計算する方法(2)実務的観点から計算する

前章では、売上規模を基準に在庫水準を判断する「経営的観点」からの算出方法を解説しました。
しかし、売上比率が適正であっても、現場で欠品が発生していれば意味がありません。
そこで重要になるのが、日々の発注や納品サイクルを踏まえた「実務的観点」です。
実務的観点から適正在庫を計算する方法は、現場で実際に必要となる在庫数をもとに在庫量を決める考え方です。
実務的観点からの算出方法には、主に次の2つがあります。
| 実務的観点から適正在庫を計算する方法 | おすすめのケース |
|---|---|
| 1. サイクル在庫から適正在庫を算出する方法 | ・発注ロット(1回の発注数)がある程度決まっている ・定期発注をしている ⇒在庫管理の「最初の一歩」としておすすめ |
| 2. リードタイムから算出する方法 | ・発注~納品までに時間がかかる ・リードタイムが一定ではない(遅れが出やすい) ⇒欠品防止を重視したい場合におすすめ |
実務的観点から見る場合はどちらか一方ではなく、サイクル在庫+リードタイムを組み合わせて管理することで、より現実的な適正在庫に近づきます。
サイクル在庫から適正在庫を算出する方法
サイクル在庫とは、一定期間の需要(販売数・使用数)を満たすために、通常保有しておく在庫量のことです。
日々の消費量や発注サイクルといった、現場の動きを基準に考えるのが特徴です。
発注 → 納品 → 消費(販売)という流れを繰り返す中で、在庫は「最大」と「最小」を行き来しますが、その平均的な在庫量がサイクル在庫になります。
サイクル在庫から適正在庫を導くには、次の計算式で求めます。
- サイクル在庫数 = 1回の発注数 ÷ 2
- 安全在庫 =(最大消費量 × 最大リードタイム)-(平均消費量 × 平均リードタイム)
- 適正在庫 = サイクル在庫 + 安全在庫
計算例
1回の発注数(発注ロット)が 300個 の場合(最大在庫:300個、最小在庫:0個)
平均消費量:10個/日、最大消費量:15個/日
平均リードタイム:5日、最大リードタイム:7日
※最小在庫0個⇒在庫がなくなるタイミングもある現場という想定
- サイクル在庫数 =300 ÷ 2 = 150個
- (15個 × 7日)-(10個 × 5日)= 105個 - 50個= 55個
- 150個 + 55個 = 205個
上記の例を見ると、この商品は通常運転に必要な在庫(サイクル在庫)150個に、需要増や納期遅れに備える安全在庫55個を加え、約205個を維持することが適正在庫と判断できます。
この水準を基準に、発注量や発注タイミングを調整していくことで、在庫の持ちすぎ・欠品を防ぎやすくなります。
リードタイムから算出する方法
リードタイムから適正在庫を算出する方法は、「発注してから納品されるまでの期間中に、どれだけ在庫が必要か」を基準に考える実務的なアプローチです。
発注後すぐに商品が届かない以上、リードタイム中に消費される分の在庫をあらかじめ確保しておかないと、欠品が発生します。
特に、以下のケースではリードタイムを基準に在庫を設計すると適正在庫になりやすいです。
・納期が安定しない
・仕入れ先が遠い・海外
・発注頻度を下げたい
リードタイムから適正在庫を導くには、次の計算式で求めます。
- リードタイム在庫 = 平均消費量 × 平均リードタイム
- 安全在庫 =(最大消費量 × 最大リードタイム)-(平均消費量 × 平均リードタイム)
- 適正在庫 = リードタイム在庫 + 安全在庫
※ 消費量は「1日あたり」や「1週間あたり」など、単位をそろえて計算します。
計算例
平均消費量:10個/日、最大消費量:15個/日
平均リードタイム:5日、最大リードタイム:7日
- リードタイム在庫 = 10個 × 5日 = 50個
- 安全在庫=(15個 × 7日)-(10個 × 5日)= 105個 - 50個= 55個
- 適正在庫 = 50個 + 55個 = 105個
この場合、約105個の在庫を維持しておくことで、納期遅延や需要増にも対応できると判断できます。
適正在庫を計算する方法(3)経済的発注量(EOQ)をもとに計算する
ここまで、売上・在庫回転率・リードタイムなどを基準に、「どれくらい在庫を持つべきか」という視点で適正在庫の考え方を整理してきました。
一方で、「在庫はいくつ必要か」ではなく、「どう発注(生産)すればムダなコストを最小にできるか」という切り口から在庫を設計する方法もあります。
それが、経済的発注量(EOQ:Economic Order Quantity)です。経済的発注量(EOQ)は以下の計算式で算出します。
- D = 必要数(需要数)
- S = 1回の発注コスト
- H = 1個あたりの年間保管コスト
つまり、この商品は1回あたり約775個で発注するのが、発注コストと在庫保管コストのバランスが最も良い状態だと判断できます。
適正在庫をコントロールするためのポイント

ここまで、適正在庫の「計算方法」について解説してきました。
しかし、適正在庫は一度計算すれば終わりではありません。
実際の現場では、売れ方が変わったり、仕入れ価格やリードタイムが変わったりなどの変化が日常的に起こるからです。
つまり、適正在庫は算出すると同時に『コントロールし続ける』ことも大切になります。
コントロールする際は以下4つのポイントを押さえて行いましょう。
- 受発注数や現在在庫数の管理を徹底する
- 在庫の保管場所を見直して整理する
- 売れ方や商品の変化に合わせて適正在庫を見直す
- 自社を取り巻くトラブルや予期せぬ出来事を見積もっておく
ここからは、適正在庫を現場で機能させるために重要な4つの実践ポイント を解説します。
受発注数や現在庫数の管理を徹底する
適正在庫を維持するうえで最も重要なのは、受発注数と現在庫数を常に正確に把握できる状態を作ることです。
計算をどれだけ正確に行っても、現場の在庫数が曖昧であれば意味がありません。
「いま何個あるのか」「すでに何個発注しているのか」が分からなければ、欠品や二重発注は簡単に起こります。
そのためには、在庫を「見える化」する仕組みが不可欠です。
在庫管理ソフトやクラウドシステムを活用し、現在庫数・発注残・入荷予定日をいつでも確認できる状態を整えましょう。
適正在庫と言える状態は計算よりも「管理精度」で差がつきます。
在庫数をリアルタイムで把握できる環境を整えることが、適正在庫を機能させる第一歩です。
在庫の保管場所を見直して整理する
適正在庫を維持するためには、在庫の保管場所を整理し、「どこに何があるか」が一目で分かる状態をつくることも大切なポイントです。
保管場所が乱雑だと、在庫があるのに見当たらなくて再発注してしまったり、古い在庫が埋もれて劣化したりと、ムダなコストや欠品リスクが発生しやすくなります。
いくら適正在庫で発注できても、現場で正しく把握・運用できていなければ、適正在庫とは言えない状態なのです。
このような事態を防ぐために、以下のような整理方法を採用してみてください。
- 定位置管理(置き場所を固定する)
- 先入先出の徹底
- 棚番号やラベルを貼る
- 動きの速い商品を取り出しやすい位置に配置する
保管場所を見直し、整理された環境をつくることが、在庫精度を高め、ムダな発注や滞留を防ぐ第一歩になります。
売れ方や商品の変化に合わせて適正在庫を見直す
適正在庫は「一度計算したら終わり」ではなく、売れ方や商品の変化に合わせて定期的に見直すことも重要です。
季節要因、流行、競合の動き、商品の仕様変更などによって、売れ行きは変化するものだからです。
たとえば、次のような変化は在庫見直しのサインです。
| 在庫見直しのタイミング | |
|---|---|
| 季節の変わり目 | 夏場に売れる商品、年末に需要が集中する商品などは、繁忙期前に在庫を増やす必要があります。 |
| 商品の長期的な売れ行きの変化 | 徐々に販売数が落ちている商品は、発注ロットを減らすなどの調整が必要です。 |
| マイナーチェンジやモデルチェンジ | 新モデル発売前に旧モデルを大量に抱えてしまうと、値引き販売や廃棄につながります。 |
適正在庫は固定された数字ではなく、変化に合わせて動かすものです。
月次・四半期ごとなど、定期的に売上データや在庫回転日数を確認し、今の売れ方に合った在庫量に調整する仕組みをつくることが、在庫最適化の鍵になります。
8-4.自社を取り巻くトラブルや予期せぬ出来事を見積もっておく
適正在庫を安定して維持するためには、トラブルや予期せぬ出来事をあらかじめ想定しておくことが重要です。
どれだけ精密に計算しても、現実には想定外の出来事が起こるからです。トラブルとは、例えば以下のようなものがあります。
- 仕入先の納期遅延
- 物流の混乱
- 急な需要増加
- 原材料の供給不足
- 為替や価格の急変
「通常時の最適」だけで設計すると、こうした外部要因があるときにすぐ欠品や過剰在庫に陥ってしまいます。
そのため、以下のような対策を取り入れて「トラブル時にも耐えられる設計」であることが理想です。
- 仕入先を複数確保しておく
- 緊急発注が可能か確認しておく
- リードタイムの最大値も想定して安全在庫を設計する
リスクをゼロにすることはできませんが、起こりうる事態を想定しておくだけでも、在庫の崩れ方は大きく変わります。
売上から適正在庫を計算する方法
目標在庫金額が決められない・・・という会社にお勧めの方法です。
売上に対する在庫金額の比率から計算する方法です。在庫金額の比率の計算式は、
在庫金額の比率=在庫金額÷売上
在庫金額が多すぎると、在庫金額の比率が上がります。
下の表は、業種別・売上規模別に、在庫金額の比率(赤枠部分)をまとめた表です。

各業種で、目安となる在庫金額の比率は、それぞれ次の通りです。
- 製造業:8%未満
- 卸売業:4%未満
- 小売業:4.5%未満
在庫金額の割合が15%を超えてくると在庫が多すぎると考えて良いでしょう。
利益率や同業種でも扱っているもので多少の誤差はありますが、売上に対して在庫金額の割合が15%を超えていると「在庫が多い」と認識して間違いないでしょう。
在庫回転率から適正在庫を計算する方法
在庫回転率とは、在庫の流動性(滞留度)を表す指標です。
- 在庫回転率が大きい:在庫の流動性が良いことを示し、在庫効率が高い。(商品が早く売れている、部品が早く使われている)
- 在庫回転率が小さい:在庫が滞留していることを示します。(仕入れた商品が売れるまでに時間がかかっている、仕入に対して売れ行きが少ない)
在庫回転率の計算式
- 在庫回転率=売上原価÷平均在庫(期首在庫と期末在庫の平均値)
- 在庫回転日数=期間(日数) ÷ 在庫回転率 ※日数とは期首から期末までの日数

会社が目指す財務目標から在庫回転率を計算します。
会社から目標が示されない、目標の設定の仕方が分からないという場合は、下記の表を参考にしてください。

ご覧いただくと分かるように、優良企業に比べて、赤字企業の方が比率の割合が大きいです。
目安となる在庫回転日数は、それぞれ次の通りです。
- 製造業:30~60日
- 卸売業:15~30日
- 小売業:15~20日
※カッコ内は在庫回転率
資金繰り(キャッシュフロー)から適正在庫を計算する
運転資金からも適正在庫を計算することもできます。
運転資金とは、会社を運営するために必要な現金(=いわゆる資金繰り)のことです。
この金額が少ないほうが、資金繰りが楽といえます。
キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)とは?
資金繰りから適正在庫を計算する時に知っておきたい管理指標がキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)で、投資した金額が何日後に返ってくるかを表す指標です。
例えば、例えば、CCCが90日の場合、今日100円で仕入を行った場合、その100円が戻ってくるのは約90日後ということになります。
つまり、この商品を毎日売り続けるためには、少なくとも9000円の借金が必要ということです。
CCCの計算式

CCC = 棚卸資産回転日数+売掛債権回転日数-買掛債務回転日数
計算項目の説明
- 棚卸資産回転日数:在庫回転日数のこと
- 売掛債権回転日数:いわゆる売掛。販売先への請求から現金が入金されるまでの日数
- 買掛債務回転日数:いわゆる買掛。仕入先からの請求を払うまでの日数
アマゾンは創業当初から赤字もしくはほぼ利益の無い状態にもかかわらず積極的な投資が行えたのは、CCCを経営指標として取り入れていたからだと言われています。
資本効率(手元にある資本を効率良く使って、どれだけの売上を上げたか?)を重視する現在欧米の企業では当たり前で、日本の上場企業も資本効率を意識しています。中小企業にとっても重要な経営指標になることは確実です。
キャッシュコンバージョンサイクルについて詳しく知りたい場合は、下記の記事をご覧ください。
適正在庫を実務的観点から計算する方法
次に実務的観点から適正在庫を計算する方法をご紹介します。
実務的観点から計算する方法は2つあります。
- 必要数から計算する方法
- リードタイムから計算する方法
適正在庫の実現・維持するより具体的な方法は以下のページで解説しています。
適正在庫の実現・維持のために実践できる10個の方法(全業種共通)
サイクル在庫から適正在庫を計算する方法
サイクル在庫とは、一定期間内の需要数(販売数や使用数)を満たすための平均在庫数(つまり必要な在庫数)のことです。
サイクル在庫から適正在庫を計算する方法
適正在庫=サイクル在庫+安全在庫
サイクル在庫数の計算方法
発注ロットからサイクル在庫を計算する
サイクル在庫数 = 1回の発注数(発注ロット数)÷2
例えば、1回の発注数(発注ロット数)が300個であれば、サイクル在庫数 は、150個です。
(計算式:300÷2=150個)
発注頻度が高く、一度の発注量が少なければサイクル在庫は少なくなり、発注頻度が低く、一度の発注量が多ければサイクル在庫は多くなるため、発注ロット数を適正値にすることが重要なポイントです。
適正発注ロット数を決める方法のひとつに経済的発注量(EOQ)があります。
経済的発注量(EOQ)
経済的発注量(EOQ)とは、在庫関連費用の総額が最小限になる発注ロット数(1回当たりの発注量)のことです。
発注に手間がかかり、かつ保管コストのかかる商品に有効な適正在庫の設定方法です。

在庫関連費用とは、在庫費用+発注費用のことです。
- 在庫費用:倉庫費用や光熱費など、在庫を維持するために必要な費用
- 発注費用:発注時にかかる人件費などの費用
1度に大量に発注すると、発注費用は少なくて済みますが、在庫費用が高くなります。
一方、こまめに発注すると、在庫費用は少なくて済みますが、発注費用が増えます。
経済的発注量(EOQ)の計算式

EOQ=√2DS/H
- D = 必要数(需要数)
- S = 1回の発注コスト
- H = 1単位あたりの年間保管コスト
EOQを活用することで、発注頻度と在庫保管コストのバランスを最適化した適正在庫を算出できます。
リードタイムから適正在庫をから計算する(小売業・卸売業)
発注リードタイムが決まっている場合は、平均需要数から計算することもできます。
適正在庫=リードタイムに基づいた計算値+安全在庫
リードタイムから計算する方法
発注リードタイムが30日、1日の平均販売数が5個の場合、サイクル在庫数は150個です。
(計算式:5×30=150個)
リードタイムから適正在庫をから計算する(製造業)
製造業の場合は、部品と仕掛品の管理も必要なため、仕入以外のリードタイムを考慮する必要があります。

製造業が把握すべき3つの重要なリードタイム
- 仕入れ(発注)リードタイム:材料を発注してから、工場に納品されるまでにかかる日数
- 生産(製造)リードタイム:生産に着手してから、生産完了までにかかる日数
- 納品(出荷)リードタイム:製品を出荷してから客先に届くまでの日数
部品の適正在庫
- 部品の適正在庫数=部品の発注リードタイム×平均使用数+安全在庫数
- 仕掛品の適正在庫数=仕掛品の生産リードタイム×平均使用数+安全在庫数
- 製品の適正在庫数=製品の納品リードタイム×平均出荷数+安全在庫数
製造業の適正在庫の実現・維持する具体的な方法は以下のページで解説しています。
適正在庫の実現・維持のために実践できる5つの方法(製造業限定)
適正在庫を見直して維持するための4つのポイント
適正在庫は一度設定したら終わりではなく、定期的に見直さなければいけません。
ここからは適正在庫を維持するための見直しポイントを解説します。
適正在庫を見直すポイント
- 季節などの周期的な変動
- 商品寿命
- マイナーチェンジやモデルチェンジ
- トラブルや予期せぬ出来事の発生率
季節変動などの周期的な需要変動
代表的な見直しポイントは、季節などの周期的な変動です。
例えば、アイスクリームであれば夏に売れ行きが良く、冬は悪いのが一般的です。
夏と冬の適正在庫が同じであれば、冬は過剰在庫に、夏や欠品続出になります。
つまり、アイスクリームは夏と冬で適正在庫を見直す必要があるということです。
季節変化の影響を受けやすい商材である食品、アパレル、季節家電などは特に注意が必要です。
商品寿命
商品寿命とは、季節などの1年単位の変動ではなく、長期的な売れ行きのトレンドです。
一般的に商品には、次の3つのステージがあります。

- 成長期:販売数が伸びて行っている状態
- 安定期:販売数が安定している状態
- 衰退期:販売数が徐々に減っていって売れゆきが悪くなっている状態
成長期は、どんどん需要が増えるため、在庫数をあまり気にする必要は無く、むしろ需要に合わせて在庫を増やしていくことを考えます。
適正在庫を特に注意したいのは、安定期から衰退期です。
よくあるパターンは、「成長期」と同じ感覚で発注してしまうケースです。
弊社の在庫管理アドバイザーがコンサルティングした会社では、成長期と同じ感覚で発注をし続けた結果、とんでもない量の在庫を抱えてしまっていたケースがありました。
マイナーチェンジやモデルチェンジ
商品寿命は、市場が商品にあきてくると発生する現象ですが、自社のマイナーチェンジやモデルチェンジによって、チェンジ前のモデルの商品寿命が急激に下がってしまうことがあります。
一般的にモデルチェンジやマイナーチェンジのタイミングで旧商品の売れ行きはガタ落ちします。
営業や商品企画、マーケティングの担当者と連携して、商品投入の時期と既存商品の最終仕入れ時期を調整しましょう。
トラブルや予期せぬ出来事がどれだけ起こるかを見積もる
トラブルや予期せぬ出来事への対応では、安全在庫で対応します。
需要の変動以外にも、在庫数の変動要因になるものは様々です。 例えば、
- 仕入れ先の納期遅れ
- 仕入れ品の不良
- 交通渋滞や自然災害
- 納期短縮
- 生産遅れ
- 生産設備のトラブルや不良の発生
- 歩留まりや不良
安全在庫の設定については、次の記事で詳しく解説しています。
需要予測を適正在庫の維持に取り入れる方法と注意点
実施するためには、次の4点が必要です。
- 大量に質の良いデータが必要
- 高度な専門人材
- 部署間連携
需要予測には大量のデータが必要
需要予測は次のように定義されています。
需要予測とは、特定の商品の需要 動向を決める各種の要因とその需要に与える影響を分析し,これをもとに市場調査や 各種の予測結果を考慮して将来の需要を予測すること。
もっと簡単に言えば、「過去に起こったことと全く同じことが起これば、将来も全く同じことが起こる」というのが需要予測の原則的な考え方です。
需要予測をするためには、大量にしかも質の良いデータが必須です。
これが無ければ、需要予測は実施できません。
高度な知識を持った人材が必要
精度の高い需要予測をするためには、膨大なデータと高価なシステムやAI(人工知能)を導入したからといってできるものではありません。
それを使いこなせる高度な人材が必要です。
高度な人材が、膨大なデータの中身を見て、需要予測に適したデータを選定して、需要予測モデルを構築します。
そのモデルはずっと使えるわけでは無く、環境や条件が変わった時に、見極める力も必要です。
例えば、次のようなことが考えられます。
- 定期的な需要変動:アイスクリームの需要
- イベント・行事:お正月、クリスマス、祭り
- 一時的な需要変動:テレビ番組に取り上げられ、一時的に殺到
- 消費税増税:増税前の一時的な消費の盛り上がり
- 販売方法の変更:ネットショップでの販売を始めた
在庫管理の担当者が片手間でやれるような業務ではありません。
部署間連携
高度な人材が一人で奔走しても、需要予測は適正在庫に生かせません。
仮に、正確な需要予測数が出たとしても、発注ロットや生産ロットの都合で、需要予測数通りにならないこともあるでしょう。
各部署が自部門だけの都合を乗り越えて連携し、会社全体で取り組むことが必要です。
【注意】需要予測=適正在庫ではない
「需要予測の計算値=適正在庫」と勘違いしている場合が多いです。
需要予測の計算値は、あくまでも「需要」です。
需要以外に在庫数を変動させる要素はたくさんあります。
適正在庫の実現・維持をサポートするためのシステム・ツール
適正在庫の管理・維持のためには、適切なシステムの導入が不可欠です。以下にいくつかの代表的なシステムとその機能を紹介します。
ERPシステム
ERPシステム(Enterprise Resource Planning)は、企業の経営資源(人材、資材、資金、情報)を統合的に管理するシステムです。
これにより、業務の効率化、情報の一元化、部門間の連携強化を図ることができます。
主な機能には、会計、在庫管理、生産管理、人事管理などが含まれ、リアルタイムでのデータ共有と分析が可能です。
ただし、様々な機能が一元化されている高度なシステムのため、導入費用が高額です。一般的には安くても1000万円~はかかるといわれています。
在庫管理システム
倉庫内の在庫をリアルタイムで追跡し、効率的な在庫管理を実現します。
入出庫管理、棚卸し、ロケーション管理などをサポートします。
在庫管理システムは、ERPシステムに比べると比較的安価なものもそろっており、数千円から利用することができます。
需要予測ソフト
過去の販売データや市場トレンドを分析して将来の需要を予測します。
AIや機械学習を活用することで、予測の精度を高めます。
ただし、需要予測ソフトはデータが大量(少なくとも3年分くらい)にあり、かつ精度が高いことが前提です。
蓄積データが全くない場合は、需要予測ソフトを入れても全く機能しません。
また、先ほど解説した通り、需要予測ソフトを使いこなせる高度な人材も必要です。
在庫管理システムの導入が最優先
中小企業の場合は、まず最初に在庫管理システムを導入することをお勧めします。
在庫管理システムを導入すれば、在庫情報の一元化、リアルタイム化が可能になり、業務効率が上がります。
さらに、データが蓄積できるので、需要予測ソフトの導入も可能になります。
企業規模が大きくなってきたときに、ERPシステムの導入を検討すると良いでしょう。
在庫管理110番が開発した「成長する在庫管理システム」をご紹介します。

今回解説したような適正在庫を維持するための機能を、あなたの会社の事情を考慮してカスタマイズで追加可能です。
実務を知り、数多くの在庫管理の悩みに答えてきた在庫管理の専門家だからこそ実現できる、本当に現場で使える在庫管理システムです。
適正在庫のさらなる低減・安定化を目指す方法(小売業・卸売業)
適正在庫の目標の達成と維持には、現在の業務を見直したり改善することが欠かせません。
適正在庫に大きな影響を持つ3つのポイントは以下の通りです。
適切な発注方法
在庫がある一定量まで減ったら自動的に発注する「定量発注点方式」や、毎週月曜日など定期的に在庫を確認して発注する「定期発注点方式」など、自社の商品特性や発注作業の効率化等、管理体制に合った発注方式を採用し、運用ルールを明確にします。

発注方法は、大きく分けて4つあります。
発注方法の解説は下記の解説記事をご覧ください。
仕入れの改善
仕入れの改善を行うことで、適正在庫を効果的に減らすことが可能です。
仕入先の改善の着目点と管理指標は以下の通りです。
| 着目点 | 管理指標 | 普段、管理すべきこと |
|---|---|---|
| 発注リードタイム | 納品日数変動率 | 設定した発注リードタイム通りの納品日数か? |
| 発注ロット数 | 納品数 | 発注ロット数が大きすぎないか?分納ばかりになっていないか? |
| 納期遅れ | 納期遵守率 | 予定(希望)納期が守られているか? |
| 不良 | 不良率 | 納入された材料や商品が不良の発生数 |
需要予測精度の向上
需要予測精度を向上させて、発注精度を向上させます。
需要予測精度の向上に必要なのは、次の2点です。
- 十分な量の過去データ(出荷量、販売量データ):少なくとも3年分は必要です
- 予実管理:発注時の予測と実需に発生した実際の現象の検証
上記を使って、売上データを分析し、商品のトレンドや季節変動の見極め、の売れ行きの特徴をつかんで、適正在庫の維持改善に生かします。
需要予測の成功事例として、ぜひご覧いただきたいのがワークマンの取り組みです。
【需要予測の事例】精度を上げるための施策をワークマンから学ぶ
予実管理を行うには、データ分析のスキルが不可欠です。
データ分析と聞くと、難しい専門のソフトが必要と思われがちですが、中小企業のデータ分析はエクセルで十分可能です。
データ分析の具体的な手順や方法は下記の記事で詳しく解説しています。
適正在庫のさらなる低減・安定化を目指す方法(小売業・卸売業)
代替数の製造業は、仕掛品の削減が最も適正在庫の低減・安定化に効果的なので、ぜひ生産効率の向上に取り組みましょう。
生産効率の向上は、生産リードタイムの短縮にも役立ち、納期短縮も実現するため、顧客満足度の向上も期待できます。
生産効率の向上は、次の2つに分かれます。
- 生産能力
- 生産方式
- それ以外
生産能力(生産リードタイムとボトルネック)の適正化
商品を生産する工場には生産能力があります。 原則として単位時間当たりの生産能力を超えて生産をすることはできません。
そこで、生産の前倒しが必要になります。
- 工場の生産能力は1日に50個
- お客からのオーダーが500個(要求納期は4日)
この工場の生産能力では、4日で200個しかつくれません。顧客の要求を守るためには、余分に300個を持っておくのが適正と言えます。
(在庫日数に換算すると6日分の在庫) お客から生産能力を超える注文が続く場合は、次の3つのうちいずれかが必要です。
- 前倒しで見込み生産を行う
- 生産LTを短くする
- 生産能力を増強する
最初は、前倒し生産を行い在庫を積むのが緊急対策になります。しかし、これを行っていると在庫がどんどん積みあがっていくので、本質的な改善として、生産リードタイムを短くしなければいけません。
生産能力の増強(設備導入、人員補強)は最後の手段です。安易に実施してはいけません。
生産リードタイムが伸びてしまう原因は、次のような事です。
- 機械故障:生産能力が落ちてしまう。
- 欠員:生産能力が落ちてしまう。
- 廃棄ロス(歩留り、不良):できる予定の数量ができあがらず、余分に 生産しなければいけなくなる。
- 段取り:生産以外に時間が取られ、予定よりも生産リードタイムが長くなってしまう。
- モノの移動:生産以外に時間が取られ、予定よりも製造リードタイムが長くなってしまう。
- 生産ロット:必要以上に余分に作ってしまう。
- 各種事務処理:処理待ちで生産が止まる。
- ミス:指示数や出来高数が違う。
これらの中で自然に解消するのは欠員くらいで、それ以外の要因は自然に良くなることは無いです。
むしろ放置するとにより拡大する傾向があります。これらはすべて4Mの何らかの不調によるものです。 4Mとは?
生産方式(見込み生産と受注生産)
製造業の場合は、生産方式によって適正在庫の設定が変わります。 生産方式は大きく分けて2つあります。
仕掛品を戦略在庫として持つ(デカップリングポイント)
見込み生産と受注生産の境目のことをデカップリングポイントと言います。
- 受注生産:注文を受けてから生産を開始する
- 見込み生産:注文を見越してあらかじめ生産をして在庫を持つ
受注生産を増やせば在庫は不要ですが、欠品が増えます。一方、見込み生産を増やせば欠品は増えますが、過剰在庫になりやすいです。

適切な生産方式を選ぶことで、欠品を抑えつつ過剰在庫を減らし、しかも納期を短縮することすら可能です。
必ずしも、完全に受注生産や見込み生産である必要はありません。
ある工程の仕掛品までを見込み生産して、その後は受注してから行う・・・という方法でも問題ありません。
デカップリングポイントを活用した最も有名な成功事例は、アメリカのパソコンメーカーのDELLです。(DELLモデルといわれています)

DELLの生産方式の変更
- 従来は、STS:パソコン(完成品)を見込み生産して在庫を持つ。
- 改善後は、BTO:部品在庫を持っておいて、注文を受けてからパソコン組み立てて出荷する
生産方式をSTSからBTOに変えることで、在庫金額を大幅削減しつつ、浮いた管理コストや廃棄コストを製品に還元して低価格化を実現しました。
この手法は、大企業でなくても中小企業でも十分取り組め、かつとても高い効果が見込めます。
デカップリングポイントに関する詳しい解説はこちらをご覧ください。
まとめ
この記事では、「適正在庫」について、以下の点を解説しました。
- 適正在庫とは:欠品による機会損失や、過剰在庫によるコスト増加を防ぐための、最も効率的な在庫量のこと。(安全在庫とは違って、過剰在庫の管理も行うもの)
- 適正在庫の計算方法:経営的観点で、財務視点から売上・在庫回転率などで計算する方法に加えて、実務的観点で、サイクル在庫、やリードタイム、需要予測を考慮して計算できる。
- 適正在庫を維持するポイント:需要予測の精度向上、リードタイムの短縮・最適化、在庫管理ルールの設定と徹底、そして在庫管理システムの活用が鍵となる。
- 適正在庫の維持:一度計算して終わりではなく、季節変動や商品寿命等の市場の変化や状況に合わせて継続的に見直し、改善していく必要があります。
- 適正在庫の低減・安定化:適切な発注方法や予実管理、製造業は生産効率の改善で、さらに在庫金額と無駄なコストを削減し、企業の利益を最大化することが可能です。
まずは自社の在庫状況を正確に把握し、この記事で紹介した計算方法や維持のポイントを参考に、適正在庫の実現に向けた取り組みを始めてみませんか?
自社の適正在庫の計算方法が分かる在庫管理セミナー
適正在庫の重要性は理解できたけれど、「自社だけで実践するのは難しそう」「もっと具体的なノウハウや成功事例を知りたい」と感じていませんか?
そんな方におすすめなのが、在庫管理セミナー「適正在庫と誰にでもできる仕組みづくり」です。

セミナーでは、適正在庫の維持に関するより実践的な知識や、他社の改善事例などを専門家から直接学ぶことができます。自社の在庫管理レベルを一段階引き上げる絶好の機会です。ぜひ、詳細をご確認の上、ご参加ください。
これまで、500名以上が受講した在庫管理110番で一番人気のあるセミナーで、オンラインでも対面でも受講できます。
適正在庫に関するご相談・お問い合わせ
今回の記事を読んで、「自社の状況に合わせた具体的なアドバイスが欲しい」「適正在庫の計算や維持について専門家に相談したい」「在庫管理システムの導入を検討している」など、在庫管理に関するお悩みやご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。経験豊富な在庫管理アドバイザーが、貴社の課題や状況を丁寧にヒアリングし、最適な解決策をご提案いたします。
適正在庫に関する関連記事
