財務分析における在庫回転率の重要性とその影響

財務分析における在庫回転率の重要性とその影響

    在庫管理アドバイザー岡本茂靖

    筆者:岡本茂靖(在庫管理アドバイザー、日本物流学会理事)

    在庫管理110番代表。在庫管理、生産管理の実務経験を経て、瀬戸内scm株式会社を創業。

    在庫管理に関して200社以上の個別相談、コンサルティング・システム導入を行っている。
    大阪府工業協会講師、日本物流学会所属
    著書:経費15%削減在庫管理術【基礎知識編】、寄稿:在庫最適化のためのIoT活用(日刊工業新聞社)、発表:物流における在庫管理の成功事例研究(日本物流学会)他多数。

    在庫が会社経営にどんな影響を与えるのか、いまいちよく分かっていない・・・、在庫をどうやって評価し、経営に活かせば良いかがわからない・・・というお悩みはありませんか?

    あなたが思ってる通り、在庫は会社経営上とても重要な存在で無視してはいけません。

    最大の理由は、在庫が会社が日常的にお金を使う最も大きな投資だからです。

    例えば、小売業であれば、売上金額の30%くらいが仕入れ原資になっています。人件費の比ではありません。

    しかし、勘や経験に頼り、適当な管理になっていないでしょうか?

    結論から言えば、在庫回転率を経営指標に取り入れれば、この問題は解決します。

    なぜなら、在庫回転率は、様々な会社指標と連動しており、企業の財務健全性を測れる指標だからです。

    さらに、会社の財務指標と現場の管理指標は結び付けにくいですが、在庫回転率なら簡単に結びつけることができるため、会社の財務方針を現場に落とし込めます。

    この記事で解説すること
    1. 財務分析における在庫回転率の役割
    2. 在庫回転率が低いのは重大な財務リスク
    3. 在庫回転率と流動比率の関係
    4. 在庫回転率と総資産回転率の関係
    5. 在庫回転率と営業キャッシュフローの関係
    6. 在庫回転率は定期的に確認・分析しましょう
    7. データ駆動型経営(意思決定)

    この記事を読めば、在庫回転率が財務分析にどのように影響を与えるのか、その重要性と具体的な影響が分かります。

    自社の適正在庫と在庫回転率の活用方法が分かる

    自社仕様のシステムを低コストで導入

    在庫回転率は在庫を効率的に現金化できたかを見る指標

    在庫回転率は、一定期間内に企業が在庫をどれだけ効率的に販売し、現金化できたかを示す指標です。

    計算方法は、売上原価を平均在庫額(期首在庫金額と期末在庫金額)で割ることで求められます。

    在庫回転率についてはこちらの記事で詳しく解説しています

    うちの在庫回転率は自社の業界ではどうか?と聞かれることがよくあります。

    しかし、地域、経済状況、調達方法等によってかなり異なりますので、実際には当てにならないことが多いです。

    自社にとって自社の適正値を知る必要があります。

    どうしても一般的な値を知りたい場合は、

    • 各業界団体や市場調査会社が発行するレポート
    • 経済産業省や国税庁などの公的機関が提供する統計データ

    を参考にしましょう。

    上場企業であれば、財務諸表が公開されているので、そこから競合他社の状況を計算可能です。

    中小企業は非公開ですがTKCが出してるTKC経営指標(通称:BAST)で見ることが可能です。

    ただし、あくまでも全企業の合算や平均値です。参考にとどめておくことをお勧めします。

    在庫管理110番では、自社の適正在庫が分かる在庫管理セミナーを開催中です。

    自社の適正在庫を知りたい、回転率の計算方法を知りたいという場合にお勧めです。

    自社の適正在庫が分かる、計算できるようになる

    財務分析における在庫回転率の役割

    在庫回転率は、企業が在庫をどれだけ効率的に販売し、現金化しているかを示す重要な指標です。

    高い在庫回転率は、在庫が速く売れていることを意味し、企業が資源を効率的に活用していることを示します。

    言い換えると、効率的に現金化できている(キャッシュフローが良い)ということです。

    特に、在庫を扱うことが事業の核となる卸売業、小売業、製造業では、在庫管理が重要です。

    在庫回転率が低いと資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。

    実際に、資金繰りが厳しいという会社を診断させてもらったことがあるのですが、ありえないくらいの在庫回転率の低さでした。

    逆に言えば在庫回転率が高い企業は、効率的に現金化されているためキャッシュリッチです。

    具体例を計算でご説明します。

    家電製品メーカーA社の場合

    在庫回転率が1年間で8であるとします。在庫回転日数に直すと、365÷8≒45日になります。

    これは、平均して在庫が約1.5ヶ月で売れていることを意味します。

    家電製品メーカーB社の場合

    在庫回転率が年間4回であるとします。在庫回転日数に直すと、365÷4≒90日になります。

    B社の在庫は平均して約3ヶ月で売れていることになります。

    この場合、A社はB社よりも在庫を効率的に管理し、資金をより迅速に回収していると評価できます。

    在庫回転率と企業の収益性との関係

    在庫回転率が高い企業は、一般的に収益性が高いと考えられます。

    なぜなら、在庫が早く売れることで、売上が増加し、在庫保持コスト(倉庫代、倉庫作業時間、横持費用)が減少するためです。

    家具販売を行うC社

    在庫回転率を高めるために、需要予測を改善し、売れていない商品の仕入れを減らし、人気商品の在庫を増やしました。

    結果的に、人気商品の在庫回転率が向上(=たくさん売れるようになった)し、売上が20%増加しました。

    同時に、売れていない不人気商品を減らしたため、在庫の過剰保持によるコストが減少し、利益率が向上しました。

    在庫回転率が低い場合の財務上のリスク

    在庫回転率が低いということは、在庫が現金化されていない=在庫が売れ残っているということです。

    売れない商品を抱えるということは、

    • 会社の資金が在庫に縛られているということを意味する(資金繰りの悪化)
    • 売上ができるスピードが低下している(収益性の低下)

    さらに、資金が在庫に縛られてしまうため研究開発や設備に資金を投資できなくなり、競争力も低下します。

    在庫回転率は、企業の財務健全性を示す重要な指標です。

    高い在庫回転率は効率的な資源の活用と収益性の向上を意味します。

    逆に、低い在庫回転率は資金繰りの問題や収益性の低下を招きます。

    企業は、在庫管理を最適化し、在庫回転率を適切なレベルに保つことで、財務の健全性を維持しつつ、競争力を高めることができます。

    在庫回転率と他の財務指標との関連性

    在庫回転率は、流動比率や総資産回転率など他の財務指標と密接に関連しています。

    これらの指標と併せて分析することで、企業の財務状態をより正確に把握することができます。

    在庫回転率と流動比率の関係

    一般的に流動比率は高ければ高いほうが良いとされていますが、在庫回転率と一緒に見るべきです。

    流動比率とは、企業が短期的な負債を満たす能力を示す指標です。

    流動資産を流動負債で割ったものです。

    流動比率が高ければ高いほど、短期的に返済すべき債務(借金)に対して、比較的早期に現金化を図ることができる資産が多いことを示しており、短期的な債務の返済能力があるとされています。

    ちなみに流動資産とは、1年以内に現金化できる資産とされており、在庫も流動資産に位置付けられています。

    「流動比率が高い=良い」とならない例を計算でわかりやすく説明します。

    企業Eの流動資産が1,000万円(そのうち在庫が300万円)、流動負債が500万円の場合、

    流動比率は2(計算式:1,000万円÷500万円)

    在庫回転率が改善され、在庫が300万円から200万円に減少すると、流動資産は900万円です。

    この場合、流動比率は1.8になります。(計算式:900万円÷500万円)

    一見、流動比率の悪化したように見えます。

    しかし、これは在庫の減少が現金化されていることを示しており、短期的な財務健全性が高まっていることを意味します。

    流動比率を計算する際に、誤った判断をしないために、

    例えば、在庫回転率が1以下(1年以上売れていないもの)を除外して計算するなどすると良いでしょう。

    在庫回転率と総資産回転率の関係

    総資産回転率は、会社が持っている全ての資産(在庫だけではなく、設備や建物なども全て含む)がどれだけ効率的に売上を生み出しているかを示す指標です。

    つまり、持っている資産でどれだけ多くの売上を作っているかということです。

    総資産回転率は、売上を総資産で割って計算します。(高ければ高いほど良い)

    総資産の中には、当然在庫も含まれています。

    つまり、在庫回転率が高いと、在庫という資産が効率的に売上に変換されていることを意味するので、

    総資産回転率の向上に寄与する可能性があります。

    総資産回転率と在庫回転率の関係を計算でわかりやすく説明します。

    企業Fの年間売上が2,000万円、総資産が1,500万円の場合、

    総資産回転率は1.33(計算式:2000万円÷1500万円)

    在庫回転率を改善し、同じ総資産で売上が2,500万円に増加した場合、

    総資産回転率は1.67(計算式:2500万円÷1500万円)

    在庫回転率と営業キャッシュフローの関係

    営業キャッシュフローとは、本業(企業の日常的な業務活動)から生じる現金の流れを示します。

    在庫回転率が高いということは、在庫が早く売れているということです。

    早く売れているということは、商品が早く現金化するため営業キャッシュフローが増加します。

    営業キャッシュフローと在庫回転率の関係を具体的に説明します。

    企業Gの営業キャッシュフローが年間500万円で、在庫回転率=年間4回の時に、

    在庫回転率を年間6回に高めれば、在庫が売れるスピードは約1.5倍になります。

    従って、早く現金化されるので、営業キャッシュフローが増加します。

    例えば、営業キャッシュフローが700万円に増加した場合、在庫回転率の向上によるものと推定できます。

    在庫回転率は現場にわかりやすい指標

    在庫回転率は、流動比率、総資産回転率、営業キャッシュフローなどの他の財務指標と密接に関連ていることがお分かりいただけたでしょう。

    在庫回転率を在庫管理の指標として採用することを強くお勧めします。

    在庫回転率の改善は、これらの指標を通じて企業の財務健全性と効率性の向上に寄与します。

    在庫回転率は定期的に確認・分析する

    自社の在庫回転率は取りっぱなしではなく定期的に確認・分析して、自社の状態が適正化どうかを見ることが重要です。

    また、勘と経験による昭和型の意思決定ではなく、データ分析によるデータ駆動型の意思決定を行うことで、在庫管理の効率化、ひいては企業の競争力の強化につながります。

    在庫回転率のモニタリング

    在庫回転率少なくともこの計算を月次で確認してレビューします。

    時間の経過とともに在庫回転率の変動を追跡します。

    PSI管理を導入すれば、仕入れ(生産)と販売のバランスまで分かります。

    在庫回転率のモニタリングは、会社全体の在庫金額だけではなく、商品ごとにも行い、個別商品の改善にもつなげます。

    原因分析

    在庫回転率に変動があった場合、その原因を分析します。
    例えば、在庫回転率が低下した場合、過剰在庫、需要の減少、市場の変化などが原因かもしれません。

    改善策の実施

    分析結果に基づき、在庫管理の改善策を実施します。

    大きく分けてできることは次の4つです。

    • 生産計画の見直し(今のペースで生産しても良いのか)※製造業の場合に必要
    • 仕入れの見直し(今のままの仕入れで良いのか?)
    • 販売計画の見直し(希望的観測が多すぎないか、現実とかけ離れすぎていないか?)
    • 販売戦略の見直し(新商品や肝いり商品などが、予定通り売れているか?)

    データ駆動型経営(意思決定)

    データ駆動型経営(意思決定)とは、個人の直感や経験だけでなく、収集されたデータと分析結果に基づいて意思決定を行うアプローチです。以下の点が重要です。

    データの収集と分析

    売上データ、在庫レベル、市場動向、顧客の購買行動など、関連するデータを収集します。
    収集したデータを分析し、在庫の持ち方、発注数の検討に活かします。

    従業員のデータ分析力を上げることも重要な要素です。

    洞察に基づく意思決定

    分析結果から得られた洞察(○○が起これば、××が起こる可能性が高い)をもとに、在庫戦略を考えます。在庫戦略とは、例えば、どの商品をいつ、どれだけ仕入れるか、価格戦略、プロモーションや販促の計画などが含まれます。

    継続的な改善

    実施した策は出しっぱなし、やりっぱなしにせずに、効果をデータで評価します。

    評価によって、必要に応じて戦略を調整します。
    これにより、企業は市場の変化に柔軟に対応し、在庫管理の効率を継続的に向上させることができます。

    データ駆動型の意思決定は、企業がより客観的で精度の高い意思決定を行うための鍵となります。

    昔はカリスマ的な勘を持った経営者、長い経験を持つベテラン社員に任せておけば良い時代でした。

    しかし、今は時代の移り変わりが早く商品寿命も短く、競合も多いため、勘と経験に頼るのは限界です。

    昔と違ってよくなったのは、データを収集しやすくそしていやすくなったことです。

    しかし、未だに紙とペンだけに頼りデータが蓄積されていなかったり、個人がバラバラでエクセル管理しているような昭和型の管理から抜け出せない企業が多いです。

    データ駆動型経営は、データの蓄積量が勝負です。

    データの蓄積量は、時間に比例するので、取り組みが早ければ早いほど良いです。

    在庫管理システムの導入

    未だ在庫管理をエクセル主体でやっている会社があります。

    エクセルは、データの活用には向いていますが、データの蓄積には向いていません。(データが多くなると動きが悪くなり、最悪、壊れます)

    在庫データを仕入れや販売、需要予測に活かすためには少なくとも3年分は必要です。

    大量のデータの蓄積には在庫管理システムの導入は不可欠です。

    高度なシステムは不要で、最小限の機能を持ったもので充分です。

    在庫管理110番では、成長する在庫管理システムを開発、提供しています。

    成長する在庫管理システムは、余分な機能を省き、自社に必要最小限の機能を持った在庫管理システムを構築することが可能です。

    エクセル管理から脱して新規導入、使えない既存システムの入れ替えにぜひご検討ください。

    自社仕様のシステムを低コストで導入

    自社の適正在庫を知る

    今回解説した在庫回転率は、ぜひ経営と現場に取り入れてほしい管理指標です。

    在庫回転率は、経営にも現場にも共通する指標なので、会社が求める成果を現場に落とし込みしやすいのが特徴です。

    自社に最適な在庫回転率の計算方法と、経営と現場に在庫回転率を生かす方法が分かる、在庫管理セミナーを定期的に開催中です。

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